廃棄物処理における電池火災

  • 火災・爆発

コラム

2025/7/14

日本国内における廃棄物の排出量は平成10年頃をピークに減少傾向にありますが、現在5,000施設を超える廃棄物処理施設が稼働し、年間約3,700万トンの廃棄物を処理しています。[1] 一方、自治体の廃棄物処理施設のリチウムイオン電池起因の火災事故の被害額は100億円程度との推計もあります。また、処理施設の火災事故は人命安全や施設被害だけでなく、数か月の復旧を要するなど、地域社会や経済活動にも大きな影響を及ぼします。[2]
本コラムでは、近年の廃棄物処理業における電池による火災事例を紹介するとともに、利用者および廃棄物処理業者が実施するべき対策について解説します。

1 廃棄物処理の流れ

廃棄物処理は「1.排出・収集」「2.中間処理」「3.最終処分」という段階で進められます。一般家庭や事業者から排出された廃棄物は、ごみ収集車によって回収され、中間処理場にて貯留、破砕、再資源化、焼却等の処理がおこなわれます。その後、焼却灰や不燃物等は最終処分場にて埋め立てられます。廃棄物に混入した電池による火災は、ごみ収集車および中間処理場にてたびたび発生しています。

2 廃棄物処理業の火災事例

ごみ収集車、中間処理施設で発生した火災事例を以下に記載します。

2.1 ごみ収集車

  • ごみ収集車が可燃ごみを回収中、ごみに混ざって廃棄されたモバイルバッテリーがごみ収集車内で押しつぶされた際に短絡し出火。[3]
  • 不燃ごみを回収作業中のごみ収集車の作業員が、収集したごみを入れて回転板を操作したところ、ごみの中にあったスプレー缶が押し潰され、残留していた可燃性ガスが漏洩し、ごみの圧縮時に発生した火花等に引火し出火。[3]

2.2 中間処理施設

  • スプレー缶やライター、リチウムイオン電池等が、ごみピット内のクレーン作業等による摩擦や衝撃、圧壊等により火花等を生じ、可燃物に着火または可燃性ガスに引火し、出火したものと推察。破砕物搬送コンベア等の機器類が焼損し、長期間にわたりごみ処理ができない状態となった。[4]
  • 産業廃棄物処理施設のベルトコンベアで火災が発生。施設従業員が遠隔散水設備と屋内消火栓を使用し消火。破砕された蓄電池が短絡し出火したことが原因とされる。[5]

3 対策

3.1 利用者が実施するべき対策

廃棄物処理施設では、粗大ごみや不燃ごみであれば処理前の手選別作業がある場合が多く、電池等の異物を発見できる可能性が大きいものの、可燃ごみの多くは収集車から直接ピットに投入されるため、事業者側での発見・除去が困難です。そのため、可燃ごみに電池もしくは電池を含む製品を廃棄した場合、ごみ収集車や中間処理場で火災が発生するリスクがあります。したがって、利用者は自治体の定める廃棄方法を遵守する必要があります。自治体によって廃棄方法は異なりますが、一般的には電池を含む電子タバコや玩具類は透明な袋に入れ「電池含有ごみ」と表示をするか、電池を取り外し自治体の定める電池回収拠点に廃棄をする必要があります。個人や事業者による不適切な廃棄物の排出は、自治体からの警告や回収停止、廃棄物処理法違反による処分が科される可能性があります。以下のチェックリストに従い、安全な廃棄を心がけてください。

【電池廃棄時のチェックリスト(利用者用)】

☑電池は自治体または廃棄物処理業者のルールに従い処分し、可燃物等に混入させない
☑電池は機器から取り外し、ビニールテープ等で絶縁する
☑電池が取り外せない機器は、他のごみと分ける
☑電池および電池を含有するごみは透明なビニール袋に入れ「電池含有ごみ」と記載する
☑可能であれば回収時に立ち合い、回収業者に注意喚起する

3.2 廃棄物処理業者が実施するべき対策

可燃ごみのピットを備える焼却処理場においては、ピット火災が大きなリスクです。利用者への呼びかけによる電池混入防止につとめるとともに、赤外線式温度センサ等による監視や散水設備の設置等、消火手段の強化により早期発見と初期消火につとめることが肝要です。過去のピットにおける火災事例では、煙の充満により火元が確認できずに初期消火に失敗した事例のほか、制御室や周囲のケーブル類に延焼し被害が拡大した事例等があります。
また、金属類の再資源化をおこなう不燃物処理場では、破砕機内およびコンベア火災のリスクがあります。電池の混入を防止するためのモニタ監視や、処理前の手選別による除去が有効です。手選別においては、一般的には3.54トン/時のコンベアに対し2~3人の作業員が必要です。[6]
以下のチェックリストに従い、安全な廃棄処理を心がけてください。

【電池廃棄時のチェックリスト(廃棄物処理業者用)】

☑利用者に定期的に注意喚起を実施している
☑社内および外注業者への教育を実施している
☑ピット投入前の手選別作業がある場合、十分な人数を配置している
☑ピット内で火災が発見された場合の対応手順が用意されている
☑ケーブルの延焼を防ぐために、壁貫通部は不燃材で埋め戻している

近年では、X線カメラやAIによる画像解析技術を用いた異物除去技術が向上しており、中間処理施設における導入がはじまっています。安全や省力化のための新技術導入は日々進んでおり、今後の普及による事故削減の効果が期待されています。

4 おわりに

リチウムイオン電池の普及により、廃棄物処理業における火災のリスクはますます増大しています。リスク管理の技術も日々進歩していますが、事故を避けるためには利用者ひとりひとりが廃棄物処理について正しく理解し、電池等の適切な廃棄に努めることが最も重要です。

関連サービスページ

【参考文献】

[1] 一般廃棄物の排出及び処理状況等について(令和7327日現在) - 環境省
(https://www.env.go.jp/) https://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/ippan/r5/index.html
[2] 自治体の不燃系廃棄物処理施設および小型家電リサイクル施設におけるリチウムイオン電池に起因した発火・火災対策に関する技術資料―リチウムイオン電池起因の発火・火災対策ガイドライン― 国立研究開発法人国立環境研究所
www-cycle.nies.go.jp/jp/report/pdf/2024_LIB_ignition_guideline.pdf
[3]誤ったごみの分別により火災が発生!, 東京消防庁(https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/),
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/bou_topic/gomi.html
[4]常総地方広域市町村圏事務組合 常総環境センター(https://www.jyouso-koiki.or.jp),
https://www.jyouso-koiki.or.jp/kankyo/#kasaihoukoku

[5] ごみリサイクル工場で発生した火災において、 屋内消火栓の活用で被害の拡大を防いだ事例, 東京消防庁(https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/),
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jirei/jirei07.html

[6]ごみ処理施設の火災と爆発事故防止対策マニュアル, 全国市有物件災害共済会, https://city-net.or.jp/research/results/ 

執筆コンサルタントプロフィール

高橋 弦也 上級主任研究員、林 直志 主任研究員
企業財産本部 

コラムトップへ戻る