TNFD 2025 ステータスレポートの要点まとめ
- サステナビリティ
2025/11/6
2025年9月25日、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、以下「TNFD」)は、TNFD提言公表から約2年が経過して初となるステータスレポート(状況報告書、以下「本レポート」)※1を公表しました。本コラムでは本レポートの要点をまとめ、TNFDの最新動向について説明します。
本レポートは、2025年7月31日時点での、TNFD事務局やその他自然関連のデータやツールを提供しているNeural Alpha等の様々なパートナーによる調査※2結果について記載されています。例えばTNFD事務局は、2025年6月~7月に企業や金融機関等を対象に、自然関連の評価・報告の実施状況等を把握するための調査を行い、集めた800件以上の回答を分析した結果を報告しています。また、Neural Alphaは7,000社以上の企業を対象に実施した、TNFD提言への整合性に関するAIによる調査結果を示しています。これらの調査結果より、企業によるTNFD提言に沿った開示対応が進んでいることが可視化されました。
本レポートによると、Neural Alphaが実施したAIによる調査では、TNFDの14の開示推奨項目のうち1項目以上に準拠した報告書が500件以上公開されていることが示されました。また、1項目以上に準拠した企業のうち、5項目以上の開示推奨項目について開示している割合は87%、10項目以上について開示している割合は59%、全ての開示推奨項目について開示している割合は11%であることが分かりました。加えて、1項目以上の開示推奨項目に準拠した企業における開示推奨項目ごとの開示割合は、40%~90%の範囲にあることが示されました(図1)。この値は、TCFD提言公表(2017年)の3年後にあたる2020年におけるTCFDの準拠割合と比較して高い傾向にあります。これらのことから、TNFDの開示推奨項目に沿った自然関連の開示を開始している企業においては、取組・対応が迅速であることが考えられます。

図1 1項目以上に準拠した企業における、開示推奨項目ごとのTNFD準拠報告割合
(Neural Alphaが実施したAIによる調査結果 n=542)
(本レポート※1を基に弊社作成)
TNFDの開示推奨項目に準拠した開示には、TNFDが開発した「LEAPアプローチ」という手法が有効です。TNFD事務局による調査では、回答者(168社)の約80%がLEAPアプローチの使用について「組織内の自然関連の対話と理解の向上に役立っている」と評価しています。また、約70%が「自然への依存やインパクトが現在や将来の事業運営および将来の財務見通しに与える影響についてより深く理解できるようになった」と評価しています。さらに、ISO(国際標準化機構)は、2025年10月7日、世界中の組織が生物多様性に関する行動を起こすための世界初の国際基準(ISO 17298「生物多様性-組織の戦略と運営における生物多様性の考慮-要求事項とガイドライン」)を発表しました※3。ISO 17298は、TNFDのLEAPアプローチに基づいて開発されており、LEAPアプローチが自然関連の依存・インパクト・リスク・機会を特定・評価・管理・開示するためのアプローチとして確固たる地位を築いてきていることがうかがえます。
また、企業によるTNFD提言に沿った開示対応に加えて、投資家による開示内容の活用も進んでいることが推察されました。本レポートにも記載されている、Responsible Investorの「Nature and Investors Survey 2025」※4によると、自然の損失が金融市場に与える影響について投資家(100社)の50%以上が「非常に懸念している」と回答しており、約80%がポートフォリオの自然関連リスク、インパクト、依存の評価にTNFD提言を使用している、あるいは使用を検討していることが分かっています。また、90%以上がISSBの基準にTNFDのフレームワークを組み込むべきと考えており、また75%以上が自然関連の開示義務化は、自然関連リスクとインパクトを評価し、機会を特定し、ネイチャーポジティブ投資をサポートするのに役立つと判断していることが示されました。このような調査結果により、投資家によるTNFD提言に沿った開示義務化の要望も高いことが推察されます。
以上のことから、TNFDによるステータスレポートの公表により、TNFD提言に沿った企業の開示対応が進んでいると同時に、投資家によってそれらの開示内容が活用されていることが明らかになりました。TNFDでは現在、世界中の任意または義務的な自然関連の報告に対してTNFD提言を組み込むことを後押しし、TNFD提言に沿った開示に対応する際の実務的障壁を解決することに対して重点的に取り組んでいます。特に知識・スキル構築とデータの入手可能性・品質向上を課題として捉えており、今後もガイダンス等が公表されることが想定されます。例えば、TNFDは2025年11月に開催されるCOP30において自然データの入手可能性と品質向上に関する提言を公表する予定です。今後もTNFDの最新動向を継続的に把握する必要があると考えます。
※1 TNFD, 2025, “TNFD 2025 Status Report”
https://tnfd.global/wp-content/uploads/2025/09/250918_TNFD-Status-Report_DIGITAL.pdf?v=1758808860 (最終閲覧日:2025年10月29日)
※2 TNFD, 2025, “Methodologies: TNFD 2025 Status Report”
https://tnfd.global/wp-content/uploads/2025/09/Methodologies_TNFD-Status-Report_WEB.pdf?v=1760518811 (最終閲覧日:2025年10月29日)
※3 ISO, 2025, “The world’s first International Standard dedicated to helping organizations take action on biodiversity launched today in Rwanda”
https://www.iso.org/news/2025/10/standard-17298_biodiversity (最終閲覧日:2025年10月29日)
※4 Responsible Investor, 2025, “Nature and Investors Survey 2025”
https://www.responsible-investor.com/ri-nature-and-investors-survey-2025-results/ (最終閲覧日:2025年10月29日)
執筆コンサルタントプロフィール
- 宇田川 理奈
- 製品安全・環境本部 主任研究員
