生活道路の最高速度引き下げに向けた道路交通法改正案が公示されました
- 交通リスク
2024/6/18
1. 道路交通法改正案について
2024年5月31日に「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」が公示されました(※1)。併せてパブリックコメントの募集も開始されています。募集期間は2024年5月31日から2024年6月29日までとなっており、施行は2026年9月1日を予定しています。改正案の概要は以下の通りです。
・一般道路のうち、中央分離帯等がなく、自動車の往復の通行が方向別に分離されていない道路(例えば、住宅街の生活道路等)は、最高速度を30km/hに制限する。
・中央分離帯等があり、自動車の往復の通行が方向別に分離されている道路は、これまで通り最高速度を60km/hのままとする。
・規制標識のある道路は、これまで通り規制標識に記載の最高速度に準じる。
2. 改正案の背景について
国はこれまで、国土交通省や警察庁を中心として、第11次交通安全基本計画を基に、生活道路に対して「ゾーン30プラス」という対策を行ってきました(※2)。「ゾーン30プラス」とは、生活道路の一部に対して、最高速度30km/hの区域制限をかけ、加えてハンプや狭さく等の物理的デバイスを設置し、交通安全の向上を図る施策です(※3)。
一方で、生活道路での交通事故は、直近で年間約7万件発生しています。また、交通事故死者数の約半数が、歩行中・自転車乗用中の事故であり、その死者数の約半数が、自宅から500m以内で発生した事故で亡くなっています(※4)。つまりは、引き続き生活道路で歩行中・自転車乗用中の死亡事故が多く発生しており、そのような背景から本改正に踏み切ったと考えられます。
3. なぜ「30km/h」なのか
では、なぜ最高速度を「30km/h」に制限するのでしょうか。その理由は、自動車の速度が30km/h未満とそれ以上では、事故が発生した際の歩行者の致死率および、衝撃度が大きく異なることにあると考えられます。
歩行者対自動車の事故において、自動車の速度が20~30km/hの場合、歩行者の致死率は0.9%です。一方で、30~40km/hの場合の致死率は3.0%となり、致死率は約3倍に跳ね上がります(※4)。また、衝撃度の大きさで考えると、30km/hで衝突した場合、3.5mの高さ(ビルの2階程度)から自由落下した場合と、ほぼ同一の衝撃となります。一方で40km/hで衝突すると、6.2mの高さ(ビルの3階程度)から自由落下した場合と、ほぼ同一の衝撃となり、約2倍弱の衝撃度に跳ね上がります(※5)。これらのデータから、自動車の速度が30km/hを超えると、ドライバーにとっても歩行者にとっても事故時の危険性が大きくなることが分かります。
4. 企業に求められる対応
施行日直後は、本改正に関する取り締まりが強化されると考えられます。そのため、施行前にはドライバーに対して、本改正の内容や速度遵守の必要性、速度超過の危険性等を伝える指導が必要となります。また、「改正前は50km/hで走行していた道路を30km/hで走行しなければならない」というような状況も頻繁に発生し得るため、予定に余裕を持った運転を行うように指導する必要もあります。特に緑ナンバー事業者に関しては、これまでの速度で運転ができないことを、念頭に置いた配車対応も必要となります。
弊社では、ドライバーや管理者向けの指導サービスとして、専門コンサルタントが対面やウェビナーで研修・セミナーを行う「安全運転講習会」や、スマートフォンやパソコンで受講できるWeb学習サービス「WebstadR」を提供しております。本改正に伴う指導の一環として、ぜひご活用ください。
※1 警察庁「「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」等に対する意見の募集について」
https://www.npa.go.jp/news/release/2024/20240530001.html
※2 国土交通省「道路交通安全対策 2.交通安全対策に関する基本計画」
https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/sesaku/keikaku.html
※3 国土交通省「生活道路の交通安全対策ポータル 施策紹介」
https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/sesaku/syokai.html
※4 国土交通省「道路交通安全対策 1.交通事故の状況」
https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/sesaku/jiko_anzentaisaku.html
※5 重力加速度を9.8m/s2と仮定の上で、弊社算出。
【弊社にて提供している関連サービス】
執筆コンサルタントプロフィール
- 森山 淳司
- 運輸・モビリティ本部 主任研究員