クマ被害の現状と対策
2026/3/11
目次
- クマ被害の現状と要因
- 日本と米国のクマ対策
- 事業者が実践できるクマ対策
- まとめ
執筆コンサルタント
市川 太郎
ビジネスリスク本部 研究員
専門分野:リスクマネジメント
全国で、人の生活圏に出没したクマが人を襲う事故が相次いでいる。
本稿では、日本におけるクマ被害の現状とその要因を俯瞰したうえで、政府が推進するクマ対策に加え、同様にクマ被害がある米国で提唱されているクマ対策を紹介する。最後に、クマ被害を未然に防止する対策、またクマ出没時の対策をまとめ、事業者がクマ対策マニュアルを作成する際の構成案を提示する。
1. クマ被害の現状と要因
環境省発表によると、2025年度(11月末時点)のクマ被害に遭った人数は230人と、2008年以降最多の被害者数となっている。死亡者数も2025年度が最多となっており、2025年度の人的被害の大きさがうかがえる。
図1 国内クマ被害者数と、そのうちの死亡者数の推移

出典:環境省発表[1] をもとに弊社作成
直近では、商業施設や商店が密集する地域でクマが出没した事例も多数みられる。中には施設内で死亡者が発生した事例もあり、事業者がクマ出没に備え、人命を守る必要性が生じていることが分かる。
| 時期 | 場所 | 概要 |
| 2024年1月 | 岩手県北上市 | 大型商業施設に子グマが侵入。2時間後に捕獲された。 |
| 2025年10月 | 岩手県北上市 | 温泉施設にクマが出没し、清掃中の従業員が襲撃され死亡する事故が発生。その後当該クマ個体は駆除された。 |
| 2025年10月 | 群馬県沼田市 | スーパーマーケットにクマが侵入。買い物客2名が負傷する事故が発生した。当該クマ個体は店から走り去ったとみられる。 |
| 2025年10月 | 長野県長野市 | 観光地として知られる善光寺周辺にクマが出没。近隣の小学校や、駅周辺でも連日クマの出没が観測された。 |
| 2025年11月 | 秋田県能代市 | 大型商業施設にクマが侵入。従業員・買い物客は避難し、けが人は発生しなかった。当該クマ個体は駆除された。 |
出典:各種報道をもとに弊社作成
また、クマによる農作物被害も一定数確認されている。2020年以降の被害状況をみると、被害面積・被害金額ともに2023年に急激な上昇がみられた。
図2 クマによる農作物被害(被害面積・被害金額)

出典:農林水産省発表[2]をもとに弊社作成
人の生活圏でクマの出没が増加した背景として、個体数の増加とともに、人の生活圏周辺がクマに適した生息環境に変化しつつあることが指摘されている[3]。
個体数の増加については、絶滅が危惧されていたクマ個体の保護が、行政によって推進されたことが一因である。北海道では、1989年度に「春グマ駆除(冬眠中・冬眠明けのクマの狩猟)」が、ヒグマの個体数減少を背景に廃止されたのを機に、個体数の増加・分布の拡大がみられている。また本州の多くの地域では、特定鳥獣保護管理計画制度が1999年度に創設され、それ以降ツキノワグマの個体数の増加が推定されている[4]。
またクマ個体数の増加には、狩猟に従事する人口の減少が指摘されている。
狩猟者数の傾向として、狩猟免状(免許)の取得者数は2020年にかけて増加傾向にあるが、狩猟登録証の交付数は減少している。2015年の狩猟登録証交付数は47,264件だったが、2021年では36,074件と、6年間にわたって約24%交付数が減少している。
狩猟を実施するには免状を取得しているだけでなく、狩猟を実施する自治体に「狩猟者登録」を申請しなければならない。狩猟登録証交付数の減少から、実際に狩猟を実施する人口は減少していることが分かる。
図3 狩猟免状交付者数・狩猟登録証交付者数

出典:環境省発表[5]をもとに弊社作成
生息環境の変化については、人間の生活圏とクマの生息域の緩衝地帯でもあった里山が放置されることにより、クマが生息しやすい環境へと変化している。すなわち、クマの生息域が人の生活圏に接近する事態が生じている。
また、クマの生息地である森林から遠く離れた地域でクマの出没が確認される場合があるが、森林地域から水田地帯へ伸びる回廊上の森林、ススキ等の茂みがある河川等が、クマの侵入経路として機能していることが指摘されている[6]。
人間の生活圏におけるクマの出没には、クマがエサにどの程度アクセスできるかが大きな要因として扱われている。秋のクマはドングリ等の堅果類を主食としており、ドングリが凶作の年にはクマはエサを探索するために行動圏を広げ、標高の低い人間の生活圏まで移動することが指摘されている[7]。市民に注意を呼び掛けるため、森林で生育しているドングリ類の豊凶を周知する自治体も数多く存在する。
一方で、クマが人間の生活圏に現れるのは、ドングリの豊凶に限らず、果実等の魅力的な食糧が存在しているからと指摘する研究[8]もある。本研究では、ドングリが不作の年に人間の生活圏に出没し、有害捕獲されたツキノワグマは、いずれも栄養状態は悪くなかったことが明らかにされている。このことから、栄養状態の悪化ではなく、人間の生活圏に放置されたカキやクリ等の果実に、クマが誘引されていることが示唆されている。
図4 人間の生活圏におけるクマの出没要因

出典:弊社作成
以上を踏まえると、人間の生活圏におけるクマの出没は、様々な要因が重なり合っているために発生していることが分かる。次の節では、これらの要因を踏まえ、どのようなクマ対策が実践されているかに焦点を当てる。
2. 日本と米国のクマ対策
本節では、日本において行政が推進するクマ対策と、同様にハイイログマ(グリズリー)やアメリカグマによるクマ被害が発生している米国で推し進められているクマ対策を解説する。
【日本のクマ対策】
日本では2025年11月14日に、クマ被害対策等に関する関係閣僚会議において、「クマ被害対策パッケージ」を策定した[9]。同パッケージでは複数のクマ対策が提示されており、関係省庁が連携のうえで対策を実行することを確認している。
提示されたクマ対策については、下記表の通りである。
表2 クマ被害対策パッケージの概要

出典:内閣官房発表[9] をもとに弊社作成
クマ出没時の駆除・捕獲の推進に加え、人の生活圏への出没防止・クマに関する情報の発信といった、クマによる人的被害の予防に関する施策が盛り込まれていることが分かる。またクマの個体数の管理やクマ駆除に関する人材の確保が推進され、クマ個体数の増加に対して歯止めをかけようとする意図がみられる。
従来続けられていた取り組みの一つとして、環境省による「クマ類の出没対応マニュアル」の公開が挙げられる[10] 。本マニュアルはクマの出没およびクマによる被害を減少させるために公開されており、地方公共団体の鳥獣行政担当者を対象者として位置付けている。だが、誘引物の管理、環境整備、人身被害防止対策等、民間事業者等も実践できるクマ対策に関しても言及がある。
| 分類 | 事業者が実践できる主なクマ対策(抜粋) |
| 誘引物の管理 |
|
| 環境整備 |
|
| 山林等での 人身被害防止 対策 |
|
出典:環境省 「クマ類の出没対応マニュアル 改定版」[10]をもとに弊社作成
【米国のクマ対策】
米国では、クマを誘引しないように、住民・事業者に対してゴミの管理を義務化している自治体がある。コロラド州コロラドスプリングス市では、特定区域内の住民と事業者に対して、回収日以外はゴミを屋内等の安全な場所に保管するか、クマに攻撃されても破損しない耐性を持つゴミ箱に保管することを、2020年以降、条例によって義務化している[11]。
なおこの条例を制定するにあたり、コロラド州立公園野生動物局(Colorado Parks and Wildlife)が行った調査では、クマ耐性を有するゴミ箱の使用により、クマを誘引する物質を隔離することで、人間とクマの衝突を50%減少できると報告されている。
図5 コロラドスプリングス市がゴミの捨て方を周知する動画

出典:コロラドスプリングス市の投稿動画[12]
以上を踏まえると、クマ対策においては行政に依存する部分はあるものの、事業者が果たすべき役割についても多いことが分かる。特に誘引物の管理(ゴミの管理)については、日米共通で焦点が当てられており、米国コロラドスプリングス市では罰則付きで条例化されていることもあり、個人の責任も強く求められている。
将来的に日本で事業者のゴミ管理に取り決めがなされるかどうか等は不透明であるが、事業者のできる範囲で誘引物の管理を強く意識する必要があるといえる。
3. 事業者が実践できるクマ対策
本節では、クマ被害を予防する・軽減するために、事業者ができる対策をまとめる。事業者としてできることは、「クマ被害を防ぐための平時の対策」と「クマ出没時の対応」の大きく二つに分けられる。また、これらをまとめた以下のような内容を含む「クマ対策マニュアル」を作成することを推奨する。
<クマ対策マニュアルの構成案>
1 目的と適用範囲
1.1 目的
1.2 適用範囲
クマ出没の可能性がある地域に拠点を持つ企業は、本マニュアルを適用する拠点名を明記する。
2 基本方針
● クマを誘引しないよう、平時から環境整備等を実施する。
● クマが出没した場合には、事前に取り決めた対策を滞りなく実施するよう心掛ける。
● 出没した場合に備えて、平時から教育・訓練を実施する。
3 平時の対策
3.1 環境管理
● 敷地周辺の林縁部や山林に接する場所では、雑草(下草や灌木)を定期的に刈り払い、見通しの良い環境を維持する。
● クマの侵入が想定される場所には電気柵を設置し、センサー感知により音声や光で威嚇する鳥獣害防除機器等を設置する。
3.2 誘引物の管理
● 生ゴミ、残飯、廃油等は、回収日まで必ず屋内で保管する。屋外に保管する場合、クマが開けられない構造のゴミ箱やコンテナを使用する。
● 有機肥料、油かす、農作物残渣、またガソリンや混合油等の燃料、ペンキ等の塗料もクマを誘引する可能性があるため、屋内で保管する。
● 敷地内の果樹(カキ、クリ等)は、不要なものは伐採するようにする。
3.3 施設・設備の管理
● 事務所、倉庫等、建物の戸締りを徹底する。
● ドアは開放したままにせず、開けたら閉めることを徹底する。
3.4 屋外活動時の注意事項
● 屋外作業時には、クマ鈴・ラジオ・ホイッスル等、音で人の存在を知らせる道具を携行する。
● 獣除け線香等の忌避剤を活用する。
● クマが人の存在に気づきやすくなるように、単独行動は避けて、複数人で活動する。
● 見通しが悪い岩陰や倒木等がある場合は、立ち止まって安全を確認する。
● クマ撃退スプレーを携帯する。
3.5 情報収集・連絡体制の確立
● 自治体から発信されるクマ出没注意報・ドングリ類の凶作情報等を得た場合、上記の予防策を再確認する。
● 社内での情報共有をスムーズにするため、連絡体制図や、外部の連絡先リスト(警察や自治体担当部署)をあらかじめ作成する。
3.6 来客者対応の準備
● 来客者にインバウンド向けに各言語でクマが出没した旨を共有できるよう、事前にスクリプトを作成する。
● クマ出没時に来客者の安全を確保する行動を取るよう、従業員に事前に共有する。
4 クマ出没時の対応
4.1 連絡体制
● クマを目撃した際は、出没・目撃した場所と時間に加え、個体の特徴と行動を警察・自治体に迅速に共有する。
● クマ出没情報を入手した際は、社内に共有・注意喚起を実施する。
4.2 遭遇時の安全確保
● 屋外でクマを目撃した場合、背中を見せて逃げ出さずに後退して立ち去るようにする。
● 至近距離で遭遇した場合はうつ伏せになりながら両腕で頭部を覆い、手で首の後ろを防御する姿勢を取るよう努める。
4.3 出没情報を把握した際の安全確保
● 屋外作業は中断し、従業員を安全な屋内に退避させる。
● 全ての出入り口の施錠を確認する。
● 自動ドア等は電源を切り、手動での開閉に切り替える。
● 出没場所が近い場合、来客者に屋内に退避するよう呼びかけ、避難場所を提供する。
● 屋内にクマが入り込んでしまった場合は直ちに建物内から退避し、警察・自治体に通報する。
4.4 来客者への注意喚起
● 来客者を屋内に誘導し、避難場所を提供する。
● クマが出没した情報(場所・日時)を、来客者に共有する。
5 教育・訓練
5.1 クマ遭遇時に備えた訓練
クマとの距離の取り方、撃退スプレーの使い方、防御姿勢の取り方を習得する。
5.2 施設での安全確保訓練
クマ出没時の施錠、来客者の安全確保等の手順を確認する。
4.まとめ
本稿では、クマ被害の現状を概観したのち、クマ対策として事業者ができることを整理した。
クマ被害による痛ましい人身事故が相次ぎ、クマ対策に関心が高まっているなかで、事業者は行政のクマ対策に依存するだけでなく、自らでクマ被害を予防する取り組みが求められている。
従業員・来客者の命を守る取り組みを実践するうえで、本稿がクマ対策の策定の一助となれば幸いである。
参考情報
執筆コンサルタント
市川 太郎
ビジネスリスク本部 研究員
専門分野:リスクマネジメント
脚注
| [1] | 環境省 「クマに関する各種情報・取組」 https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/effort12.html. |
| [2] | 農林水産省 「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和6年度)」 https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/index.html. |
| [3] | 環境省 クマ類保護及び管理に関する検討会 「クマ類による被害防止に向けた対策方針 クマとの軋轢の低減に向けた、人とクマのすみ分けの推進」(2024年2月8日) |
| [4] | 環境省 クマ類保護及び管理に関する検討会 「クマ類による被害防止に向けた対策方針 クマとの軋轢の低減に向けた、人とクマのすみ分けの推進」(2024年2月8日) |
| [5] | 環境省 「鳥獣関係統計」 https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs2.html. |
| [6] | 独立行政法人森林総合研究所 「ツキノワグマ大量出没の原因を探り、出没を予測する」(2011年2月) |
| [7] | 独立行政法人森林総合研究所 「ツキノワグマ大量出没の原因を探り、出没を予測する」(2011年2月)4ページ。 |
| [8] | 東京農工大学 「クマのボディメンテナンス術 1年間の脂肪蓄積量の変動から見たツキノワグマの栄養戦略」(2026年1月) https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2025/20260105_01.html. |
| [9] | 内閣官房 クマ被害対策等に関する関係閣僚会議 「クマ被害対策パッケージ」 (2025年11月14日) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kumahigai_taisaku/pdf/countermeasure.pdf. |
| [10] | 環境省 「クマ類の出没対応マニュアル 改定版」 https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-4a/index.html. |
| [11] | City of Colorado Springs, “Bear Management and Resistant Trash Ordinance,” https://coloradosprings.gov/bears. |
| [12] | City of Colorado Springs, “Be Bear Smart: bear resistant trash can ordinance,” https://www.youtube.com/watch?v=6yiIEnPLKnA. |
