CDP2024コーポレート質問書の振り返り③ ‐気候変動‐
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2025/1/10
本コラムでは、CDPのガイダンス※1に基づき、今年度のCDPコーポレート質問書における重要なポイントを5回にわたって解説します。3回目である今回は、気候変動特有の質問が集約されているモジュール7の重要なテーマに関して解説を行い、次にその重要テーマに関する必須要件について概説します。前回のコラムは「CDP2024コーポレート質問書の振り返り② -統合モジュール-」を参照してください。
なお、本コラムは、完全版質問書においてgeneralセクター(「CDP2024コーポレート質問書の振り返り➀ -統合モジュール-」を参照)に絞った解説であり、SME(中小企業版)質問書やセクター固有の質問、サプライチェーンメンバーからの回答要請による質問に関しては別途CDPのガイダンス※1を参照してください。また、用語については原文(英語版)が持つ意味を優先するものとします。
モジュール7の質問構成は、以下の通りです。本コラムでは、これらテーマのうち「GHG(温室効果ガス)排出量の算定・報告」、「GHG排出量削減目標」について解説します。

(括弧内は質問番号を指す)(CDP資料※1をもとに弊社作成)
- GHG排出量の算定・報告
GHG排出量に関する今年度の質問は昨年度から大きな変更はないものの、取引先からの排出量削減要請やサステナビリティ基準委員会(SSBJ)等によるサステナビリティ開示要請によって、企業のGHG排出量の算定および開示の重要性は高まっています。
GHG排出量の算定・報告に関する質問において、重要な質問項目は以下の通りです。
・適切な算定基準、算定範囲に基づいた算定を実施しているか
・算定にあたり除外した箇所を把握しているか、またそれは重大な除外ではないか
・基準年、報告年排出量をScope1、Scope2、Scope3の各カテゴリ別に算定しているか
・Scope3の算定にあたり、一次データを用いて、算定を行っているか
・報告年排出量の内訳をGHGの種類別、ロケーション別等に開示できるか
・算定結果は、第三者機関のもとで検証を受けているか
以上の通り、CDPではGHG排出量の算定結果だけではなく、その内訳や算定方法、結果の妥当性評価等の開示を求めています。
- GHG排出量削減目標
GHG排出量削減目標に関する今年度の質問においても、昨年度から大きな質問内容の変更はありませんが、目標対象となるGHGの種類や目標設定の目的に関わる質問項目が追加されました。評価基準の観点では、昨年度と同様に、総量削減目標に関する質問7.53.1で最高評価(リーダーシップレベルで満点)を獲得するためには、少なくとも短期目標(目標年が目標設定年から5年以上10年以下の目標)、長期目標(目標設定年から11年以上、2051年6月30日までの目標)が必要であり、短期目標はSBT※2認定を取得する必要があります。また、ネットゼロ目標に関する質問7.54.3では、バリューチェーンを超えて排出削減を行うための計画に関する質問や、その計画および将来カーボンニュートラルを達成するためのカーボンクレジットの購入に関する質問が追加されました。
- GHG排出量の算定・報告、GHG排出量削減目標に関する必須要件
今年度からこれまでのAリスト要件に加えて、各評価レベル以上のスコアを獲得するための要件として必須要件が導入されました(「CDP2024コーポレート質問書の振り返り① -統合 -」を参照)。これまでの各評価レベルの最終的な得点率に加え、この必須要件を満たしているかどうかによって、スコアが決定されます。本コラムでは、GHG排出量の算定・報告およびGHG排出量削減目標に関する必須要件を概説しますが、詳細は別途CDPの”Essential Criteria (Climate Change)” ※3を参照してください。
GHG排出量の算定・報告に関する必須要件として、リーダーシップレベルの必須要件では、Scope1、Scope2を算定し、それぞれの95%以上を対象とした第三者検証を受けていること、およびScope3のうち、少なくとも1つのカテゴリを算定し、そのカテゴリの第三者検証を受けていることが求められました。またAリスト要件では、算定範囲に除外がなく(一部例外を除く)、Scope1、Scope2の100%、Scope3の70%以上を対象とした第三者検証を受けていることが求められました。
GHG排出量削減目標に関する必須要件として、リーダーシップレベルの必須要件では、少なくとも目標の対象範囲について全社かつ排出量全体の95%以上をカバーすること、目標年について目標設定年から5~10年以内の短期目標を設定することが求められました。また、Aリスト要件では、SBT認定またはSBT認定目標に相当するScope1、Scope2の削減目標の設定が求められました。
各評価レベルの必須要件は、1つでも満たすことができない場合、1つ下の評価レベルが最高獲得スコアとなるため注意が必要です。
- 今後対応すべきと考えられる事項
モジュール7では、企業のGHG排出量の算定から、算定結果の開示、検証報告書の取得、GHG排出量削減目標の設定、目標に向けた削減活動の進捗状況等、多岐にわたる内容を回答する必要があります。
CDPへの回答にあたり、現在自社の事業活動に関連するGHG排出量を算定できていない箇所がある企業は、未算定箇所の算定を進め、すでに算定・把握している企業は、一次データの取得や検証報告書の取得を通じて、算定結果の正確性や妥当性を高めることが求められています。加えて、算定企業にはGHG排出量削減目標の設定や短期目標のSBT認定取得が求められています。さらに、CDPは将来的にネットゼロ目標に関する必須要件を導入する意向を示しています※3。そのため、今後は短期目標の設定や目標に沿った削減活動を進めつつ、ネットゼロ目標の策定やSBT認定の取得を検討することも重要であると考えます。このように、企業には将来のカーボンニュートラル達成に向けて、段階的に取組を進め、GHG排出量を削減していくことが求められています。
※1 CDP, “Guidance for companies”
https://www.cdp.net/en/guidance/guidance-for-companies (最終閲覧日:2024年12月18日)
※2 Science-Based Targetの略で、パリ協定(世界の気温上昇を産業⾰命前より2℃を⼗分に下回る⽔準(Well Below2℃:WB2℃)に抑え、また1.5℃に抑えることを⽬指すもの)が求める⽔準と整合した、温室効果ガス排出量削減目標を指す。
※3 CDP,2024,” CDP Climate Change Scoring Essential Criteria 2024”
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/009/177/original/CDP_Climate_Change_Scoring_Essential_Criteria_2024.pdf (最終閲覧日:2024年12月18日)
執筆コンサルタントプロフィール
- 内田 礼央
- 製品安全・環境本部 サステナビリティユニット 研究員