トラック事業に許可更新制、適正原価が導入されます -トラック事業適正化関連法が成立・公布-
- 交通リスク
2025/6/12
1.ロジスティクスと物流
企業が活動するためには、必要なモノを必要なタイミングで入手し、必要としている企業や人へ届けなければなりません。こうした一連のモノの調達から生産・販売まで、生産地から消費地までの全体最適化を行う取組み・システムをロジスティクスといいます。ロジスティクスの原義は兵站(へいたん)という軍事用語です。前線基地へ向けて必要な軍事物資や生活物資等を適切な量・タイミングで補給するために、調達、保管、輸送等の一連の活動を計画的に管理、実行する必要があります。ロジスティクスの要素の一つとなるものが物流・輸送です。その輸送の役割を担うトラック運送事業について、適正な事業環境整備を一層進めるべく、法律の改正と新法の制定がされました。
2.トラック事業適正化関連法の成立
トラック事業適正化関連法は「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(以下、「改正貨物法」といいます。)と新法である「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」(以下、「トラック適正化法」といいます。)にて構成され、第217回国会において2025年6月4日に成立、6月11日に公布しました(※1)。
貨物自動車運送事業法は事業許可や事務的な手続き、輸送の安全に関する取組み等、貨物自動車運送業の全般に関わる法律です。改正貨物法の主なポイントは以下の通りです。
・一般貨物自動車運送事業の5年ごとの許可更新制の導入
・国土交通大臣が適正原価を定め、運賃・料金が適正原価を下回らない(義務)
・再委託の回数を2回以内に制限(努力義務)
・許可をもたない違法な有償トラック運送を禁止(違反した場合は100万円以下の罰金)
・トラック事業の無許可営業について荷主等に是正指導を実施
・ドライバーへの適正な賃金支払い、適切な処遇の確保
等
許可更新を含む事業許可の基準として、車両・人員の確保や過労運転防止等の輸送の安全の遵守、車庫の管理や社会保険料の納付といった事業の適確な遂行(改正貨物法第6条3の2)が求められますので、事業を続けるうえで法令を遵守した経営や運行管理の重要性が一層高まります。事業・物流・輸送を維持するためにも、自社はもちろんのこと、グループ・協力関係にある事業者、荷主企業の場合は委託先の運送事業者も含めて、法令遵守の取組みが必要になります。
なお、改正貨物法は、別途定められる政令に基づいて施行日が決まります。改正内容は事業を行うための許可や、売上の多くを占める運賃の設定が関係しており、無許可経営での罰則適用もあり得る内容のため、トラック事業を営む皆様は十分に動向を注視してください。
また、改正貨物法の規定を担保するため、その方針や体制、予算措置等を整備するトラック適正化法が新たに制定されました。トラック適正化法の主なポイントは以下の通りです。
・貨物自動車運送事業の適正化のための基本方針を策定
・許可更新の事務、事業適正化支援を実施する体制の整備
・法制上の措置を改正貨物法施行後の3年以内をめどに実施
・許可更新の手数料等をもとに必要な財源の確保
・物流政策推進会議、物流政策推進関係者会議の設置
等
なお、トラック適正化法は公布の日から施行となります。
3.適正で安全な運送に向けて
物流は現代の生活、企業活動には必須な社会インフラです。日本の国内貨物総輸送量は年間約41億トン、その約9割をトラック輸送が占め(※2)、これを約6.3万社(※3)のトラック事業者が支えています。一方で、全産業平均と比較すると、トラックドライバーの平均年間所得は約5%低く、平均年間労働時間は約10%多く(※4)なっており、恵まれた環境が整っているとはいえません。安全な運行を実現するためにも、トラック事業適正化関連法により、適正な運賃が確保され、ドライバーの適正な処遇の実現が望まれます。
これまでも法改正を経ながら、1990年に従来は免許制であったトラック事業が許可制に変わり、今回のトラック事業適正化関連法の成立により許可更新制へと移行します。許可更新制となることで、法令を遵守し、輸送の安全の実現に向けて絶えず取り組み続ける運送事業者のみが物流・輸送の担い手として求められ、これらを怠る事業者は業界からの退場を余儀なくされます。「輸送の安全の確保が最も重要であることを自覚し、絶えず輸送の安全性の向上に努めなければならない(貨物自動車運送事業法第13条)」として、運輸安全マネジメント(※5)の取組みのもと、安全第一の企業やドライバーが活躍できる環境が一層整えられることが期待されています。
※1 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDF10E.htm
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDF112.htm
※2 国土交通省『自動車輸送統計年報』『鉄道輸送統計年報』『内航船舶輸送統計年報』『航空輸送統計年報』(いずれも2023年度分)をもとに弊社算出
※3 国土交通省『貨物自動車運送事業者数(規模別)』
https://www.mlit.go.jp/statistics/details/jidosha_list.html
※4 厚生労働省『令和6年賃金構造基本統計調査』をもとに弊社算出
※5 運輸事業者が安全管理体制の構築・改善を行うための枠組み。経営トップの責務やPDCAサイクルを活用した継続的な見直し改善等による安全文化の醸成を求めている。
執筆コンサルタントプロフィール
- 田畑 要輔
- 運輸・モビリティ本部 上級主任研究員