企業の取引関係を介したショックの波及とは?~データで迫るサプライチェーンリスク①~

  • 経営・マネジメント

2024/3/18

 ある企業で生じた著しい企業活動の低下が、取引先の活動に影響を及ぼし、それが業績の低下という形で顕在化することは、取引関係を介した“ショックの波及”と呼ばれます。このリスク自体は広く認知されているものの、その実態を把握・評価することは難しいものです。本コラムでは、こうしたサプライチェーンリスクに対して、最新のビッグデータ分析から得られている知見を2回に渡り簡潔に紹介します。

ショックの波及とは
 はじめに、ショックの波及のメカニズムを下図に示します。

 特に近年では、サプライチェーンのグローバル化・複雑化により、ショックの要因となる様々な事象が発生しています(事故・災害、新型コロナ感染拡大時のロックダウン、政治的・軍事的緊張による調達への影響など)。
 一方で、こうした事象が最終的に取引先企業の業績にまで影響しているのか(=ショックが波及し、顕在化しているのか?)について考えたとき、企業の業績は様々な内的・外的要因の組合せによって決まるため、その中から取引関係による影響だけを知ろうとすることは、意外と難しい問題です。

ショックの波及を観測する
 この問題を調べるには、取引関係のビッグデータを用いた俯瞰的なアプローチが有効です。この取引関係データとは、「ある企業が別のある企業と取引をしている」という情報を、公開情報や調査に基づいて蓄積したもので、これを可視化すると、下図のように膨大なサプライチェーンのつながりを見ることができます。

 こうしたデータを用いてショックの波及の実態を調べた事例として、2011年の東北地方太平洋沖地震、2012年にアメリカ東海岸に襲来したハリケーン・サンディを対象とした研究[2][3]などが行われています。これらの分析のアプローチはシンプルで、まず、企業の売上成長率を、様々な企業情報を用いて説明する回帰モデルを構築します(イメージ:以下式)。

 そして、統計的仮説検定を行うことで、「被災した企業と取引関係にあった」という事実が、そうでない企業と対比して、企業の売上成長率を優位に低下させることを実証しています。すなわち、取引関係を介したショックの波及は、企業の業績という形で確かに顕在化していることが、ビッグデータ分析から確かめられ、その重要性があらためて認知されるようになってきているのです。

終わりに
 以上、本コラムでは、企業の取引関係を介したショックの波及というリスク、そしてショックがサプライチェーン上を波及するダイナミズムについて紹介しました。では、その影響とは具体的にどの程度の大きさなのでしょうか?これについては、最新のAI技術を用いた弊社の分析を次回コラムで紹介します。

また、弊社では、サプライチェーンにおけるリスクの可視化と取引先とのコミュニケーション強化のためのクラウドサービス「Chainable」を提供しています。
Chainableの詳細は下記サービス紹介ページをご覧ください。
サプライチェーンコミュニケーションサービス Chainable|東京海上ディーアール株式会社 (tokiomarine-e.jp)

 
[1] FactSet「FactSet Supply Chain Relationships」の一部を抜粋して弊社にて作成
[2] Carvalho, V. M., Nirei, M., Saito, Y. U., & Tahbaz-Salehi, A. (2021). Supply Chain Disruptions: Evidence from the Great East Japan Earthquake.
[3] Kashiwagi, Y., Todo, Y, & Matous, P. (2021). Propagation of Economic Shocks Through Global Supply Chains | Evidence from Hurricane Sandy.

 

執筆コンサルタントプロフィール

佐藤 遼次
企業財産本部 リスクソリューションユニット 主任研究員

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