働き方が腎臓に影響する 2027年度から健康診断に「血清クレアチニン」追加

  • 人的資本・健康経営・人事労務

コラム

2026/10/2

1.はじめに

2027年度から、職場の一般健康診断に「血清クレアチニン検査」が新たに加わります。血清クレアチニンから算出される推算糸球体濾過量(eGFR)を用いることで、既存の項目では検出できなかった慢性腎臓病リスクを早期に発見することができます。慢性腎臓病の原因には生活習慣病だけでなく、長時間労働・夜間勤務・高温環境といった「働き方」も関連することが近年明らかになっています。2024年の調査では、慢性腎臓病の有病者数は、診断されていない人も含めて約2000万人と推定されています[1]。慢性腎臓病が進行すると、人工透析が必要になります。人工透析が必要となる患者は2024年時点でおよそ33万人、うち約10万人が勤労世代です[2]。透析患者は一般的に週3回・1回4時間以上の通院を強いられるため、就労へも大きく影響します。本コラムでは、健康経営や人的資本に関わる担当者に向けて、新健診項目の活用法と企業が今できる対策を整理します。

※本コラムは一般的な情報提供を目的としています。個別の治療に関しては、必ず医師等の専門家にご相談ください。

2.血清クレアチニン検査が健診項目に追加された背景

血清クレアチニンとeGFRとは

クレアチニンは筋肉に含まれているクレアチンが分解される際に生成される物質です。通常は、腎臓の糸球体でろ過されて尿として排泄されます。何らかの原因で腎臓の機能が低下すると、ろ過機能がうまく働かなくなり、血液中にクレアチニンが残るようになります。

このため、血清クレアチニン値は腎機能低下の指標として利用されます。ただし、血清クレアチニンの値は筋肉量の影響を受けるため、健診等における腎機能の評価は血清クレアチニンの値を性別・年齢で補正した推算糸球体濾過量(eGFR)が用いられます。

慢性腎臓病とは

慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)はeGFRの値が基準値に満たない、あるいは蛋白尿などの異常が出る状態が3か月以上続く状態を指します。初期は無症状ですが、進行すると、疲れやすい、体がむくむなどの症状が現れます。末期腎不全となると、透析あるいは腎移植を行わないと命に関わります。

日本の勤労世代には慢性腎臓病の患者が多く存在しています。勤労世代の2014年のデータを用いて行われた研究では、5.3%、およそ20人に1人が早期の慢性腎臓病であることがわかっています[3]。

慢性腎臓病は早期発見することで進行を遅らせることができますが、自覚症状が出る段階にはすでに重症化していることも多い病気です。そこで有用なのが職場の健康診断ですが、これまでの検査は慢性腎臓病を検出するには不十分でした。

慢性腎臓病は既存の検査では見落とされる

血清クレアチニン検査が健診項目に追加されたのは、慢性腎臓病患者を早期に発見することが目的です。一般健康診断では、これまでも腎臓の働きを測定する指標として尿検査を通じて尿蛋白が測定されてきましたが、尿検査だけでは慢性腎臓病を十分に見つけることができないことが近年の研究で分かりました。前述の研究で慢性腎臓病であることが判明した勤労世代の患者のうち、およそ4分の1は尿蛋白が陰性、つまり尿検査では検出できないものでした[3]。日本の勤労世代の慢性腎臓病患者のうち150~220万人は尿蛋白が陰性であると試算されています[4]。慢性腎臓病の原因疾患には高血圧や糖尿病が含まれていますが、これらの疑いがなく、尿蛋白は陰性かつeGFRのみで慢性腎臓病と診断される健診受診者はおよそ3割にのぼることも明らかになっています[4]。

慢性腎臓病は働き方と関連している

さらに、慢性腎臓病のリスクは労働環境や勤務形態の影響を受けることも明らかになっています。長時間労働と慢性腎臓病の発生率の関係を調べた研究では、1週間の勤務時間が52時間を超える群では、35から40時間勤務する群と比較して慢性腎臓病のリスクがおよそ2倍となりました[5]。また、夜間勤務の回数が多くなると腎機能が低下すること[6]、熱中症が慢性腎臓病のリスクを高めることもわかっています[7]。

血清クレアチニンが健診項目に追加された背景には、慢性腎臓病の早期発見・治療により透析導入を減らすという目的に加え、労働環境が腎臓に影響を及ぼすと判明したことも関係しています。

3.血清クレアチニンの値を企業はどう利用すべきか

腎臓病リスク者を透析まで悪化させないために

慢性腎臓病は進行すると人工透析が必要となり、一般的には週3回・1回4時間以上の通院のため、生活の質も、労働生産性も大幅に低下します。血清クレアチニン検査が行われることで、透析が必要となる前の、初期の段階で慢性腎臓病を発見し、早期治療に繋げることができます。

慢性腎臓病のリスクがある従業員に対して企業がまず行うべきことは、専門の医療機関の受診を勧めることです。医師や保健師による食事療法や生活指導、薬物療法は慢性腎臓病の進行を遅らせることができます[1]。次に行うべきは、腎機能低下の程度に応じて配置転換などの対応を行うことです。日本腎臓学会は、高度な腎機能低下が認められる労働者に対しては、「長時間の残業、頻回の夜間勤務、脱水になりやすい高温環境での仕事」を可能な限り避けることを提案しています[4]。

健康経営のKPIとして利用する

血清クレアチニンはこれまでの健康診断では測定しきれなかったものを測定できる指標です。健康経営のKPIとして用いられる健康診断の指標は、いわゆる「メタボリックシンドローム判定」に関連するもの、血圧・血糖・脂質・腹囲など、生活習慣病リスクを反映するものが利用される傾向にあります。しかし前述の通り、潜在的な慢性腎臓病の患者は非常に多いにもかかわらず、血清クレアチニン(から算出されたeGFR)以外に異常が現れない患者の割合が高く[3][4]、eGFRの変化は働き方の影響も含んでいます[5][6][7]。従業員のeGFR集計値をKPIに加えることで、個人の腎臓病のリスクだけではなく、間接的に職場環境を把握する指標としても活用できる可能性があります。職場の一般健康診断における血清クレアチニン検査の追加は、単なる検査項目の増加というだけでなく、「働き方が将来の健康に与える影響」を可視化する良い機会でもあります。2027年度の導入を前に、対応・活用体制を整えておくことをお勧めします。

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脚注

[1] 日本腎臓学会(編).CKD診療ガイド2024.東京:東京医学社,2024.
[2] 正木崇生, 花房規男, 阿部雅紀, 常喜信彦, 星野純一, 菊地勘, ... & 友雅司. (2025). わが国の慢性透析療法の現況 (2024 年 12 月 31 日現在). 日本透析医学会雑誌, 58(12), 524-590.
[3] Sakoi, N., Mori, Y., Tsugawa, Y., Tanaka, J., & Fukuma, S. (2024). Early-stage chronic kidney disease and related health care spending. JAMA network open, 7(1), e2351518.
[4] 一般社団法人日本腎臓学会. 労働安全衛生法に基づく一般健康診断への血清クレアチニン値の追加に関する要望に関して. 第9回労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会 資料2. 2025.
[5] Lee, Y., Seo, E., Mun, E., & Lee, W. (2021). A longitudinal study of working hours and chronic kidney disease in healthy workers: The Kangbuk Samsung Health Study. Journal of Occupational Health, 63(1), e12266.
[6] Zhang, S., Wang, Y., Zhu, Y., Li, X., Song, Y., & Yuan, J. (2020). Rotating night shift work, exposure to light at night, and glomerular filtration rate: baseline results from a Chinese occupational cohort. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17(23), 9035.
[7] Tseng, M. F., Chou, C. L., Chung, C. H., Chen, Y. K., Chien, W. C., Feng, C. H., & Chu, P. (2020). Risk of chronic kidney disease in patients with heat injury: A nationwide longitudinal cohort study in Taiwan. PloS one, 15(7), e0235607.
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執筆コンサルタントプロフィール

鈴木 結子
ビジネスリスク本部 研究員

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