SBT(Science-Based Targets)基本情報
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2025/11/13
日本でも認定取得企業数が増えているSBT(Science-Based Targets)について、本コラムでは基本情報や取り組むメリット、認定企業の動向、目標設定や申請のポイントについて解説します。
1. SBTとは
SBT(Science-Based Targets)とは、パリ協定が求める⽔準と整合した、企業が設定する温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)排出量削減目標のことを指します。
パリ協定は、2015年にパリで開かれた第 21 回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、国際的な温暖化対策の枠組みです。この協定では、以下のような目標について合意されました:
▷ 世界の平均気温上昇を、産業革命以前に比べて2℃を⼗分に下回る⽔準(Well Below 2℃)に抑え、5℃に抑えることを⽬指すこと
▷ 世界のGHG排出量をできる限り早くピークアウトし、21 世紀後半にはGHG 排出量と吸収量のバランスを取る(排出量から吸収量を差し引くことで排出量を正味ゼロ(ネットゼロ)にする)こと
カーボンニュートラルに向けた国際的な合意形成を受け、2018年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した「1.5℃特別報告書」では、21世紀末までに平均気温上昇を1.5℃以下に抑えるには、世界のCO2排出量を、2030年までに2010年比約45%減、2050年までに正味ゼロにする必要があることが示されました。

図1 気温上昇を1.5℃以下に抑えるためのCO2排出経路
出所:公益財団法人 地球環境戦略研究機関「『IPCC 1.5℃特別報告書』ハンドブック」
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/policyreport/jp/6693/IGES+IPCC+report_FINAL_20200408.pdf
(最終閲覧:2025年11月6日)
このような背景から、日本を含む各国政府が2050年ネットゼロ目標や中期目標を掲げており、企業においても脱炭素化に向けた動きが進んでいます。SBT認定の仕組みは、企業や金融機関がパリ協定に科学的に整合した目標を設定し気候変動対策を実施することを促進するために作られました。CDP、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4つの機関が共同で運営するSBTイニシアチブ(SBTi)が、企業の設定したGHG排出量削減目標を検証し、その目標がSBTiの要求する基準を満たしていれば認定を受けることができます。
2. SBTの種類
SBTでは、目標年の時期や企業規模、セクターに応じて、目標設定の種類が異なります。
▷ 短期(Near-term)目標とネットゼロ(Net-zero)目標
◇ 短期目標:目標の申請時から5年~10年先の目標を設定します。
◇ ネットゼロ目標:遅くとも2050年を目標年として、Scope1~3について90%以上を削減した上で、残余排出量と炭素除去を釣り合わせることを目指します※1。
▷ 中小企業向けSBT
Scope1,2(ロケーション基準)の合計排出量が10,000 t-CO₂e未満等、複数の条件を満たす企業は、中小企業版SBTに申請することができます。
▷ 産業セクター別の目標
SBTiでは、高排出産業等、一部のセクター向けに固有の目標認定基準やガイダンスを設けています。固有の基準やガイダンスが設けられているセクターの例として、鉄鋼、建築、セメント等があります。また、FLAG(Forest, Land and Agriculture)セクターとして、食品製造等の土地集約型の事業を行う企業は、FLAG目標を設定します。金融機関についても、固有の基準、ガイダンスが設けられています。
3. SBTに取り組むメリット
SBT認定を取得し排出量削減に取り組むことで、パリ協定に科学的に整合する取組みを進めている企業であることをステークホルダーに分かりやすくアピールでき、信頼性の向上が望めます。

図2 SBTに取り組むメリット
出所:SBTiウェブサイト、及び環境省「SBT(Science Based Targets)について」を参照の上弊社作成
4.SBT参加企業の動向
SBTに参加する企業の数は年々増加しており、全世界で見るとSBT認定を取得している企業及びコミットメント(2年以内にSBT認定を取得するという宣言)を行っている企業の合計で、2025年に入り累計1万社を超えました。日本は国別の認定企業数で1位となっており、コミットメントも合わせると2,000社以上が参加しています。

図3 全世界のSBT参加企業数(累計) 図4 日本国内のSBT参加企業数(累計)
出所: Science Based Targets Initiative「Target dashboard」(https://sciencebasedtargets.org/target-dashboard)より
2025年10月23日時点の情報を基に弊社作成。金融機関、中小企業を含む。
5.目標設定のポイント
SBT認定を取得したい企業は、どのように目標を設定すれば良いでしょうか。設定方法にはいくつか種類がありますが、SBT認定を取得している日本企業の多くが取り組んでいる、総量同量削減手法による短期目標設定における重要なポイントをお伝えします。
▷ 対象となる排出量
SBT認定基準では、Scope1,2について、世界の気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃以内に抑える水準の削減目標を設定することが求められます。また、Scope3排出量がScope1~3の総排出量の40%以上の場合には、Scope3排出量全体の2/3以上を対象として、世界の気温上昇を産業革命以前と比較して2℃を十分に下回るように抑える水準の目標の設定が求められます。
Scope1~3排出量の算定の詳細は、以下のコラムで解説しています:
GHG排出量算定の基本 | コラム | 東京海上ディーアール株式会社
▷ 基準年と目標年
2015年以降の年を基準年として設定し、目標年はSBTiへの申請日から5年~10年の間で設定します。総量同量削減手法では、基準年から目標年にかけて排出量の総量を何%削減するかを定め、毎年同量を直線的に削減します。
▷ 求められる水準
排出量削減の割合については、以下が最低ラインとして定められています。
◇Scope1,2目標:
● 2020年以前が基準年の場合:4.2% x (目標年-基準年)
● 2021年以降が基準年の場合:4.2% x (目標年-2020年)
◇Scope3目標:
● 2020年以前が基準年の場合:2.5% x (目標年-基準年)
● 2021年以降が基準年の場合:2.5% x (目標年-2020年)
例えば、2020年~2025年のいずれかを基準年とし、2030年を目標年とする場合には、各基準年での排出量削減の経路は下図のグラフのようになり、基準年が目標年に近づくに伴って、毎年求められる削減割合が大きくなります。

図5 目標年を2030年、基準年排出量を100とした場合の基準年別の削減経路
出所: SBTi公表資料の情報を基に弊社作成
▷ 排出量削減方法の注意点
他者のクレジット(排出権)の取得によるカーボンオフセットや、従来製品からの代替による削減貢献量は、SBT達成のための削減として算入することはできません。
▷ 進捗の開示と目標の見直し
目標を設定した企業は、企業全体のGHG排出量のインベントリと、目標に対する進捗について、毎年公表する必要があります。
目標を設定した企業は、少なくとも5年毎に目標を見直すことが求められます。また、企業の構造に大きな変化があった場合等、既存の目標がSBTiの最新の基準を満たさない場合や、基準年の総排出量の5%以上に相当する影響をもつ変化があった場合にも、目標の見直しが求められます。
6. SBT認定申請手続きの流れ
SBTiに目標を申請し、認定を受けるまでの流れは以下のとおりです。企業(中小企業や金融機関以外)が新規で目標を申請する場合、STEP3で審査の契約を開始して以降の審査期間は、約40~60営業日となっています。審査には申請タイプ別に費用がかかります。

図6 SBT認定申請手続きの流れ
出所: SBTi公表資料の情報を基に弊社作成
7.認定基準改訂の動き
現在、SBTiは認定基準の改訂の検討を進めています。2025年11月現在、新基準の草案が公開されており、2025年中の2回のパブリックコンサルテーション、及びパイロットテストの実施を経て、2026年第1四半期までに最終草案が公表されるとみられます(企業は、2027年までは現在の認定基準で目標の申請を行うことが可能です)。新基準では、企業の分類方法や検証サイクルの変更、Scope1,2,3それぞれの目標設定方法の変更等、大幅な改訂もあり得るため、SBTに取り組む企業は注意が必要です。
8.まとめ
本コラムでは、SBTについて基本情報をまとめました。SBTの認定取得は企業にとってメリットがあり、認定を取得する企業数が増加していると同時に、認定取得や認定基準レベルの目標設定にあたっては、気を付けるべきポイントが多くあり、ご担当者の負担も増えています。東京海上ディーアールでは、SBT認定取得やSBT認定基準レベルの目標設定、またその前提となる適切なGHG排出量算定をご支援しています。
削減目標設定支援」
※近日公開予定
排出量算定支援」
※近日公開予定
※1: 排出量総量削減目標の場合
執筆コンサルタントプロフィール
- 山田 真梨子
- 製品安全・環境本部 上級主任研究員
