駐車場の事故防止対策

  • 交通リスク

コラム

2024/8/21

 駐車場における事故は、自動車事故の中でも軽微なものと捉えられがちです。しかしながら1件の被害は小さくとも発生件数が多いため、全体の損害としては影響が大きく無視できません。また、駐車場は車と人の動線が交差する場所でもあり、時には重大な人身事故につながることもあります。駐車場での事故はなぜ起こるのか、また、どのように防げばよいのか考えてみましょう。

なぜ駐車場で事故を起こしてしまうのか?

 事故に関係する駐車場の特性を、以下の表に整理しました。ポイントは、車と人の動線が複雑であるということと、運転者や歩行者の安全確認不足を誘発しやすいということです。これらの特性が、運転者や歩行者のヒューマンエラーを引き起こすことで、事故につながります。

   
表1 事故に関係する駐車場の特性
特性 内容
交通の管理・管制がなされていない ・ 車と人の空間が区分されていない。 車と人、車と車の動線が複雑に交錯する。(公道では、車は同一車線を同方向に走行し、車と人の通行の区別が考慮されている)
多数の死角の存在 ・ 施設(建物・柱など)や駐車車両により、多数の死角が生じている
後退操作の発生

・ 駐車場では、入出庫時に後退操作を行う必要がある。

・ 車両構造上、車両後方の死角が大きいため、安全確認不足での後退操作は事故につながりやすい
油断・気の緩みが発生しやすい1

・ 目的地に到着したことへの安堵感、一般道路での緊張感から解放されることによる油断が生じる。
・ 低速走行、交通量減少により、気の緩み・安全運転意識の低下が生じる。
これらの理由により、運転者の安全確認不足が生じやすい

運転以外への意識集中など1

・ 駐車区画を探す、早く入庫させたいなど、運転以外に意識が集中する。
・ 同時に複数の情報処理・判断・操作を強いられる。
このような他への意識集中により、運転者の安全確認不足が生じやすい

歩行者の安全意識の低下2

・ 車両往来の危険に対する意識が希薄になる。(一般道路より安全だという思い)
・ 車両に対し、希望的観測をもちやすい。(当然、車が止まってくれるだろうとの期待)
これらの理由により、歩行者の安全確認不足が生じやすい

事故防止のための対策

■運転者への働きかけによる対策
 ヒューマンエラーが事故の原因である以上、まずは運転者へ適切な働きかけを行うことが重要です。社用車を扱う企業であれば、自社従業員に対し、駐車場内で発生しやすい事故形態を周知するとともに、それを防ぐための運転方法や安全確認方法を指導しましょう。また、駐車場施設を管理する側であれば、施設内において、運転者に対し注意を促す標示や呼びかけを行うことをご検討ください。

■駐車場の仕様改善による対策
 駐車場施設を管理する側の対策としては、駐車場の仕様を改善することで、事故を防止することが可能です。駐車場の設計においては、以下のポイントに注意しましょう。

   
表2 駐車場仕様上の事故要因と、仕様面での対策

駐車場の仕様上の事故要因

仕様面での対策
交通参加者の動線が区分されていない 進行方向を示す路面標示や横断歩道の設置、通行規制などにより、車両同士、車両と歩行者の動線が交錯しないようにする。
死角があり、危険を認知しづらい 視認性を確保するため、壁や柱などの障害物は可能な限り除去し、除去できない場合はカーブミラーを設置する。視認性の低下する夜間は照明を活用する。
動線が分かりづらく、運転者や歩行者を迷わせる 路面標示や看板・表示板の設置により、車や人の経路と、その優先/非優先を明確にする。
ショートカット走行できる、速度を出せるなど、違反を誘発する設計である

予測できない車や歩行者の飛び出しを防ぐために、コーンを設置したり、加速しやすい直線の道にはハンプを設置したりする。

事故になった際、建物や人への被害を軽減する仕組みがない

防護柵などの設置により衝撃を緩衝し、被害の拡大を防ぐ。

狭い、道が凸凹など、走りづらい環境である

道路を整備するとともに、必要な幅員を確保し、車両の走りやすい環境を整える。

■管理面での対策
 不特定多数の運転者に運転させない、というのも一つの手です。「バレー駐車」、「バレーパーキング」という言葉をご存じでしょうか。これは、海外では多くみられるサービスで、ホテルやレストランなどの施設において、従業員が利用者の車両を預かり、駐車場に入出庫するサービスです。施設管理者は、熟練の従業員に駐車を代行させることで、駐車場利用者による事故を防止することができます。

■車両や駐車場インフラ等の技術面での対策
 入出庫時の事故防止には、ペダル踏み間違い時加速抑制装置やバックカメラなどのASV(先進安全自動車)技術が有効です。ただし、現在のASVはあくまでも運転者の「支援」を目的にするものであり、性能の限界があるため、ASVを補助的に活用したうえで、運転者自身での安全確認を徹底することが重要です。
 また将来的には、自動バレー駐車の技術も期待できます。これは、「大型施設の駐車場等で、ユーザーが出入口で乗降車する際以外は、車両の受け渡しと駐車スペースまでの往復と駐車を、無人の自動走行により行う技術」※3を示し、車両と駐車場インフラとが協調して、無人での自動走行を実現するタイプ※3や、自動搬送ロボットが車両を運ぶタイプ※4の研究が進められています。安全な自動バレー駐車が実現できると、運転者自身での駐車を避けることにより、事故を防止できます。

企業に求められる対応

 前述の通り、社用車を扱う企業であれば、自社従業員に対する駐車場事故防止の指導を行うことで対応できます。具体的な指導内容については、東京海上日動火災保険株式会社発行の「安全運転ほっとNEWS 2024年7月号」※5を参照ください。ただし、運転慣れしていない新入社員・若手社員は、車両感覚やバック操作の技術にそもそも課題があり、実車訓練を要する場合があります。弊社では、安全運転講習会やeラーニング、VR機器を活用した安全運転教育サービスなどの、座学による駐車場事故防止教育サービスや、実車訓練のサービスを提供しております。従業員教育にお困りの際は、ぜひご活用ください。
 また、自社が管理する駐車場内での事故にお困りの企業であれば、駐車場の仕様を見直すことを検討ください。改修が難しい場合でも、路面標示や看板、三角コーン、緩衝材などの設置により、運転者や歩行者に動線を明示したり、安全確認を促したりすることで、事故リスクを軽減することが可能です。弊社では、駐車場のリスクを調査し、改善提案を行うサービスを提供しております。お困りの際は、一度ご相談ください。

※1 一般社団法人日本損害保険協会東北支部「駐車場事故の実態(H25版)」
https://www.sonpo.or.jp/report/publish/bousai/ctuevu00000053xr-att/parking.pdf
※2 公益財団法人東京都道路整備保全公社、株式会社サンビーム「駐車場の交通事故減少に向けた安全性向上のための施設運用に関する研究」
https://www.tmpc.or.jp/Portals/0/images/03_business/business/index_01/h30_2.pdf
※3 経済産業省「日本発の「自動バレー駐車システム」に関する国際標準が発行されました」
https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230727004/20230726003.html
※4 三菱重工「三菱重工グループ、国内初の自動バレーパーキング、完成車自動搬送を実現へ 先進的自動搬送ロボット事業で仏ベンチャー企業スタンレーロボティクス社と協働」
https://www.mhi.com/jp/news/21102702.html
※5 東京海上日動火災保険株式会社 安全運転ほっとNEWS「駐車場内での事故パターンと事故防止のポイント」 
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/world/guide/drive/202407.html

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執筆コンサルタントプロフィール

中條 恵理華
運輸・モビリティ本部 主任研究員

コンサルタントの詳細

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