電子版お薬手帳の現状と課題—選定・活用に向けた考察

Tokio dR-EYE

2026/8/20

目次

  1. お薬手帳の機能と活用における現状の課題
  2. 電子版お薬手帳の導入背景と現状
  3. 電子版お薬手帳の要件と適合性に関する論点
  4. 電子版お薬手帳サービス選択における留意点
  5. 今後の制度動向と展望

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執筆コンサルタント

塩田 藍
ビジネスリスク本部 主任研究員
専門分野:ヘルスケア

 

お薬手帳は、患者の服薬情報を一元的に管理し、医療安全を支える重要なツールである。近年、電子版お薬手帳の普及が進んでいるが、サービスの中には、厚生労働省が定めるガイドラインの要件を満たさずに提供されているものが存在する。その実態を十分に把握しないままサービスを選択・導入した場合、医療安全上のリスクや要配慮個人情報の管理上のリスクが生じうる。本レポートでは、電子版お薬手帳の現状と課題を整理した上で、サービスの選定・活用にあたっての留意点を示す。

1. お薬手帳の機能と活用における現状の課題

(1)    お薬手帳の役割と機能

お薬手帳は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称「薬機法」)施行規則第15条の131項第3号において「当該薬剤を使用しようとする者が患者の薬剤服用歴その他の情報を一元的かつ経時的に管理できる手帳」[1]と規定されている。すなわち、患者が服用する薬剤を記録し、時系列で管理することで、患者自身が健康管理のツールとして利用するとともに、医師・薬剤師が相互作用の防止や副作用回避に活用することを目的としたものである。

お薬手帳に記載すべき内容については、令和635日付け保医発03054号通知[2]において、①患者の氏名・生年月日・連絡先等、②アレルギー歴・副作用歴等、③主な既往歴等、④日常的に利用する薬局の名称・連絡先等の4項目が示されており、これらを経時的に記録できることが「お薬手帳」の要件とされている。

上記の法令上の規定が示す通り、お薬手帳の中心的機能は薬剤情報の一元管理にある。患者(利用者)が、自らの一元管理された調剤歴を把握することは、服薬のアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)の向上やセルフメディケーション(自らの健康に責任を持ち自分で手当てすること)の適切な実践に直結する。こうした観点から、お薬手帳は記録ツールにとどまらず、医療の質と安全を支える重要なツールと位置付けられる。

さらに複数の医療機関や薬局を横断して調剤歴を一つの媒体で管理することにより、医師・薬剤師が処方・調剤の際に飲み合わせの確認や重複投薬の防止を行うことが可能となる。特に高齢者や複数の慢性疾患を抱える患者においては、複数の診療科・複数の医療機関を受診することにより、複数の処方とそれに伴う調剤が日常的に発生するため、情報の一元管理が重要となる。

(2)    服薬情報の網羅性に関する課題

しかしながら、現実には、お薬手帳の一元管理機能は必ずしも十分ではない。その要因の一つが、OTC医薬品(一般用医薬品・要指導医薬品)やサプリメントの使用情報が記録、共有されないことである。

医療用医薬品については薬局での調剤情報がシール等で提供されお薬手帳に記録される一方、ドラッグストア等で購入するOTC医薬品については、利用者が自ら記録しない限り手帳に反映されない。OTC医薬品の中には、処方薬と相互作用を起こしうる成分を含む製品も存在し、把握されないまま併用された場合には健康被害につながるおそれがある。

また、お薬手帳を複数冊保有している場合、服用している薬剤の全体像を把握することが困難になる。その結果、医療機関や薬局では患者の服薬状況を十分に把握しないまま、処方や服薬指導が行われるおそれがある。

(3)    情報の即時性・携帯性に関する課題

お薬手帳の運用上の課題として、まず記録の即時性の欠如が挙げられる。薬局で調剤を受けた際に発行される調剤情報のシールを後日お薬手帳に貼付する運用においては、タイムラグやシールの紛失が生じ、別の医療機関を受診した場合、最新の服薬情報が共有されないリスクがある。

次に、持参忘れの問題がある。普段利用しない医療機関を急遽受診した場合など、お薬手帳を携帯していない場面では情報の共有が困難となる。また、紙媒体であるがゆえに、災害時の混乱等により手帳自体を紛失した場合には、服薬情報が失われるリスクもある。

2. 電子版お薬手帳の導入背景と現状

(1)    災害の教訓と電子化への機運

前章で述べた紙媒体のお薬手帳が抱える課題である情報の欠落、タイムラグ、持参忘れ等を解消する手段として期待されているのが、電子版お薬手帳である。

電子版お薬手帳の導入は平成22年に政府が発表した「どこでもMY病院」構想を背景としている[3] 。本構想は、個人が自身の健康情報であるPHRPersonal Health Record)を自ら管理、活用するための情報提供サービスの構築を目指すものであり、電子版お薬手帳はその具体的な実現内容として位置付けられた。

その後、平成23年の東日本大震災の際には、お薬手帳を所持していた場合は服薬情報の確認が円滑であった一方、お薬手帳を紛失した場合には情報の把握が困難となり、診療や処方に支障を来した事例が報告された[4]。これを契機に電子的な服薬情報管理の重要性が広く認識され、その後、電子版お薬手帳を活用した服薬情報管理が診療報酬上で評価[5] され、データ標準化などの整備が進められた。

(2)    期待される役割

電子版お薬手帳には、従来の紙媒体のお薬手帳によって生じがちな課題を改善し、服薬情報の管理を電子化することで、情報管理の効率化と利便性の向上を目指す役割が期待される。

まず調剤情報を電子的に記録することで、シールの貼付漏れや記録の遅延を減らすことができる。また複数の医療機関や薬局で処方・調剤された薬剤情報を一つのアプリに集約することで、利用者自身や医療従事者が服薬状況を把握しやすくなることも利点として挙げられる。

さらにスマートフォン上で管理できるため、日常的に携帯するスマートフォンに情報を集約することで、紙のお薬手帳の持参忘れや紛失といった問題の軽減が期待される。また、OTC医薬品やサプリメント等の情報も登録できる仕組みにより、服薬状況の把握範囲を広げることが期待されている。

(3)    技術的前提

電子版お薬手帳は当初、薬局が発行するQRコードを利用者がアプリで読み取ることで調剤情報を記録する方式の普及が進んだ。この方式は既存の調剤レセプトコンピュータとの連携により実現されており、現在も調剤情報取得の基本的な手段として機能している。

その後、オンライン資格確認の普及に加え、令和51月に電子処方箋の運用が開始されたことで、電子版お薬手帳が取り扱える情報の範囲が拡大した。マイナポータルとのAPI連携によって患者は過去5年分のレセプト由来の薬剤情報をアプリに取り込むことが可能となり、電子処方箋により処方・調剤情報の迅速な連携も実現しつつある。

電子版お薬手帳が情報を取得する経路は一つではなく、取得経路によって反映される情報の種類や速度が異なる。以下の図表1はその主な経路を整理したものである。取得経路ごとの特性を理解することは、アプリ上の情報の鮮度や網羅性を正しく把握する上で重要である。

(図表1)電子版お薬手帳における情報の主な取得経路
取得経路 主な情報 情報反映までの速度
利用者による手動入力等 OTC医薬品・サプリメント等 即時(入力時)
電子処方箋連携 電子処方箋由来の処方・調剤情報 電子処方箋・調剤情報登録後
QRコード読取 調剤情報 QRコード読取時
マイナポータル連携 レセプト由来の処方・調剤情報(過去5年分) レセプト登録後
健保組合経由 レセプト由来の処方・調剤情報 レセプト登録後

出典:筆者作成

(4)    現実のギャップ

電子版お薬手帳への期待や制度整備が進む一方で、実際の運用においては期待される役割と実態との間に複数のギャップが存在する。

  • 利用者の登録行為への依存: QRコード読取やOTC医薬品の登録は利用者の能動的な操作を前提としているため、失念や手間による未登録が生じやすい。習慣的な運用を維持することには限界があり、情報の欠落が構造的に生じやすい。
  • レセプト由来情報の時間的遅延: マイナポータルを通じて取得できるレセプト由来の薬剤情報は、レセプトのサイクルに依存するため、直近の情報がアプリに反映されるまでに12か月程度のタイムラグが生じることがある。
  • 電子処方箋の普及途上:電子処方箋対応施設はいまだ限定的であり、特に医療機関では10~30%程度の導入状況である[6]。対応していない医療機関や薬局では、リアルタイムの情報連携は行うことができない。

3. 電子版お薬手帳の要件と適合性に関する論点

技術的な拡充と並行して、制度面での整備も進んでいる。令和53月には厚生労働省が「電子版お薬手帳ガイドライン」を発出し、電子版お薬手帳サービスの運営事業者が対応すべき要件を体系的に整理した[7]。同ガイドラインでは、「実装すべき機能」「実装が望ましい機能」「将来的に実装が望ましい機能」の三段階でサービス要件が示されており、厚生労働省のウェブサイトでは、ガイドラインに沿った電子版お薬手帳サービスのリストも公開されている[8]

(1)    電子版お薬手帳に求められる要件

電子版お薬手帳ガイドラインでは、マイナポータルとのAPI連携機能、OTC医薬品等の登録機能、服薬記録一覧表示機能、医薬品情報表示機能、有効成分表示機能、秘匿機能、服薬管理機能を「実装すべき機能」として定めている[7]。これらの機能は多岐にわたるが、その目的は大きく三つに整理できる。

  • 処方医薬品とOTC医薬品を含む服薬情報を一元的かつ継続的に管理することである。マイナポータル連携機能、OTC医薬品登録機能、服薬記録の一覧表示機能は、この目的を実現するための機能として位置付けられる。
  • 利用者自身による服薬管理を支援することである。医薬品情報表示機能、有効成分表示機能、服薬管理機能は、利用者が服用している医薬品を理解し、適切な服薬やセルフメディケーションにつなげることを目的としている。

服薬情報という要配慮個人情報を利用者本人が管理・統制できるようにすることである。秘匿機能は、利用者による服薬情報のコントロールを可能とし、プライバシー保護を図ることを目的としている。また、秘匿情報の存在自体は医療従事者が把握できる仕組みとすることで、医療安全にも配慮している。

(図表2)電子版お薬手帳における「実装すべき機能」の目的別整理
目的 該当機能
服薬情報の一元管理 マイナポータル連携機能、OTC医薬品登録機能、服薬記録一覧表示機能
利用者の服薬管理 医薬品情報表示機能、有効成分表示機能、服薬管理機能
個人情報の保護 秘匿機能

出典:筆者作成

(2)    要件と実態の乖離

市場に流通するPHRアプリの中には、「お薬手帳機能」を掲げているものの、ガイドラインが定める「実装すべき機能」の要件を満たしていないものが存在する。具体的には以下のようなケースが見られる。

まず、マイナポータルとのAPI連携によるレセプト情報の閲覧・表示のみを提供しているケースである。この点について電子版お薬手帳ガイドラインでは「マイナポータルAPI連携による薬剤情報の取り込みのみが可能となっているアプリケーションは電子版お薬手帳としては認められない」と規定している。マイナポータルのデータ取り込みは必要要件の一部ではあるが、それのみをもって「電子版お薬手帳」と称することは不適切とされている。

また、審査支払機関・健康保険組合(健保)を経由する独自のデータ連携経路を採用しているPHRアプリも見られる。この場合、マイナポータル連携自体が行われていないため、ガイドラインの要件を満たさないにもかかわらず「お薬手帳」として提供されている場合がある。

説明文や機能紹介において、「お薬手帳」という名称が誤って使われていることから、利用者や企業の健康施策担当者がその実態を十分に把握せずにサービスを選択・導入するリスクが存在する。

(3)    乖離がもたらすリスク

要件と実装の間に乖離が生じる場合、次のようなリスクが想定される。

  • 医療安全上のリスク:記録が不完全・不正確・遅延している状態で薬剤師や医師が情報を参照した場合、相互作用や重複投薬の見落としにつながる可能性がある。
  • 情報管理上のリスク:独自の連携経路を採用するサービスでは、ガイドラインが求めるデータ取得・管理の要件を満たさない。電子版お薬手帳が扱う服薬情報は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当する。要配慮個人情報は、本人の同意なく第三者に提供することが原則として禁止される情報であり、取得・管理・利用については厳格な運用が求められる。ガイドラインにおいても、オプトアウトによる取得や第三者提供は認められないと明示されているが、要件を満たさないサービスでは情報管理上の規律が担保されないおそれがある。
  • 企業・健保の健康施策上のリスク:従業員の健康管理施策としてPHRアプリや電子版お薬手帳サービスを導入している企業においては、選定したサービスの実態が「電子版お薬手帳」の要件を満たしていない場合、その施策の信頼性や有効性が損なわれるおそれがある。また、従業員の要配慮個人情報を扱うサービスを選定した際の説明責任という観点からも、サービスの適合性の確認は不可欠である。

4. 電子版お薬手帳サービス選択における留意点

本章では、電子版お薬手帳サービスの選定から利用にいたるまでの主な留意点を示す。サービス選定を検討する個人の利用者、従業員の健康管理施策として導入を検討する企業の健康施策担当者・健保組合にご活用いただきたい。

(1)    適合性確認:公的リストの活用

電子版お薬手帳サービスを選択する際には、当該サービスが電子版お薬手帳ガイドラインに適合していることを確認することが重要である。厚生労働省は、ガイドラインに沿った電子版お薬手帳サービスのリストを公式ウェブサイトで公開しており、サービス選定における判断材料となる。また、公益社団法人日本薬剤師会が提供する「eLink(イークスリンク)」の対応サービス[9]であるかどうかも、複数薬局間での情報共有という観点から重要な確認ポイントとなる。

なお、ガイドラインでは、運営事業者が自己点検シートに基づく要件の充足状況を定期的に確認し、結果を自社ウェブサイト等で公表するよう求めている。各電子版お薬手帳の公表情報を参照することも、サービスの実態を把握する手段の一つである。

(2)    利用規約・データ利用範囲の確認

電子版お薬手帳サービスは要配慮個人情報を扱うものであるため、利用規約およびプライバシーポリシーの内容を慎重に確認することが必要である。特に以下の点は重点的に確認すべき項目である。

  • 収集されるデータの範囲(薬剤名、用法・用量、既往歴、アレルギー歴等)
  • データの利用目的(サービス提供や改善のためのみか、研究・マーケティング等への二次利用を含むか)
  • 第三者への提供の有無・範囲・条件
  • データの保存期間と削除の可否
  • サービス終了時のデータ取り扱い

ガイドラインは、二次利用に際しては利用者に明示的な同意を取得することを求めており、同意の内容が利用者にとって分かりやすく示されているかも確認のポイントとなる。なお、これらの確認は、企業や健保が健康施策として導入する場合には従業員への説明責任の観点からも精査が必要となる。

(3)    OTC医薬品の取り扱い:網羅性の観点

OTC医薬品の情報管理は服薬情報の網羅性を確保する上で重要である。選定にあたっては、JANコードの読み取りによるOTC医薬品の登録機能が実装されているかを確認するとともに、連携データベースの品目数・更新頻度についても把握しておくことが望ましい。

ガイドラインでは、OTC医薬品情報データベースとして「JSM-DBC(セルフメディケーション・データベースセンター)」の活用が推奨されており、これと連携しているか否かも一つの判断材料となりうる。

(4)    利用にあたっての注意点

サービスの選定後の実際の利用にあたっては、アプリ上の表示を過信しないことが重要である。レセプト由来の情報は時間的遅延を伴う可能性があり、OTC医薬品については自己入力がなければ反映されない。そのため、アプリ上の表示を「現在の服薬状況の記録」として扱うことには注意が必要であり、情報の鮮度や網羅性を確認しながら活用することが望ましい。

5. 今後の制度動向と展望

電子処方箋の普及は着実に進んでいるが、令和8年現在においても対応施設はいまだ限定的であり、全医療機関、薬局への普及には一定の時間を要する見通しである。電子処方箋のさらなる普及が実現すれば、処方・調剤情報のリアルタイム連携という観点での課題は大きく改善される可能性がある。また、マイナポータルを通じて閲覧できる情報の範囲が今後拡充されていく方向性(電子カルテ情報の共有、予防接種情報の連携等)も示されており、PHR全体の充実に伴い電子版お薬手帳の実用性も高まっていくことが期待される。

しかし「電子版お薬手帳」、PHRアプリの「お薬手帳」機能という名称が付与されていても、その実装がガイドラインの要件を満たしているかどうかは、個別に確認しなければ判断できない。技術・制度がさらに成熟するまでの間は、利用者による適切な判断には限界があることも認識した上で、公的リストの活用や薬剤師、医療情報システムの専門家等への相談を活用することが望ましい。

電子版お薬手帳をめぐる技術・制度は発展途上にあるが、その活用が適切に進めば、医療安全の向上とセルフメディケーションの推進に寄与することが期待される。その可能性を現実のものとするためには、技術・制度の整備とともに、利用者・選定者側のリテラシー向上が重要な課題である。

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参考情報

執筆コンサルタント

塩田 藍
ビジネスリスク本部 主任研究員
専門分野:ヘルスケア

脚注

[1] 厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則」
[2] 厚生労働省「保医発0305第4号通知(診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について)」(2024年3月);
[3] 総務省「情報通信技術及び人材に係る仕様書(平成23年度版)(医療分野)どこでもMY病院/PHR」(2012年3月)
[4] 公益社団法人日本薬剤師会「東日本大震災時におけるお薬手帳の活用事例」(2012年6月)
[5] 厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」(2016年3月)
[6] デジタル庁「電子処方箋の導入状況に関するダッシュボード」(2026年7月時点)
[7] 厚生労働省「電子版お薬手帳ガイドライン」(2023年3月)
[8] 厚生労働省「ガイドラインに沿った電子版お薬手帳サービスリスト」(2025年12月時点)
[9] 公益社団法人日本薬剤師会「電子お薬手帳相互閲覧サービス『e薬Link』」(2026年7月時点)

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