運輸業における自動車運転者や鉄道運転士の雇用拡大に向けた動き

  • 交通リスク

コラム

2024/8/1

1.運輸業における若年者の雇用拡大
■運転免許における受験資格年齢の引き下げ
 2024年7月1日に鉄道運転士の運転免許受験資格年齢が、従来の20歳以上から18歳以上に引き下げられた。国土交通省プレスリリースによると、鉄道や軌道分野において人手不足が深刻な課題となっており、特に地方部では、運転士の不足により運行本数を減便するといった事態が発生しているとある。本改正によって、若年者の雇用拡大につなげることが狙いである。

 運輸業の人手不足という観点で見ると、自動車運送の運転者は特に衆目を集めている。自動車運送は2024年問題にも直面しており、トラック運送における輸送量減少、路線バスにおける減便や廃止の動き等は社会問題とされている。また、鉄道運転士と同様に自動車運転者に対しても、2022年5月から、大型免許や第二種免許の受験資格年齢が21歳以上から19歳以上に引き下げられている。
 2024年7月現在では、全国のバス事業者で続々と19歳の運転者が誕生していることから、鉄道においても近い将来、10代の運転士誕生のニュースが注目を集めることになりそうだ。

■事業者に求められる対応事項
 事業者にとって、10代の自動車運転者や鉄道運転士への教育・指導は、決して容易ではないだろう。社会人経験が無いに等しい若年者への指導は、運転等の業務上必要な技術だけに留まらず、マナー、接客対応、安全意識の醸成等幅広い教育を実施しなければならない。
 さらに人手不足であるからこそ、事業者には従業員が長く勤務できるような良好な職場環境づくりも求められる。特に運輸業における若年者は、事業者内に同年齢層の同僚が少ないことから、業務上の悩みも抱えやすいことが考えられるため、心理面におけるサポートも重要である。また、鉄道運転士は日中の勤務だけでなく、泊まり勤務も一般的である。従来との生活習慣の変化も大きい一方で、運転中は集中力が求められる職種でもあるため、勤務形態への配慮も必要になるだろう。
 若年者雇用に関する教育・指導や体制構築においては、外部機関の活用もこれまで以上に求められるかもしれない。

2.運輸業における外国人の雇用拡大
■在留資格「特定技能制度」の対象分野に自動車運送業と鉄道が新規追加
 運輸業における人手不足への対策として、2024年3月の閣議決定により、在留資格に係る特定技能制度の対象分野に、自動車運送業と鉄道を含む4分野が新規追加された。自動車運送業においてはバス・タクシー・トラック運転者、鉄道においては運輸係員等の5業務を対象としている。自動車運転者や鉄道運転士等に対する外国人の雇用を見据えた制度改正である。

出典:出入国在留管理庁「特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加の概要」より抜粋
https://www.moj.go.jp/isa/content/001417998.pdf

■事業者に求められる対応事項
 当該制度において、特定技能外国人が所属する自動車運送・鉄道事業者に対しては、一定の条件を課している。主な内容を以下に記載する。

●    国土交通省が設置する「自動車運送業分野(鉄道分野)特定技能協議会」の構成員となり、必要な協力を行う
●    国土交通省またはその委託を受けた者が行う調査等に対して必要な協力を行う
●    自動車運送業においては運転者職場環境良好度認証制度(働きやすい職場認証制度)に基づく認証を受けている
  ※トラック運送業は貨物自動車運送事業安全性評価事業(Gマーク制度)の認定を有する者でも可
●    タクシー・バス運送業においては受け入れる予定の外国人に対して新任運転者研修を実施する 等

 なお、上記の働きやすい職場認証制度およびGマーク制度については、それぞれ東京海上日動火災保険および弊社にて認証・認定取得支援も実施しているため、参考にされたい。
 以上は国から求められている具体的な要件であるが、外国人運転者や運転士の活用にあたっては、言語だけでなく交通ルールや安全意識の違い等も大きいと考えられる。当該外国人における出身国の文化を理解した上で、教育・指導への取り組みを実施することも重要である。

【参考】
※国土交通省プレスリリース「鉄軌道における動力車操縦者運転免許の受験資格等を見直します」
https://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo08_hh_000109.html

※法務大臣等「自動車運送業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001416435.pdf

※法務大臣等「鉄道分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001416436.pdf

※法務省等「『自動車運送業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針』に係る運用要領」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001417598.pdf

※法務省等「『鉄道分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針』に係る運用要領」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001417603.pdf

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執筆コンサルタントプロフィール

亀井 拓也
運輸・モビリティ本部 上級主任研究員

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