産業廃棄物の保管方法と火災予防上のポイントについて
- 火災・爆発
2025/3/4
近年、産業廃棄物処理施設での火災をよく見聞きします。また、弊社が工場や店舗等のお客様を訪問する際、産業廃棄物が適切に保管されていない状況を見かけることがあります。本コラムでは、産業廃棄物排出事業者が守るべき「産業廃棄物の保管方法のポイント」、「産業廃棄物保管場所における火災予防上のポイント」を弊社の経験も踏まえてご紹介することで、産業廃棄物処理施設での火災事故低減について考えたいと思います。
1.はじめに
2025年1月に埼玉県川口市の清掃工場で発生した火災の影響により、川口市の全てのごみ等を埼玉県内で処理することが困難な状況となったことは記憶に新しいところです。産業廃棄物処理施設で火災が発生すると、産業廃棄物を排出する事業者(以下、事業者という)にとっても計画通りに産業廃棄物が処理できず、事業計画に影響を及ぼすおそれがあります。
通常、産業廃棄物は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃棄物処理法という)」に則り保管されていますが、火災の推定原因を確認したところ、表1のように、事業者の管理不備や産業廃棄物に対する知識・認識が不足していたおそれがあります。
表1 事故の概要(弊社作成)
事故日 | 場所 |
推定原因 |
2024年12月27日[1] | 印西市 クリーンセンターでの出火 |
不燃ごみの粉砕施設で発生。不燃ごみの中に発火物が混入していた可能性あり |
2024年12月5日[2] | 逗子市 環境クリーンセンターでの出火 |
不燃ごみにリチウムイオン電池等(分別ルール違反)が混入していた可能性あり |
2.産業廃棄物とは[3]
事業活動で排出されるごみは、大きく「産業廃棄物(法律で定められた20品目)」と「事業系一般廃棄物」に区分されます。また、毒性や爆発性等を有した特に危険なものは「特別管理産業廃棄物」と「特別管理一般廃棄物」として区分され、通常の廃棄物よりも厳しい規制を受けます。詳細は表2の通りです。
表2 廃棄物の区分概要(弊社作成)
3.事業者の義務[4]
事業活動で排出された廃棄物は産業廃棄物処理業者によって運搬されるまでの間、事業者自らが廃棄物処理法に則り、適切に管理する義務があります。
しかしながら、弊社が工場や店舗等のお客様を訪問した際、廃油が保管されたドラム缶が漏油対策のない場所に置かれていたり、産業廃棄物置場に表示や囲いがなかったりする状況をお見かけすることがあります。弊社からは、その都度、改善いただくようにご提案しておりますが、理由をお聞きすると、生産ラインの方が許可なく一時仮置きしてしまっている、また、生産計画の見直しや産業廃棄物処理業者がなかなか引き取りに来てくれないなどの理由で、正規の保管場所の容量以上に産業廃棄物が滞留してしまっているというお声が多いです。
一方で、廃棄物処理法に違反してしまうと、事業者も刑事処分(懲役、罰金)の対象になる場合があるため、注意が必要です。詳細は廃棄物処理法第25条~法第34条[5]に記載されています。
4.産業廃棄物の保管方法のポイント[6]
産業廃棄物が運搬されるまでの間に事業者が遵守すべき保管基準としては、廃棄物処理法の第8条「産業廃棄物保管基準[6]」があります。以下に主なポイントをご紹介します。
表3 産業廃棄物の保管方法のポイント(弊社作成)
① 囲いの設置 | 保管場所の周囲に囲いが設けられていること。保管する産業廃棄物の荷重が囲いに直接かかる場合には、その荷重に対して構造耐力上安全であること。 |
② 保管場所の掲示 |
産業廃棄物の保管に関して必要な事項を表示した掲示板が見やすいところに設けられていること(図1)。 a) 産業廃棄物の保管の場所である旨の表示 b) 保管する産業廃棄物の種類(当該産業廃棄物に石綿含有産業廃棄物、水銀使用製品産業廃棄物または水銀含有ばいじん等が含まれる場合は、その旨を含む) c) 保管場所の管理者の氏名または名称および連絡先 d) 屋外で容器を用いないで保管する場合は、基準[6]で規定する高さのうち最大積み上げ高さ e) 掲示板の大きさは縦60㎝以上×横60㎝以上 |
③ 飛散、流出、地下浸透、悪臭発散の防止措置 |
保管場所から産業廃棄物が飛散、流出し、地下に浸透、悪臭が発散しないような措置を講ずること。 |
④ 公共水域および地下水の汚染防止措置 |
産業廃棄物の保管に伴って汚水が生ずるおそれがある場合は、公共水域および地下水の汚染防止のために必要な排水溝、その他の設備を設けるとともに、それらの設備の底面を不浸透性の材料で覆うこと。 |
⑤ 害獣、害虫の発生防止措置 |
保管場所には、ねずみが生息したり、蚊、ハエその他の害虫が発生したりしないようにすること。 |
⑥ 屋外での保管 |
産業廃棄物を容器に入れずに屋外で保管する場合は、次のようにすること(図2)。 a) 廃棄物が囲いに接しない場合は、囲いの下端から勾配50%以下とする。 b) 廃棄物が囲いに接する場合(直接、壁に負荷がかかる場合)は、囲いの内側2mは囲いの高さより50㎝の線以下とし、2m以上の内側は勾配50%以下とする。(勾配50%とは、底辺:高さ=2:1の傾きで約26.5度) |
⑦ 石綿含有産業廃棄物の保管 |
石綿含有産業廃棄物は、次に掲げる措置を講ずること。 a) 保管場所には、石綿含有産業廃棄物がその他の物と混合するおそれのないように、仕切りを設けるなど必要な措置を講ずること。 b) 覆いを設けること、梱包すること等石綿含有産業廃棄物の飛散の防止のために必要な処置を講ずること。 |
⑧ 水銀使用製品産業廃棄物の保管 |
水銀使用製品産業廃棄物は、保管場所には、水銀使用製品産業廃棄物がその他の物と混合するおそれのないように、仕切りを設けるなど必要な措置を講ずること。 |
図1 事業場における廃棄物の保管場所掲示の例(弊社作成)
図2 屋外における保管高さの基準の例[7]
出典:日本産業廃棄物処理振興センターホームページ(https://www.jwnet.or.jp/waste/knowledge/hokankijun/index.html)
5.産業廃棄物保管場所における火災予防上のポイント
産業廃棄物のうち、火災の原因になるおそれがあるもの(スプレー缶、電池、廃油等)は適切に分別し、安全に保管することが重要です。以下に火災予防対策の主なポイントをご紹介します。
① 産業廃棄物は種類毎に分けて、表示する。特に、産業廃棄物のうち、火源となる物品(乾電池、リチウムイオンバッテリー、金属片等)が混在しないよう分別保管を徹底する
② 廃スプレー缶は中身を使いきった状態で保管する。穴をあける必要がある場合は屋外の火の気がなく、風通しの良い場所で行う(穴あけ可否は、自治体別でルールがあるため事前確認必須)
③ 乾電池の端子同士の接触を避けるため、端子にテープを張り付けるなどして絶縁して保管する
④ 廃油、廃スプレー缶、乾電池は直射日光があたる場所や高温な場所を避けて保管する(液漏れ、溶剤蒸気滞留からの火災予防の観点)
⑤ 引火性廃油(引火点70℃未満の物)、特にガソリン廃油は密閉した容器に火気厳禁で保管して、他の廃油と混合しないように保管する
⑥ 延焼しやすい一般可燃物を近くに置かないよう徹底する
⑦ 廃棄物保管場所は、公道等の第三者がアクセスしやすい場所に面しないようにする
⑧ 定期的に産業廃棄物保管場所の自主点検、清掃を行う
⑨ 消火器その他の消火設備を備える
6.さいごに
近年の日本全国の産業廃棄物の排出量は3億7,000~8,000万トン/年で推移しています。1日あたり100万トン以上の産業廃棄物が排出されている計算となり、地球温暖化や大気汚染等の環境問題にも繋がっています。一方で、事業活動と産業廃棄物は切っても切れない関係となっているのも事実です。
産業廃棄物処理施設での火災は地域住民の生活にも影響を与え、また、処理施設の不足を要因とする不法投棄による人為的災害を誘発するおそれがあります。
これらの社会問題を引き起こさないためにも、本コラムが産業廃棄物の適切な保管や火災予防対策の一助になれば幸いです。
弊社では工場、店舗、施設全体の火災爆発リスクを診断するサービスを提供しておりますので、ご興味のある方はサービスページをご覧ください。
【参考文献】
[1]「印西市ホームページ 令和6年12月27日 印西クリーンセンターで発生した火災について」、印西市
https://www.city.inzai.lg.jp/0000019045.html
[2]「逗子市プレスリリース 令和6年12月5日に環境クリーンセンターで発生した火災について」、逗子市 https://www.city.zushi.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/009/987/press-62.pdf
[3]「廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第二条 定義」、e-GOV法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137
[4]「廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第三条 事業者の責務」、e-GOV法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137
[5]「廃棄物の処理及び清掃に関する法律 第二十五条~第三十四条 罰則」、e-GOV法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137
[6]「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則 第八条 産業廃棄物保管基準」、e-GOV法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/346M50000100035/
[7]「産廃知識 保管基準」、日本産業廃棄物処理振興センターホームページ
https://www.jwnet.or.jp/waste/knowledge/hokankijun/index.html
執筆コンサルタントプロフィール
- 小林 卓
- 企業財産本部 エキスパートリスクエンジニア