「地域でつくる安全な道」―「ゾーン30プラス」とその先にあるシナリオ

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コラム

2025/9/12

みなさんは、家の近くを走る道で「ゾーン30」と書かれた標識を見たことはありませんか?これは、歩行者や自転車が多い生活道路で車のスピードを時速30kmまでに抑えましょうという取り組みで、これまで各自治体が個別に導入してきたものです。

2024年に道路交通法施行令が改正され、2026年9月から中央線のない狭幅の生活道路における法定速度が一律で時速30kmに引き下げられることが決定しました。これにより、これまで各自治体が個別に指定・整備を進めてきた「ゾーン30」が、原則として全国の生活道路全般に適用されることになります。

あわせて注目されているのが「ゾーン30プラス」です。これは、法定速度を引き下げるとともに、ハンプ(道路を盛り上げて車のスピードを落とす路面状態)やボラード(車の進入を防ぐためのポール)などの物理的な工夫を取り入れることで、通行車両の速度抑制や歩行者優先の意識醸成を目的とする取り組みです。生活道路の法定速度引き下げと並行して、こうした現場レベルの安全対策は今後も全国的に広がる見込みです。

「ゾーン30」と「ゾーン30プラス」の取り組み

生活道路における歩行者などの安全な通行を確保することを目的として、2011年から全国で「ゾーン30」の導入が進められています。警察庁交通局のデータによると、2024年度末時点で全国4,410地区において実施されています。

2021年から、従来の「ゾーン30」に加え、より高い速度抑制効果や安全性向上を目指す「ゾーン30プラス」の取り組みが開始されました。「ゾーン30プラス」では、ハンプなどの物理的デバイスや路面表示といった交通工学的な対策を必要に応じて併用し、速度超過や通り抜け交通の抑制を強化しています。たとえば、ハンプの設置によって運転者に不快感を与えることで減速を促し、ボラードを用いて車道を狭めることで通行のしづらさを感じさせることにより、自然な速度抑制や通り抜け交通の抑止効果が期待されています。こうした対策により、生活道路における実効的な速度管理と事故防止を図っています。

図:警察庁(2025)「生活道路におけるゾーン対策:「ゾーン30」「ゾーン30プラス」の概要」より抜粋

2025年6月17日には、国土交通省は新たに77地区の「ゾーン30プラス」の整備計画を策定したと発表しました。 生活道路の法定速度引き下げと並行して、こうした現場レベルの安全対策は今後も全国的に広がる見込みです。警察庁交通局のデータによると、2025年3月末時点で全国186地区において「ゾーン30プラス」が導入され、2025年6月17日に新たに発表された地区を加え、今後は全国263地区での展開が予定されています。

海外の取り組み

このような区域速度規制の考え方は欧州を中心に発展してきました。例えば、ドイツやフランスなどでは中心市街地や学校周辺を「ゾーン30」として設定し、物理的な抑制策と合わせた包括的な交通安全対策が実施されています。ノルウェー、スウェーデンなどの北欧諸国では、「ビジョン・ゼロ」(交通事故死者ゼロ)政策の一環として、厳しい速度制限と道路空間整備を連動させることで、交通事故死傷者の削減に寄与しています。例えば、2019年にはノルウェー全土で15歳以下の子どもの交通事故死者ゼロを達成し、フィンランドのヘルシンキでも同年に歩行者交通死亡事故ゼロを達成しました。こうした成果の背景には、速度制限に加え、人を中心とした道路空間設計の理念や交通安全に対する意識が、社会全体に広く浸透していることが大きく影響していると考えられます。

「ゾーン30プラス」の課題と展望

「ゾーン30プラス」は、行政だけが進めるのではなく、地域の住民や道路を管理する人たちが一緒になって話し合い、計画を立てていくというスタイルです。どの道に、どんな対策が必要なのかを、地域の人々自身が考え、実現していく、この「合意形成」こそが、 ゾーン30プラスの大きな特徴です。

しかしながら、「ゾーン30プラス」の推進の背景には、道路空間における「人を中心とした視点」という考え方が社会全体に広く浸透していないという課題もあります。都市計画において、車中心の意識が根強く残るなかで、どうやって「人が安心して歩きやすい道」に変えていくのか。それは、まちづくりそのものを見直すことでもあります。すなわち、今後は「交通」という枠組みにとどまらず、まちづくりの視点から道路空間を再考し、地域の質の向上や住民の暮らしやすさを重視した取り組みが一層重要になると考えられます。

また、地域の交通安全を実現するには、地域住民だけでなく、企業の理解と協力も欠かせません。例えば、運行や配達ルートにある生活道路を意識し、
「ゆっくり走る」「ゾーン30の区域では時速30kmを必ず守る」など、日常的な配慮が地域の安心につながります。

道を変えることは、地域の未来をつくること。

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参考資料:

[1] 警察庁(2025)「生活道路におけるゾーン対策:「ゾーン30」「ゾーン30プラス」の概要」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/seibi2/kisei/zone30/pdf/250605_zone30gaiyou.pdf
[2] 国土交通省 「ゾーン30プラス取組状況」
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000294352
[3] European Commission EC(2020) “Helsinki has no pedestrian fatalities in 2019”
https://urban-mobility-observatory.transport.ec.europa.eu/news-events/news/helsinki-has-no-pedestrian-fatalities-2019-2020-02-17_en
[4] ITF Road Safety Data https://www.itf-oecd.org/sites/default/files/norway-road-safety.pdf

執筆コンサルタントプロフィール

QIN ZIYI(チン シイ)
運輸・モビリティ本部 主任研究員

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