店舗を標的とした強盗事件の現状と、企業が取るべき対策

Tokio dR-EYE

2025/12/15

目次

  1. 店舗を標的とした強盗事件の現状と今後の展望
  2. 店舗を標的とした強盗事件の事例
  3. 企業が取るべき対策
  4. 万が一強盗に遭遇してしまったら
  5. 終わりに

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執筆コンサルタント

矢島 由理恵
ビジネスリスク本部 主任研究員
専門分野:危機管理

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八代 慈瑛
ビジネスリスク本部 研究員
専門分野:危機管理

1.店舗を標的とした強盗事件の現状と今後の展望

(1) 強盗の概況

2023年、2024年と店舗に対する強盗事件が続発し、メディアでも大きく取り上げられた。侵入強盗(建物に侵入して行われる強盗事件の類型)の認知件数について、過去10年の発生件数を整理した警察庁の統計をグラフ化したものが以下である。

図表1 侵入強盗の認知件数(2015~2024年)
(出典:警察庁「令和6年の刑法犯に関する統計資料」より弊社作成)

侵入強盗全体の認知件数は、2021年まで減少していたが2022年を底に増加に転じ、2024年時点でも2021年の件数を上回っていることがわかる。店舗強盗に限った場合でも、同様の傾向がみられる。店舗への強盗について、警察白書では2024年8月以降に関東地方を中心に相次いで発生した「SNS等で実行犯を募集する手口による連続強盗等事件」[1]に言及、「防犯カメラの増設が必要な場所を整理するなど、地域防犯力の強化に向けた取組を行っている」としており、治安当局も本件を脅威と認識していることがうかがえる。

(2) 近年の店舗における強盗の特徴

SNS等で実行犯を募集する手口による連続強盗等事件」で言及されている強盗の手法がいわゆる「闇バイト」型強盗である。「闇バイト」は匿名・流動型犯罪グループと呼称される犯罪集団が特殊詐欺、悪質なリフォーム業、風俗店に関するスカウトといった案件を実施する際に、必要となる人的リソースをSNS上で募集する手法であるが、その一端として「闇バイト」で募集した人員を使った強盗・窃盗が組織的かつ連続して実行された。

「闇バイト」型強盗の特徴として、第一に、ターゲットとなる店舗の特性がある。「闇バイト」型強盗では自動車で店舗まで移動、ショーケースを破壊し高単価の商材を短時間で持ち去るスマッシュ&グラブ型の手法がとられる。そのため、宝飾品や腕時計といった換金性の高い高価な商材が店先に陳列されており、かつ道路に面している店舗が標的とされやすい。

第二の特徴として、犯行の荒さがある。以下のグラフは強盗事件に伴う身体犯の認知件数(負傷者・死者が出た件数)の推移を示したものであるが、2021年以降増加している。事件毎にSNS等で実行役を募集することから、犯罪に慣れていない人間が実行役となることで、杜撰かつ拙い犯行が行われ怪我人が出る事例が増えている。

図表2 強盗事件に伴う身体犯の認知件数(2015~2024年)
(出典:警察庁「令和6年の刑法犯に関する統計資料」より弊社作成)

第三の特徴として、犯行を計画した全ての人員を逮捕することが難しい点が挙げられる。匿名性の高い指示役がテレグラム等の秘匿性の高い通信手段を経由して使い捨ての実行役に指示を出す犯行手法から、警察の検挙率も低下している。2021年には侵入強盗事案の検挙率は99.7%であったが、2023年には91.5%まで低下した[2]

匿名・流動型犯罪グループによる2023年・2024年の連続強盗事件やオンライン詐欺の増加を受け、警察庁は対策を強化してきた。見回りや防犯指導の強化、啓発活動に留まらず、警察庁における匿名・流動型犯罪グループ情報分析室設置、「仮装身分捜査実施要領」の整備といった対策強化を行っており、その結果、首相官邸の発表では緊急対策の決定後に「闇バイト」の募集情報件数は減少した[3]

しかし、対策の強化に伴い、匿名・流動型犯罪グループによる「闇バイト」募集の潜在化・偽装化が進んだとの報告もある。今後新たな手法を用いた強盗が短期間に連続して発生する可能性もあり、引き続き警戒が必要である。

2.店舗を標的とした強盗事件の事例

前章では統計の側面から近年の店舗強盗の傾向について分析したが、本章では特徴的な実事例を取り上げる。

事例①:東京都中央区銀座8丁目・高級時計店強盗(闇バイト)

2023年5月、銀座の高級腕時計店に仮面を装着した3人組が押し入り、店員に刃物を突きつけ脅迫、ショーケースをバールで壊して多数の腕時計を奪取したのち、車両にて逃走した。警察による追跡の結果、実行犯(3名とも1819歳)の全員が逮捕され盗まれた腕時計もほぼすべて回収された。店員・客にけが人は無かった。

①実行役が若年②店舗(高級時計)をターゲットにしたスマッシュ&グラブ型の犯行③車両の使用、という点で典型的な「闇バイト」型強盗と言える。

事例②:神奈川県鎌倉市・質店強盗事件(闇バイト)

20249月、鎌倉市の質店に帽子にマスク姿の2人組が侵入。1名は即座にバールでショーケースを破壊したが、もう1名については破壊を躊躇している間に店員が取り押さえた。ショーケースを破壊した1名は腕時計数点を持って逃走した。実行役は29歳と21歳の男性、逃走車両の運転手は21歳の男性であり、全員「闇バイト」に応募し犯行に及んだことが判明した。

この事件は20248月以降に発生したいわゆる「首都圏連続強盗事件」のうちの1件であり、全体で約20件の強盗事件が発生した。匿名・流動型犯罪グループによる組織的な犯行とされている。

事例③:大阪府大阪市中央区・貴金属店強盗殺人事件(外国人による強盗)

2024年8月、大阪市中央区の心斎橋にて、貴金属店に中国人男性が入店。販売価格約6,000万円の腕時計を奪ったのち、逃走を阻止しようとした店員を刺殺して逃亡。犯人は犯行後速やかに特急電車に乗り、関西国際空港に向かったが、国際線出発フロア付近にて警察官に緊急逮捕された。

本件は「闇バイト」型強盗ではないが、短時間で貴金属店を襲い、荒い手口から死者を出している点等、共通点も見られる。外国人犯罪の検挙件数は2023年、2024年と連続で増加しており、2024年には前年比20.5%増となった[4]。「闇バイト」型以外の強盗についても今後増加していく可能性があり、強盗への備えを強化していく必要がある。

3.企業が取るべき対策

前述の状況を踏まえ、店舗を持つ企業においては、改めて強盗に対する対策を実施・徹底することが求められる。本章では、企業が店舗において取るべき対策を(1)物理的対策、(2)ソフト対策に大別して概説する。

(1) 物理的対策

いわゆる防犯カメラ(CCTV)や防犯ガラス、非常用通報ボタン等が該当する。これまでの強盗事件における防犯カメラの映像から、強盗は多くの場合事前に下見を行っていることが分かっており[5]、物理的対策を施すことは“犯罪対策をしている店舗”であることを示すことによる強盗発生の抑止力にもなり得る。

ここでは、基本警戒線(図表3参照)ごとに取るべき物理的対策を図表4にまとめている。

参考:基本警戒線とは

「警戒対象物を警戒するに際して基本的に定められた防御ラインとしての警戒範囲(場所)」[6]を意味する。警戒線は第1警戒線から第4警戒線まであり、それぞれの内容は図表3の通り。

図表3 基本警戒線
(出典:公益社団法人日本防犯設備協会“日本防犯設備協会技術標準SES E 7003-4 基本警戒線の設定”(2022年3月1日改正)をもとに弊社作成)

店舗の外である第1警戒線から順に、各警戒線で実施するべき対策は図表4の通り。

図表4 警戒線ごとに取るべき対策
警戒線 概要 対策例
第1警戒線 強盗を発生させないためには、不審者の接近の早期検知が重要となる。また、強盗が発生してしまった場合には、犯人確保のために犯人に関する記録やその逃走方法・ルートを記録することが望ましい。
  • CCTVによる以下の記録
    • 入店者
    • (強盗が発生してしまった場合)逃走車、逃走ルート
  • (駐車場がある場合)ゲートの設置
  • 警備員による巡回
  • センサーライトの設置
第2警戒線 第1警戒線を突破された場合でも、第2警戒線での対策により店舗への不審者の突入の抑止・防止が可能である。また不審者が突入した場合も、第2警戒線での対策によって即時通報による警察の到着を早める他、それに伴う被害拡大の防止が可能となる。
  • 窓やドアへの防犯ガラスの使用、防犯フィルムの貼付
  • 窓への面格子の設置
  • シャッターの設置
  • ガラス破壊センサーの設置
  • 自動ドアの遠隔ロック
  • 出入口への警備員・ドアマンの配置
  • CCTVによる以下の記録
    • 入店者
第3警戒線 第3警戒線からは実際に不審者が店舗へ突入してきた際の対策となる。ここでも第2警戒線と同様、早期通報によって警察の到着を早める他、それに伴う被害拡大の防止が可能となる。強盗が発生してしまった場合には、犯人確保のための犯人に関する記録や犯行手口の記録が求められる。
  • CCTVによる犯行の記録
  • 警報・非常用通報ボタンの設置
  • 防犯用カラースプレー、カラーボールの準備
第4警戒線 商品や金庫を守る他、従業員・お客様の生命を守るための対策が求められる。
  • ショーケースのガラスに割れにくいものを使用
  • ショーケースにガラス破壊センサーを設置
  • 避難部屋の用意
  • 防犯性の高い金庫の設置
  • 高強度のドアの設置
  • 防犯性の高い鍵の取り付け
  • 警報・非常用通報ボタンの設置

(出典:弊社作成)

(2) ソフト対策

ソフト対策としては、マニュアルの作成の他、教育・訓練の実施が考えられる。それぞれの内容は図表5の通り。企業においては、マニュアルの作成と店舗への配布や、定期的な教育・訓練の企画・実施をすることが求められる。加えて、店舗においては図表6のような日頃からの備えも行い、強盗が発生しにくい環境を作ることが重要である。

図表5 マニュアル作成、教育・訓練
対策 概要
マニュアル作成 日頃からの備えや、万が一強盗に遭遇してしまった場合の対応について整理し、従業員へ配布する。(日頃からの備えや万が一強盗に遭遇してしまった場合の対応については後述。)
店内の防犯設備や、非常用通報ボタンの使用方法についても記載しておくことが望ましい。
教育・訓練 店舗における被害事例の共有の他、マニュアルの読み合わせや内容の紹介といった教育を実施する。
実際に強盗が来た状況をシミュレーションし、マニュアルの対応要領を模擬する実働訓練も、従業員の対応力向上に有用である。

(出典:弊社作成)

物理的対策の実施や各種防犯設備の点検等、日頃からの備えは多々あるが、以下に主な備えを例示する。

図表6 日頃からの備え(例)
日頃からの備え 概要
不審者への警戒 既述の通り、強盗は事前に下見をしている可能性が高いことから、店舗においては強盗実施前時点で不審者を検知し対策を強化することが望ましい。
不審な人物を発見した場合には、店長への報告や警備員の増強といった対策が求められる。
【不審な人物の特徴例】
  • 商品を購入する雰囲気がない
  • 店員の人数を確認している様子がうかがえる
  • 天井を眺め、CCTVの配置を確認している
  • 店員や警備員の配置や現金の扱い等、商品購入に関係ないことを聞いてくる
  • 不自然な服装をしている
  • 店の周辺を徘徊している
レジや金庫における注意 コンビニや小規模店舗等で強盗の対象となりやすいのが現金である。万が一強盗が発生しても被害を最小限に抑えるため、以下のような対策が求められる。
  • レジの中の現金は必要最低限とする
  • 現金はなるべく金庫で保管し、目立たない場所に設置する
  • 金庫を壁や床に固定する
  • 金庫の鍵は防犯性の高いものにし、保管・管理は店長等限られた人員が行う
  • 従業員・元従業員による犯行の可能性も考慮し、金庫の暗証番号等は定期的に変更する
高級商品の取り扱いの注意 高級商品を取り扱う店舗の場合は、商品が強盗の対象となる。高級商品を陳列する棚やショーケースでの対策の他、接客の段階での対策が求められる。
  • ショーケースは常時施錠し必要な時のみ開錠する
  • 高級商品付近には従業員や警備員を配置する
  • 陳列棚にはサンプル品やダミー品を置く
  • 閉店後は高級商品を金庫へ移す
  • 接客時に高級商品を取り出す場合は必要最低限のみを取り出し、ひったくられないように注意を怠らない

(出典:弊社作成)

4.万が一強盗に遭遇してしまったら

強盗に遭遇してしまった場合には、人命第一(抵抗しない、指示に従う)を原則とする。強盗は金や商品の強奪が目的のため、抵抗しなければ怪我を負わせる可能性は少ないが、抵抗したり、無理に追いかけたりすると、最悪の場合、2章の事例③のように、犯人によって命を奪われる可能性がある。

以上を前提に、強盗に遭遇してしまった場合には犯人の特徴(見た目の年齢、性別、体格、服装、所持品、髪型、態度)や逃走車両の特徴(車種、色、型、ナンバー等)*について記憶することに努め、警察へ通報しわかる範囲で詳細に情報を伝えることが肝要である。

*車を無理に追いかけることはしない。

参考:訓練の実施

強盗に遭遇してしまった場合の対応をマニュアルで定めたとしても、事前にシミュレーションをしていなければ実際にその通りの対応をすることは難しいものである。そこで、マニュアルを作成している店舗においてはぜひ強盗の発生を想定したシミュ
レーション訓練を実施していただきたい。
例えば弊社にて提供している訓練メニューの概要は以下の通り。
目的 店舗における強盗発生時の従業員等の対応力向上
訓練対象者 店舗従業員(アルバイトや警備員の参加も可)
訓練概要 実店舗において強盗が発生したことを想定。 実際に強盗が発生した場合の想定シナリオに沿い、訓練対象者は強盗の突入~逃走後のプロセスを模擬する。
所要時間 約60分
備考 訓練では、弊社が強盗役、観察、講評を実施
(左図は弊社が訓練を支援した際の強盗役の様子)

5.終わりに

1章にて記載の通り、店舗における強盗は昨今増加の傾向にあり、発生してしまった場合には、商品への損害が発生するだけでなく、従業員やお客様の人命が危険にさらされることになる。企業・店舗においては、強盗が起こりにくい環境を整え、発生してしまった場合にも人命が守られるような対策をしておくことが望ましい。本稿が皆様の店舗における強盗対策の検討・実施の一助となれば幸いである。

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参考情報

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矢島 由理恵
ビジネスリスク本部 主任研究員
専門分野:危機管理

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脚注

[1] 国家公安委員会・警察庁「令和7年版 警察白書」(2025年7月)、65頁。
[2] 同上
[3] 首相官邸「「いわゆる「闇バイト」による強盗事件等から国民の生命・財産を守るための緊急対策」(令和6年12月17日犯罪対策閣僚会議決定)に基づく取組状況」(2025年3月)
[4] 国家公安委員会・警察庁「令和7年版 警察白書」(2025年7月)、145頁。
[5] 第25回日本防犯設備協会特別セミナー『変わる犯罪情勢への対応 講演1強盗などの犯罪情勢と防犯対策』より。
[6] 公益社団法人日本防犯設備協会“日本防犯設備協会技術標準SES E 0001-7 防犯に関する用語”(2022年3月1日改正)より引用。

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