2025年3月28日にミャンマーで発生した地震の被害概要について
- 自然災害
2025/4/4
日本時間3月28日、ミャンマー中部を震源とするマグニチュード7.7の大きな地震が発生しました。本コラムでは、この地震による被害概要について、4月4日9時時点の情報をまとめます。
1.地震の概要i
2025年3月28日、日本時間15時20分ごろ(現地時間12時50分ごろ)ミャンマー第二の都市であるマンダレー近傍を震央とするマグニチュード(Mw)7.7(震源深さ10.0km)の大きな地震(以降「ミャンマー地震」とします)が発生しました。この地震は、全長1,000km超におよぶ非常に長大なサガイン断層(Sagaing fault)の一部がずれたことによって生じたといわれています。またミャンマー地震の発生から約12分後に同地域でMw6.7の地震が発生しました。
ミャンマー地震における改正メルカリ震度階aの推定分布を図1に示し、改正メルカリ震度階の概説を図2に示します。改正メルカリ震度階の最大値はIX(9)であり、断層近傍では一般的な建物にも被害が生じうるVII(7)以上の揺れに曝されたと推測されています。震源から1,000km離れたバンコク(タイ)では、改正メルカリ震度階はV(5)程度でしたが、建設中のビルの倒壊など被害が生じました。これはバンコクの地盤的要因(地震動の揺れが増幅しやすい軟弱地盤)に加えて、高層ビル被害と相関を持つ長周期地震動bによる影響が考えられます。
また、ミャンマー地震では、震源のある北部から南部に向かって断層の破壊が進展したと考えられています。このとき、断層の破壊伝播速度が地震波の速度(S波速度;せん断波速度)と同程度以上となり、「超せん断破壊」と呼ばれる現象が発生し、非常に大きな破壊力が生じた可能性が指摘されています。この現象は、近年では2023年トルコ・シリア地震(Mw7.6)でも発生した可能性が指摘されており、日本国内では中央構造線断層帯(近畿~四国~九州)での発生が危惧されていますii。
図1 震央と推定改正メルカリ震度階の分布
(USGSiより引用・編集。改正メルカリ震度階の大きさに対応する色と説明については図2を参照されたい)
図2 改正メルカリ震度階aに関する説明(USGSiiiより引用・編集)
図3では、今回のミャンマー地震を引き起こしたサガイン断層における断層形状とすべり量を表した有限断層モデルcと、過去に日本で発生した地震とを比較しています。ミャンマー地震の有限断層モデルの断層長さは、2011年東北地方太平洋沖地震と同程度であることが読み取れます。一方でミャンマー地震の断層幅は熊本地震と同程度ですd。以上より、ミャンマー地震は、過去に日本で発生した地震と比較しても、断層幅に対して非常に断層長さが長い断層であるといえます。過去の事例からも断層長さが長いほど、長周期の地震動が生成されやすいことが確認されています。また、震源が浅く、地震規模も大きいほど、長周期成分が生成されやすいとされています。ミャンマー地震は、長大な断層形状に加えて、震源深さが10kmと浅く、地震規模が大きかったため、長周期の地震動が生成されやすい条件であったと推測されます。
図3 ミャンマー地震と日本で発生した地震の有限断層モデルc比較
(弊社にてUSGSの有限断層モデルivを引用し、Google Earth Proを用いて作成。地図の尺度は上下でほぼ同一である。断層の色はすべり量を表す)
2.各国の被害概況
本コラム執筆時点(4月4日9時00分)で確認できた被害状況は以下のとおりです。なお、被害に関する情報は伝達されるまでに時間を要する場合があるため、引き続き各所の発信を注視する必要があります。
国 | 死亡者 | 負傷者 | 行方不明者 |
---|---|---|---|
ミャンマー※ | 3,003 | 4,515 | 351 |
タイ | 36 | 33 | 78 |
中国 | 0 | 2 | 0 |
※ミャンマー軍事政権発表による
・ミャンマー
ミャンマー軍事政権は4月3日、この地震による死者が3,003人、負傷者は4,515人に達したと発表しました。特に死傷者数が多いのはマンダレー地方で、これまでに2,400人以上が死亡、1,670人が負傷したと伝えています。多くの建物が倒壊し、家屋5,460棟、ビル512棟、学校168校、オフィス722棟が被害を受けましたviii。各地で地震後火災の発生も報告されていますix。
主要なインフラにも大きな被害が出ています。首都ネピドーでは、国際空港の空港管制塔が倒壊しました。マンダレーの空港も建物の損傷により閉鎖を余儀なくされていることから、救援活動への影響が懸念されます。主要幹線道路の橋梁の崩壊や、道路の寸断も報告されていますx,xi。電気や水道、電話やインターネットなどのライフラインも停止しているとのことです 。また、10のダムの損傷が報告されており、雨季の到来による二次被害が懸念されます。
・タイ
タイでは、地震により首都バンコクで少なくとも36人が死亡、33人が負傷しましたviii。この死者のほとんどは、首都バンコクで建設中だった高層ビルの倒壊によるものです図4。この他の高層ビルでも、外壁の落下やひび割れ、連絡橋の破損などの被害が報告されています図5。その他、家屋591棟、ビル185棟、学校58校などが被害を受けていますviii。
高速鉄道やバンコクの地下鉄であるMRTの一部区間で一時運休し、道路は深夜まで大渋滞が発生しましたxiii。
図4 倒壊した建設中の高層ビル(弊社バンコク駐在員撮影)
図5 連絡橋が破損した高層ビル(弊社バンコク駐在員撮影)
・その他
中国では、ミャンマーと国境を接する雲南省で被害が報告されています。中国国境から震源までの距離は最も近いところで300キロほどありますが、国境沿いの端麗市では、住宅800棟以上が損壊し、2人が負傷しました。xiv
ベトナムでは、ホーチミン市の342戸のアパートが損傷したと報告されていますvii。
3.ミャンマー・タイで過去に発生した地震
ミャンマー・タイおよびその周辺地域(北緯4.1°~29.4°、東経90.6°~110.0°)で2000年以降に発生したwM6.5の地震を図6に示します。この地域では2000年1月1日から2025年4月1日までの約25年間にM6.5以上の地震が合計20回発生しています(Mw7.0以上は5回。このうち、ユーラシア大陸で発生した地震は今回のミャンマー地震のみ)。ミャンマー国内で発生したMw6.5以上の地震は7回で、ミャンマーでは数年に一度プレート境界(図中の赤線)付近を中心に比較的大きな地震が発生していますe。一方、タイについては2000年以降Mw6.5以上の地震は発生しておらず、Mw5.0以上で4回(このうち1回はバンコクより南に220kmほどのタイランド湾内で発生したMw5.0の地震、残り3回は北部の国境付近)であり、タイでは近年大きな地震による被害は発生していませんでした。
図6 ミャンマー・タイとその周辺で2000年以降に発生したMw6.5以上の地震(弊社にてUSGSivより引用・編集して作成)
4.まとめ
2025年3月28日にミャンマー中部のマンダレー近傍を震源として発生したMw7.7の地震の概況について4月4日9時時点の情報をまとめました。震源のあるミャンマーに加えて、1,000km離れたバンコク(タイ)でも被害が発生しました。地震があまり発生していない地域でも、その周辺に位置する断層の形状や、地盤の特徴、建物構造などによって甚大な被害が生じうることが、今回の地震で改めて認識されました。今後、さらに情報が集まり、今回の地震の特徴や被害概況の詳細が明らかになっていくことが考えられます。
弊社では、下記に示すサービスとして今回のミャンマー地震のようなグローバルハザードリスクに加えて、国内の地震・津波リスク評価を実施しています。企業においては、日本国内はもちろん、国外でも地震をはじめとした自然災害に見舞われるとの認識のもと、平時から自然災害に備えていくことが求められます。
参考情報・サービスご案内
グローバルサイトの自然災害情報管理支援
リスク評価(地震・津波)
脚注
a | 改正メルカリ震度階とは世界的に使用されている1~12の階級で表現される震度です。地震の影響を体感や建物被害に基づいて主観的に評価しています。このため、日本国内で一般的に用いられる気象庁震度階級とは異なり、改正メルカリ震度階は数学的な算出式はなく、両者を厳密に結びつけることはできません。 |
b | 長周期地震動とは、地震の揺れが1往復するのにかかる時間(周期)が長い地震動であり、遠方の地点にも地震の揺れが伝わりやすい性質があります。特に高層ビルなどへの影響が顕著であり、気象庁震度階級が小さくても、建物によっては揺れを感じる・被害が生じることがあるため、長周期地震動階級が策定・公表されています。 |
c | 有限断層モデルとは断層面がどの程度の広がりを持っており、どの程度ずれたかを表した物理的なモデルです。USGS(アメリカ地質調査所)が公表しているミャンマー地震の有限断層モデルは、ミャンマー国立地震ネットワークMMの2つの強震観測点と、ヨーロッパの地球観測光学衛星Sentinel-2の観測情報に基づく水平表面変位の情報を用いて作成されています。一方、2024年能登半島地震の有限断層モデルはより詳細な情報であるGNSS(GPSを含む衛星測位システム)とInSAR(衛星搭載の合成開口レーダSARを用いた地表面観測)を用いて作成されています。このため、ミャンマー地震の有限断層モデルは比較的少ない情報から作成されており、現時点ではある程度の不確実性が含まれていると考えられます。 |
d | ミャンマー地震の有限断層モデルの傾斜角(地表面に対する断層面の傾き)は82°とほぼ垂直であるため、上空から見た図ではほぼ断層幅のサイズ感を把握することは困難です。なお、地震規模を表すマグニチュードは断層の大きさとすべり量などの情報から求めることができます。 |
e | ただし、2000年以降にミャンマー国内で発生したMw6.5以上の7地震のうち、震源深さが80km以上の地震が2つ含まれています。また、マンダレー周辺では1956年にMw6.8(震源深さ34.3km)の地震が発生して以来、今回のミャンマー地震まで70年近くMw6.5以上の地震は発生していませんでした。 |
i | USGS, “M 7.7 - 2025 Mandalay, Burma (Myanmar) Earthquake”, https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us7000pn9s/executive |
ii | NHK「【詳しく】ミャンマー大地震 被害の特徴は 遠方被害はなぜ」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250329/k10014764671000.html |
iii | USGS, “Earthquake Intensity Scale” https://www.usgs.gov/media/images/earthquake-intensity-scale |
iv | USGS “Latest Earthquakes” https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/map |
v | NHK World, “Over 3,000 dead in Myanmar earthquake disaster”, https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20250403_04/ |
vi | Bangkok Post, “Local death count from Friday's tremor rises to 18”, https://www.bangkokpost.com/thailand/general/2991241/local-death-count-from-fridays-tremor-rises-to-18 |
vii | VN Express International, “Cracks appear in over 300 Ho Chi Minh City apartments after Myanmar earthquake”, https://e.vnexpress.net/news/news/environment/cracks-appear-in-over-300-ho-chi-minh-city-apartments-after-myanmar-earthquake-4867650.html |
viii | AHA Center, ”SITUATION UPDATE No. 2 – M7.7 Earthquake in Myanmar and Thailand – 31 March 2025”, https://ahacentre.org/situation-update/situation-update-no-2-m7-7-earthquake-in-myanmar-and-thailand-31-march-2025/ |
ix | DVB, https://burmese.dvb.no/post/697295 |
x | AP通信, "Massive quake rocks Myanmar and Thailand. Hundreds feared dead”, https://apnews.com/article/thailand-earthquake-bangkok-4fce87aced74b1fc0cf260fb5454d353 |
xi | ALJAZEERA, “Earthquake death toll in Myanmar, Thailand surpasses 150”, https://www.aljazeera.com/news/2025/3/28/powerful-earthquake-strikes-myanmar |
xii | Myanmar NOW, https://myanmar-now.org/mm/news/62166/ |
xiii | Bangkok Post, “Thai quake death toll reaches 17 with 77 missing, monorail still halted”, https://www.bangkokpost.com/thailand/general/2990959/thai-quake-death-toll-reaches-17-with-77-missing-monorail-still-halted |
xiv | 新華社通信, “More than 800 houses in southwest China damaged in Myanmar earthquake”, https://english.news.cn/20250329/fc9292d4b7914c61889e437368e2078e/c.html |
執筆コンサルタントプロフィール
- 小野 祐輝、高橋 幸宏
- 企業財産本部 研究員