コンプライアンス違反防止のために:「心理的安全性」

  • コンプライアンス

2021/5/31

 2021年4月、粉飾決算や業法違反等のコンプライアンス違反(意図的な法令違反や社会規範・倫理に反する行為)が露呈し倒産した企業数(2020年度)が帝国データバンクより発表されました。このデータ等を確認しながら、従業員のコンプライアンス意識の浸透・定着に有効と思われる取り組みについて考えてみましょう。

■コンプライアンス違反による倒産企業は年180社を超える(帝国データバンク最新調査)
 帝国データバンクより公表された最新の「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査」(※1)によると、180社を超える企業がコンプライアンス違反に関連して倒産しているとされています。主なコンプライアンス違反の倒産件数の推移を以下に示します(同社の調査をもとに弊社作成)。

図 過去5年のコンプライアンス違反倒産の件数

■企業不祥事に起因して設置される調査委員会で指摘される職場風土
 上記で倒産企業のうち約6割を占めている粉飾、業法違反、資金使途不正は、報道で取り上げられる等、社会的なインパクトも大きく、近年では第三者委員会による原因調査や再発防止策の提言が行われるケースが目立つようになりました。各委員会で不祥事の発生原因として指摘される内容は事案によって様々ではあるものの、例えば直近1年間に報告されたものを確認すると、以下のような点が複数の事案に共通して指摘されています(※2)。

・責任者・担当者が不正行為を認識していたにも関わらず、上層部に報告しなかった。
・担当者が不正行為の認識や疑念を持っていたにも関わらず、上司の指示に従わなければならないと考えて当該行為を継続していた。
・担当者が不正行為の認識があっても、そのこと自体は経営層の指揮命令、判断に由来するものであり、自らの責任に帰属するものではないと考えていた。
・内部通報制度が機能しておらず、不正行為の是正の機会がなかった。
・売上目標が偏重により、不正行為が黙認されていた。

■コンプライアンス違反リスクと心理的安全性
 不正行為の原因として指摘のあった上記事項は、不正行為があったことを職場内で率直に話す風土が醸成されていないという意味で、昨今グーグルのプロジェクト・アリストテレス(※3)でも話題になった、職場における心理的安全性の欠如に関するものだと言えます。心理的安全性は組織心理学の分野で取り扱われてきた概念で、近年エイミー・C・エドモンドソン博士により「チームメンバーに非難される不安を感じることなく、安心して自身の意見を伝えることができる状態」として紹介され話題になりました。
一般に心理的安全性の程度は、以下の項目で測定されると言われています(※4)。

 コンプライアンス違反を未然防止するためには、制度設計や体制整備のみでなく従業員意識の把握・醸成が重要であることは以前のコラムでもご紹介しましたが、これらを進める中では、上記のような職場における心理的安全性のレベルを把握することも重要であると思われます。各職場における心理的安全性に関する傾向を把握したうえで、その傾向にあった対策検討を実施し、不正の芽を早めに顕在化・是正できる職場を醸成していくことが、コンプライアンス違反未然防止に必要なのではないかと思われます。

 

※1 株式会社帝国データバンク「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2020年度)」(2021年4月9日)

※2 2020年1月以降に発生した企業不祥事のうち第三者委員会が設置され調査報告書が公表された案件等をもとに弊社にて要約。

※3 グーグルのチームを対象に行われた研究で、他のチームより高いパフォーマンスをあげる理由として心理的安全性が重要な要素であることが明らかになり、その結果がニューヨークタイムズの特集記事等で取り上げられた(※4の文献より要約)。

※4 エイミー・C・エドモンドソン「恐れのない組織 ー心理的安全性が学習・イノベーション・成長をもたらす」(2021年)英治出版

執筆コンサルタントプロフィール

山下 幸樹
製品安全・環境本部 マネージャー

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