中国「反スパイ法」改正と企業に求められる対策

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コラム

2024/6/25

中国では近年、国家安全保障の名目で、日本人を含む外国人や外国組織に対する監視が強化されており、多数の外国人が拘束されています。さらに2023年7月には、「反スパイ法」の改正法が施行されました。同国における拘束リスク、改正反スパイ法の内容・留意点とともに、進出企業に求められる対応を解説します。

※本コラムは、契約企業向け有償レポート「グローバルリスクレポート」(2023年5月23日発行)の記事を抜粋・要約・再編集したものです。

1.中国における拘束リスク
 同国では2014年にいわゆる「反スパイ法」(正式名称「中華人民共和国反間諜法」)、2015年に「国家安全法」が施行されて以降、国家安全保障の名目で、外国人や外国組織に対する監視が強化されており、多数の外国人が拘束されている。日本に関しては2015年以降、少なくとも17人の日本人がスパイ容疑等で拘束されている。
 さらに2023年4月26日には、「反スパイ法」の改正法が可決・成立、7月1日から施行された。同改正では、従来から不明確と指摘されてきた取り締まりの対象が、さらに拡大しており、今後同法適用による摘発・拘束事例もさらに増加することが懸念される。

2.改正反スパイ法の内容と留意点
 中国の「反スパイ法」は、2014年11月1日、中国の立法機関である全国人民代表大会常務委員会で可決後に即日施行された。また前述の通り、2023年4月26日には、改正法が3回の審議を経て可決され、7月1日から施行された。
 改正前の同法(2014年施行)は、全5章40条だったが、改正法(2023年7月施行)は全6章71条となり、大幅に条文が追加された。改正点は多岐にわたるが、主要なものとして以下が挙げられる。

「スパイ行為」の定義に関する条文・項目(第4条)が追加され、従来よりもさらに対象範囲(対象とする情報の範囲、行為の範囲)が拡大された。
国家安全部門による反スパイ活動の実施義務の範囲が追加・拡大された。(全面的実施義務(第12条)、支援・協力義務(第8条)、指導・監督・検査義務(第12条)、反スパイ教育・宣伝義務(第13条))
個人・企業等の組織について、反スパイ活動への支援・協力義務が追加された。
スパイ活動の通報義務、通報を行った者および反スパイ活動への貢献者・組織に対する表彰・報奨、当局への通報窓口の設置が新たに規定された。
重要インフラ等を含むサイバースパイ活動阻止の規定が追加された。
郵便・宅配便等運営団体、電信業務経営者、インターネットプロバイダの技術支援・協力義務が新たに規定された。
当局によるスパイ行為の疑いのある者に対する持ち物検査権限、疑いのある場所、施設、財物に対して封印・留置・凍結を行う権限が追加された。
当局による状況調査、証拠収集に対して、「ありのままに提供し、拒絶してはならない」と新たに規定された。
当局によるデータ証拠収集への協力を拒否した場合、「データ安全法」の関連規定に従って処罰すると規定された。
スパイ行為によってスパイ組織から得た利益は押収・没収すると規定された。

 同法の運用、改正法の施行に際しては、多くの懸念点が指摘されている。主な留意点は以下の通りである。

「スパイ行為」の定義や対象範囲が曖昧なため、当局による恣意的運用が懸念される
一般市民・企業に対して、スパイ活動の通報を義務化している
起訴された場合、ほとんどが有罪判決を受けている

3.企業として求められる対策
(1)注意すべき・避けるべき行為の把握・理解
 進出日系企業としては、中国における様々な理由による拘束リスクとともに、近年当局による取り締まりが強化されている国家安全法・反スパイ法関連での拘束リスクの内容と最新動向をよく理解する必要がある。また、万一にも駐在員等の関係者が逮捕・拘禁等の事態に陥らないよう、予防・リスクの低減に努めることが肝要である。

 反スパイ法においては、違法と見なされる具体的な行為の範囲が不明瞭である。法令が規定する「スパイ行為」以外にも、外国人および外国組織に対して、他の法律で禁止もしくは制限されている行為等で拘束された後に、思わぬ形でスパイ行為を指摘される可能性も否定できない。在中国日本大使館が発行する「安全の手引き」等も併せて参照し、注意すべき・避けるべき行動が何かを駐在員等によく理解させ、予防を徹底させることが求められる。

 進出日系企業においては、同国内で国家安全当局による、外国人を含む市民の拘束が頻発していることを十分認識した上で現地の法令順守に努める必要がある。また、反スパイ法等が規定する通報義務等も意識し、駐在員等の関係者に、上記の注意すべき・避けるべき行為の把握・理解を促すことに加え、以下の予防的な対応にも努めることが求められる。

 予防的な対応

駐在員(帯同家族・出張者含む)や現地従業員の所在を、日々把握する体制を整備する。
現地拠点(現地法人・事務所)は、平素から在外公館(領事部門)と密接な関係を維持する。
現地幹部・従業員(中国籍者)と良好な関係を維持する。
現地の当局や企業との交流において、政治や情勢上の機微な話題等には触れない。

 駐在員等においては、中国籍の現地幹部・従業員と良好な関係を維持する観点から、平常時から言動に十分注意するよう、教育・研修等で徹底することが求められる。

(2)万一拘束された場合の対応
 万一駐在員等や現地従業員が拘束された場合、逮捕・起訴される前に、早期解決・即時解放を求めることが重要となるため、当該者にも以下の事項に注意するよう促すことが肝要である。

 駐在員・現地従業員等の拘束後における注意事項

(拘束された本人の対応)
当該者は在外公館や所属先(現地事務所や日本本社等)への連絡に努める。
当該者は中国当局の提示する書類に安易にサインをせず、在外公館の館員の立ち合いを求める。なお、拘束の長期化や非公開裁判による有罪判決・服役を想定し、落ち着いて行動するよう努める。
(現地拠点・本社等の対応)
中国当局や在外公館から通報を受ける前に、現地拠点が駐在員・現地従業員等の所在不明を判断した場合、速やかに在外公館や日本本社に連絡し、即時解放を求める。日本本社は外務省に対して、当該者の解放を粘り強く要請する。
現地拠点は在外公館と連携し、中国当局に対して当該者との面会を求める。
日本本社および現地拠点は業務を継続するとともに、ほかの駐在員や現地従業員、当該者家族のメンタルケアに努める。

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執筆コンサルタントプロフィール

深津 嘉成
ビジネスリスク本部 上級主席研究員

コンサルタントの詳細

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