サプライヤーのCSR/サステナビリティ対応の課題 ~CSR調査票による企業の支援~

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2021/2/10

 国連グローバル・コンパクト(※1)では、企業・組織に対して、持続可能な成長を実現するため、人権・労働・環境・腐敗防止の4分野に関する10原則(※2)を遵守するよう要請しています。日本の多くの企業が、国連グローバル・コンパクトを基軸とした取り組みを実施することで、CSR推進を図ってきました。

 また、この10原則において企業は、自社の活動のみならず企業のバリューチェーン全体で遵守することが求められています。近年、日本企業のサプライチェーンのグローバル化が進み、サプライヤーの人権や労働に関する課題への対応や、気候変動対応ではスコープ3(※3)も含めた温室効果ガス排出削減が推進されるなど、多くのCSR推進企業において、自社だけでなくバリューチェーン全体で国連グローバル・コンパクトの原則が実践されている段階に入ってきていると言えるでしょう。

 これに伴いサプライヤーには新たにCSR/サステナビリティ対応という業務が必要になってきました。例えば、企業(以下、サプライヤーにとっての顧客企業を「企業」と記載します。)がサプライヤーのCSR対応を把握するため、サプライヤーにCSR調査票(あるいはESG調査票)への回答を要請する場合があります。調査票の種類として、CSR(ESG)評価機関が作成したものや企業が独自で作成したものなどがあり、調査票の形式も、選択式・記述式など様々です。サプライヤーにとっては、取引先ごとに異なるCSR調査票対応が必要となるケースもあり、多数の調査票に対応するために相当な時間を要しているという声も聞かれます。
 また、調査票の構成や内容については、例えば設問数が多い、原文が英語であるといった場合や、雇用や環境面における定量的データの報告が求められる場合は、対応難易度が高く、回答に苦労していると考えられます。とりわけ中小規模のサプライヤーではCSR体制が整備されていない場合も多く、回答の主担当選定から始まり、主担当者はCSR用語の意味を調べ、多岐にわたるテーマの設問に社内担当者を割り当て人海戦術で対応している状況が想定されます。その上CSRの取り組みがあったにもかかわらず適切に回答できず、評価結果に反映されなかったケースもあるのではないでしょうか。

 企業によっては、サプライヤーのCSR調査票回答依頼に際して説明会を開催し、設問の内容や評価基準を解説するなどの支援を実施したり、企業の社員がサプライヤー支援員となって、個別説明会の実施やQ&A窓口となって対応したりする、といった事例もあります。
 これらの企業からの支援を活用してもなお、回答にハードルを感じているサプライヤーには、さらに個別に設問の意図や専門用語などを理解するためのサポートを行うだけで取り組みが進み、評価向上につながるケースもあります。また、企業の説明会を補足する形式で、回答準備のための実践的なポイント解説の場を設定することも、より効率的に回答準備を進めたいサプライヤーにとって有益であるかもしれません。
 CSR調査票は、サプライヤーのCSR取り組みの強み・弱みを見える化できるツールにもなっています。そのため、企業は自社のバリューチェーン全体のCSR/サステナビリティの向上を目指すうえで、サプライヤーのCSR調査票への対応支援をより充実させていくことが重要です。企業と自社のバリューチェーン全体の持続可能な成長を目指す手掛かりとして、企業とサプライヤー一体で、CSR調査票を通じてサプライヤーの課題を「見える化」しながら対応を進めることが望ましいと言えるでしょう。

 

※1 
国連グローバル・コンパクト(United Nations Global Compact):1999年の世界経済フォーラム(ダボス会議)にて、アナン国連事務総長(当時)が提唱したイニシアティブ。企業や団体が、責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに向けた自発的な取り組み。

※2 
国連グローバル・コンパクトの10原則は、以下の通りです。
    原則1:人権擁護の支持と尊重
    原則2:人権侵害への非加担
    原則3:結社の自由と団体交渉権の承認
    原則4:強制労働の排除
    原則5:児童労働の実効的な廃止
    原則6:雇用と職業の差別撤廃
    原則7:環境問題の予防的アプローチ
    原則8:環境に対する責任のイニシアティブ
    原則9:環境にやさしい技術の開発と普及
    原則10:強要や贈収賄を含むあらゆる形態の腐敗防止の取り組み
    (出所:グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン)

※3 
スコープ1は自社内での燃料使用や工業プロセスなどの直接排出、スコープ2は他社から購入した電気や熱使用による間接排出を示すのに対し、スコープ3はスコープ1・2以外の企業活動に関連する全ての間接排出を指します。例えば調達する原材料の製造に伴う排出、原材料・商品の仕入れや製品の出荷等の輸送・配送に伴う排出が該当します。

執筆コンサルタントプロフィール

住吉 佑太
製品安全・環境本部 リスクコンサルタント

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