企業の取引関係を介したショックの波及とは?~データで迫るサプライチェーンリスク②~

  • 経営・マネジメント

2024/3/18

 前回のコラム[1]では、企業の取引関係を介したショックの波及というリスク、そしてショックがサプライチェーン上を波及するダイナミズムについて紹介しました。今回は、そうしたショックの波及が企業の業績に与える影響の大きさについて、最新のAI技術を用いた弊社の分析結果[2]を紹介します。

企業の売上成長率に関するモデル化
 我々が明らかにしようとしたのは、「ある企業における売上成長率の低下が、取引先の企業の売上成長率をどの程度低下させるのか?」という問いです。
 これを明らかにするための第一ステップとして、まず、企業の売上成長率を推定するAIモデルを構築しました。このAIモデルには、対象企業自身の財務情報(過去の売上成長率、売上高)や属性(国、業種)に加え、その取引先の財務情報や属性をパラメータとして与えました。これらの情報を入力とすることで、任意の企業について、過去のある年の売上成長率を高い精度でモデル化できることを確認しました。

取引先が自社の売上成長率に与える影響の評価
 次に、このモデルを用いて、「取引先の売上成長率が、対象企業の売上成長率をどのように変化させるのか」を調べました。これには部分従属プロットという手法を用いており、任意のパラメータ(=取引先の売上成長率)だけを変化させたときに、モデルの推定値がどのように変化するのかを可視化できます。
 下図はその結果のうち、製造業におけるサプライヤーからのショックの大きさを可視化したものです。この図は、取引先の売上成長率(横軸)が下がると、対象企業の売上成長率(縦軸)も下がる、すなわちショックが波及することを示しています。
 そして具体的には、取引先の売上成長率[3]が1低下したとき、対象企業の売上成長率が0.17程度低下することがわかりました。より実感に近い値に置き換えると、「被災等で取引先の売上が15%程度ダメージを受けると、自社は2.5%程度のダメージを受ける」と言えます。

終わりに
 以上、本コラムでは、サプライチェーンに関するビッグデータとAI技術の組合せにより、これまで実態を見ることが難しかった「企業の取引関係を介したショックの波及」の大きさを明らかにできることを紹介しました。弊社では今後もこうした分析により、サプライチェーンリスクの実態を明らかにする研究に取り組んでまいります。

また、弊社では、サプライチェーンにおけるリスクの可視化と取引先とのコミュニケーション強化のためのクラウドサービス「Chainable」を提供しています。
Chainableの詳細は下記サービス紹介ページをご覧ください。
サプライチェーンコミュニケーションサービス Chainable|東京海上ディーアール株式会社 (tokiomarine-e.jp)

 
[1] 企業の取引関係を介したショックの波及とは?~データで迫るサプライチェーンリスク①~
[2] Ryoji Sato, Takayuki Mizuno (2022) The Review of Socionetwork Strategies 16, 377–398.
[3] ここで述べている取引先の売上成長率とは、サプライヤー1~Mの売上成長率の平均値を表しています

 

執筆コンサルタントプロフィール

佐藤 遼次
企業財産本部 リスクソリューションユニット 主任研究員

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