事業と仕事紹介
プロジェクトストーリー

Project Story

保険ビジネスの
DXの可能性を切り拓いた

ドライブエージェント開発プロジェクト

OUTLINE

東京海上日動火災保険が提供している「ドライブエージェント」は、通信機能を搭載したドライブレコーダーにより、事故発生時に自動で事故受付センターに連絡する保険サービスです。デジタル技術を活用した先進的な事例として、「2020年日経優秀製品・サービス賞」(日本経済新聞社主催)も受賞しました。前例のない独自要件や高い品質目標を実現するため、ドライブレコーダーまで自社開発したサービス開発の裏側を紹介します。

運輸モビリティ本部 主席研究員

駒田 悠一Yuichi Komada

2009年入社

大学・大学院では認知心理学について研究し、博士課程を修了。交通事故防止をはじめとする安全への活用にも関わる。就職の際には人間行動系の研究をピュアに追求できる環境を探し、東京海上ディーアールに入社。本プロジェクトではサービスのコンセプト設計からドライブレコーダーの機器開発といった一連のサービス開発に携わった。

※所属・役職は取材当時の情報です

保険会社でありながら
ドライブレコーダーを自社開発

スマートフォンの普及が一巡し、IoTの活用やデータのビジネス活用が広く叫ばれるようになってきた2015年頃、東京海上グループではスマートフォンやIoT機器などのデジタルデバイスを活用した交通事故へのより高度な対応の模索を始めました。「インシュアテック(保険×テクノロジー)」という言葉すら生まれていない時期でしたが、既に保険業界では「保険のデジタル化」が大きなビジネスアジェンダになっていました。
そして、数々の議論の中で、交通事故との親和性がもっとも高い機器であるドライブレコーダーを保険ビジネスに活用できないかというドライブエージェントのアイディアが生まれ、当時、ドライブレコーダーのデータを活用した安全診断に携わっていた私がプロジェクトに参加することになりました。
それ以前に私が携わっていた業務は、ドライブレコーダーから事故状況などのデータを収集し、安全指導や対策を行う交通事故削減のためのコンサルティングです。ドライブレコーダーのデータ分析には私以外のメンバーも多数関わっていましたが、その中でも私に白羽の矢が立った理由としては、ドライブレコーダーの機種入れ替えのプロジェクトに携わっていたことが挙げられます。当時、私は東京海上日動リスクコンサルティングで使用していたドライブレコーダーすべてを新機種に入れ替える際の製品調査・選定を担当しており、ハードウェアについても一定の知識を持っていたことからプロジェクトに抜擢されることになりました。
しかし当時、東京海上グループを含め、保険会社が自ら純正のドライブレコーダーを開発した事例はありません。私自身もデータの収集や分析、コンサルティング業務は経験してきましたが、ハードウェアの開発は当然ながら知見がありませんでした。簡単な道のりではないことは、最初から容易に想像がつきました。

仕事風景
仕事風景

高い品質目標への
果てしない追求

なぜ、既製品のドライブレコーダーを使わず、保険会社が自ら開発することになったのか。その理由は、ドライブレコーダーの特殊な仕様にあります。当初から定まっていたドライブエージェントの根幹のコンセプトは、事故に遭った際に映像が自動で当社に転送され、コールセンターにつながって通話できる車両緊急通報システムを備えるというもの。既製品では対応できない特殊な仕様であり、万が一の際の不具合も許されないという開発責任の重さから、自社での開発となりました。
開発に着手すると、こうしたドライブレコーダーの仕様に限らず、さまざまな面に障壁が立ちはだかっていました。最初にぶつかった大きな壁は、緊急応対の方法について。従来の事故対応と違い、ドライブエージェントでは事故が起きて数秒後には自動でコールセンターに電話がつながります。緊急性の高い応対のオペレーションを新たに検討する必要があり、さらには事故直後に電話を受けるのは警備業法の免許を持った会社でなければならないなど、他社との提携も含めた幅広い対応が必要になりました。
また、何よりも重視したのは、高度なサービスレベルを保つことです。ドライブエージェントは事故時に応対する商品であるため、もしサービスに問題があれば、人命に関わることもありえます。アプリケーションのフリーズや、動作しないケースがあることは絶対に許されません。
世の中に不具合が存在しない製品やシステムはありませんが、それでも私たちはきわめて高い品質目標を自らに課しました。しかし、究極的には故障をゼロにすることは不可能であるため、現在は故障する前に予測して修理するという事前予測のアプローチも組み入れ、高い品質目標の達成に向けて取り組んでいます。

仕事風景
仕事風景

保険ビジネスの未来を拓いた
プロジェクト

ドライブエージェントのプロジェクトを通じて実感したのは、前例のない巨大なプロジェクトでありながら、大きな裁量と自由を与えてくれる東京海上ディーアールのカルチャーの魅力です。具体的な数字は伏せますが、今までに経験したことがない巨額の予算で、自由に挑戦していいという機会を与えられた時には、初めて感じる高揚感がありました。もちろんプレッシャーは感じていましたが、新規事業が必ず成功するとは限らないことは会社も理解してくれており、ある面では伸び伸びとプロジェクトに取り組むことができました。
今回のプロジェクトでは、商品開発の最上流から機器やシステムの開発、テスト、運用・改善を一貫して担当することができました。それまで、コンサルタントとしては上流でコンセプトを設計している時にもっとも充実感を感じていたのですが、今回、細部まで自らの手で進めることができ、保険というビジネスがどのようにお客様に届けられているのか、一連の流れを知ることができ、貴重な経験になったと感じています。

仕事風景

品質目標の話をしたように、ドライブエージェントの品質改善にはこれからも取り組んでいきます。一方、ドライブエージェントを通じて、実際の事故時の瞬間の映像をはじめとした多数のデータが収集されてきているため、今後はこれらのデータの分析にも注力し、事故削減につながるサービスに活用していく予定です。
リリース後、個人向けのドライブエージェントパーソナルを活用した「事故状況再現システム」は日本経済新聞社主催の「2020年日経優秀製品・サービス賞」にて最優秀賞を受賞するなど、高い評価をいただくことができました。保険会社でありながら自社で機器を開発・販売したことで、保険ビジネスの可能性は間違いなく広がったと自負しています。ドライブエージェントを保険ビジネスのデジタルトランスフォーメーションのひとつの契機として、今後、さらに新しい保険サービスの次の扉を開いていきたいと考えています。

仕事風景