運輸防災マネジメントへの取り組み支援のご紹介 ~その1:運輸事業者に迫る自然災害リスク~
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2026/3/31
近年、自然災害の激甚化・頻発化により、バス・トラック・タクシー等の運輸事業者の事業活動全体を脅かすリスクが急速に高まっています。一方で、運輸事業者は、国民生活を支える重要なインフラとして、災害時においても可能な限り輸送業務を継続することが求められています。
国土交通省では、このような状況を踏まえ「運輸防災マネジメント」の推進を図っています。運輸防災マネジメントとは、運輸事業者が自然災害に備え、組織的・継続的に安全管理体制を構築・改善していく取り組みです。具体的には、災害リスクの把握、対策の実施、訓練・教育、そして継続的な見直しというPDCAサイクルを回すことで、災害に強い事業体制を目指すものです。なお、運輸防災マネジメント制度の詳細については、参考文献1 でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。
本コラムでは、前後編に分けて、運輸防災マネジメントに取り組む事業者の皆様に役立つ情報をご紹介します。
1.運輸事業者を襲う水害の実態
自然災害には様々な種類がありますが、本コラムでは特に発生頻度が高く、運輸事業者の被害事例が多数報告されている水害(大雨による浸水被害)に焦点を当ててご紹介します。
(1)激化する大雨災害の現状
全国のアメダスで観測された非常に激しい雨(1時間降水量50mm以上)の発生回数は、1980年代と比較して約1.5倍に増加しています2。
このような大雨による被害状況については、国土交通省が水害統計調査を行っています3。その中で運輸事業者に関する部分を一部抜粋した調査結果を以下の図1、図2に示します。これによると、運輸事業者における水害被害は以下の傾向を示しています。
・被害総額は上昇傾向
・物的被害額(=車両・設備等の損壊)、営業停止損失額(=運行停止による売上減少)はともに増加
・都道府県別の水害被害総額(2014年~2023年)は地域分布に大きな特徴がない
つまり、「被害規模の拡大」と「全国どこでも起こりうる」という2つの特徴が見えてきます。

図 1 2004年から2023年の水害被害総額・物的被害額・営業停止損失額の推移
水害統計調査より東京海上ディーアール株式会社にて作成

図 2 2014年から2023年度の水害被害総額の都道府県別合計
水害統計調査より東京海上ディーアール株式会社にて作成
(2)被害事例
近年発生した水害の中から、運輸事業者に被害をもたらした事例をご紹介します。(以下、国土交通省、各地方運輸局、運輸事業者資料より作成)
【バス】
①バス事業者A社(東北地方):2019年10月 東日本台風による被害
・営業所1階が約180cmの高さまで浸水した
・保有車両の約6割(92台)が水没した
・数日後には一部路線から運行を再開したが、完全復旧まで約5カ月掛かった
・関東地方の事業者から中古バスの無償譲渡を受けるなどの支援を受けた
②バス事業者B社(九州地方):2025年8月 大雨による被害
・営業所が床上50cmの高さまで浸水し、電気系統が不通となった
・車庫内の車両30台が水没し、うち7台は廃車となった
・他営業所からの車両配転や車両修理により、2日後に一部路線で運行を再開したが、完全復旧には約1カ月掛かった
【タクシー】
①タクシー事業者60社(東北地方および関東地方):2019年10月 東日本台風による被害
・23社において営業所や車庫が浸水した
・1社では67台の車両が水没した
②タクシー事業者3社(九州地方):2020年7月 豪雨による被害
・営業所、車庫が浸水した
・各社保有車両の約6割から約8割が水没した
【トラック】
①宅配事業者2社(中部地方):2022年9月 台風第15号による被害
・3営業所が浸水した
・計132台の車両が水没した
・水濡れによって、計4575個の貨物が配達不能となった
②トラック事業者(中部地方):2022年9月 台風第15号による被害
・計55社で営業所が浸水した
・計42社の車両が水没した
(3)被害事例のまとめ
これらの事例から、水害による直接的な被害について、以下のようにまとめることができます。
・営業所の浸水と車両の水没が同時発生し、どちらも甚大な損害となる
・保有車両の大半に被害が生じる
・荷物に被害が及ぶケースもある
・完全復旧まで数カ月を要するケースもある
これらの直接的被害は、運輸事業者の経営に大きな影響を与えます。さらに、直接的被害だけでなく、以下のような間接的被害も経営に深刻な影響を及ぼします。
・道路・港湾の被災による輸送コスト・時間の増大
・従業員の被災による人員不足
・顧客離れ・信用低下
2. 災害時に求められる運輸事業者の役割と現状の取り組み
(1)災害時における運輸事業者の使命と現状
ここまでで示したように、近年、運輸事業者が被災する水害が多く発生しています。一方で、運輸事業者は国や地域の物流を支える重要な社会インフラであり、災害時には被災地への輸送を担い、住民の生活を支える役割を果たしています。
特に、災害対策基本法に基づく指定公共機関・指定地方公共機関に指定されている事業者には、災害時にも業務を継続することが法的に求められています。また、指定を受けていない事業者においても、被災地からの要請に応える形で対応しているのが実情です。
(2)先進的な事業者の取り組み事例
このような状況を踏まえ、先進的な運輸事業者では以下のような取り組みを実施しています。(国土交通省の運輸安全取組事例(自然災害)4 より)
・浸水被害を想定した営業所の高台移転
・災害時の車両退避場所の設定と実動訓練
・荷主の理解を得た安全運行最優先の判断基準策定
これらの対策を効果的に進めるには、現地の状況を正確に把握している事業者自身が主体的に取り組むことが不可欠です。しかし、多くの運輸事業者が以下のような問題を抱えています。
・どのようなリスクを優先的に対策すべきか分からない
・対策の有効性をどう検証すればよいか分からない
・限られた経営資源(人員・予算)の中で何から始めるべきか判断できない
このような課題を抱える運輸事業者の皆様に対し、弊社では様々な支援メニューをご用意しております。
次回「その2」では、具体的な支援内容と事例をご紹介します。
1 東京海上ディーアール株式会社:運輸事業者に求められる防災の取組のポイント~「運輸防災マネジメント指針の解説」を踏まえて~、リスクマネジメント最前線、2021年3月
https://www.tokio-dr.jp/publication/report/riskmanagement/riskmanagement-352.html
2 文部科学省及び気象庁:日本の気候変動2025、https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ccj/2025/pdf/cc2025_honpen.pdf
3 国土交通省:水害統計調査、https://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen/suigaitoukei/index.html
(2025年12月19日閲覧)
4 国土交通省:運輸安全取組事例(自然災害)、https://www.mlit.go.jp/unyuanzen/content/shizensaigai_20230313.pdf
(2025年12月22日閲覧)
執筆コンサルタントプロフィール
- 辻󠄀 滉樹
- 運輸・モビリティ本部 主任研究員
