CSDDD(企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令)の簡素化に向けた審議の動向
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2026/2/26
2025年12月16日、欧州議会は、三者協議での暫定合意を受けて、企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive)(以下、CSDDD)※1および企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive)の簡素化法案の最終案を採択しました※2, ※3。
CSDDDは、2024年7月に発効した、企業の人権や環境分野におけるデュー・ディリジェンス(以下、DD)の実施義務を規定するEU指令です。2025年2月に、欧州委員会からCSDDDを含むEU指令を簡素化する法案が公表されて以来、簡素化の内容について審議が進められてきました(CSDDD、欧州委員会が公表した法案の内容については、コラム「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の成立による人権・環境分野のデュー・ディリジェンス義務化について①」、コラム「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の成立による人権・環境分野のデュー・ディリジェンス義務化について②」をご参照ください)。
今回、欧州議会によって採択された最終案(以下、議会採択案)※4は、EU理事会の正式な承認を得れば、官報に掲載の20日後に発効となります※2。
本コラムでは、議会採択案について、現行のCSDDD(以下、現行指令)からの主な変更点を紹介します。
1.適用対象範囲の縮小
議会採択案では、CSDDD対象企業の適用基準が引き上げられました(表1)。
| 現行指令 | 議会採択案 | ||
| 【EU企業】 直近の会計年度において、(a)~(c)のいずれかの基準を満たす企業 |
(a) | 従業員数平均1,000人超、かつ、全世界の年間純売上高4億5,000万ユーロ超の企業 | 従業員数平均5,000人超、かつ、全世界の年間純売上高15億ユーロ超の企業 |
| (b) | 連結ベースで(a)を満たす企業グループの最終親会社 | 連結ベースで(a)を満たす企業グループの最終親会社 | |
| (c) | EU域内の企業とフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループ最終親会社で、以下の2つを満たす企業 ・権利使用料が2,250万ユーロ超 ・年間純売上高が8,000万ユーロ超 |
EU域内の企業とフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループ最終親会社で、以下の2つを満たす企業 ・権利使用料が7,500万ユーロ超 ・年間純売上高が2億7,500万ユーロ超 |
|
| 【第三国企業】 直近の会計年度の前年度 において、(d)~(f)のいずれかの基準を満たす企業 |
(d) | EU市場における年間純売上高4億5,000万ユーロ超の企業 | EU市場における年間純売上高15億ユーロ超の企業 |
| (e) | 連結ベースで(d)を満たす企業グループの最終親会社 | 連結ベースで(d)を満たす企業グループの最終親会社 | |
| (f) | EU域内の企業とフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループ最終親会社で、以下の2つを満たす企業 ・権利使用料が2,250万ユーロ超 ・年間純売上高が8,000万ユーロ超 |
EU域内の企業とフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループ最終親会社で、以下の2つを満たす企業 ・権利使用料が7,500万ユーロ超 ・年間純売上高が2億7,500万ユーロ超 |
(出所)Directive (EU) 2024/1760※1、
European Parliament legislative resolution of 16 December 2025 on the proposal for a directive of the European Parliament and of the Council※4を基に弊社作成
2.適用開始時期の延期
現行指令では、一定規模以上の企業の適用開始時期を2028年7月※5とし、それ以外の企業については、2029年7月を適用開始時期としていますが、議会採択案においては、すべてのCSDDD適用対象企業に対する適用開始時期が、2029年7月に統一されました(表2)。
| 現行指令 | 議会採択案 | |||
| 対象 | 適用 開始時期 |
対象 | 適用 開始時期 |
|
| 【EU企業】 表1(a)、(b)の基準を満たす企業のうち、平均従業員数が3,000人超、かつ、全世界の純売上高が9億ユーロ超の企業 【第三国企業】 表1(d)、(e)の基準を満たす企業のうち、EU市場における純売上高が9億ユーロ超の企業 |
2028年 7月26日 |
すべての適用対象企業 | 2029年 7月26日 |
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| 上記以外の適用対象企業 | 2029年 7月26日 |
|||
(出所)Directive (EU) 2024/1760※1、
European Parliament legislative resolution of 16 December 2025 on the proposal for a directive of the European Parliament and of the Council※4を基に弊社作成
3.企業の実施事項の変更
議会採択案では、CSDDDがDDのプロセスで企業に実施を求めている措置についても変更されています。主な変更点は、以下のとおりです。
- 負の影響の深刻性、発生可能性が最も高い領域の特定方法の変更
CSDDDでは、顕在的および潜在的な負の影響を特定・評価するための措置として、負の影響の深刻性、発生可能性が最も高い領域を特定することを企業に求めています。この特定方法について、現行指令では、自社や子会社、バリューチェーンに関連する取引先の事業のマッピングの実施を求めているのに対して、議会採択案では、合理的に利用可能な情報のみに基づいたスコーピングの実施が求められています。
- エンゲージメントが必要な利害関係者の範囲の縮小、協議が必要なDDのプロセスの限定
議会採択案では、企業がエンゲージメントを行わなければならない利害関係者が、「関連があり、直接影響を受ける」利害関係者に限定されています。また、CSDDDでは、DDの特定のプロセスにおいて、利害関係者と協議を行うことを求めています。議会採択案では、協議が必要となるプロセスを、負の影響の特定・評価および優先順位付け、防止行動計画・是正措置計画の策定、負の影響の是正のプロセスに限定しています。
- 負の影響に対する措置のモニタリングの実施時期の変更
現行指令では、少なくとも1年ごとのモニタリングの実施が求められていますが、議会採択案では、モニタリングの実施時期が5年ごとに変更されています。
DDとして実施が求められている事項ではありませんが、このほかにも、企業に対する気候変動緩和のための移行計画の採用および実施に関する義務付けが、企業の負担軽減のために、議会採択案においては廃止されています。
議会採択案では、CSDDDの適用対象範囲が大幅に縮小され、企業に実施が求められるDDに関する義務が緩和されましたが、日本の企業でも、適用基準を満たす場合や取引先が適用対象企業である場合には、CSDDDに基づく取り組みが求められる可能性があります。今後も、CSDDD改正の審議状況に注意し、適用基準や規定内容について確認する必要があります。
(本コラムは、2026年2月3日時点での情報を基に作成しています。)
脚注
| ※1 | “Directive (EU) 2024/1760 of the European Parliament and of the Council of 13 June 2024 on corporate sustainability due diligence and amending Directive (EU) 2019/1937 and Regulation (EU) 2023/2859” |
| ※2 | European Parliament, Press release “Simplified sustainability reporting and due diligence rules for businesses” https://www.europarl.europa.eu/pdfs/news/expert/2025/12/press_release/20251211IPR32164/20251211IPR32164_en.pdf (最終閲覧日2026年1月30日) |
| ※3 | Legislative Observatory (European Parliament), “2025/0045(COD)” https://oeil.europarl.europa.eu/oeil/en/procedure-file?reference=2025/0045(COD) (最終閲覧日2026年2月4日) |
| ※4 | “European Parliament legislative resolution of 16 December 2025 on the proposal for a directive of the European Parliament and of the Council amending Directives 2006/43/EC, 2013/34/EU, (EU) 2022/2464 and (EU) 2024/1760 as regards certain corporate sustainability reporting and due diligence requirements (COM(2025)0081 – C10-0037/2025 – 2025/0045(COD))” https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-10-2025-0324_EN.pdf (最終閲覧日2026年1月30日) |
| ※5 | CSDDDの発効時に、2027年7月26日適用開始とされていた企業については、2025年4月に発効した、”Directive (EU) 2025/794 of the European Parliament and of the Council of 14 April 2025 amending Directives (EU) 2022/2464 and (EU) 2024/1760 as regards the dates from which Member States are to apply certain corporate sustainability reporting and due diligence requirements EU指令2025/794” によって、適用開始時期が既に1年間延期されています。 |
執筆コンサルタントプロフィール
- 府川 りくか
- 製品安全・環境本部 研究員
