育児休業制度の創設・改正等に伴う企業への影響

  • 経営・マネジメント

リスクマネジメント最前線

2022/3/25

目次

  1. 改正育児・介護休業法の内容
  2. 次世代育成支援対策推進法の省令の改正(くるみん認定等の認定基準改正等)
  3. 女性活躍推進法の改正
  4. 女性活躍推進企業データベース 登録情報の集計・分析
  5. おわりに

育児休業制度の創設・改正等に伴う企業への影響- リスクマネジメント最前線PDF

執筆コンサルタント

関本 高史
製品安全・環境本部 CSR 環境ユニット 上級主任研究員
専門分野:人事労務、WLB 等

柳川 美保
製品安全・環境本部 CSR 環境ユニット 主任研究員
専門分野:人事労務、WLB 等

 

育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法省令および女性活躍推進法が改正され、2022 年 4 月(以降)に施行される。本稿では、企業の雇用環境整備や人事労務管理に影響を与える、これら法改正の内容と企業の対応について解説するとともに、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」の登録内容を集計・分析し、企業の現状について考察する。 

1. 改正育児・介護休業法の内容

2021 年 6 月に成立し、2022 年 4 月 1 日から順次施行される改正育児・介護休業法においては、男性の育児休業取得促進を目的とした新たな育児休業制度が創設され、また企業の実施義務規定が設けられるなど、企業に大きな影響がある。改正育児・介護休業法は 3 段階で施行されるため、施行の順に、その内容と企業が対応する際の留意点について解説する。

(1)雇用環境整備、個別周知・意向確認(2022 年 4 月 1 日施行)

□育児休業を取得しやすい雇用環境整備

育児休業を取得しやすい雇用環境の整備が事業主に義務付けられる。具体的には、実施すべき事項として次ページ表 1 の 4 点が挙がっており、いずれかの実施が必要である。なお、少なくとも 1 項目の実施が必要であるが、指針[1] 六の二 においては、「複数の措置を講ずることが望ましい」とされている。

なお、雇用環境の整備は、男性だけでなく男女を問わず対象として実施することが必要である(Q&A[2] Q3-3)。また、雇用環境整備にあたっては、1か月以上の長期休業の取得を希望する労働者が、希望する期間の休業を申出し取得できるよう、事業主の配慮が必要であるとされている。 

表 1 雇用環境整備として実施すべき事項
No. 項目 概要
1 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施 研修は、全労働者を対象とすることが望ましいが、少なくとも管理職については、研修を受けたことがある状態にすることが必要。
2 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等(相談窓口設置) 相談窓口の設置や相談対応者を置き、これを周知することを意味する。窓口を形式的に設けるだけでなく、実質的に対応が可能な窓口が設けられていることが必要であり、また、労働者に対する窓口の周知等により、労働者が利用しやすい体制を整備することが必要。
すでに育児休業に関する相談窓口がある場合で、上記の要件を満たす場合には、新たに整備する必要はない(Q&A Q3-4)。
3 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供 自社の育児休業取得事例を収集し、事例が掲載された書類の配付やイントラネットへの掲載等を行い、労働者が閲覧できるようにする。
提供する事例を特定の性別や職種、雇用形態等に偏らせず、可能な限り様々な労働者の事例を収集・提供することにより、特定の者の育児休業の申出を控えさせることに繋がらないように配慮する。
4 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知 育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に関する事業主の方針を記載したものを、事業所内やイントラネットへ掲示する。 
出典:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」[3]をもとに、弊社にて一部表現を修正

ここで、育児期の社員がおらず、また、採用する予定もない企業もあることが考えられる。しかし、育児休業の申出対象となる子には養子縁組等も含まれていることから、特定の年齢層に限らず、幅広い年齢の労働者が育児休業申出を行う可能性がある。また、雇用環境の整備の措置を求めている法律の条項(法 第 22 条)では、義務の対象となる事業主を限定していないことから、育児期の社員の有無に関わらず全ての事業主が雇用環境の整備をする必要があるため、注意が必要である(Q&A Q3-5)。

□妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認

労働者や労働者の配偶者が妊娠・出産した旨等の申出[4]を受けたとき、労働者に対し育児休業制度等を周知し、これらの制度の取得意向を確認するための措置が事業主に義務付けられる。個別周知・意向確認の方法および周知すべき事項として示されている内容は次のとおりである。 

なお、個別周知・意向確認は、事業主またはその委任を受けて権限を行使する者が行うとされている(Q&A Q2-9)。人事部門は、人事労務関連の業務について事業主からの委任があると考えられ、また事業主からの委任があれば、所属部署の上司が行うことでもよいと言える。

表 2 個別周知・意向確認の方法 
No. 項目 備考・参考情報
1 面談 ビデオ通話が可能な情報通信技術を用いたオンラインによる面談も可。ただし、対面で行う場合と同程度の質が確保されることが必要であり、音声のみの通話などは不可(Q&A Q2-10)。
なお、面談の実施内容を記録する義務はないが、面談の場合は、書面交付や電子メールと異なり記録が残らないため、必要に応じて作成することが望ましい(Q&A Q2-11)。
2 書面交付 厚生労働省ホームページに「個別周知・意向確認書記載例」[5]の掲載あり。 
3 FAX  労働者が希望した場合のみ利用可能
4 電子メール
【周知事項】 
a. 育児休業・産後パパ育休に関する制度
b. 育児休業・産後パパ育休の申し出先
c. 育児休業給付に関すること
d. 労働者が育児休業・産後パパ育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い

なお、個別周知・意向確認の実施について、労働者が希望の日から円滑に育児休業を取得することができるように配慮し、適切な時期に実施することが必要とされており、具体的には、以下のような時期が示されている。 

表 3 個別周知・意向確認の実施時期
No. 申出時期 個別周知・意向確認の実施時期
1 出産予定日の1か月半以上前 出産予定日の1か月前まで
2 出産予定日の1か月半前から 1 か月前の間 申出から2週間以内 
3 出産予定日の1か月前から2週間前の間 申出から1週間以内など、できる限り早い時期 
4 出産予定日の2週間前以降 できる限り速やかに
出典:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」[3]をもとに、弊社作成

また、当然のことながら、育児休業の取得を控えさせるような形での個別周知・意向確認は認められない。取得を控えさせるような形での実施の例として、以下のようなものが挙げられている(Q&A Q2-12)。個別周知・意向確認を各部署の管理職に委任するなどの場合には、研修等を実施して不適切な対応とならないように配慮するなどの対応が必要な場合が考えられる。 

  • 取得の申出をしないよう威圧する。
  • 申し出た場合の不利益をほのめかす。
  • 取得の前例がないことをことさらに強調する。 

(2)有期雇用労働者の育児休業取得要件の緩和(2022 年 4 月 1 日施行) 

有期雇用労働者の育児休業の取得要件として以下の事項があったが、このうち a.が撤廃され、b.のみとなる。ただし、労使協定を締結し、なおも上記 a.の要件を継続することも可能である。既存の労使協定で無期雇用労働者(正社員)、有期雇用労働者のいずれについても a.を要件としている場合であっても、法施行後に改めて労使協定を締結することが必要とされている(Q&A Q4-3)。

    1.  引き続き雇用された期間が1年以上
    2. 1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでない

(3)産後パパ育休(出生時育児休業)制度の創設(2022 年 10 月 1 日施行)

□産後パパ育休制度の内容

子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができる、柔軟な育児休業の枠組みが創設される。法律上の名称は「出生時育児休業」であるが、愛称として「産後パパ育休」とも称される。この制度の特徴は以下のとおりである。 

    1. 休業の申出期限については、原則休業の2週間前までである(現行育児休業(1か月前)よりも短縮)。
    2. 2 回に分割して取得できる。
    3. 労使協定を締結している場合に、労働者と事業主の個別合意により、事前に調整した上で休業中に就業することが可能である。

産後パパ育休を通常の育児休業制度と比較すると以下のとおりである。 

表 4 産後パパ育休と通常の育休制度の比較

表 4 産後パパ育休と通常の育休制度の比較

出典:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」[6]をもとに、弊社にて一部表現を修正

※1 産後パパ育休の申出期限は、「原則休業の 2 週間前まで」とされているが、法に上乗せの職場環境の整備等の措置を行い、労使協定で定めることにより、この申出期限を、現行の育児休業と同様に1か月前までとしてよいとされている。この際、実施する必要がある職場環境の整備等の措置は、次の a.~c.のとおりである。
a. 次の措置のうち、2つ以上の措置を講ずること。
 ・雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
 ・育児休業に関する相談体制の整備
 ・雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集及び当該事例の提供
 ・雇用する労働者に対する育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に関する方針の周知
 ・育児休業申出をした労働者の育児休業の取得が円滑に行われるようにするための業務の配分又は人員の配置に係る必要な措置
b. 育児休業の取得に関する定量的な目標[7]を設定し、育児休業の取得の促進に関する方針を周知すること。
c.育児休業申出に関する当該労働者の意向を確認するための措置を講じた上で、その意向を把握するための取組を行うこと。(妊娠・出産の申出があった場合に意向確認を行うことは、この労使協定の締結にかかわらず、法律上の義務である。この「意向を把握するための取組」は、法律上の義務を上回る取組とすることが必要であり、最初の意向確認の後に、返事がないような場合、リマインドを少なくとも 1 回は行うことが必要である(そこで、労働者から「まだ決められない」などの場合は、未定という形での把握でよい)。)

※2 産後パパ育休は 2 回に分割取得できる制度として創設される。通常の育休制度は、現行では分割取得できないが、2022 年 10 月 1 日以降は 2 回に分割して取得することが可能となる。なお、分割取得する場合、通常の育休制度は、取得の際にそれぞれ申し出ることとされているが、産後パパ育休については、初めにまとめて申し出ることが必要である。これは、法律上まとめて申し出ない場合に、事業主は 2 回目の申出を拒むことができるとされているものである。ただし、事業主はこれを拒まないとすることも可能であり、この場合には、2 回目の申出について法定の産後パパ育休を取得することとなる。

※3 産後パパ育休期間中に就業する場合の具体的な手続きの流れは以下のとおりである。
(1)労働者が休業中の就業を希望する場合、産後パパ育休の開始予定日の前日までに以下を申出
 ① 就業可能日
 ② 就業可能日における就業可能な時間帯(所定労働時間内の時間帯に限る)、その他の労働条件
(2)事業主は、(1)の申出があったとき、次に掲げる事項を労働者に速やかに提示
 ① 就業可能日のうち、就業させることを希望する日(就業させることを希望しない場合はその旨
 ② ①の就業させることを希望する日に係る時間帯その他の労働条件
 ※この事業主の提示に対して、休業開始予定日の前日までに労働者が同意を行った範囲内で就業させることができる。
(3)労働者は、(2)で提示された内容について、問題がなければ同意
(4)事業主は、(3)の同意を得た場合は、同意を得た旨と、就業させることとした日時その他の労働条件を労働者に通知
また、休業中の就業日数・時間には上限があり、以下のとおりである。
a. 休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分
b. 休業開始・終了予定日を就業日とする場合は、当該日の所定労働時間数未満

なお、育児休業は労働者の権利であって、その期間の労務提供義務を消滅させる制度であることから、育児休業中は就業しないことが原則である。産後パパ育休期間中の就業については、事業主から労働者に対して就業可能日等の申出を一方的に求めることや、労働者の意に反するような取扱いがなされてはならない。また、産後パパ育休制度に関し、休業中の就業の仕組みについて知らせる際には、育児休業給付及び育児休業期間中の社会保険料免除について、休業中の就業日数によってはその要件を満たさなくなる可能性があることについてもあわせて説明するよう留意する必要がある。 

□産後パパ育休を含む新たな育休制度の取得パターン

育児・介護休業法の改正により、柔軟に育児休業が取得できるようになる。育児休業の取得パターンの例は以下のとおりである。出産直後の期間に取得できる産後パパ育休、通常の育児休業の分割取得、1 歳以降に育児休業を延長する場合に、夫婦で交代するタイミングの柔軟化により、家庭や仕事の事情に応じた取得が可能となる。 

図 1 法改正後の育児休業取得パターン例

図 1 法改正後の育児休業取得パターン例
出典:弊社が厚生労働省委託事業にて制作した「父親の仕事と育児両立読本」より引用

(4)育児休業等[8]の取得の状況の公表義務付け(2023 年 4 月 1 日施行)

常時雇用する労働者数が 1,000 人超の事業主に対し、育児休業等の取得の状況を年 1 回公表することが義務付けられる。具体的には、次のいずれかの取得割合を公表する必要がある。

a. 育児休業等の取得割合

育児休業等の取得割合の計算式

b. 育児休業等と育児目的休暇の取得割合

育児休業等と育児目的休暇の取得割合の計算式

2.次世代育成支援対策推進法の省令の改正(くるみん認定等の認定基準改正等)

今般、次世代育成支援対策推進法の省令改正が行われ、2022 年 4 月からくるみん認定とプラチナくるみん認定の特例認定基準の一部が引き上げられる。また、新たな認定制度である「トライくるみん」、不妊治療と仕事との両立に関する認定制度が創設される。本章では、本省令改正による変更点について解説する。 

(1)くるみん認定の認定基準改正(2022 年 4 月 1 日施行)

くるみん認定の基準改正の主なポイントは、男性の育児休業等の取得に関する基準の引き上げと、男女の育児休業等取得率の公表が必要になることである。改正にともない、くるみん認定のマークも新しくなる。なお、本改正前の基準を前提に取り組んでいる企業のために、経過措置が設けられている。

① 男性の育児休業等の取得に関する基準の改正

表 5 くるみん認定の男性の育児休業等の取得に関する基準改正 
改正前の認定基準 改正後

次の(1)または(2)いずれかを満たしていること

(1) くるみん認定申請のための一般事業主行動計画期間において、男性労働者のうち育児休業等[8] を取得した者の割合が 7%以上

(2) くるみん認定申請のための一般事業主行動計画期間において、男性労働者のうち育児休業等を取得した者及び企業独自の育児を目的とした休暇制度を利用した者の割合が、合わせて 15%以上であり、かつ育児休業等を取得した者が 1 人以上いること。

(1) 10%以上に引き上げ

(2) 20%以上に引き上げ

<労働者数 300 人以下の一般事業主の特例>
計画期間内に男性の育児休業等取得者または企業独自の育児を目的とした休暇制度を利用した者がいない場合

・くるみん認定申請のための一般事業主行動計画期間とその開始前の一定期間(最長3 年間)を合わせて計算した時に、男性の育児休業等取得率が 7%以上であること。

10%以上に引き上げ

出典:厚生労働省「次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、くるみん認定、プラチナくるみん認定を目指しましょう!!!」[11]をもとに弊社作成

② 男女の育児休業取得率等を厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば[12]」で公表することが、新たに認定基準に加わる。

    <くるみん認定に関する経過措置>
  • 2022 年 4 月 1 日から 2024 年 3 月 31 日の間の認定申請は、改正前の男性の育児休業等の取得に関する基準の水準でも認定基準を満たすが、付与されるマークは改正前のくるみんマークとなる。
  • 2022 年 3 月 31 日以前は改正前の基準を前提に取り組んでいるため、男性の育児休業等の取得に関する基準の算出にあたって、2022 年 4 月 1 日以降から一般事業主行動計画の終期までを計画期間とみなし、算出することも可能とする。 

くるみんマークは下記の通り変更になり、改正後の高い認定基準を満たした場合、新しいくるみんマークが付与される。なお、これまで付与されたくるみん認定のマークも引き続き使用することができる。 

改正前のくるみんマーク 新しいくるみんマーク
図 2 改正前後のくるみんマーク
出典:厚生労働省「くるみん認定、プラチナくるみん認定の認定基準等が改正されます!新しい認定制度もスタートします![13]」から弊社作成

(2)プラチナくるみん認定の特例認定基準改正(2022 年 4 月 1 日施行)

プラチナくるみん認定の特例認定基準改正の主なポイントは、男性の育児休業等の取得に関する基準と女性の継続就業に関する基準の引き上げである。プラチナくるみん認定のマークの変更はない。今後申請を検討している企業だけではなく、既にプラチナくるみんを取得している企業についても、特例認定を維持するためには改正後の基準を目指し取り組む必要があるため留意が必要である。ただし、申請及び取消しに関しても経過措置が設けられている。

① 男性の育児休業等の取得に関する基準の改正

表 6 プラチナくるみん認定の男性の育児休業等の取得に関する基準の改正
改正前の特例認定基準  改正後

次の(1)または(2)いずれかを満たしていること
(1) プラチナくるみん認定申請のための一般事業主行動計画期間において、男性労働者のうち育児休業等 8 を取得した者の割合が 13%以上

(2) プラチナくるみん認定申請のための一般事業主行動計画期間において、男性労働者のうち育児休業等を取得した者及び企業独自の育児を目的とした休暇制度を利用した者の割合が、合わせて 30%以上であり、かつ育児休業等を取得した者が 1 人以上いること。

(1) 30%以上に引き上げ

(2) 50%以上に引き上げ

<労働者数 300 人以下の一般事業主の特例>
計画期間内に男性の育児休業等取得者または企業独自の育児を目的とした休暇制度を利用した者がいない場合
・プラチナくるみん認定申請のための一般事業主行動計画期間とその開始前の一定期間(最長 3 年間)を合わせて計算した時に、男性の育児休業等取得率が 13%以上であること。 
30%以上に引き上げ
出典:厚生労働省「次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、くるみん認定、プラチナくるみん認定を目指しましょう!!!」[11] をもとに弊社作成

② 女性の継続就業に関する基準の改正

表 7 女性の継続就業に関する基準の改正
改正前の特例認定基準  改正後

次の(1)または(2)いずれかを満たしていること
(1) 子を出産した女性労働者のうち、子の 1 歳誕生日まで継続して在職(育児休業等 8を利用している者を含む)している者の割合が 90%以上

(2) 子を出産した女性労働者及び子を出産する予定であったが退職した女性労働者の合計数のうち、子の 1 歳誕生日まで継続して在職している者(子の 1 歳誕生日に育児休業等を利用している者を含む)の割合が 55%以上であること。

<労働者数 300 人以下の一般事業主の特例>
プラチナくるみん認定申請のための一般事業主行動計画期間内に(1)(2)いずれも満たさない場合は、計画期間とその開始前の一定期間(最長 3 年間)を合わせて計算可能。 


(1) 変更なし


(2) 70%以上に引き上げ

出典:厚生労働省「次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、くるみん認定、プラチナくるみん認定を目指しましょう!!!」[11] をもとに弊社作成
    <プラチナくるみん認定に関する経過措置>
  • 2022 年 4 月 1 日から 2024 年 3 月 31 日の間の認定申請は、改正前の男性の育児休業等の取得に関する基準や女性の継続就業に関する基準の水準でも認定基準を満たす。
  • 2022 年 3 月 31 日以前は改正前の基準を前提に取り組んでいるため、男性の育児休業等の取得に関する基準や女性の継続就業に関する基準の算出にあたって、2022 年 4 月 1 日以降から一般事業主行動計画の終期までを計画期間とみなし、算出することを可能とする。 
    <プラチナくるみんの認定取消に関する経過措置>
  • プラチナくるみん認定を取得した企業は、認定取得後、厚生労働省「両立支援のひろば」にて、次世代育成支援対策に対する実施状況を公表することが求められている。この公表において、同じ項目において 2 年連続で認定基準を満たさなかった場合に認定取消の対象となるが、今回の認定基準改正においては、公表前事業年度が 2022 年 4 月 1 日から 2023 年 3 月 31 日までを含む場合は、改正前の基準を満たしていれば取消しの対象とはならない。

 (3)新しい認定制度の創設(2022 年 4 月 1 日施行)

くるみん認定、プラチナくるみん認定に加えて、新しい認定制度である「トライくるみん認定」が創設される。また、くるみん認定、プラチナくるみん認定、トライくるみん認定の一類型として、不妊治療と仕事との両立に関する認定制度(くるみんプラス認定、プラチナくるみんプラス認定、トライくるみんプラス認定)が創設される。認定を取得した場合には、それぞれ新しい認定マークが付与される。

  1.  ①トライくるみん認定
    1. 認定基準については、改正前のくるみん認定の基準と同じである。
  1. ②くるみんプラス認定、プラチナくるみんプラス認定、トライくるみんプラス認定
    1. くるみん、プラチナくるみん、トライくるみんの一類型として、不妊治療と仕事を両立しやすい職場環境整備に取り組む企業の認定制度が創設される。当該認定を受けるためには、くるみんの種類に応じた認定基準を満たしていることに加え、以下の 1~4 の全てを満たしていることが求められる。
    2. 既に改正前のくるみん認定、プラチナくるみん認定を受けている企業についても、以下の 1~4 の全てを満たせば、不妊治療と仕事を両立しやすい職場環境整備に取り組む認定を受けることができる。
表 8 不妊治療と仕事を両立しやすい企業認定の認定要件
1 次の①及び②の制度を設けていること。
  1. ① 不妊治療のための休暇制度(多様な目的で利用することができる休暇制度や利用目的を限定しない休暇制度を含み、年次有給休暇は含まない。)
  2. ② 不妊治療のために利用することができる、半日単位・時間単位の年次有給休暇、所定外労働の制限、時差出勤、フレックスタイム制、短時間勤務、テレワークのうちいずれかの制度
2 不妊治療と仕事との両立に関する方針を示し、講じている措置の内容とともに社内に周知していること 
3 不妊治療と仕事との両立に関する研究その他の不妊治療と仕事との両立に関する労働者の理解を促進するための取組が実施されていること
4 不妊治療を受ける労働者からの不妊治療と仕事との両立に関する相談に応じる担当者を選任し、社内に周知していること

※ 不妊治療と仕事を両立しやすい職場環境整備に取り組む企業としてプラチナくるみん認定を受けた企業は、毎年少なくとも 1 回、上記 1 の①不妊治療のための休暇制度の内容、②の制度のうち講じているものの内容、3 の不妊治療と仕事との両立に関する労働者の理解を促進するための取組の内容についても、公表日の前事業年度における状況について「両立支援のひろば [12]」での公表が必要になる。 

トライくるみん認定マーク くるみんプラス認定マーク
図 3 新しく創設されたマーク
出典:厚生労働省「くるみん認定、プラチナくるみん認定の認定基準等が改正されます!新しい認定制度もスタートします![13]」から弊社作成

3.女性活躍推進法の改正

2022 年 4 月 1 日から、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定や情報公表の義務となる企業の範囲が、常時雇用する労働者数 301 人以上から 101 人以上の企業に拡大される。新たに義務対象となる101 人以上~300 人以下の企業には、以下①~④の取組が義務付けられる。

  1. ① 自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析
  2. ② 1 つ以上の数値目標を定めた行動計画の策定、社内周知、公表
  3. ③ 行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出
  4. ④ 女性の活躍に関する 1 項目以上の情報公表(以下の項目から 1 項目以上を選択して公表)
表 9 女性活躍推進法で定められている情報公表項目
女性労働者に対する職業生活に関する
機会の提供
職業生活と家庭生活との両立に資する
雇用環境の整備
  • 採用した労働者に占める女性労働者の割合(区)
  • 男女別の採用における競争倍率(区)
  • 労働者に占める女性労働者の割合(区)(派)
  • 係長級にある者に占める女性労働者の割合
  • 管理職に占める女性労働者の割合
  • 役員に占める女性の割合
  • 男女別の職種又は雇用形態の転換実績(区)(派)
  • 男女別の再雇用又は中途採用の実績
  • 男女の平均継続勤務年数の差異
  • 10 事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
  • 男女別の育児休業取得率(区)
  • 労働者の一月当たりの平均残業時間
  • 労働者の一月当たりの平均残業時間(区)(派)
  • 有給休暇取得率
  • 有給休暇取得率(区)
※ (区)は雇用管理区分ごとに公表を行うことが必要な項目。
※ (派)は労働者派遣の役務の提供を受ける場合には、派遣労働者を含めて公表を行うことが必要な項目。 

情報の内容については、概ね年 1 回以上更新し、いつ時点の情報なのか分かるように公表する必要がある。また、厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」[14]や自社ホームページ等、学生や求職者等が容易に閲覧できる方法で公表することが求められている。 

4. 女性活躍推進企業データベース 登録情報の集計・分析

「女性の活躍推進企業データベース」[14] とは、女性活躍推進法により、常時雇用者数 301 人以上の企業(2022 年 4 月以降は 101 人以上の企業)に義務付けられている、一般事業主行動計画や女性活躍に関する情報の公表の場として、厚生労働省が運営するウェブサイトである。本項では、「女性の活躍推進企業データベース」において 2021 年 12 月 21 日時点で一般事業主行動計画を公表している企業 22,890 社、女性の活躍に関する情報を公表している企業 15,810 社について、主に前述の法改正に関連した情報について集計・分析を行い、考察した。 

□男性の育児休業取得率 

企業の従業員数別に見た男性の育児休業取得率は図 4 のとおりである[15]。前述のとおり、従業員数 1,000 人超の企業に、男性の育児休業等の取得率の公表が義務付けられるが、対象企業の 2 割以上で取得率が 0%となっている(集計期間に配偶者が出産した男性従業員がいない場合も含む)。また、2020 年度の日本における男性の育児休業取得率は 12.65%であるが、同様に対象企業の約半数が平均以下である。法の規定では、あくまでも取得割合の公表のみであり、その数値の高低は問題にならないが、この公表制度により他社比較される機会が増え、取得率が低い企業については、その働きやすさなどについて企業の評価が低下するおそれがある。 

図 4 企業の従業員数規模別 男性の育児休業取得率

図 4 企業の従業員数規模別 男性の育児休業取得率
出典:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」から 2021/12/21 時点で抽出したデータを基に弊社作成

□管理職に占める女性労働者の割合[16]

従業員数規模別の管理職に占める女性労働者の割合は次のとおりである。女性管理職の割合が 0%の企業の割合は、規模が大きくなるほど少なくなる一方で、「0%超 10%未満」の割合は企業規模が大きいほど多くなる傾向がある。ここから、管理職に占める女性の割合を向上させるには、従業員数が多くなるほど多くの女性を管理職に登用する必要があり、企業の対応が難しいことが伺える。

図 5 企業の従業員数規模別 女性管理職率

図 5 企業の従業員数規模別 女性管理職率
出典:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」から 2021/12/21 時点で抽出したデータを基に弊社作成

□くるみん認定取得状況

過去 3 か年度のくるみん認定の取得またはプラチナくるみん認定の取得の状況は次のとおりである(過去 3 か年度にくるみん認定を受け、さらにプラチナくるみん認定を受けた企業については、「プラチナくるみん認定あり」としている。また、「未入力」とは、本データベースに認定の有無の入力なし)。従業員数規模が大きくなるほど、認定取得企業の割合が多く、また、プラチナくるみん認定企業の割合が多い。

前述のとおり 2022 年 4 月よりくるみん認定、プラチナくるみん認定の認定基準が引き上げられるとともに、トライくるみんや不妊治療と仕事との両立に関する認定基準等、新しい認定制度が創設される。既に認定を取得している企業も含め、さらなる積極的な取組が望まれるところである。

図 6 くるみん認定取得状況

図 6 くるみん認定取得状況
出典:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」から 2021/12/21 時点で抽出したデータを基に弊社作成

□平均勤続年数

規模別、男女別の平均勤続年数は、総じて規模が大きいほど勤続年数が長く、女性より男性の方が勤続年数が長い割合が多い。また、業種別に男性の勤続年数を見ると、「電気・ガス・熱供給・水道業」や「金融業」で勤続年数が長い。これら業種の企業は、他の業種に比べて企業規模が大きい企業が多いためであると考えられる。 

図 7 従業員数規模別・男女別平均勤続年数

図 7 従業員数規模別・男女別平均勤続年数
出典:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」から 2021/12/21 時点で抽出したデータを基に弊社作成

図 8 業種別 男性の平均勤続年数

図 8 業種別 男性の平均勤続年数
出典:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」から 2021/12/21 時点で抽出したデータを基に弊社作成

□1 か月当たりの平均残業時間 

1 か月あたりの平均残業時間のうち、「10 時間未満」については、従業員数規模が小さいほど割合が多い傾向にあった。一方で、「10 時間以上 20 時間未満」は従業員数規模が大きいほど割合が多かった。いずれの規模においても、20 時間未満が全体の 3/4 程度、30 時間未満まで広げれば 9 割以上を占めており、平均残業時間は総じて著しく長いわけではない。ただし、これは企業における平均の残業時間であり、一部の労働者の労働時間が長時間となっている可能性もある。また、該当企業数は非常に少ないが、60 時間以上や 70 時間以上となっているような企業もあった。 

図 9 平均残業時間

図 9 平均残業時間
出典:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」から 2021/12/21 時点で抽出したデータを基に弊社作成

□長時間労働是正のための取組

前項で示したように、長時間労働となっている企業は決して多くはないが、データベースには「長時間労働是正のための取組」を自由記述で入力する項目がある。本項目に記載された内容を以下の 21 種類に分類し、実施している取組数を集計した結果を以下に示す。

長時間労働是正のための取組の分類項目

概ね、従業員数規模が大きいほど、取組数が多かった。しかし、前項のとおり、平均残業時間は従業員数規模によらず大きな差はなく、取組数と残業時間の関係は、相関係数は 0.06 であり、有意な相関は見られなかった。規模の小さな企業は、自社に合った取組を取捨選択して実施し、効率よく効果を上げていると言えるかもしれない。

図 10 長時間労働是正のための取組数

図 10 長時間労働是正のための取組数
出典:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」から 2021/12/21 時点で抽出したデータを基に弊社作成

5.おわりに 

本稿では、育児・介護休業法をはじめとした法改正の内容について解説し、企業の対応における留意点について述べた。

これら法改正などの影響により、企業の働きやすさや福利厚生制度の充実度、制度の利用しやすさなどについて注目が高まっており、特に就職活動を行う学生にとっては、企業選びの重要な項目の一つとなっている。こういった取組を積極的に進める企業では、「国や自治体による表彰を受けたことで、企業の認知度が高まり、採用活動時の応募が増加した」などといった声も聞く。また、「働きやすい会社にすることは、『コストがかかるもの』ではなく、重要な経営戦略の一つだ」という企業経営者もいる。

これら法対応をきっかけに、本稿が貴社の働きやすい職場づくりの取組への一助となれば幸いである。

[2022 年 3 月 25 日発行] 

参考情報

執筆コンサルタント

関本 高史
製品安全・環境本部 CSR 環境ユニット 上級主任研究員
専門分野:人事労務、WLB 等

柳川 美保
製品安全・環境本部 CSR 環境ユニット 主任研究員
専門分野:人事労務、WLB 等

脚注

[1] 「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851175.pdf
[2] 厚生労働省「令和3年改正育児・介護休業法に関する Q&A」(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000860549.pdf
[3]  厚生労働省「育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~」(2021 年 11 月 30 日更新)(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf
[4] 法令では、申出方法を限定していない。事業主において特段の定めがない場合には、口頭でも申出は可能である。事業主が申出方法を指定する場合は、申出方法をあらかじめ明らかにすることが必要である。また、仮に指定された方法によらない申出があった場合でも、必要な内容が伝わるものである限り、個別周知・意向確認の措置を実施する必要がある(Q&A Q2-7)。また、申出に際して、母子手帳等の証明書の提出を求め、本人が任意で提出することは可能である。ただし、その提出を労働者が拒んだ場合でも、申出自体の効力には影響はないとされている(Q&A Q2-8)。そのため、証明書が提出されない場合でも、個別周知・意向確認の措置は必要となる。
[5] 厚生労働省「個別周知・意向確認書記載例」(https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000852934.doc
[6] 厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf
[7] 定量的な目標とは、数値目標であり、法で定める育休取得率のほか、企業独自の育児目的休暇制度を含めた取得率を設定することも可。少なくとも男性の取得状況に関する目標を設定することが必要である。
[8] ここでいう「育児休業等」とは、以下の休業等が該当する。
a. 育児・介護休業法第2条第1号に規定する育児休業
b. 育児・介護休業法第 23 条第2項(所定労働時間の短縮の代替措置として3歳未満の子を育てる労働者が対象となる、育児休業制度に準ずる措置または子を養育することを容易にするための措置(始業時刻変更等の措置))
c. 育児・介護休業法第 24 条第1項(小学校就学前の子を育てる労働者に関する努力義務)の規定に基づく措置として、育児休業に関する制度に準ずる措置が講じられた場合の当該措置により取得する休業
[9] 公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度。
[10] 育児を目的とした休暇制度とは、その制度の利用目的の中に育児を目的とするものであることが明らかにされている企業独自の休暇制度。育児休業等及び子の看護休暇は除く。 
[11] 厚生労働省 「次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、くるみん認定、プラチナくるみん認定を
目指しましょう!!!」(令和4年1月)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/pamphlet/26.html
[12] 「両立支援のひろば」(https://ryouritsu.mhlw.go.jp/)は、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画等の公表の場として厚生労働省が運営するウェブサイト。 
[13] 厚生労働省「くるみん認定、プラチナくるみん認定の認定基準等が改正されます!新しい認定制度もスタートします!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/jisedai.pdf
[14] 「女性の活躍推進企業データベース」(https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/)は、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画や女性の活躍に関する情報公表の場として厚生労働省が運営するウェブサイト。
[15] データベースでは、従業員の雇用管理区分ごとに各種データが登録されている。本稿の集計においては、各企業において主要な雇用管理区分と考えられる「区分 1」のデータを集計した結果を掲載している(以下同様)。そのため、他の区分に登録されたデータを統合すると、各データの割合が増加する可能性があることについてご留意いただきたい。
[16] 管理職とは、課長級と課長級より上位の役職(役員を除く)にある労働者の合計。

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育児休業制度の創設・改正等に伴う企業への影響PDF

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