企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の成立による人権・環境分野のデュー・ディリジェンス義務化について②
- 経営・マネジメント
- サステナビリティ
2025/7/7
2024年7月25日、企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive)(以下、CSDDD)が発効し、EU各国では2026年7月26日までの法制化期限に向けて検討が進められていました。しかし、2025年2月26日、企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive)(以下、CSRD)やCSDDDといったサステナビリティに関する規制拡大に歯止めをかける形で、オムニバス法案が公表されました(コラム「CSRDの行方を左右するEUオムニバス法案」についても参照)。
本コラムでは、CSDDDによって企業に求められる対応とともに、オムニバス法案で提案されている内容についても取り上げます。
CSDDDの対象企業と適用開始時期は下表の通りです(第37条)(コラム「企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の成立による人権・環境分野のデュー・ディリジェンス義務化について①」についても参照)。オムニバス法案のうち“ストップ・ザ・クロック”法案(COM(2025)80)では、企業の準備期間の確保を目的として、2027年7月26日が適用開始予定となる企業について、適用開始の1年延長が提案され、既に発効しています。また、この法案には、CSDDDの国内法制化期限の1年延長についても含まれています。
表1 適用対象企業と適用までの年数
適用開始時期 | 適用対象企業 |
オムニバス法案に |
|
EU企業 | 第三国企業 | ||
2027年7月26日 (発効から3年後) |
従業員数平均5,000人超および年間純売上高15億ユーロ超 | EU市場における年間純売上高15億ユーロ超 | 2028年7月26日 |
2028年7月26日 (発効から4年後) |
従業員数平均3,000人超および年間純売上高9億ユーロ超 |
EU市場における年間純売上高9億ユーロ超 | - |
2029年7月26日 (発効から5年後) |
上記以外 | 上記以外 | - |
(出所)DIRECTIVE (EU) 2024/1760 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL、
European Commission, COM(2025)81 finalを基に弊社作成
次に、企業が求められる対応についてです。
CSDDDで企業に求められるデュー・ディリジェンス(以下、DD)の内容は、表2に示す通り定められています(第5条)。また、オムニバス法案のうち、“簡素化”法案(COM(2025)81)では、規制の枠組みを明確化・簡素化し企業の負担を軽減するために、DDの実施について対象範囲や実施義務が縮小される方向で表2に示す内容等が提案されており、今後審議がなされる予定です。オムニバス法案では、欧州委員会によるDDの実施方法とベストプラクティスに関するガイドラインの公表期限を1年前倒しの2026年7月26日にすることも提案されています(第19条)。その他、気候変動に関して移行計画の実施義務化の撤廃(第22条)、民事責任に関する統一の規定を廃止し加盟国の国内法に基づくこと(第29条)等の内容が含まれています。
表2 企業に求められるDD対応と注意すべきポイント
求められるDDプロセス |
注意すべきポイント |
オムニバス法案における |
DDのプロセスを自社の方針およびリスク管理システムに組み込むこと(第7条) |
|
|
顕在的および潜在的な負の影響の特定・評価(第8条、9条) |
|
|
潜在的な負の影響の防止、顕在化した負の影響の停止・最小化(第10条、第11条) |
|
|
顕在的な負の影響の是正(第12条) |
|
|
利害関係者とのエンゲージメント(第13条) |
|
|
苦情処理メカニズムの構築(第14条) |
|
|
DDに関する方針、負の影響に対する措置への有効性のモニタリング(第15条) |
|
|
DD実施状況の開示(第16条) |
|
(出所)DIRECTIVE (EU) 2024/1760 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL、
European Commission, COM(2025)81 finalを基に弊社作成
“簡素化”法案(COM(2025)81)の内容は審議中で、最終的な合意内容については不透明な状況ですが、企業にDDが求められていることは変わらず、適用対象でない日本企業においてもビジネス・パートナーとして対応を求められる可能性があります。そのため、企業は引き続き、CSDDDが参照しているビジネスと人権に関する指導原則等の国際規範に則り、方針の策定やDDプロセスを通じたリスク管理を検討することが望まれます。
<参考文献>
※ “DIRECTIVE (EU) 2024/1760 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 13 June 2024 on corporate sustainability due diligence and amending Directive (EU) 2019/1937 and Regulation (EU) 2023/2859”
※ European Commission, COM(2025)80 final, ”Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL amending Directives (EU) 2022/2464 and (EU) 2024/1760 as regards the dates from which Member States are to apply certain corporate sustainability reporting and due diligence requirements”.
※ European Commission, COM(2025)81 final, ”Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL amending Directives 2006/43/EC, 2013/34/EU, (EU) 2022/2464 and (EU) 2024/1760 as regards certain corporate sustainability reporting and due diligence requirements”.
執筆コンサルタントプロフィール
- 中川 奈菜
- 製品安全環境本部 主任研究員