WBA最新評価から見る企業のサステナビリティ動向

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コラム

2026/1/21

2026年113日、World Benchmarking Alliance(ワールド・ベンチマーキング・アライアンス。以下、WBA)が世界の企業2,000社を対象に社会、気候、自然等の複数のベンチマークを用いて実施した最新の評価結果を公表しました。本コラムでは、その結果から見えてくる企業の動向、及び、中核的なベンチマークであるソーシャル・ベンチマークの評価結果から考えられる日本企業にとっての課題についてご紹介します。

1.WBAとは

国連財団、イギリスの保険会社Aviva Investors、オランダのNGO Index Initiativeが、SDGsの達成に向けた企業の取組みを促進する目的で2018 年に設立した非営利団体であり、SDGsへの企業の貢献を評価するための指標を開発しています。SDGs達成に主要な役割を担う世界の企業2,000社(=「SDG2000」)を選定し、評価対象としています。これらの対象企業は、売上高53兆米ドル、世界の温室効果ガス排出量の54%を占め、1700万人を直接雇用しているとされています。持続可能な開発に必要な7つの変革モデルをベースとしたベンチマークによる評価を実施しており、社会的変革はモデルの中心に据えられています。 

WBAが提唱している7つの変革モデル
▼社会(Social)
▼脱炭素化とエネルギー
(Decarbonisation and Energy)
▼食品と農業(Food and Agriculture)
▼自然(Nature)
▼デジタル(Digital)
▼都市(Urban)
▼金融システム(Financial System)

図1 WBAが提唱する7つの変革モデル
出所:World Benchmarking Allianceウェブサイト「Seven systems transformations」
https://www.worldbenchmarkingalliance.org/about-us/our-mission/seven-systems-transformations
(最終閲覧:2026年1月15日)

2.最新評価の概要

今回の評価では、表1に示すベンチマークによる評価が同時に行われました。それぞれのベンチマークによって、評価対象となる企業の範囲が異なりますが、社会的変革に関わるソーシャル・ベンチマークとジェンダー・アセスメントは2,000社全てが評価対象となっています。

表1 評価ベンチマーク

出所:World Benchmarking Allianceウェブサイトを基に弊社作成

WBAでは、今回の評価における重要な発見として以下を挙げています1

① 気候変動対策への投資:企業の設備投資における低炭素投資の割合の中央値は7%に留まるが、先進企業は30%を達成している。全対象企業が30%の水準を目指せば、年間1.3兆米ドルの気候変動対策投資を動員でき、これは国際エネルギー機関(IEA)が2030年までに年間で必要と推定する額の約30%に相当する。
② 生活賃金と物価高騰への対応:従業員に生活賃金を保証している企業は5%未満であり、世界的な生活費の危機を深刻化させている。
③ 自然関連リスクの測定:評価対象企業の66%が自然関連リスクを特定している一方、それを定量化している企業は9%に留まり、リスクの測定に大きな改善の余地がある。
④ サプライチェーンの管理不足:半数近くがサプライヤー行動規範を策定している一方、サプライチェーンの影響の測定やリスク管理の措置を実施している企業は限られ、人権、気候、自然の3分野全てで影響とリスクを考慮している企業は20社に留まる。
⑤ AI倫理の停滞:テック企業の38%がAI倫理原則を公表しているが、人権影響評価の結果を開示する企業は皆無であり、業界全体として説明責任が弱い。

3.ソーシャル・ベンチマークから見る企業の動向

(1)ソーシャル・ベンチマークの重要性

ソーシャル・ベンチマークは、人権尊重、ディーセントワークの提供と促進、倫理的行動の3つの評価分野における18の評価指標(Core Social Indicator。以下、CSI)に基づいて2,000社のパフォーマンスを評価しています。これらの指標が求める社会的期待に応えることは責任ある企業にとって不可欠であることから、ソーシャル・ベンチマークの評価は、他のベンチマークにもスコアの20%を占める形で組み込まれ、スコア上も重要になっています。

表2 ソーシャル・ベンチマークにおける評価指標

出所:World Benchmarking Alliance「Methodology for the 2026 Social Benchmark」を基に弊社作成

(2)ソーシャル・ベンチマークの評価結果の概要

ソーシャル・ベンチマークの評価の結果、最高点は75点(100点満点中)で、欧州のTelefonica社及びSchneider Electric社が獲得しています。日本に本社を置く企業の最高点は、ファーストリテイリングが獲得した57.4点(世界で57位)で、続くアサヒグループ、ANAホールディングス、味の素グループ、トヨタが50点台を獲得しています。全体の平均点は20.0点、日本企業の平均点は20.5点でした。

評価結果の傾向として、WBAは、上位20社が全て欧州企業に集中していること、サプライチェーン上の人権リスクの管理が不十分であること、従業員への生活賃金の保証が不足していること、ステークホルダーとの対話が不足していることを指摘しています2

(3)ソーシャル・ベンチマークから見る日本企業の課題

今回、ソーシャル・ベンチマークの評価対象となった日本企業は158社ありました(内3社については、英語による開示がないためスコア無し(Not scored)とされています)。評価分野別、及び評価指標別に世界と日本の平均得点率を比較してみると、日本企業の傾向が見えてきます(図2、及び図3参照)。

評価分野別に見ると、日本企業の平均得点率は人権尊重の分野では世界平均を上回っており、特に人権方針による人権尊重へのコミットメント(CSI0102)を行っている企業が多い傾向にあります。一方で、苦情処理メカニズムの確保(CSI0708)については、世界平均を下回っており、人権デュー・ディリジェンスの取組みと共に、ライツホルダーの声を拾う仕組みの構築が求められます。

人権尊重以外の分野では世界の平均得点率を下回っています。ディーセントワークの提供と促進の分野においては、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの基礎(CSI14)において世界平均を上回ったものの、団体交渉の基礎(CSI12)や労働力の多様性に関する情報開示の基礎(CSI13)において、世界平均から大きく下回っており、結社の自由や団体交渉に関する情報、及び従業員の多様性に関するデータの積極的な開示が望まれます。倫理的行動の分野では、贈収賄・汚職防止の基礎(CSI17)において世界平均との差分が大きくなっています。贈収賄・汚職防止に関する方針を策定するのみならず、汚職防止のための具体的な取組みや、汚職に関する懸念を提起できる苦情処理メカニズムの確立が重要になります。

図2 評価分野別の平均得点率比較
出所:World Benchmarking Allianceウェブサイト「Data Explorer」のデータを基に弊社作成
https://data.worldbenchmarkingalliance.org/portal/
(ダウンロード日:2026年1月13日)

図3 評価指標別の平均得点率比較
出所:World Benchmarking Allianceウェブサイト「Data Explorer」のデータを基に弊社作成
https://data.worldbenchmarkingalliance.org/portal/
(ダウンロード日:2026年1月13日)

ソーシャル・ベンチマークは、評価対象企業にとって、投資家やステークホルダーからの信頼を向上させる上で重要であるのはもちろんのこと、対象企業でない場合にも、その評価指標を社会分野での自社の取組みを測るツールとして活用し、その後の取組みの改善につなげることができます。ソーシャル・ベンチマークを踏まえた取組みの改善は将来的な法規制への対応や市場での競争力の強化にもつながると考えられます。まずは評価指標の内容を確認し、自社の取組みと照らし合わせることをおすすめします。

東京海上ディーアールでは、ソーシャル・ベンチマークの評価結果の分析や、それを踏まえた今後の取組み計画の立案及び具体的な取組みのご支援を実施しています。次回の公式評価に向けてスコアを向上させたい、模擬評価を行い自社の社会関連の取組みのレベル感や今後改善すべきポイントを把握したいなど、お気軽にご相談ください。

関連サービスページ

脚注

※1 出所:World Benchmarking Allianceウェブサイト
https://www.worldbenchmarkingalliance.org/worlds-most-influential-companies-can-mobilise-usd-13-trillion-climate-transition-without
https://www.worldbenchmarkingalliance.org/corporate-inaction-wages-and-affordability-worsening-global-cost-living-crisis
https://www.worldbenchmarkingalliance.org/forward-looking-companies-are-taking-first-steps-towards-nature-positive-future
https://www.worldbenchmarkingalliance.org/supply-chain-resilience-risk-human-rights-climate-and-nature-impacts-go-unmanaged
(最終閲覧日:2026年1月19日)
※2 出所:World Benchmarking Allianceウェブサイト
https://www.worldbenchmarkingalliance.org/benchmark/social-benchmark
(最終閲覧日:2026年1月19日)

執筆コンサルタントプロフィール

山田 真梨子
製品安全・環境本部 上級主任研究員

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