業務前自動点呼が解禁されました―運送業の業務効率化と輸送の安全の両立に向けて―
- 交通リスク
2025/5/14
1.法改正による業務前自動点呼の実現
運送業界からの期待が高かった業務効率化に大きく寄与する業務前自動点呼が、ついにスタートします。国土交通省は令和7年4月30日に「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示の一部を改正する告示」(令和7年国土交通省告示第347号、以下『改正点呼告示』といいます。)を公布、施行しました(※1)。改正点呼告示において、業務前自動点呼が法令で対面点呼と同等と位置付けられたことで、早朝、深夜、休日を問わず対応していた点呼業務を機器・システムで実施し、労働時間の削減につなげることができます。
2.自動点呼の導入意義と期待される効果
自動点呼は、従来、運行管理者・補助者・貨物自動車安全管理者(以下、『運行管理者等』といいます。)が運転者と対面で実施していた運送事業における点呼(※2)を、機器・システムを用いて実施するため、運行管理者等が営業所に常駐していない状況でも対応することができます。業務前自動点呼に取り組むことで、運送業における業務効率化、運行管理者等の人手不足の解消につながり、業務後自動点呼(※3)と併用すると、一層その効果を発揮することが期待されます。一方で、運行開始前に運転者が運行管理者等と対面せず、安全指示や健康状態の確認が十分に行えるのか不安に思う方もいるのではないでしょうか。
運行管理高度化ワーキンググループ(※4。以下、『WG』といいます。)での先行実施事業者に対するアンケート調査において、業務前自動点呼に取り組む意義として「運行管理者等の労働時間削減」と回答した事業者が最も多く、90.6%を占めます(※5)。注目すべき点は、これに次ぐ多数を占める回答として、「点呼の確実性向上」が78.8%、「健康起因の事故防止」が73.0%と続き、経費削減の69.3%を上回ります。自動点呼に取り組むことで、点呼実施忘れや重要事項の伝え忘れを防ぎ、血圧測定等による運転者の健康管理を行いやすくすることが評価される結果となりました。
バス、タクシー、トラック事業者は「輸送の安全の確保が最も重要であることを自覚し、絶えず輸送の安全性の向上に努めなければならない。」(道路運送法第22条、貨物自動車運送事業法第15条)として、輸送の安全に取り組むことが義務付けられています。業務前自動点呼を導入することで、法令で定められた伝達事項等は機械的に対応できますが、一方で、運行管理者等が対面で行う指示や安全指導、目視での体調確認に及ばない場面があることは想定しなければなりません。業務効率化によって生まれた人員や時間を、ヒトが得意とする日ごろからのコミュニケーションに充てる等、運送事業全体を捉えて適切な使い方をすることで、一定の安全性を担保することができます。従業員の労働時間に配慮し、安全の重要性を理解し、健康管理や安全指導を実践している事業者が自動点呼に取り組むことで、この制度の価値が発揮されるでしょう。
3.業務前自動点呼の要件
点呼は輸送の安全を担う運行管理の要であり、その確実性を確保したうえで業務前自動点呼を実施するために、改正点呼告示において「①機器の要件」、「②施設及び環境の要件」「③遵守事項」が定められています。主な要件をまとめると以下の通りです(※6)。
①機器の要件
・国土交通省の認定機器
・健康状態として体温及び血圧を測定する機能
・健康状態測定値とあらかじめ設定した平時の値の差異、疾病・疲労・睡眠不足等の申告により安全運転できないおそれを自動判定する機能
・健康状態や申告をもとに、運行管理者・貨物軽自動車安全管理者(以下、『運行管理者』といいます。)が運行の安全を確保できると判断した場合は点呼を再開する機能
・車両の日常点検結果を記録・保存、異常がある場合は点呼を中止する機能 等
②施設及び環境の要件
・なりすましや機器の不正利用等を防ぐため、撮影機器により運転者等の全身を確認することができること
・通信環境を備えていること
③遵守事項
・あらかじめ業務前自動点呼の実施予定を機器に入力、実施結果を適宜確認
・安全な運転をすることができないおそれを機器に判定された場合、運行管理者が適切な措置を講じる体制を整備
・車両の日常点検に異常がある場合、運行管理者が適切な措置を講じる体制を整備 等
なお、改正点呼告示に基づく機器の認定要領、運用を定める通達は別途定められる(※7)ため、業務前自動点呼に取り組もうとする運送事業者の皆様は動向を注視してください。制度の要件を満たした機器を使用するのは当然ですが、定められた運用を守らないと、法令に沿った点呼と認められず、行政処分等を受ける可能性がありますので十分注意が必要です。
バス、タクシー、トラックで人流・物流を支え、これを職業としている運転者はプロドライバーと呼ばれます。プロフェッショナルとは、「professus-信仰を告白する(ラテン語)-」に由来しており、元は宗教の聖職者を指していました。専門性の高さを活かし、倫理と自律により職に全うすることを神に誓った者が、プロフェッショナルになれました。業務前自動点呼の活用により、プロとしての最重要の責務である輸送の安全確保と効率性向上の両立を実現し、社会の人流・物流を支える存在として一層活躍することが期待されています。
<弊社にて運送事業者向けに提供しているサービス例>
※1 https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001887464.pdf
なお、改正前の告示として、『対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示(令和5年国土交通省告示第266号)』、『対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示の一部を改正する告示(令和6年国土交通省告示第278号)』があります。
※2 運送業における点呼とは、旅客自動車運送事業運輸規則第24条、貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条に規定されたもので、運行の安全を確保するために必要な指示等を行うものです。
※3 令和5年国土交通省告示第266号において制度化されました。改正点呼告示では、あらかじめ業務後自動点呼の実施予定を機器に入力、実施結果を適宜確認すること等が新たに盛り込まれています。
※4 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk2_000082.html
※5 WG令和6年度第3回 資料2
※6 本コラムに列記したものは簡略化した表現、また、要件の一部であり、他にも運転者の生体認証符号等による識別、アルコール検知器による測定等があるため、詳細は改正点呼告示を参照してください。
※7 令和7年5月末頃に公表予定です。
執筆コンサルタントプロフィール
- 田畑 要輔
- 運輸・モビリティ本部 上級主任研究員