CDP2024コーポレート質問書の振り返り⑤ -水セキュリティ-
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2025/1/10
本コラムでは、CDPのガイダンス※1に基づき、今年度のCDPコーポレート質問書における重要なポイントを5回にわたって解説します。5回目である今回は、水セキュリティ特有の質問が集約されているモジュール9に対応する際に重要なポイントを概説します。前回のコラムは「CDP2024コーポレート質問書の振り返り➃ -フォレスト-」を参照してください。
なお、本コラムは完全版質問書におけるgeneralセクター(「CDP2024コーポレート質問書の振り返り➀ -統合モジュール-」を参照)に絞った解説であり、SME(中小企業版)質問書やセクター固有の質問、サプライチェーンメンバーからの回答要請による質問に関しては別途CDPのガイダンス※1を参照してください。また、用語については原文(英語版)が持つ意味を優先するものとします。
モジュール9の質問構成は図1の通りです。generalセクターにおける質問書は計20問から構成されています。本コラムでは、このうち質問9.2群および9.3群に関連して「水の側面ごとのデータ」および「地理的な位置情報」、9.15群に関連して「今後対応すべきと考えられる事項」について説明します。

(括弧内は質問番号を指す)(CDP資料※1をもとに弊社作成)
- 水の側面(Water aspect)ごとのデータとは
水セキュリティの質問に対応する上で、水の側面ごとのデータの収集は必須と考えます。水の側面とは、総取水量や水源別取水量、総排水量等のことで、今年度のCDP質問書では昨年度に引き続き全12項目が挙げられ、企業はこれらの把握が求められました。generalセクターの場合、モジュール9における全質問の半数(9.2群:7問、9.3群:3問)がこれらのデータに関する内容であったことからもその重要性が窺えます。
- 地理的な位置情報把握の必要性
以上の水に関するデータは、事業全体での把握だけでなく、各拠点での把握も必要です。質問9.2.4では、取水している各拠点の地理的な場所が水ストレス地域か否かをWRI Aqueduct※2等によって評価した上で、水ストレス地域からの取水量を開示することが求められました。また質問9.3.1では、拠点ごとの水源別取水量や放流先別排水量等に加え、拠点が位置している場所の緯度経度情報や流域名等のデータ開示が必要とされました。
- 今後対応すべきと考えられる事項
水セキュリティへの回答に向けて企業が対応すべき事項として、以上の水に関するデータ収集に加え、水関連目標の設定に対する必要性が増していると考えます。今年度、Aリスト要件として水関連の目標に関する内容が追加されました。具体的には、取水量、水質汚染、水・衛生(water, sanitation, and hygiene:WASH)サービスのカテゴリーのうち、少なくとも2つのカテゴリーにおいて目標を設定していることがAリスト要件として求められました※3。またCDP質問書におけるマネジメントレベルとリーダーシップレベルの採点では、それぞれカテゴリー別に得点が重みづけされる仕組みがあり、今年度のgeneralセクターでは、水関連の目標が属する「Targets」カテゴリーと水に関するデータ収集が属する「Water Accounting」カテゴリーの得点に対する重みづけが、昨年度と同様に両方のレベルで最も高い13%を占めている※4ことから、その重要性が窺えます。
また、目標の詳細を問われる質問9.15.2では、SDGsの目標6「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」※5やZero Discharge of Hazardous Chemicals(ZDHC)※6等との整合を評価しているか否かを問われる質問欄や、目標に対する計画と進捗状況あるいは目標達成に貢献した行動に関する記述を求める質問欄が新たに追加されました。SDGsの目標6等との整合の評価についてはマネジメントレベルの評価基準にも含まれています。以上のことから、CDPは水関連の目標を設定することだけを求めているのではなく、設定した内容の適切性や目標達成に向けた実際の行動にも着目していると考えられます。
CDPは、水に関して定量的な目標を設定する際に、拠点が立地する地域の特性を考慮する必要があるものの、実際に考慮できている企業は少ないと判断しています※7。一方で、Science Based Targets Network(SBTN)では、水に関して科学的根拠に基づく目標設定のガイダンスやツールを作成しており※8、それらを活用することで地域の特性を考慮した目標設定が可能と考えます。気候変動の質問書では、SBT(「CDP2024コーポレート質問書の振り返り③ -気候変動-」を参照)に基づくGHG(温室効果ガス)排出量削減目標をベストプラクティスとして採用しており、将来的には水セキュリティに関してもSBTNのガイダンス等に沿った対応が求められる可能性があります。現時点で水に関して科学的根拠に基づき目標を設定している企業は多くはありませんが、引き続き動向を注視する必要があると考えます。
※1 CDP, “Guidance for companies”
https://www.cdp.net/en/guidance/guidance-for-companies (最終閲覧日:2024年12月18日)
※2 WRI, “Aqueduct”
https://www.wri.org/aqueduct (最終閲覧日:2024年12月18日)
※3 CDP, 2024, “CDP Water Security Scoring Essential Criteria 2024”
https://cdn.cdp.net/cdp-production/cms/guidance_docs/pdfs/000/005/421/original/CDP_Water_Security_Scoring_Essential_Criteria.pdf?1719906877 (最終閲覧日:2024年12月18日)
※4 CDP, 2024, “CDP Water Security Scoring Category Weightings 2024”
https://cdn.cdp.net/cdp-production/cms/guidance_docs/pdfs/000/005/437/original/CDP_Water_Security_Category_Weightings.pdf?1719908668 (最終閲覧日:2024年12月18日)
※5 Global Compact Network Japan, 「目標6 すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」
https://www.ungcjn.org/sdgs/goals/goal06.html (最終閲覧日:2024年12月18日)
※6 The ZDHC Gateway, “Welcome to the ZDHC Gateway”
https://www.zdhc-gateway.com/ (最終閲覧日:2024年12月18日)
※7 CDP, 2024, 「CDP 水セキュリティレポート 2023:日本版」
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/009/003/original/CDP_Water_Security_Japan_2023_0319.pdf (最終閲覧日:2024年12月18日)
※8 SBTN, “Resources”
https://sciencebasedtargetsnetwork.org/resources/ (最終閲覧日:2024年12月18日)
執筆コンサルタントプロフィール
- 宇田川 理奈
- 製品安全・環境本部 サステナビリティユニット 研究員