企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の成立による人権・環境分野のデュー・ディリジェンス義務化について①

  • 経営・マネジメント

コラム

2024/7/8

2024年5月24日、企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive)(以下、CSDDD)がEU理事会にて採択されました。今後、官報への掲載から20日後に発効され、EU加盟国にて国内法整備が進められる予定です。

CSDDDは、EU域内で活動する企業に対し、人権や環境分野における負の影響の予防と是正を目的とした調査、すなわちデュー・ディリジェンスの実施を義務付けるものです。本指令において、企業には、人権および環境に与えうる負の影響を特定すること、実態を把握したうえで、予防や軽減のための適切な対処を行うこと、対処後に追跡調査を行うこと、取組み内容を外部に開示することなどが求められています。また、企業は自社が及ぼす影響にとどまらず、上流・下流といった幅広いバリューチェーンが及ぼす影響についても考慮する必要があります。実際に負の影響が生じた場合には、企業が責任を問われる可能性があります。
2022年に法案が提出されて以降、国際規範に基づくデュー・ディリジェンスを義務化する動きが評価される一方で、適用される企業数の多さと、バリューチェーンにまで及ぶデュー・ディリジェンスの対象範囲の広さから、その実効性が懸念されてきました。2023年の成立を目指して議論が進められましたが、産業界の反発を背景に、一部のEU加盟国が反対にまわったため、今回、適用基準が引き上げられ、対象となる企業が大企業のみと大幅に縮小される形での成立となりました。

CSDDDの適用対象範囲と適用までの年数は下記のとおりです(表1,2)。本指令は、EU域内に子会社をもつ第三国企業も対象となるため、日本企業にも適用されます。適用までの年数は、企業規模に応じて3段階に分けられており、本指令が2024年に発効した場合は、最も早い企業で2027年度からの適用となります。

今回のCSDDDの成立で、企業が扱うべきリスクの範囲が、人権や環境分野まで広げられたことは大きな動きといえそうです。持続可能な社会の実現に向けて、企業には、顕在的なリスクはもちろん潜在的なリスクについても把握し、予防や是正のため適切に対処する能力が求められています。本指令の対象企業に限らず、企業はデュー・ディリジェンス実施のための体制構築を検討していく必要があると考えられます。
本指令で記載されたデュー・ディリジェンスの詳細は次回コラムにてご紹介します。

     
表1 適用対象範囲
  EU企業 第三国企業
グループ1 従業員数平均1,000人超および年間純売上高4.5億ユーロ超の会社 EU市場における年間純売上高4.5億ユーロ超の会社
グループ2 連結ベースでグループ1を満たす企業グループの最終親会社 連結ベースでグループ1を満たす企業グループの最終親会社
グループ3 EU域内の企業とフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループ最終親会社で、以下の2つを満たす企業
・権利使用料が2,250万ユーロ超
・年間純売上高が8,000万ユーロ超
EU域内の企業とフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループ最終親会社で、以下の2つを満たす企業
・権利使用料が2,250万ユーロ超
・年間純売上高が8,000万ユーロ超

出典:“DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on corporate sustainability due diligence and amending Directive (EU) 2019/1937 and Regulation (EU) 2023/2859”(2024年5月13日)をもとに東京海上ディーアールにて作成

     
表2 適用までの年数
  EU企業 第三国企業
発効から3年後 従業員数平均5,000人超および年間純売上高15億ユーロ超 EU市場における年間純売上高15億ユーロ超
発効から4年後 従業員数平均3,000人超および年間純売上高9億ユーロ超 EU市場における年間純売上高9億ユーロ超
発効から5年後 上記以外 上記以外

出典:“DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on corporate sustainability due diligence and amending Directive (EU) 2019/1937 and Regulation (EU) 2023/2859”(2024年5月13日)をもとに東京海上ディーアールにて作成

 

 

<参照URL>
※ Council of the European Unionプレスリリース(2024年5月24日)
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/05/24/corporate-sustainability-due-diligence-council-gives-its-final-approval/ (2024年6月20日閲覧) 
※ “DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on corporate sustainability due diligence and amending Directive (EU) 2019/1937 and Regulation (EU) 2023/2859”(2024年5月13日)
https://data.consilium.europa.eu/doc/document/PE-9-2024-INIT/en/pdf (2024年6月20日閲覧) 

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執筆コンサルタントプロフィール

中川 奈菜
製品安全・環境本部 主任研究員

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