Science Based Targetsの建築セクター向け目標認定基準②
- 環境
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2024/11/21
本コラムでは、2024年8月にScience Based Targets initiative(以下、SBTi)が公開した建築セクター向けのScience-based targets (SBT)認定基準(以下、建築セクター基準)について3回にわたって解説します。
1回目はこちら
2回目である今回は、1回目でご紹介した建築セクター基準の対象企業(以下、対象企業)に対して適用される要件の内、いくつかの重要なポイントをご紹介します。
なお、対象企業がSBTの認定基準に合致する温室効果ガス(以下、GHG)排出量削減目標を設定するにあたっては、本コラムで紹介している建築セクター基準のみを参照するのではなく、まずはセクターにかかわらず適用されるSBTiの基本的な基準※1を参照した上で目標設定を進める必要があります。建築セクター基準は、基本的な基準に対して優先しますが、建築セクター基準の中で特に規定されない事項や、建築物に関する排出量削減目標の対象範囲に含まれない排出量については、基本的な基準に則って対応し、また対象企業がその他のセクター固有基準の対象にも該当する場合にはそちらにも従う必要があります。
◆目標設定の方法:
建築セクター基準では、建築物に関するGHG排出量削減目標の設定方法として、床面積あたりの原単位目標であるセクター別脱炭素アプローチ(Sectoral Decarbonization Approach:SDA)目標、及びセクター別総量削減目標の2つの新しい目標設定方法を導入しており、セクターに依存しない基本的な基準に基づく目標設定もケースに応じて利用可能としています。対象企業区分と排出量のカテゴリーに応じて、認められている目標設定方法が異なり、建築セクター基準の資料の中で、対象企業区分及び排出量カテゴリー別の目標設定方法の対応表やフローチャートを確認することができます※2。
◆排出量算定と目標範囲に関する基準
建築物に関するGHG排出量削減目標を設定するためには、基準年排出量の適切な算定と目標範囲の決定が必要となりますが、排出量算定と目標範囲に関して対象企業に課される要件のポイントをいくつかご紹介します。
- Whole Buildingアプローチ:1つの建物からのGHG排出量は、対象企業区分や、選択した連結アプローチ(出資比率基準、財務/経営支配力基準等)、 賃貸契約の形態、ユーティリティに関する取り決め等により、 異なるスコープに分類される可能性があります。対象企業は、選択した連結アプローチや、その結果としてのインベントリ全体の排出量の配分にかかわらず、貸主と借主が管理するスペースの両方から排出される設備運用時のエネルギー消費に起因する全ての排出量(オペレーショナルカーボン)を、目標範囲に含めなければなりません。
- ロケーション基準による排出量算定・報告:対象企業は、目標設定にマーケット基準を選択した場合でも、ロケーション基準を用いて、建物全体のオペレーショナルカーボンを測定し、報告しなければなりません。
- 漏洩排出(Fugitive emissions)※3:対象企業は、あらゆる種類の建物から排出される漏洩排出を、オペレーショナルカーボンに含め、GHGインベントリ及び目標範囲の一部として含めなければなりません。漏洩排出は、建物の所有権、賃貸契約、管理状況により、企業のスコープ1またはスコープ3に分類されますが、排出がどのスコープに分類される場合でも、GHGインベントリ及び目標範囲に含める必要があります。漏洩排出量に関するデータの収集がされていない場合は、推定方法を開示した上で推定値を使用することが求められます。
- 目標に含めるべきスコープ3排出量:オペレーショナルカーボンやアップフロントカーボンの目標設定要件に該当する場合、SBTの基本的な基準に照らしてスコープ3目標を設定することが求められていない場合でも、対象企業区分に応じて求められる排出量を建築物に関するGHG排出量削減目標の範囲に含めなければなりません。対象企業区分ごとに短期目標対象に含めることが求められるスコープ3のカテゴリーは下表のとおりです。
表 対象企業区分ごとに短期目標対象範囲に求められるスコープ3カテゴリー |
|
デベロッパー(Developer) |
カテゴリー1:購入した製品・サービス |
オーナー兼占有者(Owner-occupier) |
カテゴリー2:資本財 |
オーナー兼賃貸人(Owner-lessor) |
カテゴリー2:資本財 |
プロパティマネージャー |
カテゴリー11:販売した製品の使用 |
出所:SCIENCE BASED TARGETS “BUILDINGS SECTOR SCIENCE-BASED TARGET-SETTING CRITERIA” (Version1.0, August 2024)を基に弊社作成 |
◆排出量削減以外に求められるコミットメント:化石燃料設備の新規導入廃止
対象企業は、遅くとも2030年以降、自社が所有または財政的に管理する化石燃料設備(暖房、調理、発電、給湯のために建物内で使用される化石燃料システム)を、自社のポートフォリオの建物に新たに設置しないことを約束することが求められています。このコミットメントは、新築建物、既存の建物の両方に適用されますが、ヘルスケアセクターで緊急用やバックアップ用のシステムとして使用される設備や、その他のセクターも含めて規制や地域的な制約等から必要とされる特定の用途に使用される設備は対象外です。建物内の現行の化石燃料設備が耐用年数を迎えた場合に、それらを更新するのではなく、化石燃料を必要としない技術に置き換えることを求めています。
なお、金融機関に対しては、建築セクター基準内でも追加基準が設けられているほか、別途金融セクター向けのSBT認定基準も設けられており、金融機関はそれらの関連する基準全てを確認した上で目標を設定するよう求められています。
次回は、建築セクター基準を踏まえた、SBT申請までの流れについて解説します。(11月29日公開予定)
注)本コラムで引用・参照しているSBTiの公表資料について、本コラムの執筆時点で日本語版は公表されていません。また、本コラムでは読者にとって理解しやすい解説を提供することを目的として、SBTiの公表資料の英語原文から一部意訳を行っています。本コラムとSBTi公表資料の英語原文との間に齟齬がある場合、当該英語原文が優先するものとします。
※1:Science Based Targets initiativeが公表している “SBTi CORPORATE NEAR-TERM CRITERIA” や”SBTi CORPORATE NET-ZERO STANDARD”
※2:SCIENCE BASED TARGETS “BUILDINGS SECTOR SCIENCE-BASED TARGET-SETTING CRITERIA” (Version1.0, August 2024)p.13~15及びp.30~33 https://sciencebasedtargets.org/resources/files/SBTi-Buildings-Criteria.pdf (最終閲覧日:2024年11月8日)
※3:漏洩排出(Fugitive emissions)とは、化石燃料の採掘、生産、処理及び精製、輸送、貯蔵、配送時におけるガスの漏洩や、フッ化物製造時や冷凍空調機器等のフロン類を含む機器・設備の製造、使用、点検、廃棄時のフッ素化ガスの漏洩等、意図的及び非意図的な非燃焼起源の温室効果ガスの漏洩を指します。フッ素化GHGの主な種類として、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六フッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3)があります。
執筆コンサルタントプロフィール
- 山田 真梨子
- 製品安全・環境本部 上級主任研究員