長期安定適格太陽光発電事業者制度と分散型太陽光発電事業における自然災害リスク管理
- 再生可能エネルギー・インフラ施設
2025/10/7
2025年2月に第7次エネルギー基本計画とともに資源エネルギー庁から公表された「2040 年度におけるエネルギー需給の見通し」1では、2040年度までに発電電力量の4~5割を再生可能エネルギーが占め、全体の23~29%程度を太陽光発電とする見通しが記載されており、太陽光発電事業は持続可能な社会の実現に欠かせない存在となっています。その一方、日本は欧州に比べて小規模な低圧事業件数が多く、また、それらの設置場所・事業者ともに分散しており、その「多極分散構造」が太陽光発電の長期安定電源化の課題となっています。
そのような中、経済産業省の「長期安定適格太陽光発電事業者」制度2が、2025年4月から開始されました。これは、小規模かつ多極分散構造にある太陽光発電を集約し、集約した事業を次世代にわたって自立的かつ効率的に運用していく責任ある太陽光発電事業者を経済産業省が「長期安定適格太陽光発電事業者(適格事業者)」として認定していく制度です。
本コラムでは、その制度の概要と、各地に分散した太陽光発電所事業の自然災害リスク管理におけるポイントについて解説します。
長期安定適格太陽光発電事業者制度の概要
現在、国内の10kW以上の事業用太陽光発電事業は、低圧(10kW以上50kW未満)が3分の1程度を占める状況3にあり、管理の効率性や、FIT/FIP制度終了後の事業継続性という点で課題があります。
そういった業界構造に対処するために導入された長期安定適格太陽光発電事業者制度では、太陽光発電を社会に定着させる役割を担うことのできる責任あるプレーヤーを適格事業者として国が認定し、そのプレーヤーに事業を集約していくことで、太陽光発電の長期安定電源化を促進することを目的としています。
本制度は、2025年4月から開始しており、資源エネルギー庁の「なっとく!再生可能エネルギー」では特設ページ2が設けられ、申請方法等が掲載されています。
適格事業者の認定要件は、① 地域の信頼を得られる責任ある主体であること、② 長期安定的な事業の実施が見込まれること、③ FIT/FIP制度によらない事業実施が可能であることの3点です。
適格事業者として認められると、FIT/FIP変更認定時の住民説明会をポスティング等の簡素な周知方法に代替できる、太陽光パネルの増設を行った場合の廃棄等費用の積み立てを増設時に一括で積み立てるのではなく残りのFIT/FIP期間で分割して積み立てることができる、電気主任技術者制度の「統括」の拡大利用が認められる、事業売却希望者情報の先行公開にアクセスできるようになる、などのメリットを受けることができるとされています。
分散型太陽光発電事業における自然災害リスク管理
太陽光発電施設は屋外に設置されているため、自然災害による影響や被害を受けやすい設備です。近年では、気候変動の進行もあり、大雨に伴う土砂災害による設備の損壊、台風によるパネルの損壊・飛散等の事故事例も増加傾向にあります。
このような状況下で、太陽光発電施設を長期にわたり安定的に運用していくためには、自然災害リスクを網羅的に把握した上で、各種リスクコントロール策や保険等のリスクファイナンスの検討により、適切なリスク管理を実施することが重要です。
適格事業者が、各地に分散した多数の太陽光発電施設の運用を行う場合においては、前述のリスク管理を個別施設単位で行うことに加え、運用する発電所全体を一つのポートフォリオとして捉え、各アセットの地理的分散や資産規模の大小を踏まえた総括的なリスクを定量評価し、適切なリスクマネジメントを推進することが、分散型の太陽光発電事業の長期的な安定性を確保することに繋がります。
東京海上ディーアールでは、単一サイトならびに分散型の太陽光発電所に対する自然災害リスク評価や各種PML評価(ポートフォリオ評価)も行っております。ご興味のある方は以下の関連サービスページをご覧ください。
1 経済産業省「第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました」(2025年2月18日)
https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250218001/20250218001.html
2 経済産業省資源エネルギー庁「長期安定適格太陽光発電事業者」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/tekikaku.html
3 経済産業省資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて」(2024年3月27日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/061_02_00.pdf
執筆コンサルタントプロフィール
- 坪井 淳子
- 企業財産本部 主任研究員