健康経営ガイドブック2025年3月版のポイント
- 人的資本・健康経営・人事労務
2025/5/1
2025年3月に健康経営優良法人認定事務局から「健康経営ガイドブック2025年3月版」(以下「ガイドブック2025」)が公表されました1。これまでの健康経営の実践により蓄積された内容を基に、最新の法制度や社会的変化を踏まえて、企業が健康経営を効果的に実施するための具体的な方法が記載されています。本コラムでは、経済産業省から2016年に公開された『企業の「健康経営ガイドブック」~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)2』(以下「従来ガイドブック」)及び2020年に公表された「健康投資管理会計ガイドライン3」(以下「ガイドライン」)との違いを含め、ガイドブック2025の概要と特徴をご紹介します。
<キーワード>健康経営の質の向上、健康経営の取組み意義、人的資本、社会関係資本、企業の健康風土
2025年3月に健康経営優良法人認定事務局より公表された「ガイドブック2025」は、「従来ガイドブック」、及び「ガイドライン」の内容を一体として整理し、健康経営の定義や健康投資による効果、健康経営の実践手順、健康経営戦略マップの作成方法、健康経営に関する情報開示について取りまとめたものです4。健康経営の認知度の向上と健康経営の取組みの質の高まりに加え、女性特有の健康課題への対策や仕事と育児、仕事と介護の両立支援の必要性の高まりといった社会的な環境変化を踏まえ、約10年ぶりに改訂がなされたものです。
「ガイドブック2025」「ガイドライン」「従来ガイドブック」における違いを表1に示します。「ガイドブック2025」は健康経営に関わるすべての方にとって、健康経営の実践の一助となる内容となっています。
表1. 「ガイドブック2025」「ガイドライン」「従来ガイドブック」の違い
資料名 |
【ガイドブック2025】 1健康経営ガイドブック |
【ガイドライン】 |
【従来ガイドブック】 |
発行元 |
健康経営優良法人認定事務局 |
経済産業省 |
経済産業省 |
発行年月 |
2025年3月 |
2020年6月 |
2016年4月 |
主な内容 |
健康経営の定義、意義、実践手順、戦略マップの作成方法、非財務情報開示、顕彰制度 |
健康投資管理会計の定義、役割、構成要素、基本事項、投資効果の分析方法 |
健康経営の定義、メリット、実践方法、評価フレーム、情報発信 |
目的 |
健康経営の実践を支援し、 |
健康投資の効果を見える化し、 |
企業が健康経営を推進するための |
対象 |
健康経営に取り組む企業全般 |
健康投資を管理・評価する企業 |
健康経営を始める企業 |
特徴 |
健康経営戦略マップの作成方法や |
健康投資の効果を定量的に評価するための |
健康経営のメリットや具体的な実践方法、 |
追加情報 |
健康経営優良法人認定制度、 |
健康投資の範囲、投資額の分類、 |
データヘルス計画、コラボヘルスの重要性 |
1健康経営ガイドブック 健康経営優良法人認定事務局編 2025年3月版、 2経済産業省『企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~ (改訂第1版)』、3経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」に基づき弊社作成
「ガイドブック2025」において企業が留意すべきポイントを3点ご案内します。
一点目は健康経営を効果的に実践するためのポイントとして、「経営方針に基づく健康経営の推進方針・目標とKGIの設定」が重視されている点です。健康経営をより経営的な視点で戦略的に実践するためには、健康経営の推進方針と目標を明確に定め、具体的にどのような取組みを重視するかの優先順位をつけて推進することが重要です。経営方針からブレイクダウンした健康経営のあるべき姿から逆算をして、自社の健康経営として重視すべき取組みを特定し、注力することが健康経営の質を高めるという観点で重視されています。なお、既に健康経営に長年取組んでいる企業においても、過去に実施した健康づくりの取組みを棚卸しし、設定した健康経営推進方針・目標との乖離を埋めるための対策を検討することが求められています。
二点目は健康経営に取組む意義について従業員、経営層それぞれの視点で整理されている点です。健康経営を効果的に実践していくためには経営層の理解やコミットメントが重要なのはもちろんのこと、従業員が健康づくり施策に前向きに参加する、働きやすい職場づくりに積極的に関与することが必要となります。健康経営を通じて従業員と経営層がWin-Winとなる関係性を構築することが、組織の活性化をもたらし、企業業績や企業価値の向上につながることが期待されます。
1 健康経営ガイドブック 健康経営優良法人認定事務局編 2025年3月版「図表2 健康経営に取組む意義」を弊社にて改変し作図
図1. 従業員・経営層それぞれの健康経営に取組む意義
三点目は健康投資が効果をもたらす要素として、「人的資本」「社会関係資本」「企業の健康風土」について新たに言及された点です。健康投資は「従業員等の健康の保持・増進を目的として投下された取組みへの投資」とされており、従業員の健康維持・増進やヘルスリテラシー向上に寄与するだけでなく人的資本や社会関係資本の形成・蓄積にもつながるとされています。さらに健康経営の継続的な実践により企業の健康風土が育まれるとされており、企業の健康風土は人的資本や社会関係資本の形成・蓄積を強固とする触媒の役割を果たすとされています。
表2. 「人的資本」「社会関係資本」「企業の健康風土」の定義
人的資本 |
人的資本は、個人のスキル、能力(教育及び暗黙知を含む)、健康状態を指す。 ※OECDの定義 |
社会関係資本 |
従業員間や組織内の相互の信頼やネットワーク、心理的安全性が高い関係性によって形成される資本。 |
企業の健康風土 |
健康に関する共通の考え方や行動様式を生み出すその企業独特の環境。 |
1 健康経営ガイドブック 健康経営優良法人認定事務局編 2025年3月版に基づき弊社作成
近年人的資本経営の重要性が高まる中で、企業・団体において健康経営が急速に浸透しています。それに伴い健康経営の在り方も拡がり、多様化しています。自社らしい健康経営の在り方を検討するうえで、ガイドブック2025がその一助となることが期待されます。
弊社では人的資本経営を実現するための土台としての健康経営の取組みを包括的にサポートしています。従業員の心身の健康の向上のみならず、Well-beingの実現などお客様の目指す姿や課題に応じた様々なご支援が可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
1 健康経営ガイドブック 健康経営優良法人認定事務局編 2025年3月版
https://kenko-keiei.jp/wp-content/uploads/2025/03/guidebook2025_03.pdf
2 経済産業省『企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~ (改訂第1版)』2016年4月
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf
3 経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」2020年6月
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkoutoushi_kanrikaikei_guideline.pdf
4 ACTION!健康経営「健康経営ガイドブック2025」
https://kenko-keiei.jp/5171/
執筆コンサルタントプロフィール
- 周藤 滉平
- ヘルスケア・人的資本マネジメント事業部 主任研究員