「ジャパン モビリティ ショー 2025」に見るモビリティ産業の未来への挑戦

  • 交通リスク

コラム

2025/12/16

※写真はすべて東京海上ディーアール撮影

はじめに

 「ジャパン モビリティ ショー(以下、JMS)2025」は、2025年10月30日(木)~11月9日(日)の間、東京ビッグサイトで開催され、約101万人※1が来場しました。
 期間中2度訪れて感じたのは、JMS が単なるモーターショーの枠を超え、日本の自動車産業が直面する大きな変革期において、未来へのビジョンを示す「共創と挑戦の場」へ進化していたことです。
 かつて世界を牽引した日本の自動車産業は、CASE(Connected, Autonomous, Shared & Service, Electric)という革命的な波に晒されています。この転換点において、JMSは、未来社会と技術を世界に示し、国内外の多様なプレイヤーを巻き込む未来共創の場となっており、自動車産業の枠を超え、経済・技術・文化・人材育成等、広範な領域で日本の未来を切り拓く決意を示していました。

東京ビッグサイトで開催されたJMS 2025              来場者向け案内(会場マップ等)

1 歴史と変遷(東京モーターショーからJMSへ)

 JMSの理解を深めるため、その前身である「東京モーターショー」の歴史とそれが変革に至った背景を振り返ります。

(1)時代の転換点と開催目的の変化
 1954年に始まった東京モーターショーは、自動車メーカーが量産車や新型車を発表し、販売促進を行う「車の展示会」の役割を担ってきました。しかし、21世紀に入り、その役割は限界に直面します。若者の車離れ、環境問題への意識、IT化の進展により求心力が低下したのです。
 このような危機感を背景に、イベントの目的は「車を見る」場から、「未来の社会課題の解決」「オープンイノベーション」「未来体験の提供」を目指す場へシフトしました。

(2)協賛企業数の増加と名称変更
 この変革を象徴するのが協賛企業数の増加です。2023年に「JMS」へと名称変更した際の企業数は、それまでを大幅に超える475社、今回は、過去最多の522社が参加しました(図1)。
 これら参加企業には、IT、通信、エレクトロニクス、エネルギー、航空、スタートアップ企業等、従来の自動車産業とは接点が薄かった異業種が多く含まれ、モビリティの概念が車両から社会システム全体へ拡張したことを示しています。
 「東京モーターショー」から「JMS」への名称変更は、日本の自動車産業が電動化・自動運転・多様な移動手段へと舵を切ったことを世界に示すメッセージとなりました。

図1 東京モーターショー※2及びJMS※1の参加企業数
(※1・※2より弊社作成)

2 自動車産業の枠を超えた未来共創

 JMSの意義は、自動車業界にとどまらず、異業種連携によるイノベーションをもたらす未来共創及びその推進役として機能している点です。

(1)異業種連携によるイノベーションの創出
 現代のモビリティ革命は、自動車メーカー単独で起こすことは困難です。高度な自動運転にはAIとセンサー技術、コネクティッドサービスには通信技術、電動化にはバッテリー技術がそれぞれ不可欠だからです。
 JMSは、この技術課題に対し、IT、素材、都市開発等、従来の産業の壁を取り払い、多様なステークホルダーを集結させ、部品や完成車にとどまらないソリューションを展示していました。さらに、AIやセンサー技術を活用した自動運転・運転支援システム等、交通事故を防止・削減し、安全性を向上させるモビリティ技術も注目を集めていました。

(2)未来の社会システムとしての提案
 展示は、車両単体ではなく、MaaS(Mobility as a Service)による効率的な都市内移動、空飛ぶクルマによる空域の活用、これらが統合されたスマートシティのシミュレーション等、モビリティが組み込まれた未来の社会システムを提示するものでした。
 日本が直面するエネルギー問題、少子高齢化による移動困難という社会課題に対し、JMSは、モビリティを起点としたソリューションを提示することで、ビジネスと社会貢献の両立を目指す場となっています。

スタートアップ企業の展示エリア                    次世代モビリティ(空飛ぶクルマ)

3 新たなリスク・脅威への対応

 JMSでは、未来志向の技術だけでなく、現代社会が直面するリスク・脅威に対する現実的な課題解決やリスク低減も重要なテーマとなっていました。

(1)デジタルリスクと災害対応
 モビリティがネットワークに常時接続されることにより、サイバー攻撃や情報漏洩といった新たなリスクが顕在化しています。これらのリスクに対するセキュリティ・ソリューションが展示され、「安心・安全」の定義が物理的な事故防止のみでなく、デジタル領域にまで拡張されていることを印象付けました。 
 また、自然災害のリスクに対し、EVを「動く蓄電池」として活用するV2H(Vehicle to Home)や給電ステーションとして機能するモビリティの役割も強調されていました。これらは、モビリティが有事の際の社会的なレジリエンスを高めるインフラの一部となりうることを示しています。

(2)物流危機と地域社会の維持への対応
 少子高齢化に伴う労働力不足は、「2024年問題」に代表される物流危機という形でモビリティ分野の脅威となっているほか、過疎地においては公共交通の維持困難等、地域社会崩壊のリスクをもたらしています。これら日本が抱える社会課題に対し、自動運転技術やMaaSを活用したソリューションが提示されていました。レベル4自動運転トラックや配送ロボットの提案は、物流のあり方を変革し、社会的リスクを解消しうる可能性を示していました。
 ただし、想定される課題のすべてを、提案されているソリューションによって解決できるわけではなく、個々の課題(例えば、社会実装には法整備・インフラ整備の遅れ等)に対し、今後、さらなる具体的検討と取り組みが求められます。

物流革新の提案                                   地域社会の移動手段

4 技術とビジョンの世界への発信

 JMSは、日本のモビリティ産業が国際競争力を維持・提示するための場でもあります。

 (1)最先端技術と技術哲学のアピール
 EV化が進み、中国や欧米メーカーがシェアを伸ばす中、JMSは、日本が持つ最先端技術や独自の技術哲学を世界にアピールする場でもありました。
 メーカー各社が世界初公開する次世代EVや新コンセプトカーは、単なる製品の展示ではなく、日本の企業が考える未来のデザイン、人との関係性、持続可能な社会への貢献といった理念を体現するものです。例えば、水素エンジンや燃料電池といったパワートレインの提案は、幅広い可能性をもつモビリティの未来像を示すものであり、国際的なプレゼンスを高める上で重要な役割を果たしています。

 (2)世界への決意表明
 JMSは、日本のモビリティ産業がCASE(Connected・Autonomous・Shared & Service・Electric)革命という国際競争の波に対し、未来に向けたビジョンとそれを実現する技術力を備えていることを世界に示す決意表明の場としての意義を担っているのです。

未来都市の体験型展示                    水素・バッテリー展示

5 未来体験とワクワクの提供

 JMSの成功要因の一つは、イベントが未来のテーマパークへと進化した点です。ワクワクを原動力に未来技術の可能性を日本社会に広める役割を果たしています。

(1)「見る」から「体験する」イベントへ
 JMSは、車ファンだけでなく、一般消費者、特に若者や家族連れを惹きつける施策を導入していました。試乗体験、eスポーツとの連携、モータースポーツのデモ、シミュレーターによる運転体験等、来場者が五感を通じて技術の進歩を感じられる体感型コンテンツが充実していました。
 これらの施策は、モビリティが人々の生活を豊かにし、感動や楽しさを提供するという、モビリティ文化の有用性を改めて認識させることに成功しています。

(2)感動を創出するフェスティバル
 展示ホール外にはフードパークやライブ会場を設け、フェスティバルとしての魅力が強化されていました。また、「タイムスリップ・ガレージ」のような、かつての名車展示の企画は、往年の車愛好家の郷愁と感動を呼び起こし、モビリティの歴史と文化的な価値を再認識させる重要な要素となるとともに、これらを次世代に継承するというイベントの多角的な意義に貢献していました。

歴史と文化を継承する企画                             往年の名車が並ぶ(一例)

6 「種まき広報」と人材育成

 JMSの長期的な意義として、未来のファンと技術者の育成という「種まき広報」の役割があることも感じられました。

(1)未来のファン層の獲得
 モビリティ産業の発展には、技術だけでなく、それを支持する顧客層の存在が不可欠です。若者の車離れが進む中、JMSは、幼い世代にモビリティへの興味や憧れを芽生えさせる教育的投資として機能しています。
「Out of KidZania」による職業体験や、トミカとのコラボのような、体験型イベントを通じ、子どもたちは自動車産業の多様な職種や科学技術に触れ、モビリティとの最初の接点を持つことになるのです。

(2)サステナブルな産業基盤の構築
 種まき広報の活動は、イベントの集客策にとどまるものではありません。子どもたちに「ものづくり」への興味を喚起することは、将来の自動車産業や技術開発を担う人材育成のための、長期的なブランディングと投資となるからです。
 JMSは、日本のモビリティ産業がサステナブルな産業基盤を維持するため、次世代への教育と投資を怠らないという意思を示していました。

子ども向け職業体験(KidZania                 トミカの巨大ジオラマ 

おわりに

 日本のモビリティ産業は、100年に一度の変革期に※3。この時代の変化に応え、JMS 2025は、従来のモーターショーから、未来を創造する発信の場へと進化し、日本のモビリティ産業が社会を動かす原動力として、世界をリードするという決意と可能性を示しました。
 JMSは今後も、日本が誇る製造業の基盤を未来の社会システムへと発展させるための議論と挑戦の場であり続けるでしょう。
 ただし、その実現には一社単独ではなく、産業全体の共創が不可欠です。企業は競争力維持・強化に向け、IT、通信、エネルギー、都市開発など異業種との協業を積極的に進めることが重要です。

・関連レポート

タリスマン「運送業界の未来を拓く-人材戦略とテクノロジー」

・関連プロジェクト

調査研究プロジェクト「自動運転安全管理体制ガイドライン策定」

脚注

※1(一社)日本自動車工業会 プレスリリース(Japan Mobility Show 2025 が閉幕)2025119
https://www.japan-mobility-show.com/press_release/2025/1109/

※2(一社)日本自動車工業会 TOKYO MOTOR SHOW 歴史と記録
https://www.tokyo-motorshow.com/history/record.html

※3 タリスマン「MaaSCASE時代がもたらすチャンスと脅威」東京海上日動火災保険株式会社(20224月)
https://www.tokio-dr.jp/publication/report/talisman/tl-17/

執筆コンサルタントプロフィール

塩入 英明
運輸・モビリティ本部

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