Science Based Targetsの建築セクター向け目標認定基準③

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コラム

2024/11/29

 本コラムでは、2024年8月にScience Based Targets initiative(以下、SBTi)が公開した建築セクター向けのScience-based targets (SBT)認定基準(以下、建築セクター基準)について3回にわたって解説します。
 3回目である今回は、建築セクター基準を踏まえた、SBT申請までの流れについてご紹介します。
  1回目:Science Based Targetsの建築セクター向け目標認定基準①
  2回目:Science Based Targetsの建築セクター向け目標認定基準②

 SBTiが公表している建築セクター基準の解説資料※1では、目標申請までの手順について、以下の4つのステップを案内しています。
 ①    目標の範囲、スコープ、設定方法を決定する
 ②    温室効果ガス(以下、GHG)排出量インベントリの計算
 ③    目標を構築する
 ④    SBTiへの目標提出

 以下、各ステップについて概要をご紹介します。

①    目標の範囲、スコープ、設定方法を決定する
 建築セクター基準の対象企業(1回目コラムご参照)は、建築セクター基準のみを参照するのではなく、セクターにかかわらず適用されるSBTiの基本的な基準(2回目コラムご参照)やガイダンスも参照した上で目標設定を進める必要があります。目標設定に向けた最初のステップとして、基本的な基準に従って、短期的な目標のみを設定するか長期的目標を含めて設定するかを決定した上で、目標の基準年※2と目標年を設定します。その後、基本的な基準や建築セクターを含むセクター別の要求事項に従ってスコープ3目標の設定が必要かどうかを確認します。そして、基本的な基準や建築セクターを含むセクター固有基準を参照して目標範囲(バウンダリ)を設定します。その上で、2回目のコラムでご紹介した建築セクター基準で定められている目標設定の方法から、自社の目標に適用する設定方法を選択します。

②    GHG排出量インベントリの計算
 建築セクター基準やその解説資料、またGHGプロトコルが提供するガイダンスに従って、目標の基準年及び直近年のGHG排出量を計算します。 
 建築セクター基準の対象企業が床面積あたりの原単位目標であるセクター別脱炭素アプローチ(Sectoral Decarbonization Approach 以下、SDA)目標を設定する場合には、以下の情報を揃える必要があります。
 ●    建物タイプと地域ごとの基準年の床面積及び目標年の予測床面積※3(アップフロントカーボンのSDA目標の場合は建物タイプのみ)
 ●    基準年排出量(オペレーショナルカーボン及び/またはアップフロントカーボン)
 ●    直近の年を基準年としない場合は、直近年のGHG排出量インベントリ
 なお、建築セクター基準の建築物に関する排出量削減目標については、異なる目標に対して異なる基準年を使用することや前年比目標を使用することができます。

③    目標を構築する
 SBTi建築物目標設定ツール(SBTi Buildings Target-Setting Tool※4)を用いて、建築物に関するGHG排出量削減目標をモデル化します。その他の排出量は、SBTの基本的な基準を満たすために追加目標によってカバーすることが必要となる場合があり、それはSBTiの標準的な目標設定ツールを使用してモデル化することができます。
 建築物に関するGHG排出量削減目標を構築するためのステップは以下のとおりです。

1)    目標年までの各年の床面積を予測する(SDA目標の場合のみ)。
2)    建築セクター基準を満たすために必要な、目標年までの排出削減量を計算するために、SBTi建築物目標設定ツールに②のステップで算出したGHG排出量インベントリのデータを入力する。
※オペレーショナルカーボンについては、ポートフォリオに含まれる建物の建物タイプと地理を選択肢から選び、アップフロントカーボンについては建物タイプを選びます。SDA目標を設定する場合、ポートフォリオにおいて複数の地域または建物タイプにまたがる資産を持つ企業は、オペレーショナルカーボンとアップフロントカーボンのそれぞれにおいて単一の削減目標を構築するために、ツールを用いて目標を集約しなければなりません。
3)    目標の文言を決定する(SBTi目標提出フォームや建築セクター基準の解説資料の例に従う)。

④    SBTiへの目標提出
 記入済みの目標提出フォームと必要な添付資料をSBTiに送付します。建築セクター基準に則った目標を設定、提出する場合は、セクター横断的に用いられる一般的な目標提出フォームのみならず、建築セクターに特化した目標申請用の資料(Buildings Annex、SBTi建築物目標設定ツール、及び必要に応じたその他の添付資料)をSBTiに提出する必要があります。目標の提出はSBTiのウェブサイト上のシステムを通じて行います。

注)本コラムで引用・参照しているSBTiの公表資料について、本コラムの執筆時点で日本語版は公表されていません。また、本コラムでは読者にとって理解しやすい解説を提供することを目的として、SBTiの公表資料の英語原文から一部意訳を行っています。本コラムとSBTi公表資料の英語原文との間に齟齬がある場合、当該英語原文が優先するものとします。

※1: SCIENCE BASED TARGETS “BUILDINGS SECTOR SCIENCE-BASED TARGETS EXPLANATORY DOCUMENT” (Version1.0, August 2024)
※2:SBTiの基本的な基準における基準年は2015年以降の年を選択することができますが、建築セクター基準において、アップフロントカーボンの目標の基準年は、目標提出年の3年前までとすることが求められています。
※3:目標年の床面積の予測が難しい場合には、SBTiが用意している「fixed market share」のオプションをツール内で選択することができます。
※4:SCIENCE BASED TARGETS “SBTi Buildings Target-Setting Tool” (Version1.0)
https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Buildings-Target-Setting-Tool.xlsx(最終閲覧日:2024年11月8日)

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執筆コンサルタントプロフィール

山田 真梨子
製品安全・環境本部 上級主任研究員

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