令和7年8月6日からの大雨による被害と水害リスクに対する備え
- 自然災害
2025/8/28
2025年8月6日から12日にかけて、北日本から西日本の広い範囲で、線状降水帯に伴う大雨が発生しました。本コラムでは、その概況や被害を取りまとめ、このような水害に備えるための考え方を紹介します。なお、本コラムは2025年8月18日時点の情報に基づきます。
1 大雨・浸水・土砂災害の概況
8月6日から12日にかけて、日本付近に停滞した前線に大量の水蒸気が流れ込むことによって、北日本から西日本にかけての広い範囲で大雨が発生しました。石川県では7日明け方、鹿児島県では8日未明から明け方にかけて線状降水帯が繰り返し発生し、8日には鹿児島県霧島市に大雨特別警報が発表されました。その後、九州北部地方では9日夜遅くから11日にかけて、線状降水帯が繰り返し発生し(図1)1)、11日には熊本県玉名市や長洲町など、5市2町に大雨特別警報が発表されました。
この大雨によって、8月8日から10日にかけて、24時間降水量が観測史上1位を更新した地点は計18地点となりました2)。また、この大雨による24時間積算雨量は、熊本県玉名市や長洲町周辺で100年に1回よりも大きい規模、熊本市付近では50~100年に1回の規模だと推測されています(図2)3)。
この大雨に伴い、10県(秋田県、新潟県、富山県、石川県、島根県、山口県、福岡県、長崎県、熊本県、鹿児島県)の47水系67河川において浸水被害が確認されています4)。熊本県内では県管理の5水系7河川からの氾濫あるいは内水氾濫とみられる事象が発生し、熊本市中心部でも浸水被害が発生しています(図3、図4)3)。
土砂災害は、全国で112件発生し、その内訳は石川県26件、熊本県22件、鹿児島県16件、長崎県14件、福岡県10件など、特に九州地方で多く発生しました4)。熊本県八代市興善寺町で発生した土砂災害は、上流域から流出した多量の土砂が下流の河道で堆積することで発生する「土砂・洪水氾濫」※の様相を呈していました(図5、図6)。図5は国土地理院の地理院地図に弊社が✖印を加筆したものです。この図から上流の斜面で崩壊が発生したとみられる箇所が確認でき、道路やグラウンドに土砂が堆積していることが分かります。また、図5の✖ポイントから、上流部を撮影した図を図6に示します。図6から、上流部から下流に土砂が流れてきたことが分かり、土砂の堆積高さはおよそ50cm~1mほどになったと考えられます。被災地区には、図5の✖ポイントから、斜面が崩壊したと考えられる箇所に大谷川と呼ばれる河川が存在します。この河川に土砂が堆積することによって、「土砂・洪水氾濫」が発生し、水および土砂が住宅地に溢れた可能性があります。なお、今回被害が出た地域は土砂災害警戒区域に指定されていることが確認できました8)。
2 被害の状況
本コラム執筆時点での被害状況は下記の通りです。なお、下記の表1および表2では特に被害が大きかった石川県、福岡県、熊本県、鹿児島県の被害と全体の被害を示しています9)。表3は、内閣府の資料10)から施設の被害状況を抜粋したものです。
3 水害リスクに対する備え
このような水害リスクに備えるためには、まず自社や自宅が水害リスクの懸念されるエリアに存在するかどうかを把握することが重要です。
ここで、実際に浸水事例が確認されている図3および図4のエリアの標高を確認してみましょう。図7および図8は、図3および図4の枠線に合わせて、弊社が地理院地図に枠線を加筆した図になります。図7および図8に示す通り、浸水があったエリアは周辺よりも寒色系の色(=標高が低いエリア)になっていることが分かります。このように周辺よりも低地であるエリアは高所から水が流れ、それが滞留する傾向があるため、水害リスクが比較的大きいエリアであると考えられます。
さらに、国土交通省・熊本河川国道事務所が公開している水害リスクマップ11)も確認してみましょう。水害リスクマップは、浸水が想定される区域とその頻度を表したもので、図9および図10は河川からの氾濫や下⽔道などからの内⽔氾濫を考慮したマップに、弊社が枠線を加筆した図になります。このマップから、図3および図4に示した浸水エリアは、概ね高頻度(年超過確率1/10)から中高頻度(年超過確率1/30)で浸水が想定されるエリアであることが確認できます。
これらの比較から分かることは、以上で挙げた浸水エリアはもともと浸水する可能性が高いエリアであったということです。したがって、水害リスクに備えるためには、地形図やハザードマップを活用しつつ、事前に水害の危険性を把握することが重要だと改めて考えさせられます。
上記の観点から、弊社では、水害リスクの読み解き方を解説した記事12)や水害リスク情報をまとめた記事13, 14)、実際の洪水事例とハザードマップを比較した記事15)などを発信しています。これからの水害に備えるために、これらの記事も参考にしつつ、今一度水害リスクを考えてみてはいかがでしょうか。
脚注
※ 土砂・洪水氾濫の概要:https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sabo/doshakozuihanran.html
土砂・洪水氾濫のハザードマップの整備:https://www.bosai.yomiuri.co.jp/biz-article/16321
参考文献
1) 気象庁「令和7年8月11日 熊本県に大雨特別警報発表」
https://www.jma.go.jp/jma/press/2508/11a/kumamoto_tokukei.pdf
2) 気象庁「毎日の観測史上1位の値 更新状況」
https://www.data.jma.go.jp/stats/data/mdrr/rank_update/index.html
3) 防災科学技術研究所 極端気象災害研究領域 水・土砂防災研究部門「2025年8月7日からの大雨」https://mizu.bosai.go.jp/key/20250807
4) 国土交通省「令和7年8月6日からの大雨による被害状況等について(第12報)2025/8/18 7:00現在」https://www.mlit.go.jp/common/001905517.pdf
5) 国土交通省 国土地理院「地理院地図」
https://www.gsi.go.jp/
6) 国土交通省 国土地理院「令和7年(2025年)8月6日からの大雨に関する情報」
https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R7_0806_heavyrain_00001.html
7) 国土交通省「令和7年8月6日からの大雨による被害状況等について(第12報)2025/8/18 7:00現在 被害状況位置図等」
https://www.mlit.go.jp/common/001905514.pdf
8) 熊本県「土砂災害警戒区域・特別警戒区域マップ」http://sabo.kiken.pref.kumamoto.jp/website/sabo/index.html
9) 消防庁「令和7年08月07日 令和7年8月6日からの大雨による被害及び 消防機関等の対応状況」https://www.fdma.go.jp/disaster/info/items/20250806ooame16.pdf
10) 内閣府「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に係る被害状況等について(令和7年8月14日14:00現在)」https://www.bousai.go.jp/updates/r70806ooame/pdf/r70806ooame3.pdf
11) 国土交通省 九州地方整備局 熊本河川国道事務所「内外水統合型多段階浸水想定図・水害リスクマップ【令和7年2月12日公表】」https://www.qsr.mlit.go.jp/kumamoto/bousai/tadankaisinsuisouteizu.html
12) 東京海上ディーアール株式会社「水害リスクを身近に感じる読み解き方 ①水の動き方をイメージしよう」https://www.tokio-dr.jp/publication/column/144.html(2024年8月15日)
13) 東京海上ディーアール株式会社「これだけは知っておきたい水害リスク情報〈2023年版〉」
https://www.tokio-dr.jp/publication/report/riskmanagement/riskmanagement-383.html(2023年9月1日)
14) 東京海上ディーアール株式会社「新たに公表された「水害リスクマップ」とは」
https://www.tokio-dr.jp/publication/column/078.html(2022年12月29日)
15) 東京海上ディーアール株式会社「事例から見る洪水ハザードマップの読み方(上級者向け)」
https://www.tokio-dr.jp/publication/column/091.html(2023年9月1日)
執筆コンサルタントプロフィール
- 森口 暢人
- 企業財産本部 研究員