業務前自動点呼の解禁

  • 交通リスク

リスクマネジメント最前線

2025/11/20

目次

  1. 運行管理の高度化
  2. 業務前自動点呼の解禁
  3. 運送事業者に具体的に求められる対応
  4. 持続可能な運送事業に向けて

業務前自動点呼の解禁- リスクマネジメント最前線PDF

執筆コンサルタント

立石 慧
運輸・モビリティ本部 第二ユニット 主任研究員
専門分野:交通事故リスク

 

運送業界から大きな期待が寄せられていた業務前自動点呼がついにスタートした。国土交通省は2025年4月30日に「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示の一部を改正する告示」[1](以下『改正点呼告示』)を公布・施行した。これにより、運送事業における業務前自動点呼が正式に解禁された。この制度改正は、長年にわたり対面での実施が義務付けられていた業務前点呼を、国土交通省が認定した機器(以下『点呼機器』)を用いることで運行管理者の立会いを不要とするもので、業務効率化に大きく寄与する画期的な変革といえる。本稿では、この業務前自動点呼の解禁に焦点を当て、制度の概要から運送事業者に求められる具体的な対応、さらには、運送事業を持続可能なものとするために荷主となる一般企業が果たすべき役割を解説する。

1. 運行管理の高度化

(1)運送事業における点呼の位置付け

運送事業では運行管理者・補助者・貨物自動車安全管理者(以下『運行管理者等』)が出発前(業務前)と帰着後(業務後)のドライバーに対し、必ず点呼を実施しなければならない。点呼とは運行の安全を確保するために法律によって義務付けられた業務であり、健康状態把握による運行可否判断、安全運行指示等を行う。(図表1)

図表1 運送事業者の点呼のイメージ

出所:東京海上ディーアール作成

ドライバーは事業用車両を業務に使用するため、営業所や車庫への出社が必須となっていることに加え、運行可否を判断する運行管理者等も法令等の定めにより出社してドライバーと対面することが前提となっていた。その理由の一つとして、運行管理者等にはドライバーの健康状態を正しく把握した上で乗務可否を判断することや安全運行に関わる重要な指示を行うこと等が求められるため、対面やそれに準じる形でのコミュニケーションが必要となることが挙げられる。さらに、記録の保存・管理についても、行政はデジタル化の対象範囲を徐々に拡大していたものの、長年にわたりアナログでの保存・管理が習慣化していたこともあり、抜本的な業務効率化にはつながっていなかった。一方、働き方改革の推進や物流の2024年問題等を受け、運送事業にとって業務効率化の推進は急務の課題となっていた。このような運送事業が抱える状況を鑑み、国土交通省は運行管理高度化ワーキンググループ(以下『WG』)を立ち上げた。WGでは、安全を確保した上での業務効率化と運行管理業務の高度化に向けて検討を開始し、運行管理業務の一元化、遠隔点呼の導入、自動点呼の導入を進めることとなった。

(2)運行管理業務の一元化

運行管理業務の一元化とは、営業所ごとに実施していた運行管理業務を、本社や統轄部署、中核営業所等にて集約し、一元的に実施することを指す。こうした対応は一般企業では当たり前のように行われているが、運送事業者には法令等により営業所ごとに運行管理業務を行うことが義務付けられていたため、安全指導担当者や労務管理担当者を営業所ごとに配置しなければならないという課題があった。今般の規制緩和により、ドライバーへの指示や安全指導等を一元的に実施することができることとなり、人員や業務の集約化が可能になった。さらに、記録はデータ(電磁的記録)で一元的に保存・管理することが可能となり、コンプライアンス向上も期待できる。

(3)遠隔点呼

遠隔点呼とは、国土交通省が定めた要件を満たす点呼機器を使用し、いわゆるリモート会議のように、運行管理者等が遠方の車庫や他営業所にいるドライバーに対して点呼を行う制度である(図表2)。従前は同じ営業所に所属している運行管理者等とドライバーで点呼をする必要があったが、遠隔点呼では両者の所属営業所が異なる場合でも点呼を行うことが可能となり、業務の集約化や効率化の面で大きなメリットがある。

図表2 遠隔点呼のイメージ

出所(左):国土交通省、令和6年度第3回「運行管理高度化ワーキンググループ」 資料5より東京海上ディーアール作成
出所(右):東京海上ディーアール作成

(4)自動点呼

自動点呼とは、これまでドライバーと運行管理者等の間で実施していた点呼を、ドライバーと点呼機器で完結する制度である(図表3)。従来、深夜・早朝等のドライバーの出発、帰着が少ない時間帯においても運行管理者等が出社する必要があったが、自動点呼を導入することで非常時を除き出社が必須ではなくなり、人手不足の緩和につながることが期待される。なお、自動点呼については段階的な導入が図られており、まずドライバーが営業所に帰着した際の業務後自動点呼が先行して制度化されていた。その後、WGにおいて運行の安全に関する様々な角度から検証が続けられ、2025年4月に出発前の業務前自動点呼についても制度化が実現した。当社調査によると、実際に自動点呼を導入している運送事業者からは「一人あたり年間200時間以上の運行管理者の労働時間削減につながった」、「運行管理者が自動点呼により空いた時間を他の業務に割り当てられる」、「点呼結果をデジタルに管理できることで記録の抜け漏れがなくなった」といった効果を感じる声が寄せられている。

図表3 自動点呼のイメージ

出所(左):国土交通省、令和6年度第3回「運行管理高度化ワーキンググループ」 資料5より東京海上ディーアール作成
出所(右):東京海上ディーアール撮影

図表4 運行管理業務の一元化、遠隔点呼、自動点呼のまとめ
項目 規制緩和前 規制緩和後
運行管理業務の
一元化
営業所ごとに以下を実施
  • 運行指示
  • 安全指導や労務管理
  • 記録の保存・管理 等
  • 運行指示、安全指導、労務管理等を統括部署にて集約することで効率化できる
  • 記録の保存・管理が一括して行えることで抜け漏れが防止でき、コンプライアンスが向上する
遠隔点呼 営業所や車庫でドライバーと運行管理者等が対面して点呼を実施
  • 所属営業所が異なるドライバーと運行管理者等の間で点呼ができる
  • 点呼を実施する運行管理者等を集約することで効率化できる
自動点呼
  • 運行管理者等の点呼のための出社や深夜の帰着待ち等をなくすことで、労働時間の削減、人手不足が解消できる

出所:東京海上ディーアール作成

2. 業務前自動点呼の解禁

(1)業務前自動点呼とは

ドライバーは一度出発すると事故や体調不良等のトラブルがあっても現地にて一人で対処することが求められる責任の重い職種の一つである。そのため出発前に車両状態や健康状態等を確認する業務前点呼は安全を担保する「最後の機会」として非常に重要な位置付けとなっている。業務前点呼ではドライバーの健康状態や酒気帯びの有無、車両の日常点検結果の確認、天候や渋滞情報等の運行指示を行うことが定められている。一方、運送業界における人手不足が深刻化する中で、業務効率化が期待できる業務前自動点呼の解禁を求める声が一段と高まってきたことを受け、国土交通省ではWG主導のもとで実証実験を進め、2025430日に改正点呼告示を公布、施行した。これにより業務前点呼に関しても、点呼機器を用いることにより、管理者の立会いが不要の自動点呼が制度として実施可能となった。

業務前・業務後共に自動点呼が解禁されたことで、早朝、深夜、休日を問わず運行管理者等が必ず対応しなければならなかった点呼業務の一部もしくは全部を点呼機器で代替することが可能となった。これにより、運行管理者等の負担軽減に加え、点呼記録の保存・管理の確実性等のコンプライアンス向上も期待される。

(2)業務前自動点呼の流れ

点呼の流れは、まず本人確認を行い、健康状態等にかかわる各種チェックを実施し、日常点検結果の登録、当日の運行上の注意事項の伝達という一見シンプルなもの(図表5)だが、輸送の安全を担保するために細かい制約がある。まず、運行管理者等の立会いがなくとも確実にチェックが行えるよう、図表6に示す多くの機器を準備しておく必要がある。健康状態チェックではドライバーの体温および血圧の測定結果を保存するほか、疾病、疲労、睡眠不足といったドライバーからの自己申告を記録する。

図表5 業務前自動点呼の流れ

出所:東京海上ディーアール作成

図表6 業務前自動点呼に必要な各種機器

出所:株式会社ナブアシスト保有の機材より東京海上ディーアール作成

(3)業務前自動点呼のメリットと懸念点

業務前自動点呼の導入は、運送事業者にとって様々なメリットがある。業務前自動点呼の解禁に先立ち、国土交通省は2023年から先行実施という形で複数の運送事業者に対し実証実験を行った。参加した事業者に対して行ったアンケート(図表7)によると、業務前自動点呼導入のメリットとして、9割以上が「点呼執行者の深夜、早朝、休日の労働時間削減」を挙げており、次いで「点呼の確実性向上」、「健康起因の事故防止」が続いた。自動点呼は運行管理者等の業務負担削減に大きな効果を発揮する点だけでなく、点呼における指示・確認事項の漏れを防止できる点も評価された。

図表7 業務前自動点呼に取り組む意義

出所:国土交通省、令和6年度第3回「運行管理高度化ワーキンググループ」資料2より東京海上ディーアール作成

このように業務前自動点呼は多くのメリットが認められる一方、懸念点もいくつか考えられる。

1点目は非常時の対応体制である。点呼機器により対応可能となるのは平常の点呼だけであり、点呼時に何らかのアクシデント、例えば飲酒検知や機器の故障、業務上のトラブル等が起きた場合には、運行管理者等が現場で対応に当たらなければならない。すなわち運送事業者としては、非常時に運行管理者等が対応できる体制を構築しておかなければならないのが現状だ。そのためには、運行や業務負担を考慮し、各運行管理者等が無理なく、非常時の対応にも当たることができるような体制を事前に整備しておかなければならない。また、こうした体制構築を行うためにも、運送事業者は各々が「自社でどのように自動点呼を推進していきたいのか」という明確なビジョンを持ち、そのビジョン達成に向けて、会社全体を巻き込み対応にあたることが望ましい。

2点目は、健康状態の確認において対面点呼と同等程度の信頼性を担保する手段を確立しなければならないことである。これまで運行管理者等により対面で業務前点呼を行っていた際には、顔色や声の調子等も含めた健康状態の確認を行ってきた。万が一、過労や飲酒、意識消失を伴う疾病等の安全な運転に影響を及ぼす恐れのある健康状態であったことを見落として乗務させた場合には、厳しい行政処分が下されることになる。国土交通省は、業務前自動点呼の制度化にあたって、体温や血圧の定量的なバイタルチェックおよび疾病・疲労・睡眠不足等の自己申告を求めることとした[2]。チェックの結果に異常がみられた場合は、いったん点呼を中断し、運行管理者等による運行可否の判断を行うことで信頼性を担保している。それでも自動点呼における健康状態の確認の信頼性は、運行管理者等による総合的なドライバーの状態観察には及ばないかもしれない。ただし、日々のバイタルチェックと自己申告が制度上求められることによって、ドライバーの健康管理に対する意識が向上するという副次的効果も期待される。

3点目は、点呼の全てを機器に一任することで、運行管理者等とドライバー間で行われていたコミュニケーションの機会が失われることである。しかし、点呼機器を導入している運送事業者においては、むしろ運行管理者等とドライバーとの間で行われるコミュニケーションが質・量の両面で向上した例も見受けられる。定型的な指示伝達事項や確認事項等は機器に任せ、一人ひとりのドライバーに合わせた声掛けや安全指導といった、運行管理者等が対面でとるコミュニケーションに関しては、これまで以上に充実させることが望ましい。

ここまで述べたように、このたび制度化された業務前自動点呼においては様々な懸念があり、未だ発展途上であると言わざるを得ない。しかし、運行管理の高度化が進む以前の運送事業は、国の規制により対面またはそれに準じる形でのコミュニケーションが義務付けられ、あらゆる業務において紙による記録が求められる等、他業界と比べてアナログ的な業務形態であった。そのような業界が、国の制度改正という後押しを受けながら運行管理の高度化を進め、コミュニケーションロボットを基幹業務で活用するという、「ICT化が進んだ業界」へと変貌しつつある。他業界においてもICT化を目指した様々な取り組みがなされているが、ぜひ運送事業のICT化の動きについても参考としていただきたい。

3. 運送事業者に具体的に求められる対応

業務前自動点呼は運送事業者にとって省人化・コンプライアンス強化を見込める非常に強力なツールとなる。しかし業務前自動点呼を導入する上で、運送事業者は以下の様な対応を確実に実施しなければならない。

図表8 業務前自動点呼の導入において求められる対応
段階 項目 主な内容
準備段階 運輸支局への届出
  • 自動点呼実施届出書の作成、提出
  • 運行管理規程の改正届出
実装段階 点呼機器の選定と設置
  • 点呼機器の選定、調達
  • 適切な設置場所の確保と環境整備
環境整備と運用方法策定
  • 自動点呼実施要領、マニュアルの策定
  • 非常時対応手順の明文化
運用段階 運行管理者等の体制構築
  • 運行や業務負担を考慮した体制の整備
ドライバーへの周知徹底
  • 点呼機器の操作研修実施
  • 制度変更の目的・意義の説明

出所:東京海上ディーアール作成

これらの対応は段階的かつ計画的な実施が重要である。導入プロセスは準備段階、実装段階、運用段階の三段階に分けられ、各段階での適切な対応が全体の成功を左右する。

(1)準備段階

準備段階では、法的手続きである運輸支局への届出をシステム導入前に行う。届出書の作成には使用を予定している点呼機器の詳細情報、実施場所の環境条件、運用体制の具体的内容等を記載する必要があるため、点呼機器の選定や環境整備の検討と並行して進めなければならない。また、既存の運行管理規程の改正も同時に行い、自動点呼制度に対応した内容に更新することで、法的要件を満たした運用が可能となる。届出の承認には一定期間を要するため、導入スケジュールを逆算して早期に手続きを開始することが重要である。

(2)実装段階

実装段階では、機器の選定並びに環境整備と運用方法の策定を行う。自動点呼を行う上では運用上の遵守事項が様々取り決められており、これらを守ることで初めてその効果を発揮できることに留意しなければならない。機器の選定では事業所の規模や運用形態に適した点呼機器を選択し、適切な設置環境を整備することで、システムの安定稼働を確保できる。また設置環境では、適切な照明条件、安定した通信環境等を考慮し、機器の性能を最大限発揮できる条件を整備する。点呼記録データの法定保存期間は1年と定められているため、適切な保存・管理体制を構築し、法定保存期間内の確実な保管と、監査時の迅速な提出体制を整備しなければならない。

(3)運用段階

運用段階では運行管理者等の体制構築、ドライバーへの周知徹底を行う。制度の適切な運用と安全性の向上を実現するためには、いつでも無理なく運行管理者等が対応できる体制構築とドライバーへの十分な教育を行い、全社員が主体的に運行管理の高度化に取り組んでいかなければならない。例えば教育面では、顔認証やアルコール検知器、体温・血圧測定等の点呼機器を利用する際の手順・操作方法を正確に覚えることができるように、全ドライバーを対象とした点呼機器の操作研修を開催すること等が必要となる。ただし点呼機器を導入するだけでは、課題の根本的解決とはならない。制度を適切に利用できるよう会社が様々なバックアップをすることで初めて、従業員が正しくかつ効率的な運用を行えるようになることを忘れてはならない。

4. 持続可能な運送事業に向けて

業務前自動点呼を含めた運行管理の高度化は、運送事業者だけでなく、例えば自社製品の配送や従業員の移動手段等、様々な場面で運送事業者のサービスを利用する一般企業にも影響をもたらし、サプライチェーン全体の変革を促している。一般企業が運送事業者を選定する際には、自社のレピュテーションリスクの低減、事業継続性の確保、そして何より社員の命を守るために、単に価格だけでなく、輸送の安全への取り組み状況や姿勢を勘案して判断することが重要である。

運送事業者はこれまで貨物自動車運送事業安全性評価事業(以下『Gマーク』)や貸切バス事業者安全性評価認定制度(以下『SAFETY BUS』)等での認証取得を通じて、安全に対する取り組みや法令遵守に関する姿勢を示し、事業者の安全性や信頼性を客観的に証明してきた。運行管理の高度化への取り組みも、昨今の人手不足が深刻化する中で、業務効率化を図りながら輸送の安全への取り組みを推進していることを示すものであり、一般企業における事業者選定の判断基準になり得る。GマークやSAFETY BUS等の各種認証の取得状況、働き方改革や運行管理の高度化への取り組み状況、安全教育の実施体制等を判断材料とすることで、より安全で信頼性の高い輸送サービスを選択できるようになる。

運行管理の高度化は運送事業における安全性向上と効率化に寄与する重要な取り組みである一方、運送事業者による努力だけでは限界がある。運送事業者による取り組みに加え、一般企業が荷主として、運送事業における課題解決に向けた努力を行わなければならない。令和65月には「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」が成立し、荷主・物流事業者間の商慣行を見直し、荷待ち・荷役等時間の削減や積載効率の向上等、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課している[3]

運送事業者における運行管理の高度化という技術革新と、一般企業が主体的に取り組むべき商慣行の見直しという制度改革が両輪となって初めて、真に持続可能で効率的なサプライチェーンを構築することができる。

今後も技術革新と制度改革が進む中で、運送事業の根幹である輸送の安全確保と業務効率化の両立に向け、当社は運送事業者への継続的な支援を展開していく予定である。

[20251120日発行]

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立石 慧
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専門分野:交通事故リスク

脚注

[1]

国土交通省、国土交通省告示第347号、2025年4月30日

[2]

国土交通省令和6年度第3回運行管理高度化ワーキンググループ、「業務前自動点呼の制度化に向けた 最終とりまとめについて 資料2」、2024年3月3日

[3]

経済産業省、「物流効率化法について」、2025年10月23日
(https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/butsuryu-kouritsuka.html)

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