海外駐在員等の基本的な健康・安全管理体制の整備

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コラム

2024/6/7

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が本格化した2020年以降、激減していた国際間の人の動きが、ようやく正常化に向かいつつあります。国際間の往来が正常化に向かう中、新たに海外駐在員等を派遣する場合、企業として求められるリスク対策について解説します。

※本コラムは、契約企業向け有償レポート「グローバルリスクレポート」(2023年4月26日発行)の記事を抜粋・要約・再編集したものです。

1.国際間の人の動きと在留邦人の健康・安全管理
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が本格化した2020年以降、激減していた国際間の人の動きが、ようやく正常化に向かいつつある。 

 図表1 訪日外国人・出国日本人数の推移(2019年1月〜2024年3月)  

訪日外国人・出国日本人数の推移(2019年1月〜2024年3月)
出所:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2024年4月推計値)」および各種リリース資料等から筆者作成。

国際間の往来が正常化に向かう中、新たに海外駐在員等を派遣するなどの場合、まず優先的に確認・整備すべきは、「傷病(けが・病気)」「(スリ・置き引き等の)一般犯罪」「交通事故」等の「基本的な」健康・安全管理体制である。

 

図表2 海外邦人死亡者の死因別割合


図表3 邦人援護「犯罪被害」の内訳割合

出所(図表2・3):外務省「2022年(令和4年)海外邦人援護統計」(2024年4月)から筆者作成。


2.企業として求められる対策
(1)傷病リスク対策
 企業は、海外駐在員等の傷病リスクへの対策として、定期的な健康診断の実施やラインケア(管理監督者による管理)等により、身体面・精神面の双方において健康管理の徹底を図ることに加え、医療費の高額化、医療機関選定に対する対応体制を整備することが重要である。
 海外において傷病により医療機関を利用する場合、米国や欧州等においては、医療費が非常に高額になる例が多いため、注意が必要である。例えば米国では一般的な盲腸手術でも数百万円以上かかり、入院や高度医療が必要となる場合、1,000万円以上の請求となることもある。こうした医療費の高額化に対する対策として、損害保険各社が提供する「海外旅行保険」に十分な補償内容で加入することが求められる。
 また、医療費が高額となる国・地域では、事故・急病等で救急施設を利用する際には、受付で診療費の支払能力を問われることがあるため、現金・小切手・クレジットカード・海外旅行保険加入証明等、支払能力を証明できるものを常に持参することが求められる。
 その他には、受診等における言語の問題、適切な医療機関選定の問題がある。新興国・途上国では、英語等で受診でき、適切な医療が受けられる医療機関が限られる例が多いため、通訳手配や専門家による医療機関紹介等が不可欠な場合が多い。こうした事態に適切に対処するため、海外医療アシスタンスサービスを予め手配し、24時間体制で相談を受けられるようにすることが重要である。

(2)犯罪リスク対策
 傷病リスクと並んで犯罪リスクも、相対的に発生頻度が高いリスクの一つである。海外駐在員等の犯罪被害を防ぐためには、各個人が防犯の意識を持ち、危険な場所や行動等、状況をできるだけ早く察知し回避行動を取ることが重要である。企業としては、駐在員・帯同家族向けの赴任前研修、出張者向け研修等で、渡航先の国・地域の最新犯罪事例等を紹介するとともに、外務省「海外安全ホームページ」(※)や在外公館ホームページの活用法、住居の防犯対策、交通機関での移動時の注意点、日常生活における防犯対策等を教育する必要がある。また以下のような「海外安全における原則」を示し、繰り返し徹底を図ることも重要である。
 ※外務省「海外安全ホームページ」URL:https://www.anzen.mofa.go.jp/

 【図表4:海外安全における原則】
1 平時より,自分を守るのは自分以外にいないという「セルフディフェンス」(Self-defense:自己防衛)の心構えを忘れない。
2 自分が常に犯罪者から狙われているとの前提に立ち,まず全ての人や状況を疑ってかかる。
3 信頼できる現地の人々とは,常に良好な人間関係を保つことを心がける。
4 その国の国情,文化,慣習を理解し,認識を深める。
5 本人,家族に関する情報,日常の行動等を第三者に把握されないよう努力する。
6 主体性を堅持しつつ,常に目立たないことを心がけ,節度ある行動をする。
7 常に周囲の人より,一歩先(一段高い)の安全対策を講ずる。
8 対象者,海外拠点及び本社がお互いに緊密な連絡をとり,連携を強化しておく。
9 緊急時には,人命を最優先し,迅速かつ冷静に対応し,関係先に速やかに連絡する。

出所:深津嘉成『海外危機管理ガイドブック-マニュアル作成と体制構築-』(同文舘出版)より。

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執筆コンサルタントプロフィール

深津 嘉成
ビジネスリスク本部 上級主席研究員

コンサルタントの詳細

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