海外における従業員の健康の表彰制度と健康経営の国際展開への示唆
2026/5/1
目次
- 海外における従業員の健康に対する取組の表彰制度
- 各表彰制度の比較
- まとめ・考察
海外における従業員の健康の表彰制度と健康経営の国際展開への示唆 - Tokio-dR EYEPDF
執筆コンサルタント
守屋 亮佑
ビジネスリスク本部 主任研究員
専門分野:ヘルスケア、データヘルス、人的資本経営、コーポレートガバナンス
MBA、健康経営エキスパートアドバイザー
人材を企業価値向上につながる「資本」と考える人的資本経営が求められる中、従業員の健康を人的資本の一つとして捉える健康経営の取組が普及してきている。健康経営優良法人認定制度を設計している経済産業省の発表によれば、2026年3月時点で上場企業の約3割(1,317社)、2024年度時点で日経平均株価を構成する企業(225社)の約8割が健康経営に取り組んでいる。少子高齢化がいち早く進展し労働力人口が減少している日本では、健康問題による生産性低下(プレゼンティーイズムおよびアブセンティーイズム[1])を抑制するとともに、女性やシニアの従業員が働き続けられるように従業員の健康増進と働き方の柔軟性を高めることが重要であるといえる。
国内で普及が進む健康経営について、現在、3つの観点から国際的な展開が求められている。一つ目は、経済産業省がヘルスケア産業のマーケット創出・拡大の一環として、健康経営の国際的な普及を図っていることである[2]。健康経営に取り組む日本企業に対しても、海外グループ会社への健康経営の展開を国として推進する姿勢を示している。二つ目は、日本企業が海外売上比率を伸ばし続けていることである[3]。その結果、海外で勤務する従業員(駐在員または現地採用者)がさらに増えていくことが想定される。三つ目は、内なる国際化として、外国籍の従業員が増えていることである[4]。しかし、日本の社会保障制度や働き方に合わせる形で発展してきた健康経営をそのまま海外グループ会社や外国籍の従業員に展開すると、制度や文化が異なることがハードルとなり取組がうまく浸透しない可能性がある。そこで、本稿では海外における従業員の健康への取組の表彰制度を調査し、その評価項目を比較することで健康経営の国際展開を考える際の示唆を得る。
1.海外における従業員の健康に対する取組の表彰制度
従業員の健康に対する取組を表彰する制度は、先進国を中心に存在している。筆者が調査した海外の表彰制度は以下のとおりである(図表1)。
| 番号 | 名称 | 国・地域 | 実施主体 |
| (1) | Corporate Health Achievement Award | アメリカ合衆国 | the American College of Occupational and Environmental Medicine (ACOEM:米国産業環境医学会) |
| (2) | Corporate Health Award | ドイツ | EUPD Research(民間のシンクタンク)、Handelsblatt(経済・金融専門誌)、Deutscher bKV-Service(ブローカー・経営コンサルタント) |
| (3) | Healthy Workplace Good Practice Awards | 欧州 | EU-OSHA(EUで労働安全衛生を管轄する行政機関) |
| (4) | Koop Award | アメリカ合衆国 | The Health Project(NPO) |
| (5) | RoSPA Health and Safety Awards | イギリス | The Royal Society for the Prevention of Accidents (イギリス王立災害防止協会。以下、RoSPA) |
| (6) | Trophée Quali’vie | フランス | CPRIA(地域産業関係・行動委員会) |
| (7) | Workplace Benefits Awards | カナダ | Benefits Canada(民間企業) |
| (8) | 健康親和企業認証 | 韓国 | 韓国健康増進開発院(行政機関) |
| (9) | 健康職場認定 | 台湾 | 衛生福利部衛生振興局(行政機関) |
出典:筆者作成
まずは、それぞれの表彰制度の概要を以下に整理する。
(1) Corporate Health Achievement Award (以下、CHAA)(アメリカ)
CHAAは、労働安全衛生に関する民間の専門家組織であるthe American College of Occupational and Environmental Medicine(ACOEM:米国産業環境医学会)が1997年から2023年まで実施していた、従業員の健康と職場の労働安全衛生の模範的な取組を表彰する制度である。2023年を最後に表彰制度は終了しているが、CHAAの評価制度をもとにしたガイドライン(Guide to a Healthy and Safe Workplace)を現在も公開している。毎年数社が表彰され(該当企業なしの年もあり)、累計の受賞企業は47社となっている。
表彰における評価のポイントは以下のとおりである(図表2)。
| 取組水準 | 評価のウェイト | 詳細 | 成熟度 |
| レベル1 | 30% | プログラム:組織が革新的なプログラムや実践を重視し、指定されたカテゴリーにおいて適切なプログラムが存在することを示す証拠を有している。 | 導入 |
| レベル2 | 20% | 普及・展開: 組織は、プログラムが存在し、組織内のすべての適切な領域および部門において十分に展開されている証拠を有している。 | 展開 |
| レベル3 | 20% | 成果指標: 組織は、このカテゴリーに対する成果指標を開発し、これらの成果の測定を開始している。 | 評価 |
| レベル4 | 30% | ポジティブな成果: 組織は、健康リスクの低減、医療費削減、またはビジネスへのその他のポジティブな影響、もしくはビジネスへのネガティブな影響の低減を示す成果指標のトレンドデータを有している。 | 改善 |
出典:CHAA HP掲載資料をもとに筆者作成
(2) Corporate Health Award(ドイツ)
Corporate Health Awardは、EUPD ResearchとHandelsblatt という民間企業が先進的な健康管理に取り組む企業を表彰するために2009年に開始した表彰制度である。2025年現在は、Deutscher bKV-Service とあわせて3社で開催している。表彰企業は18業種ごとに「大企業」「中堅企業」の2つのカテゴリーから選定しており、2025年時点で累計の受賞企業は170社以上となっている。
表彰における評価ポイントは以下のとおりである(図表3)。
| 取組カテゴリー | 評価項目 |
| 構造 | 内部構造、部門の統合、外部との連携/ネットワーク構築、健康管理における品質保証 労働安全における品質保証、産業医学における品質保証、 外部サービスプロバイダーの品質保証、職場復帰管理 |
| 戦略 | プロセス/目標、予算、データ収集機器、主要業績評価指標/管理、心理的リスク評価、リスクアセスメント、従業員向け意識向上トレーニング、健康コミュニケーション、研修生の意識向上、管理者の意識向上、人口統計管理、人材管理、企業文化 |
| サービス提供 | 健康診断、メンタルヘルス、依存症予防、人間工学、スポーツ/運動、栄養、ワークライフバランス |
出典:Corporate Health Award HP掲載資料をもとに筆者作成
(3) Healthy Workplace Good Practice Awards(EU)
Healthy Workplace Good Practice Awardsは、EUで労働安全衛生を管轄する欧州労働安全衛生機関(European Agency for Safety and Health at Work(以下、EU-OSHA))が従業員の安全と健康に関する優れた取組を表彰するために2000年から開始した表彰制度である。2~3年に1回、毎回異なるテーマを設定して表彰しており、各年度10社程度が選定されている。直近10年間における過去のテーマは以下のとおりである(図表4)。
| 年度 | テーマ |
| 2014~2015年 | Manage Stress |
| 2016~2017年 | Healthy Workplaces for All Ages |
| 2018~2019年 | Manage Dangerous Substances |
| 2020~2022年 | Preventing and reducing the risk of musculoskeletal disorders (MSDs) |
| 2023~2025年 | Safe and healthy work in the digital age |
出典:Healthy Workplace Good Practice Awards HP掲載資料をもとに筆者作成
審査は2段階で行われ、まずEU加盟国の国ごとに審査を行った後、その審査を通った企業に対してEU全体で審査を行う。審査基準は年度ごとに異なるが、2023~2025年度における評価ポイントは以下のとおりである(図表5)。
| 評価項目 | |
| 1 | 職場のデジタル化に関連したリスクを管理するために、イノベイティブで持続可能な取組を行っているか |
| 2 | 労働者やその代表者の関与を含む効果的な参加や上級管理職の明確なコミットメントの結果として、労働安全衛生の予防および管理に対する包括的なアプローチを行っているか |
| 3 | 個人に焦点を当てた介入よりも、組織的な対策が優先されているか |
| 4 | リスクの予防および管理という観点で、実質的かつ明確な労働安全衛生の改善をもたらしているか |
| 5 | その取組をEU加盟国の他の職場に転用・応用することができるか |
| 6 | その取組は、実施されたEU加盟国の最低限の法的要件を満たしているか |
出典:Healthy Workplace Good Practice Awards HP掲載資料をもとに筆者作成
(4) Koop Award(アメリカ)
Koop Awardは、アメリカの公衆衛生学者のEverett Koop博士がエビデンスに基づく効果的な従業員の健康増進に取り組む企業を表彰するために1994年に創設した表彰制度である。毎年度数社が表彰され(受賞企業なしの年もあり)、2025年時点で累計の受賞企業は86社(重複含む)となっている。
表彰における評価ポイントは以下のとおりである(図表6)。なお、2026年に評価制度の見直しの検討が行われており、2027年度から新しい評価制度で表彰が再開される見込みである。
| 番号 | 申請カテゴリー | 評価のウェイト |
| 健康増進の取組 | ||
| 1. | 組織 | 16.7% |
| 2. | 個人 | 16.7% |
| 成果 | ||
| 3. | 評価方法 | 16.7% |
| 4. | 参加状況 | 16.7% |
| 5. | 健康面のアウトカム | 16.7% |
| 6. | ビジネス面のアウトカム | 16.7% |
| 合計 | 100ポイント | |
| 加点対象 | ||
| 1. | 金銭的な比較分析 | 5ポイント |
| 2. | 創造性 | 5ポイント |
| 3. | 従業員規模(1,000人未満、2,000人未満) | 5ポイント |
出典:The Health Project HP掲載資料をもとに筆者作成
(5) RoSPA Health and Safety Awards(イギリス)
RoSPA Health and Safety Awardsは、イギリス王立災害防止協会(The Royal Society for the Prevention of Accidents (RoSPA))が1956年に創設した全世界を対象にした表彰制度であり、職場の安全に関する優れた取組を表彰するものである。RoSPAには複数の表彰部門があり、産業部門別のIndustry Sector Awards、優れた取組をした企業をGold・Silver・BronzeとGoldの受賞回数で表彰するAchievement Awards、安全運転等その他の取組を表彰するSpecialist Awards and Trophies等がある。その中でも、産業部門別のIndustry Sector Awardsから最優秀の1社を表彰するSir George Earle Trophyが最も栄誉ある賞とされている。
表彰における評価ポイントは以下のとおりであり、各設問に対して600語以内に回答することとなっている(図表7)。
| 評価項目 | |
| 1 | 取締役および上級管理職は、組織における安全衛生をどのようにリードしているか |
| 2 | 組織は、産業保健に関するものを含む、有能な助言とサービスへのアクセスをどのように確保しているか |
| 3 | 組織は従業員およびその代表者を安全衛生に参画させるために何をしており、その成果はどのようなものか |
| 4 | 組織はすべての従業員と請負業者が安全衛生における役割を遂行できる能力を持つことをどのように確保しているか(請負業者の選定および監視における取組について説明する) |
| 5 | 組織はリスクアセスメントを活用して、安全衛生上の重大な危険に対する適切な管理措置をどのように特定しているか、また、それが組織全体および業務上の計画にどのように反映されているか |
| 6 | 組織は安全衛生に関する情報が組織内外で効果的に伝達されることをどのように確保しているか |
| 7 | 転倒・つまずき・墜落の防止に関連して実施されている取組は何か |
| 8 | 安全衛生パフォーマンスの能動的な監視と測定に対する組織的アプローチと、それがどのように継続的に進歩しているか |
| 9 | 組織は安全衛生上の問題を調査し、得られた教訓を実施することをどのように確保しているか、また、病気による欠勤をどのように管理しているか |
| 10 | 組織は安全衛生パフォーマンスを定期的に見直し、目標に対する進捗を評価し、新たな優先事項を設定してそれを報告するために何をしているか(見直しの結果がどのように事業計画に反映されるかを説明する) |
| 11 | 2025年における安全管理システムの計画と実施を振り返り、他のどの点よりも際立つ1つの重要な学びのポイントについて詳しく説明すること |
出典:RoSPA HP掲載資料をもとに筆者作成
(6) Trophée Quali’vie(フランス)
Trophée Quali’vieは、U2P(地域企業連合)と従業員労働組合組織の代表者が同数で構成されるCPRIA(地域産業関係・行動委員会)が主催する表彰制度で、従業員の幸福と企業業績の両立を目指す取組を実施している企業を後押しする目的で2017年から開始された表彰制度である。フランスを10の地域に分けて各地域3社ずつ受賞者が選定されるとともに、各地域の優勝企業が地域代表となりその中から地域間大会の1位が選定される。対象企業は従業員数が20名以下の小規模企業となっている。
表彰における評価ポイントは以下のとおりである(図表8)。なお、評価項目に記載されている「QVCT」とはフランス語のQualité de vie et des conditions de travailの略であり、職場における健康、スキルとキャリアパスの認定、労働関係と職場の雰囲気、職業上の平等、仕事の内容と組織、労働マネジメントといったテーマに幅広く関連する概念とされている[5]。
| 評価項目 | |
| 1 | QVCT(生活の質と労働条件)の取組が企業の全体戦略に組み込まれているか |
| 2 | 従業員の貢献 |
| 3 | 取組の継続性 |
| 4 | 革新性 |
| 5 | 企業への影響 等 |
出典:Trophée Quali’vie HP掲載資料をもとに筆者作成
(7) Workplace Benefits Awards(カナダ)
Workplace Benefits Awardsは、カナダのメディア系企業であるContex社が運営するBenefits Canadaが2017年から開始した表彰制度である。人事や福利厚生等に関する複数の表彰部門の中にHealth/Wellness ProgramとMental Health Programという表彰部門があり、いずれも従業員規模(従業員1,000人未満と1,000人以上)に応じて2つの表彰カテゴリーがある。各表彰部門で3社の最終候補が選出され、その中から1社がアワードを受賞している。年度によって従業員規模の区分に変動があるものの、おおよそ各年度2~4社が表彰されており、2025年度時点で累計の表彰企業数は31社となっている。
表彰における評価ポイントは以下のとおりである(図表9、10)。
| 評価項目 | |
| 以下の申請内容の革新性、有効性、影響力、および実証されたROI(投資対効果)から審査が行われる | |
| 1 | 健康・ウェルネスプログラムの内容 |
| 2 | プログラムはどのような点で革新的かつ効果的だったか (データおよび具体的な成果を提示すること) |
| 3 | 健康・ウェルネスプログラムの全体的な影響はどのようなものだったか、どのように効果を測定したか (データおよび具体的な成果を提示すること) |
出典:Workplace Benefits Awards HP掲載資料をもとに筆者作成
| 評価項目 | |
| 以下の申請内容の革新性、有効性、および組織と従業員への全体的な影響から審査が行われる | |
| 1 | メンタルヘルスプログラムまたは取組の内容 |
| 2 | プログラムまたは取組はどのような点で革新的かつ効果的だったか (データおよび具体的な成果を提示すること) |
| 3 | メンタルヘルスプログラムまたは取組の全体的な影響はどのようなものだったか、どのように効果を測定したか (データおよび具体的な成果を提示すること) |
出典:Workplace Benefits Awards HP掲載資料をもとに筆者作成
(8) 健康親和企業認証(韓国)
健康親和企業認証は、国民健康増進法に基づき韓国健康増進開発院(Korea Health Promotion Institute:KHEPI)が運営する認証制度である。従業員の健康増進のために職場で健康に優しい文化や環境を醸成し、従業員が自分の健康管理を積極的に遂行できるように支援することを目的として、2022年から開始されている。2025年は27社が認証を受け、そのうち10社が最優秀の保健福祉部大臣表彰を受けている。なお、2026年3月に認証制度の改廃が決定され、2027年から優良事例の発掘および選定を行う制度に見直しされる予定となっている。
表彰における評価ポイントは以下のとおりである(図表11)。なお、審査では提出書類の審査に加えて現地審査も行われており、インタビューや現地点検等が実施されている。
| 評価項目 | 配点 | 最低基準 | 合格総点 | |
| 健康親和経営 | 計40点 | 健康親和経営: 30点以上 |
80点以上 |
|
| 1.リーダーシップ | 1-1.経営方針の策定・実行 | 3点 | ||
| 1-2.経営陣の意志 | 3点 | |||
| 1-3.健康親和経営の認識(経営陣インタビュー) | 5点 | |||
| 2.資源 | 2-1.組織構成 | 5点 | ||
| 2-2.予算編成 | 5点 | |||
| 2-3.環境整備 | 3点 | |||
| 3.制度管理 | 3-1.労働時間管理制度 | 3点 | ||
| 3-2.健康休暇支援制度 | 4点 | |||
| 3-3.復職・適応管理 | 5点 | |||
| 3-4.インセンティブ | 4点 | |||
| 4.制度改善 | 4-1.改善事項の実施有無 ※有効期限延長時のみ評価に使用 |
― | ||
| 健康親和文化 | 計20点 | 健康親和文化: 12点以上 |
||
| 1.認識および周知 | 1-1.健康親和文化認識(労働者インタビュー) | 5点 | ||
| 1-2.従業員との連絡・周知 | 4点 | |||
| 2.社会的責任 | 2-1.健康格差の是正 | 4点 | ||
| 2-2.地域社会の健康親和貢献 | 3点 | |||
| 2-3.健康増進ガバナンスの構築・運営 | 4点 | |||
| 2-4.地域資源の発掘・連携 ※中堅、中小企業のみ評価に使用 |
― | |||
| 健康親和活動 | 計20点 | 健康親和活動: 12点以上 |
||
| 1.計画策定 | 1-1.健康状況および危険要因分析 | 2点 | ||
| 1-2.計画策定および目標設定 | 6点 | |||
| 2.実施および効果評価 | 2-1.実施および参加度 | 8点 | ||
| 2-2.効果検証およびフィードバック | 4点 | |||
| 従業員満足度 等 | 計20点 | ― | ||
| 従業員満足度 | 従業員満足度 | 20点 | ||
| 加算点 | ― | ― | ||
| 加算点 | 担当人材の専門性 | 2点 | ||
| 共存共栄 | 2点 | |||
| 担当人材の教育 ※中堅、中小企業のみ評価に使用 |
― | |||
| 従業員家族の健康支援 ※中小企業のみ評価に使用 |
― | |||
| 余暇親和認証 | 2点 | |||
| 認証通過基準 | 必須 | |||
| 認証通過基準 | 健康親和関連法規の要求事項*を遵守していること *労働基準法、男女雇用平等法、産業安全保健法、重大災害処罰等に関する法律、国民健康増進法 等 |
|||
※上記は大企業・公共機関の場合の配点・合格点。中堅企業・その他法人および団体の場合や中小企業の場合は配点や合格点が異なる。
出典:健康親和企業認証HP掲載資料をもとに筆者作成
(9) 健康職場認定(台湾)
健康職場認定は、職場における健康増進の機運を高めることを目的に、衛生福利部衛生振興局が2007年から開始した認証制度である。認証は従業員99人以下のスタートアップ職場と従業員299人以下の中小規模事業所、300人以上の大規模事業所の3つのカテゴリーに分かれており、3年、5年、10年連続で認証を取得することでより高いレベルの認証を得られるようになっている。最優秀企業の表彰等は行われていないが、2023年度時点で累計28,000件以上(企業・公的機関等を含む)の認証が行われている。
表彰における評価ポイントは以下のとおりである(図表12)。なお、2025年にPDCAサイクルによる活動の定期的な見直し、継続的な改善を盛り込む形で制度が見直しされている。
| 評価項目 | 説明 | |
| 健康促進活動実施項目 | 原則としてすべての項目を記入することが必要。ただし299人以下の職場は「5. 多様な福利と持続可能な発展」カテゴリーは省略可 | |
| 1. 組織推進と資源支援 | 1.1 トップの支援 | トップが職場健康促進の推進を支持し、健康促進政策を公開表明・実践する |
| 1.2 非管理職従業員の参加 | 非管理職従業員が職場健康促進テーマについて意見表明・意思決定参加の機会を有する | |
| 1.3 推進チームの設立 | 推進チームを設立し、チームメンバーが共同で健康促進業務を実施する | |
| 1.4 内外部資源の評価 | 職場内外の各種資源を評価・棚卸しし、職場健康促進推進の基盤とする | |
| 1.5 健康支援環境の整備 | 従業員に健康促進施設を提供し、健康的な職場環境を整備する | |
| 2. 計画と行動設計 | 2.1 ニーズ評価の実施 | 従業員の健康診断データまたはその他の関連データを収集・統計分析し、職場健康促進のニーズ評価の根拠とする |
| 2.2 明確な健康促進目標の設定 | ニーズ評価結果および職場の実行可能な優先度を考慮し、明確な健康促進目標を設定する | |
| 2.3 計画・指標の策定 | 目標に基づいて職場健康促進計画を策定し、プロセス指標と成果指標を設定する | |
| 3. 実施と管理 | 3.1 健康促進活動の周知方法の活用 | 各種チャンネルや方法を活用して健康促進活動を周知する |
| 3.2 管理職によるリーダーシップで全員参加を促進 | 上級管理職が率先して健康促進関連活動をリードし支持することで、全員参加を促進する | |
| 3.3 実施記録と成果のモニタリング | 健康促進活動の実施記録を残し、プロセス指標の評価記録を行う | |
| 4. 成果評価と継続改善 | 4.1 成果評価の実施 | 各成果指標に基づいて成果評価を実施する |
| 4.2 検討と継続改善の実施 | 成果評価結果に基づき検討・改善を行い、翌年度の健康促進計画の参考とする | |
| 5. 多様な福利と 持続可能な発展 |
5.1 友好的な職場の醸成 | 良好な組織管理・業務設計および多様なコミュニケーションチャンネルを整備し、友好的な職場を醸成する |
| 5.2 ワークライフバランスの推進 | 従業員のワークライフバランスを実現するための措置を提供する | |
| 5.3 推進対象の拡大 | 健康促進計画の対象を従業員以外にも拡大する | |
| 5.4 持続可能目標と国際連携 | 健康促進措置が国連持続可能な開発目標(SDGs)または企業サステナビリティ指標(ESG)に呼応する形で計画・推進されている | |
| 健康促進活動実施状況(複数選択可) | 少なくとも1カテゴリー以上実施すること | |
| 1. 身体活動 | 推進方法と成果を100字以上で記述 □従業員の身体活動に有利な支援的政策・環境を整備し、毎週累計150分以上の中程度の身体活動を維持するよう奨励する □定期的な健康活動または運動プログラムを実施する □運動スペースの設置または運動系クラブの設立 □その他:________ |
|
| 2. 健康的な食事 | 推進方法と成果を100字以上で記述 □従業員の健康的な食事を促進する具体的な措置を計画・推進する □従業員食堂でのカロリー表示(赤灯-高カロリー・緑灯-低カロリー)および6大食品グループの摂取量表示 □健康的な外食マップの提供(健康食を提供するレストランの位置を記載) □健康的な食事や調理方法に関する講座の実施 □その他:________ |
|
| 3. 健康体重管理 | 推進方法と成果を100字以上で記述 □従業員が個人の健康を自主的に測定できる施設を設置し、自己健康管理の習慣を奨励する □社内でBMI≧24の従業員に健康体重管理関連活動への参加を奨励する □その他:________ |
|
| 4. 禁煙 | 推進方法と成果を100字以上で記述 □禁煙を支援する制度やリソースを確立する □禁煙関連活動と支援措置を推進する □電子タバコ・加熱式タバコ等の類似タバコ製品の「販売」または「使用」に関する罰則についての啓発を実施する □その他:________ |
|
| 5. がん検診 | 推進方法と成果を100字以上で記述 □従業員のがんまたは重大疾病検診への参加を推進・奨励する (説明:________) □健康手帳を活用し、従業員のがん検診管理・追跡を支援する □その他:________ |
|
| 6. 慢性疾患管理 | 推進方法と成果を100字以上で記述 □従業員の慢性疾患管理・追跡と健康支援措置の提供を支援する □三高(高血圧・高血脂・高血糖)予防または更年期保健または感染症予防関連講座を実施する □過労リスク予防の推進 □その他:________ |
|
出典:健康職場認定HP掲載資料をもとに筆者作成
2.各表彰制度の比較
以上のように、日本以外の各国でも従業員の健康に対する取組を表彰する制度が存在している。一方で、表彰制度の評価基準については共通する部分もあれば異なる部分もある。各表彰制度の評価ポイントには、各国で重視している価値観や社会的に求められている観点が反映されている可能性がある。これらを踏まえ、各表彰制度の評価ポイントの共通点や相違点を整理すると以下の通りとなる(図表13)。
| ➊成果指標の設定 | ➋健康指標の改善 | ❸取組テーマの網羅性 | ❹従業員の参加 | ❺組織体制 | ❻経営層のリーダーシップ・戦略 | ❼創造性・新規性 | ❽法令順守 | ❾転用可能性 | ❿継続的な改善 | ⓫取組の継続性 | ⓬経営的なリターン | |
| CHAA(米) | 〇 | 〇 | - | 〇 | 〇 | 〇 | - | - | - | - | - | 〇 |
| CHA(独) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | - | - | - | - | - | - |
| EU-OSHA | 〇 | - | - | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | - | - |
| Koop(米) | 〇 | 〇 | - | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | - | - | - | - | 〇 |
| RoSPA(英) | 〇 | - | - | 〇 | 〇 | 〇 | - | 〇 | - | 〇 | - | - |
| Trophée(仏) | 〇 | - | - | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | - | - | - | 〇 | 〇 |
| WBA(加) | 〇 | 〇 | 〇 | - | - | - | 〇 | - | - | - | - | 〇 |
| 健康認証(韓) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | - | 〇 | - | 〇 | - | - |
| 健康認定(台) | 〇 | 〇 | △ | 〇 | 〇 | 〇 | - | - | - | 〇 | 〇 | - |
| 参考: 健康経営(日) |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | △ |
出典:筆者作成
各国の表彰制度で共通する評価ポイントは➊成果指標の設定、❹従業員の参加、❺組織体制、❻経営層のリーダーシップ・戦略である。➊成果指標は、取組を客観的な数値で評価するうえで、各国で共通して求められるポイントであると考えられる。❹従業員の参加は、施策をやりっぱなしにせず効果を高めていくために必要な観点であるといえる。❺組織体制や❻経営層のリーダーシップ・戦略は、企業という組織が取り組むために国を問わず共通して必要な観点であるといえる。これらの評価ポイントは、日本の健康経営優良法人でも重要な評価項目となっていることから、海外で展開する際にも大事なポイントではないかと考えられる。
一方で、日本の健康経営優良法人と比較した時に、日本の評価ポイントとの相違点の一つが❸取組テーマの網羅性である。日本の健康経営では食事や運動、禁煙、コミュニケーション、働き方等かなり網羅的なテーマへの取組が求められている。日本と同じように取組の網羅性を求める表彰制度(CHA(独)、健康認証(韓)、健康認定(台))がある一方、必ずしも取組の網羅性を求めていない表彰制度もある。そういった表彰制度では、❼創造性・新規性や⓬経営的なリターンが評価ポイントとなっている。もう一つの相違点は❿継続的な改善である。日本の健康経営では継続的な改善としてPDCAサイクルが重視されている。EU-OSHAやRoSPA(英)等の労働安全衛生の観点が強い表彰制度や、健康認証(韓)、健康認定(台)等政府主導の認証制度では重視される一方、その他の表彰では取組に対する⓬経営的なリターンが評価ポイントとなっているように見える。これらの相違点を見ると、日本の健康経営において当たり前に重視されているポイントが、海外では必ずしも重視されない場合があることが分かる。
3.まとめ・考察
本稿では、各国の表彰制度と評価のポイントを比較することで、健康経営を海外へ展開する際の示唆を得ることができた。各表彰制度の評価ポイントの比較という視点から考えると、健康経営を海外へ展開する際にも成果指標の設定や従業員の参加、組織体制、経営層のリーダーシップ・戦略といった観点は重要であるといえそうである。表彰制度の評価ポイントを比較することで、国を問わず共通して重視すべきであろう点を整理することができたといえる。
一方、網羅的な取組を進めるのか、創造性や新規性を重視するのか、あるいは継続的な改善を重視するのか、期間を区切った経営的なリターンを重視するのかは、その企業が従業員の健康に取り組む目的や位置づけ、あるいは展開する国・地域によって柔軟に考えることが重要となる可能性がある。この背景には、従業員の健康に対する取組に関して、共通した取組方法があると考えるのか、あるいは企業ごとにやるべきことや取組方法は異なると考えるのかといった戦略的な考え方の違いがある可能性が考えられる[6]。
本稿の分析には限界もある。あくまで表彰制度自体の比較であるため、その背景にある各国の医療保険制度や雇用・労働政策がどのように異なっているのかを本稿では考慮することができていない。今後、実際に海外の拠点に対して日本の健康経営を適用する際には、これらの点も総合的に検討したうえで進めていくことが求められるであろう。
参考情報
執筆コンサルタント
守屋 亮佑
ビジネスリスク本部 主任研究員
専門分野:ヘルスケア、データヘルス、人的資本経営、コーポレートガバナンス
MBA、健康経営エキスパートアドバイザー
脚注
| [1] | プレゼンティーイズムとは「何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態」(出典:東京大学未来ビジョン研究センターHP https://spq.ifi.u-tokyo.ac.jp/)、アブセンティーイズムとは「健康問題による仕事の欠勤(病欠)」(出典:厚生労働省 こころの耳HP https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-3010/)を指す。プレゼンティーイズムおよびアブセンティーイズムは、健康に起因して発生する労働生産性の損失に関する代表的な指標とされている。 |
| [2] | 健康経営推進検討会(第5回)資料2「今年度の認定状況と今後の方向性について」2026年3月 |
| [3] | 株式会社国際協力銀行「わが国企業の海外事業展開に関する調査報告 2025年度海外直接投資アンケート調査結果(第37回)」2025年12月 |
| [4] | 厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」2026年1月 |
| [5] | Trophée Quali’vie HP(https://www.trophee-qualivie.fr/vous-et-la-qvct)2025年3月閲覧 |
| [6] | Delery and Doty(1996)やChadwick and Cappelli(1999)は、戦略的人的資源管理の理論には「ベストプラクティス・アプローチ」「コンティンジェンシーアプローチ」「コンフィギュレーショナルアプローチ」の3つの考え方があるとしている。網羅性や継続的な改善を求める表彰制度は、各社が共通して取り組むべきテーマや取組方法があると考える意味で「ベストプラクティス・アプローチ」、新規性・創造性や経営的なリターンを求める評価制度は、各社の状況にあわせて取組方法や内容が異なると考える意味で「コンティンジェンシーアプローチ」に近い考え方であるといえる。 |
