2025年12月8日青森県東方沖の地震と北海道・三陸沖後発地震注意情報について
- 自然災害
2025/12/10
2025年12月8日23時15分頃、青森県東方沖を震源とするマグニチュードMj7.5・Mw7.4(最大震度6強)の大きな地震が発生しました。本コラムでは、この地震とその被害の概要と、内閣府より発令された北海道・三陸沖後発地震注意情報について、12月9日時点の情報をまとめます。
- 地震の概要
2025年12月8日23時15分頃、青森県東方沖を震源とするマグニチュードMj7.5・Mw7.4(最大震度6強)の大きな地震(以降「2025年青森県東方沖の地震」とします)が発生しました。この地震に関する情報を表 1にまとめます。
2025年青森県東方沖の地震により青森県を中心として震度5強以上の揺れに見舞われました(図 1)。高層ビルの地震被害や石油タンクのスロッシングaを引き起こす長周期地震動については、長周期地震動階級3(上から2つ目の階級)が観測されました(図 2)。また、東北・北海道を中心とした広範囲で津波注意報・警報が発令され、岩手県の久慈港で0.7mの津波が観測されました(図 3)。
| 発生日時 | 2025年12月8日23時15分頃 | |
| 地震規模 | 気象庁マグニチュード Mj | 7.5 |
| モーメントマグニチュードMw | 7.4 | |
| 震源 | 位置 | 青森県東方沖(八戸の東北東80km付近) |
| 深さ | 54km | |
| 発震機構 | 西北西―東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、太平洋プレートと陸のプレートの境界で発生した地震 | |
| 最大震度 | 震度6強(青森県八戸市) | |
| 最大長周期地震動階級 | 長周期地震動階級3(青森県上北郡六ヶ所村) | |
| 最大津波高 | 0.7m(岩手県久慈港) | |
| 最大地震発生後の地震活動 (12月9日13時時点) |
マグニチュード5以上の地震が6回発生 (最大震度4) |
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図 1 2025年青森県東方沖の地震の推定震度分布
(弊社にてJ-RISQ(Ver.6 最終報)viii と気象庁iの公表データを基に、Google Earth Proを用いて作成)

図 2 2025年青森県東方沖の地震の長周期地震動分布
(弊社にて気象庁iii, ivの公表データを編集し作成)

図 3 2025年青森県東方沖の地震の津波高
(弊社にて気象庁vの公表データを編集し作成)
図 4では、2025年青森県東方沖の地震を引き起こした断層形状とすべり量を表した有限断層モデルbと、近年日本で発生した地震とを比較しています。断層形状は同じプレート境界型地震である2024年日向灘の地震(Mw7.1)と類似していますが、マグニチュードが大きい2025年青森県東方沖の地震のほうが断層サイズは一回り大きく、エネルギーは約2.8倍大きいです。
2025年青森県東方沖の地震は、2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.1)の断層北端付近で発生していることが読み取れます。この領域はこれまでにもマグニチュード7~9クラスの地震が多く発生しており、今回の地震のように強震動だけではなく、津波も発生しています。詳しくは4章にて解説します。

図 4 2025年青森県東方沖の地震と近年日本で発生した地震との有限断層モデルb比較
(弊社にてUSGSの有限断層モデルviiを基に、Google Earth Proを用いて作成。断層の色はすべり量を表す。)
- 被害の概況
本コラム執筆時点(12月9日9時時点)で参照できた被害状況は、以下のとおりです。なお、被害に関する情報は、伝達されるまでに時間を要する場合があるため、引き続き各所の発信を注視する必要があります。
| 被害 | 被害状況 |
| 人的被害 | ※12月9日9時時点 揺れによる転倒や道路陥没による転落、住家火災等による怪我人の報告あり 【北海道】 負傷者10人
負傷者20人
現時点で被害報告なし |
| 建物被害 | ※12月9日9時時点 青森県ではストーブの転倒による住家火災が発生。その他、ホームタンクの転倒や看板落下、建物外壁のひび割れ等の被害報告あり 【北海道】 現時点で被害報告なし 【青森県】
現時点で被害報告なし |
| インフラ・ ライフライン |
被害状況 |
| 電力 | ※12 月 9 日 9 時時点 一時 4,000 軒超で停電も、おおむね復旧 【北海道】 被害報告なし 【青森県】 ・停電 10 軒未満 【岩手県】 被害報告なし 【その他】 ・北海道と本州を結ぶ海底ケーブルで電力を融通し合う「北本連系線」のうち、1 本が地震直後に停止 ※12 月 9 日 0 時時点 【青森県】 ・停電 3,900 戸 【岩手県】 ・停電 300 戸 |
| ※12 月 9 日 0 時時点 【青森県】 ・停電 3,900 戸 【岩手県】 ・停電 300 戸 |
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| 水道 | ※12 月 9 日 9 時時点 水道管破裂により 1,360 軒で断水発生 【北海道】 被害報告なし 【青森県】 ・八戸市 水道管破裂による道路冠水 ・七戸町、階上町 断水 【岩手県】 ・軽米町、久慈市、一戸町 断水 |
| 通信 | ※12 月 9 日 9 時時点 通信障害等の被害報告なし |
| 鉄道 |
※12 月 9 日 9 時時点 一部路線で運転見合わせ、ダイヤの乱れが発生 【新幹線】 ・東北新幹線 盛岡~新青森間で運休 【在来線】 <JR 東日本> ・奥羽本線 津軽新城~青森間の上下線で運転見合わせ ・津軽線 青森~蟹田間の上下線で運転見合わせ ・五能線 鯵ヶ沢~鳴沢間の上下線で運転見合わせ ・大湊線 上下線で運転見合わせ ・八戸線 上下線で運転見合わせ ・東北本線 一部運休、ダイヤの乱れ ・釜石線 一部運休 ・北上線 一部運休 ・田沢湖線 盛岡~大釜間 一部運転見合わせ ・花輪線 一部運休 ・山田線 一部運休 <青い森鉄道> ・上下線で運転見合わせ ・社内に取り残された乗客は救出済み |
| 道路 | ※12 月 9 日 9 時時点 高速道路、有料道路、直轄道路、補助国道、都道府県道等で一時通行止めも、解除済み |
| 航空 | ※12 月 9 日 9 時時点 青森空港、函館空港、新千歳空港等で緊急点検を実施、被害報告なし |
| 海事 | ※12 月 9 日 9 時時点 <津軽海峡フェリー> ・青森~函館 ダイヤ乱れ ・青森~室蘭 通常運行 ・大間~函館 一部欠航、ダイヤ乱れ <青函フェリー(青森~函館)> ・青森~函館 ダイヤ乱れ <川崎近海汽船(八戸~苫小牧)> ・八戸~苫小牧 ダイヤ乱れ |
- 北海道・三陸沖後発地震注意情報
2025年青森県東方沖の地震の発生後、12月9日午前2時に気象庁は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表しました。この制度は2022年12月から運用が開始されましたが、今回が初めての発表となります。本章では、この内容について概説しますxv。
北海道・三陸沖後発地震注意情報は、東北地方・三陸沖から北海道・根室沖にかけての日本海溝・千島海溝沿い(図 5)で、規模の大きな後発地震が発生する可能性が平常時よりも高まっている場合に発表されます。具体的には、今後1週間の大規模地震発生可能性が、平常時の約0.1%から約1%c に高まっていると考えられています。
実際にこの領域ではMw7.0以上の地震発生後、より大規模な後発地震が発生した例があります。
- 日本海溝:2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.1)
- (先行地震)3月9日:三陸沖でMw7.3の地震が発生
- (後発地震)3月11日:三陸沖でMw9.1の地震が発生
- 千島海溝:1963年択捉島南東沖の地震(Mw8.5)
- (先行地震)10月12日 :択捉島南東沖でMw7.0の地震が発生
- (後発地震)10月13日 :択捉島南東沖でMw8.5の地震が発生
また、図 6に示すとおり、上記の2例以外にも日本海溝・千島海溝では、大小様々な地震が連鎖的に発生しています。これより、今回の注意情報で対象となっている北海道から千葉県までの6道県182市町村については、引き続き大規模な地震の発生に対して注意する必要があることが伺えます。仮に大規模な地震が発生した場合は、強い揺れに加えて大規模な津波が発生する可能性があります。

図 5 2025年青森県東方沖の地震(青色領域)と想定震源域(赤色領域)(内閣府xvより引用)

図 6 南海トラフ沿いで発生した地震と日本海溝・千島海溝沿いで発生した地震の履歴(内閣府xviより引用)
以上より、北海道・三陸沖後発地震注意情報の発表に伴い、「『特別な備え』及び『⽇頃からの地震への備えの再確認』を実施し、その上で社会経済活動を継続」することが求められています。また、今後は地方公共団体からの呼びかけや地震情報・津波警報等に十分注意し、適切な防災対応を取ることが呼びかけられています(図 7)。
事業者等の防災対応としては以下が挙げられています:
○ 避難場所、避難経路及び避難誘導⼿順の再確認の徹底
○ 従業員や施設利⽤者への情報の正確かつ迅速な伝達等
揺れを感じたり、津波警報等が発表されたりした場合に、従業員や施設利⽤者が直ちに避難できる態勢をとった上で、社会経済活動を継続してください。

図 7 後発地震注意情報発表に伴う特別な注意(内閣府xvより引用)
- 過去に発生した地震
2025年青森県東方沖の地震の震源周辺(日本海溝・千島海溝)で1900年以降に発生したMw7.0以上の地震を図 8に示します。図中では、その中でも青森県東方沖で発生した地震を複数ピックアップしています。青森県東方沖では過去に1968年十勝沖地震(Mw8.2)が発生しており、過去の地震履歴からも大きな地震が発生しやすい領域であることが読み取れます。日本海溝・千島海溝では2011年東北地方太平洋沖地震をはじめ、青森県東方沖を含む広い領域でM7クラス以上の大きな地震が多く発生していることが分かります。

図 8 2025年青森県東方沖の地震とその周辺で1900年以降に発生したMw7.0以上の地震
(弊社にてUSGSviiより引用・編集して作成。2025年青森県東方沖の地震以外のMwの数値はUSGSに準拠。)
- むすび
今回の2025年青森県東方沖の地震は、歴史的に大規模地震が頻発してきたこの地域の特性を改めて示すものとなりました。今後も青森県東方沖を中心とした日本海溝・千島海溝沿いの地震活動に対して十分に注意していく必要があります。
なお、本コラムは12月9日時点の情報を基に作成されたものです。このため、今後の内閣府や気象庁、地方自治体からの最新の発表や指針については、各機関の公式情報を随時確認していただくようお願いいたします。
脚注
| a | スロッシングとは、石油タンクのような液体を貯蔵する容器内の液体が長周期地震動等の長周期な成分を持つ揺れによって大きく揺動する現象です。2003年十勝沖地震(Mw8.2)では、スロッシングによって石油タンク構造が壊れ、火災につながっています。 |
| b | 有限断層モデルとは、”地震を引き起こした断層”の面がどの程度の広がりを持っており、どの程度ずれたかを表した物理的なモデルです。断層面の大きさやすべり量は地震の強度を表す重要な指標であり、地震の特徴を明らかにすることに役立ちます。 |
| c | 注意情報発表時の「今後1週間の大規模地震発生可能性」は世界各地の地震発生記録より統計的に求められた数値で、1,477事例中17事例で約1%となっていますxv。 |
執筆コンサルタントプロフィール
- 高橋幸宏 主任研究員、小野祐輝 研究員
- 企業財産本部
