令和8年5月から始まる「新たな防災気象情報」―企業防災において確認すべきポイント―
- 自然災害
2026/1/16
2025年12月16日、新たな防災気象情報の名称や情報体系が決定・公表されました1。運用開始は、2026(令和8)年5月下旬の予定です。
新たな防災気象情報は、2024年6月に取りまとめられた「防災気象情報に関する検討会」2の提言に沿って、法令改正などの運用開始に向けた準備が進められてきました。「防災気象情報に関する検討会」の最終取りまとめでは、警戒レベルを軸に防災気象情報を整理し、受け手が判断・行動しやすい体系へ再構築するという方向性が示されました(「防災気象情報に関する検討会」の最終取りまとめの詳細は、弊社の過去レポートaをご覧ください)。
本コラムでは、新たな防災気象情報の運用開始にあたり、企業が押さえるべき変更点と、自社の防災体制に活かすための実務ポイントを解説します。
1. 新たな防災気象情報の全体像(主な変更点)
現行の防災気象情報は名称に統一性がなく、複雑でわかりにくいと指摘されていました。また、大雨警報は土砂災害と浸水害の両方を兼ねるなど、災害種別が明確でない課題もありました。
新たな防災気象情報は、避難行動に対応した5段階の警戒レベル(1〜5)に整合され、企業の防災担当者にとっても、どの段階でどのような判断・対応を行うべきかが明確になります3(表1)。
企業が押さえるべき3つの変更点
- 5段階の警戒レベルにあわせた体系・名称に整理
現在の河川氾濫、大雨浸水、土砂災害、高潮の災害種別ごとに、警戒レベル2〜5に対応する情報が整理されます。また、注意報・警報・特別警報の名称に警戒レベルが直接付記されます。
例えば、従来の「大雨特別警報」は「レベル5 大雨特別警報」となり、情報と警戒レベルの関係が即座に理解できます。 - 「危険警報」の新設
避難指示(警戒レベル4)に相当する情報として「危険警報」が新設されます。企業にとっては従業員の安全確保や事業継続判断の重要なトリガーとなります。 - 河川氾濫に関する特別警報の新設
洪水予報河川において氾濫が差し迫ったときに発表される「レベル5 氾濫特別警報」が新設されます。河川近くに拠点を持つ企業にとっては、極めて重要な情報です。
表1防災気象情報の新旧比較
(気象庁公表資料3を基に弊社にて作成)
| 警戒 レベル |
新旧 | 河川氾濫 | 大雨浸水 | 土砂災害 | 高潮 | (警戒レベルごとの) 住民が取るべき行動 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 5相当 | 従来 | 氾濫発生情報 | 大雨特別警報 (浸水害) |
大雨特別警報 (土砂災害) |
高潮氾濫発生情報 | 命の危険 直ちに安全確保! |
| 新体系 | レベル5 氾濫特別警報 |
レベル5 大雨特別警報 |
レベル5 土砂災害特別警報 |
レベル5 高潮特別警報 |
||
| -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-<警戒レベル4までに危険な場所からかならず避難!>-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・- | ||||||
| 4相当 | 従来 | 氾濫危険情報 | - | 土砂災害警戒情報 | 高潮特別警報 高潮警報 |
危険な場所から 全員避難 |
| 新体系 | レベル4 氾濫危険警報 |
レベル4 大雨危険警報 |
レベル4 土砂災害危険警報 |
レベル4 高潮危険警報 |
||
| 3相当 | 従来 | 氾濫警戒情報 洪水警報 |
大雨警報 (浸水害) |
大雨警報 (土砂災害) |
高潮注意報※ | 避難に時間を要する人 は早めに避難、 避難の準備など |
| 新体系 | レベル3 氾濫警報 |
レベル3 大雨警報 |
レベル3 土砂災害警報 |
レベル3 高潮警報 |
||
| 2 | 従来 | 氾濫注意情報 洪水注意報 |
大雨注意報 | 大雨注意報 | 高潮注意報 | 避難行動を確認 (避難場所や避難ルート、 避難のタイミングなど) |
| 新体系 | レベル2 氾濫注意報 |
レベル2 大雨注意報 |
レベル2 土砂災害注意報 |
レベル2 高潮注意報 |
||
| 1 | 従来 | 早期注意情報 | 災害への心構えを高める | |||
| 新体系 | 早期注意情報 | |||||
※ 警報に切り替える可能性が高い高潮注意報
2. 時間軸での情報活用が鍵
新たな防災気象情報では、これまで「気象情報」として配信されていた情報が体系整理され、「気象防災速報」(線状降水帯発生などを速報的に伝える)と「気象解説情報」(気象状況を網羅的に解説)に分類して配信されます。警戒レベル相当情報とあわせて活用することで、防災判断の精度を高めることができます。
また、新たな防災気象情報のもう一つの特徴は、「段階的に発表される防災気象情報を防災対応の判断に活用」しやすくなった点です。企業の防災対応は一度の判断で完結するものではありません。状況の変化に応じて適切に判断するために、時間軸を意識した情報活用が求められます。

図1 段階的に発表される防災気象情報
(気象庁公表資料2を基に弊社にて作成)
段階的に発表される防災気象情報と企業の対応例
- 数日前:「早期注意情報」(警戒レベル1)
警報級の現象が発生する可能性を示す情報です。この段階で、社内の緊急連絡体制の確認、BCP発動準備の検討、重要データのバックアップなどを行います。 - 2日前~半日前:「時系列情報(明日までの警報等の見通し)」、「気象解説情報」
翌日までの警報発表の可能性や気象状況を時間帯別に示し、判断の前提条件を整理するための情報です。出社判断、業務調整、テレワークへの切り替え、早期退社の検討などに活用できます。 - 数時間前:「警戒レベル相当情報」(警戒レベル2〜4)
注意報、警報、危険警報として段階的に発表されます。レベル3で高齢者や移動困難な従業員の避難開始、レベル4で全従業員の安全確保と事業所の防護措置を判断します。 - 発災時:「特別警報」(レベル5相当)
災害の発生または切迫を示す情報で、緊急対応フェーズへの移行を判断する段階です。従業員の命を守ることが最優先となります。
「キキクル」を活用することで、危険度が高まっている地域を地図上で確認でき、各拠点の影響範囲を的確に把握できます。企業においては、拠点や従業員の所在地と照らして影響範囲を把握するための重要な補助情報となります。また、防災判断の精度を高め判断を補助・支援する情報として「気象防災速報」を活用することも望まれます。
3. 企業が今から準備すべき3つの実務ポイント
(1) 防災対応マニュアルやBCPの見直し
新たな防災気象情報体系に合わせて、社内の対応基準を整理し直すことが不可欠です。「レベル3で在宅勤務へ切り替え」「レベル4で事業所閉鎖」など、警戒レベルごとの判断基準と対応手順を明確にしましょう。水害タイムラインなど既存の防災関連規定も、新体系に合わせた更新が必要です。
(2) 情報受信~初動までの判断・対応フロー確認
警戒レベルは短時間で上昇する場合があります。誰が情報を確認し、どの段階で関係部署や経営層に報告するのか、判断権限者は誰か、夜間・休日の対応体制はどうするか。これらを平時から明確にし、担当者個人の判断に依存しない体制を構築することが重要です。
(3) 情報の取得~連携する仕組みの構築・導入
段階的に発表される情報や、キキクルなどの補助情報を確実に活用するためには、情報の集約や共有の仕組みが重要です。新たな防災気象情報に関するXML電文4などを活用した内製対応も一つの選択肢ですが、配信開始時期は現時点で未定とされています。内製する場合、電文内容に対する理解や専門知識も必要となるため、特に複数拠点を抱える企業では、専門的な外部サービスの活用も検討に値します。重要なのは、情報を「取得できる」ことではなく、「判断に使える形で、必要な人に届ける」ことです。
おわりに― 情報を”判断”と”行動”につなげるために
2026(令和8)年5月以降、防災気象情報は企業にとって活用しやすい体系に生まれ変わります。しかし、情報を実際の防災行動につなげられるかは、各企業の準備にかかっています。中小~中堅規模の企業の多くは、専任の防災担当者を置けず、総務部門が兼務していることが少なくありません。だからこそ、この制度改正を機に、シンプルで実行可能な防災体制を構築することが重要です。「どのレベルで、誰が、何を判断するか」を明確にし、新たな防災気象情報を組み込む準備を進めてください。
複数拠点を抱える企業では、防災情報の収集・確認にかかる負荷や、拠点間のコミュニケーションが課題となることがあります。東京海上ディーアールでは、リスクコミュニケーションプラットフォーム Chainable(チェイナブル)を提供しています。災害影響範囲の迅速な把握や関係者との円滑なコミュニケーションを支援するクラウドサービスです。サービスの詳細は本コラム下部のリンクからご確認ください。
新たな防災気象情報の運用開始を防災対応の見直しを行う好機と捉え、新たな防災気象情報を組み込む準備を進めていくことが肝要です。本コラムが、自社の防災対応を見直す契機となれば幸いです。
脚注
| a | 詳細は、リスクマネジメント最前線『「防災気象情報に関する検討会」報告の概要(速報)』 (https://www.tokio-dr.jp/publication/report/riskmanagement/riskmanagement-395.html)ご参照。 |
| 1 | 気象庁「新たな防災気象情報の運用について ~令和8年の大雨時期から防災気象情報が生まれ変わります~」 (https://www.jma.go.jp/jma/press/2512/16a/20251216_taikeiseiri.html)(確認:2026/1/13 10:00) |
| 2 | 気象庁「防災気象情報に関する検討会」 (https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kentoukai/bousaikishoujouhou/bousaikishoujouhou_kentoukai.html)(確認:2026/1/13 10:00) |
| 3 | 気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年~)」 (https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/index.html)(確認:2026/1/13 10:00) |
| 4 | 気象庁「電文関係、技術資料等について」 (https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/keiho-update2026/tech-info/index.html)(確認:2026/1/13 10:00) |
執筆コンサルタントプロフィール
- 佐竹 祐哉
- 企業財産本部 上級主任研究員
