カスタマーハラスメント対策が法的義務に ~「カスタマーハラスメント防止指針」で企業に義務付けられる取組とは~
- サステナビリティ
- 人的資本・健康経営・人事労務
2026/4/2
カスタマーハラスメント対策は、すべての事業主に課せられる法的義務となります。
2026年2月26日、厚生労働省は『事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』(以下、「カスタマーハラスメント防止指針」)を公布しました1,2。カスタマーハラスメント防止指針は、2026年10月1日施行予定の改正労働施策総合推進法3 (以下、「改正労推法」)に基づき、事業主がカスタマーハラスメント防止のために講じなければならない措置(義務)を明確に示したものです。
本稿では、今一度カスタマーハラスメントの定義を確認したうえで、事業主が講ずべき措置として義務化される内容を、具体例とともに解説します。
■ 職場におけるカスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメント防止指針では、次の①~③のすべてを満たすものを、「職場におけるカスタマーハラスメント」と定義しています。
| 職場において行われる ① 顧客等の言動であって、 ② その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるもの |
このうち、正当な要求(クレーム)と不当な要求(カスタマーハラスメント)を区別する鍵となるのが②です。厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでは、「要求内容」と「要求手段・態様」の2軸から、社会通念上許容される範囲を超えるかどうかを確認することが示されています4。
今後義務化される措置に適切に対応するためにも、まずはこの定義を理解し判断基準を正しく整理しておくことが重要です。
■ カスタマーハラスメントの防止のために事業主が講ずべき措置(義務)
「カスタマーハラスメント防止指針」(案)の概要については、2026年2月9日発信のコラム「厚生労働省が職場におけるカスタマーハラスメント対策に関する指針(案)を公表」にて解説しました。今回公表されたカスタマーハラスメント防止指針は、指針案を概ねそのまま踏襲しており、事業主が講ずべき措置として、次の内容が示されています。
| 義務項目 | 措置内容 | 主な取組例 |
| 1 事業主の方針等の明確化 及びその周知・啓発 |
①カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する |
✓ 社内報、パンフレット、社内ホームページ等にカスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を記載し、配布等する ✓ 方針を労働者に対して周知・啓発するため、研修、講習等を実施する |
|
②カスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を、労働者に周知する |
✓ カスタマーハラスメントへの対処の内容を定め、当該規定と併せて、カスタマーハラスメントの内容を労働者に対して周知する ✓ 顧客等への対応に関するマニュアル等に、カスタマーハラスメントの内容及び対処の内容を記載し、労働者に対して周知する |
|
| 2 相談体制の整備 |
③相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する |
✓ 相談に対応する担当者をあらかじめ定める ✓ 相談に対応するための制度を設ける |
|
④相談窓口担当者が、適切に対応できるようにする |
✓ 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と関係部門とが連携を図ることができる仕組みとする ✓ 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点等を記載したマニュアルに基づき対応する |
|
| 3 事後の迅速かつ適切な対応 |
➄事実関係を迅速かつ正確に確認する |
✓ 相談窓口の担当者、関係部門等が、相談者から事実関係を確認する ✓ 必要に応じて、周囲の労働者からも事実関係を聴取したり、録音・録画等の客観的な証拠を確認したりする等の措置を講ずる |
|
⑥被害者に対する配慮のための措置を適正に行う |
✓ 事案の内容や状況に応じ、管理監督者等が被害者に代わって対応する、被害者と行為者を引き離す等の措置を講ずる ✓ 暴行、傷害、脅迫等の犯罪に該当し得る言動については警察へ通報する |
|
|
⑦再発防止に向けた措置を講ずる |
✓ カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針及びカスタマーハラスメントへの対処の内容を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等に改めて掲載し、配布等する ✓ カスタマーハラスメントの発生を契機として、原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足等が把握された場合には、その問題等そのものの改善を図る |
|
| 4 対応の実効性を確保するために必要なカスタマーハラスメントの抑止のための措置 |
⑧特に悪質と考えられるカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する |
✓ カスタマーハラスメントのうち、特に悪質と考えられるものへの対処の方針を定め、労働者に対して周知する ✓ 当該対処を講ずることができるよう、関係部門間の連携等の体制を整備する |
| 5 そのほか併せて講ずべき措置 |
⑨相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する |
✓ 相談者等のプライバシーの保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、当該マニュアルに基づき対応する ✓ 相談窓口においては相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを、社内報、パンフレット、社内ホームページ等に掲載し、配布等する |
|
⑩相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する |
✓ 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、カスタマーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し、労働者に周知・啓発する ✓ 社内報、パンフレット、社内ホームページ等に、カスタマーハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等する |
以上のような措置を講じるためには、十分な準備期間を確保する必要があり、今から計画的に取組を進めることが重要です。
特に⑧は、他のハラスメント対策にはない、カスタマーハラスメント特有の義務です。どの行為を「悪質」と定義するか、警察通報やサービス提供中止をどの段階で行うか等、各事業者の業種・業態に応じた対応方針を検討する必要があります。こうした体制整備には一定の準備期間を要するため、早期の取組着手が求められます。
なお、カスタマーハラスメント防止指針では、義務措置のほかに「望ましい取組」も示されています。まずは義務措置を確実に実施したうえで、その他の取組についても段階的に推進していくことが望まれます。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
上記でご紹介した措置は、努力義務ではなく改正労推法に基づく事業主の法的義務です。2026年10月1日の改正労推法施行日までに体制整備が不十分であれば、企業のコンプライアンス違反に該当する可能性があります。また、カスタマーハラスメントにより従業員が被害を受けたにもかかわらず、事業主が必要な防止措置を講じていなかった場合には、安全配慮義務違反を問われるリスクも生じます。
カスタマーハラスメント対策は法令対応だけでなく、従業員が安心して働ける環境づくりや、企業の持続的な人材確保・ブランド保護にも直結する重要な経営課題です。まずはカスタマーハラスメント防止指針や改正労推法の内容を確認のうえ、自社に不足している部分について取組を進めていくことが求められます。
1 厚生労働省 「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
2 厚生労働省「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」(リーフレット 詳細版)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662580.pdf
3 厚生労働省 HP「令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
4 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
執筆コンサルタントプロフィール
- 早川 舞
- 製品安全・環境本部 主任研究員
