企業の気候変動リスクマネジメントにおいて、高まる「2050年ネットゼロ目標」の重要性

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2021/1/20

 2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃以下に抑えるため、2050年に世界全体の温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロ(ネットゼロ)とする長期目標を掲げています。この長期目標に基づいて世界で多くの国や企業が2050年実質ゼロの目標を掲げており、日本においても2020年10月26日に首相表明演説にて、2050年までの脱炭素社会の実現が宣言されました(※1)。また、米国コンサルティング会社が公表した2021年の10大リスクにおいてもネットゼロ目標に関連したリスクが挙げられるなど、世界的にネットゼロ目標の重要性が高まっています(※2)。

 日本では、中長期的なGHG排出削減目標を設定し、TCFD(※3)対応やSBTi(※4)へのコミットメント等を通じて気候変動に関する情報開示を行っている企業が年々増加していますが、ネットゼロ目標に関してはほとんどの企業が検討前の段階にあるといえます。企業がネットゼロ目標を検討するにあたっては、2020年9月に、CDPより公表された『企業セクターにおける科学に基づく(SCIENCE-BASED)ネットゼロ目標設定の基礎的考え方』を参考とすることができます(※5)(目標設定における要件、検証手順、詳細なガイダンスは今後開発される予定です)。


 上記資料によれば、ネットゼロ目標設定においては、個々の企業で2050年までに削減できずに残留するGHG排出量に対して、企業のバリューチェーン内外の大気中からCO₂を除去するための「中和対策」(※6)や、バリューチェーン外の排出を回避または削減するための「補償対策」(※7)が求められます。ネットゼロ目標の重要性は今後さらに高まると予想されており、現時点でネットゼロ目標へのコミットメントを検討していない企業も、いずれ対応が必要になると考えられます。GHG排出削減目標を新たに設定する、あるいは既存の目標の見直しを行う際には、2050年における残留排出量についてどのような中和・補償対策が取り得るか、具体的な検討に着手しておくことが望ましいでしょう。

※1 
首相官邸ホームページ
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html 

※2
EURASIA GROUP 
https://www.eurasiagroup.net/issues/top-risks-2021

※3
TCFDとは、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するために設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指す。

※4
SBTiとは、企業に対し、気候変動による世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ、1.5℃に抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標を設定することを推進する国際的イニシアティブ(Science Based Targetsイニシアティブ)を指す。
https://sciencebasedtargets.org/

※5
資料『企業セクターにおける科学に基づく(SCIENCE-BASED)ネットゼロ目標設定の基礎的考え方』
https://sciencebasedtargets.org/wp-content/uploads/2020/10/Net-0_Target-Setting_Exec-Summary_japanese_CDPJapanEdited.pdf 

※6
CCS(Carbon Capture and Storage)やDAC(Direct Air Capture)などの大気からCO₂を直接回収する技術を指す。

※7
排出削減量の取引形態であるカーボンクレジットの購入等を指す。

 

執筆コンサルタントプロフィール

木本 博之
製品安全・環境本部 シニアコンサルタント

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