CDP2024コーポレート質問書の振り返り② ‐統合モジュール‐
- 経営・マネジメント
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2024/12/23
本コラムでは、CDPのガイダンス※1に基づき、今年度のCDPコーポレート質問書における重要なポイントを5回にわたって解説します。2回目である今回は、モジュール4(ガバナンス)、モジュール5(事業戦略)のうち、弊社が重要テーマであると考える、「インセンティブ制度」、「シナリオ分析」、および「バリューチェーン・エンゲージメント」に関して、昨年度からの変更点を踏まえて解説します(図1参照)。前回のコラムは、「CDP2024 コーポレート質問書の振り返り①‐統合モジュール‐」を参照してください。
なお、本コラムは完全版質問書において、generalセクター(「CDP2024コーポレート質問書の振り返り➀ -統合モジュール-」を参照)に絞った解説であり、SME(中小企業版)質問書やセクター固有の質問、サプライチェーンメンバーからの回答要請による質問に関しては、別途CDPのガイダンス※1を参照してください。また、用語については原文(英語版)が持つ意味を優先するものとします。

● モジュール4:インセンティブ制度
今年度のCDP質問書では、質問4.5および4.5.1において、インセンティブ制度の導入の有無や導入している場合の具体的な取組内容を説明することが求められました。昨年度からの主な質問の変更点として、以下の点が挙げられます。
・インセンティブの種類が金銭的インセンティブに限定
・環境課題の管理に関する最高経営層および取締役レベルへの金銭的インセンティブの割合に関する質問が追加
さらに、今年度から追加されている必須要件※3では、気候変動のリーダーシップレベルの必須要件として、インセンティブの対象が最高経営層以上の役職となっていること、また気候変動のAリスト要件として、インセンティブの指標に特定の実績指標を選択することが求められました。
CDPでは、企業のサステナビリティに関する取組と結び付いたインセンティブ制度の導入を求めており、特に経営層に向けた金銭的インセンティブ制度の導入を推奨しています。
● モジュール5:シナリオ分析
CDP質問書では、シナリオ分析に関する質問項目は年々増加傾向にあり、今年度はシナリオ分析の手法に関して、詳細な説明が求められました。昨年度からの主な質問項目の変更点として、以下の点が挙げられます。
・シナリオ分析の頻度に関する質問項目が追加
・基準年、対象期間、シナリオのドライビングフォース、シナリオ選択理由に関する質問項目が追加
・シナリオ分析結果によって影響を受けたビジネスプロセスに関する質問項目が追加
また、シナリオ分析に関する気候変動の評価基準についても、質問項目の増加に伴い、難化傾向にあります。例えば、シナリオ分析の方法に関する質問5.1.1において、気候変動で最高評価(リーダーシップレベルで満点)を目指すには、少なくとも以下に基づいて、実施する必要があります。
・移行シナリオ、物理シナリオの両シナリオを用いて全社的な分析を行い、少なくとも一方で定量的な分析を行う
・移行シナリオでは温度帯が1.5℃以下、物理シナリオでは温度帯が3℃以上に相当するシナリオを少なくとも1つ選択する
・移行シナリオ、物理シナリオともに、2025年から2040年までの期間および2050年以降の期間を対象にそれぞれ実施する
なお、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)から公表されている気候関連開示基準案においても、シナリオ分析の実施方法や分析結果を開示することが求められています(詳細は弊社コラム「SSBJサステナビリティ開示に関する基準草案―気候関連のシナリオ分析について」(2024/6/4)を参照)。
● モジュール5:バリューチェーン・エンゲージメント
昨年度までと同様に、今年度のCDP質問書では、バリューチェーンにおける「サプライヤー」、「小規模農家(フォレストのみ)」、「顧客」、「投資家および株主」、「その他のバリューチェーンのステークホルダー」とエンゲージメントを実施しているかについて説明が求められました。
「バリューチェーン・エンゲージメント」に関するCDP質問書の構成は以下の通りです。

質問の構成(括弧内は質問番号を指す)(CDP資料※1をもとに弊社作成)
以上の通り、「サプライヤー」とのエンゲージメントに関する質問が大部分を占めており、その詳細について説明する必要があります。特に質問5.11.7では、1次サプライヤーよりさらに下のサプライヤーに対して、エンゲージメントを実施しているか、および実施している場合のサプライヤーの数を回答することが求められました。また、気候変動の質問においては、エンゲージメントの対象となる1次サプライヤーの割合として、調達額ベースおよび1次サプライヤーに帰属するScope3ベースでの割合をそれぞれ回答することが求められました。
● 今後対応すべきと考えられる事項
今年度の質問書では、企業が回答対象になる環境課題によって一部回答する質問は異なるものの、モジュール1~6で環境課題に共通した質問への回答が求められるようになりました。今後、企業は気候変動や森林破壊、水資源の枯渇等顕在化している様々な環境課題に対して、その関連性を踏まえた上で取り組むことが求められます。また、国際サステナビリティ基準審議会(IFRS)やサステナビリティ基準委員会(SSBJ)等により、国際的なサステナビリティ全般の開示基準が作成され、有価証券報告書や統合報告書等を通じて、その環境課題への取組内容や結果を透明性高く報告することが求められています。来年度CDPに回答する企業においても、このような要請に対応するためのガバナンスを整備し、社内の様々な部署と連携しつつ、回答の準備を進める必要があると考えます。
※1 CDP, “Guidance for companies”
https://www.cdp.net/en/guidance/guidance-for-companies (最終閲覧日:2024年12月18日)
※2 CDP, 2024,「2024年 CDP質問書 変更点のご紹介」
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/009/207/original/2024%E5%B9%B4CDP%E8%B3%AA%E5%95%8F%E6%9B%B8%E5%A4%89%E6%9B%B4%E7%82%B9%E3%81%AE%E3%81%94%E7%B4%B9%E4%BB%8B.pdf (最終閲覧日:2024年12月18日)
※3 CDP,2024,” CDP Climate Change Scoring Essential Criteria 2024”
https://cdn.cdp.net/cdp-production/comfy/cms/files/files/000/009/177/original/CDP_Climate_Change_Scoring_Essential_Criteria_2024.pdf (最終閲覧日:2024年12月18日)
執筆コンサルタントプロフィール
- 内田 礼央
- 製品安全・環境本部 サステナビリティユニット 研究員