凍結路でのタイヤチェーン着用の重要性――企業が今、備えておくべきポイント
- 交通リスク
2026/3/3
1.冬の道路で、何が問題になっているのか
冬の道路トラブルというと「大雪」を想像しがちですが、実際には路面凍結によるスリップや立ち往生が深刻な問題となっており、凍結路が原因とみられる重大事故も相次いでいます。
2024年12月4日、北海道美幌町では凍結した路面で軽四貨物自動車と普通貨物自動車が正面衝突し、1名が死亡、2名が重傷を負う事故が発生しています[1]。
さらに、2025年12月26日、群馬県の関越自動車道で路面凍結による67台の多重衝突・火災事故が発生し、2名が死亡、26名が負傷しました[2]。
これらの事故は、凍結路でのスリップが一瞬で大規模な災害につながり得ることを改めて示すものです。
このような災害を防ぐため、国土交通省と警察は、異例の降雪や著しい凍結が見込まれる場合に、特定区間で「チェーン規制」を実施しています[3]。
チェーン規制は、従来は全面通行止めとしていた状況でも、チェーン装着車に限って通行を認めることで道路機能の維持を図る制度です。重要な点は、冬用タイヤを装着していても、タイヤチェーン未装着では通行できないことです。
2. なぜ「凍結路」ではチェーンが欠かせないのか
凍結路は、圧雪路と比べてもタイヤと路面の摩擦係数が大きく低下し、発進・制動・操舵が著しく難しくなります。特に、上り坂での発進や下り坂での制動は、凍結路ならではのリスクがあります。
国土交通省の検証では、冬用タイヤを装着していても、チェーン未装着の車両が立ち往生の要因となったケースが多いことが示されています。1台の車両が停止するだけで、長時間の渋滞や広範囲の通行止めにつながる場合もあり、チェーン装着は個人の安全対策にとどまらず、社会全体への影響を抑えるための重要な手段です。
3. チェーン規制の概要
国土交通省は、過去に立ち往生が多発した峠部や急勾配区間を中心に、高速道路7区間、直轄国道6区間の計13区間をチェーン規制区間として指定しています。
規制が実施されると、区間手前で係員によるチェーン装着確認が行われ、未装着車両は通行できません。
装着が認められているチェーンは次のとおりです。
・金属チェーン
・ゴム/ウレタン製チェーン
・布製カバータイプ
一方、スプレー式の滑り止め剤は、チェーン規制時には認められていません。
【チェーン規制区間】([3]を元に当社作成)

4. 運送事業者・荷主企業に求められる対応
凍結・積雪による輸送混乱を抑えるためには、運送事業者と荷主企業の双方が、それぞれの立場で必要な備えを講じることが重要です。国土交通省は、これらの取り組みを「車両対策」「運送事業者対策」「荷主対策」の三本柱で整理しています[4]。
運送事業者には、冬期の安全確保に向けて、冬用タイヤの適切な装着と溝深さの管理、チェーンの携行と装着手順の事前確認、降積雪時の運休・経路変更を含む運行判断が求められます。必要な措置を怠り悪質な立ち往生を発生させた場合には、監査の上で行政処分の対象となる可能性があります(貨物自動車運送事業法に基づく処分基準)[5]。
荷主企業についても、異常気象が予測される場合には、在庫の積み増し、配送前倒し、運送の中止・経路変更の受容、急ぎの輸送依頼の抑制といった調整が求められます。
5.チェーン規制に備えるための実務的な準備と運用のポイント
4章では、運送事業者と荷主企業に求められる役割を整理しました。本章では、それらを実務で実施するための運送事業者のポイントを、
① 事前計画
② 装備・教育・運行体制
③ 連携(事前調整)
という3つの視点でまとめます。
① チェーン規制を踏まえた事前計画
チェーン規制は、冬用タイヤを装着していても、チェーン未装着の車両は通行できない制度です。指定区間の手前で装着確認が行われるため、事業者は以下の準備を計画的に進めておく必要があります。
• 必要なチェーン(金属・樹脂〔ゴム/ウレタン〕・布カバー等。スプレー式は不可)の調達・配備
• チェーン装着の判断基準の明文化(気象・路面・規制情報を基準化)
• 誰が/どの情報に基づいて/どの手順で装着指示を行うかの運用ルール整備
• チェーン装着場所(平坦地・安全スペース)の選定と周知
• 上記について凍結・積雪時の対応マニュアルとして整理の上、社内に周知
しっかりとした事前計画は、突発的な凍結時の「判断の遅れ」や「迷い」を防ぎ、事故・立ち往生リスクを大きく減らします。
② 装備・教育・運行体制の強化
チェーン規制に確実に対応するには、現場の対応力を高めるための装備・教育・体制づくりが欠かせません。
【装備】
• 点検項目にチェーンの常備を追加し、常備しているか確認する
• 予備チェーンや装着に必要な工具・手袋・ライト等を標準装備とする
【教育】
• 冬用タイヤ規制とチェーン規制の違いをドライバーに教育する
• チェーン装着訓練を実施する
【運行体制】
• 予防的な通行止めや広域迂回を前提にした余裕あるダイヤ設計をする
• 気象情報・規制情報のモニタリング体制を整備する(配車・運行管理・現場の役割分担)
装備・教育・体制を三位一体で整備し、凍結時の適切な対応を実施することで、現場での事故・立ち往生を防ぐことにつながります。
③ 荷主企業との事前調整(連携体制の構築)
凍結路に伴う運休・経路変更の判断は、物流計画全体に影響します。荷主企業と平時から以下の事項をすり合わせておくことで、いざという時に混乱を最小限にできます。
• 運行可否判断の基準(気象警報・路面状態・規制状況に応じた対応)
• 代替ルート・迂回ルートと所要時間の共有(納期に影響する範囲を明確に)
• 納期調整・配送前倒し・在庫積み増し等、荷主側の調整メニューの事前確認
• 代替輸送手段の検討(鉄道・フェリー・中継基地活用等)
こうした事前調整があるほど、予測不能な気象変化にも柔軟かつ安全に対応でき、安全確保と供給責任の両立が可能になります。
6.おわりに
凍結路での事故や大規模な立ち往生は、自然条件だけでなく、事前の準備や判断によって防げる部分も多くあります。
チェーン規制の趣旨を正しく理解し、必要な装備と運行体制を整えておくことは、ドライバーの安全確保はもちろん、企業の社会的責任や信頼の維持にもつながります。
出典
[1]北海道警察本部交通部 交通総合対策センター 「交通安全情報No.45 ストップ・ザ・交通事故」(2024年12月5日)
https://www.ankan-hokkaido.or.jp/relays/download/97/337/1723/4170/?file=/files/libs/4163//202412051327347340.PDF
[2]朝日新聞デジタル 「関越自動車道の67台多重事故 最初の事故車を路肩に移動後、相次ぐ」(2025年12月29日)
https://www.asahi.com/articles/ASTDY31D6TDYUTIL00LM.html?msockid=168c2847b9e56abf2f3f3b3cb8996b6f
[3]国土交通省「チェーン規制Q&A」
https://www.mlit.go.jp/road/bosai/fuyumichi/tirechains.html
[4]国土交通省 物流・自動車局「物流・自動車局での大雪時の大型車立ち往生防止対策について」(2025年11月20日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_005608.html
[5]国土交通省「大雪に対する国土交通省発表資料」(2025年12月2日)
https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo06_hh_000336.html
執筆コンサルタントプロフィール
- 小美濃 学
- 運輸・モビリティ本部 上級主任研究員
