EUにおけるサステナブルな経済活動を分類した「タクソノミー」の 法制化の動向
- 環境
2020/3/30
目次
- タクソノミーとは何か
- サステナブルな経済活動の基準の詳細
- 産業界への影響と企業における対応
- おわりに
EUにおけるサステナブルな経済活動を分類した「タクソノミー」の 法制化の動向- リスクマネジメント最前線PDF span>
執筆コンサルタント
身崎成紀
製品安全・環境本部 主席研究員
専門分野:ESG 情報開示
EUでは、SDGs、パリ協定の合意目標、2050年までの気候中立な経済等の実現に向け、社会・環境・経済のサステナビリティに資する経済活動に資金の流れを向かわせるファイナンスの議論が活発に行われている。その中で、今後、投資家の投資判断の材料となりうる、サステナビリティの評価基準統一を目指した規則案[1]が2019年12月17日に採択された。これにより、EU域内において、サステナブルな経済活動か否かを類別する“タクソノミー(Taxonomy)”の策定や、投資家に対する持続可能な経済活動への投資割合の開示義務付け等が法制化され、2022年末までに段階的に施行されることが決定した。さらに2020年3月9日、気候変動の緩和・適応に関するタクソノミーの最終報告書[2]が発表され、今後、EU規則に組み込まれる予定である。
タクソノミーとは、地球規模で深刻化する環境・社会問題の解決に貢献する経済活動は何かを投資家に示した分類表、いわゆるホワイトリストである。それが確立した影響は、タクソノミーに基づく投資の実行、投資比率の開示を迫られる金融業界に加え、資金調達等の資本リスクやGHG[3]低排出型の技術・製品・サービス開発への投資機会・リスクの側面から産業界全体に及ぶことが予想される。
本稿では、EUにおけるサステナブル・ファイナンスの確立という大きな構想の中で、タクソノミーの法制化や技術基準策定の動向に着目し、産業界への影響や今後の対応について解説する。
1. タクソノミーとは何か
(1)サステナブル・ファイナンス政策におけるタクソノミーの位置付け
近年、SDGsやパリ協定の合意目標の達成に向けた財源確保は世界共通の課題となっているが、これを公的資金のみで賄うことは難しいため、民間の資金をサステナブルな経済活動に振り向ける“サステナブル・ファイナンス”の議論が活発化している。同分野の施策検討で先行しているEUにおいて、欧州委員会は、2016年に「サステナブル・ファイナンスに係るハイレベル専門家グループ(High-Level Expert Group on Sustainable Finance:HLEG)」を設置し、2018年1月の同グループの主要提言を基に、同年3月に10項目からなるアクションプランを採択した(次ページ表1)。
本アクションプランの第1項目(表1の太枠)に挙げられていたのが、サステナブルな経済活動の分類システム「タクソノミー」である。タクソノミーは、EU域内でサステナブル・ファイナンスを推進していく中で、他のアクションプランの議論・検討にも影響を及ぼすこと等を背景に、最重要課題として位置付けられた。
表1 サステナブル・ファイナンスに関するアクションプラン
出典:European Commission, Action Plan:Financing Sustainable Growth, March 2018をもとに弊社作成
同アクションプランでは、タクソノミーの用途として、
● “グリーン”[4]な金融商品であるかを分類・体系化するためのガイドブック
● 金融市場関係者が“グリーン”な金融商品を開発する際の基準点
が挙げられている。その背景として、金融市場には、森林・海洋などの写真を飾って“グリーン”と銘打ちながらも実態が伴わない、つまり、投資対象に環境配慮・負荷低減が十分でない産業・企業が含まれている金融商品が存在するとの指摘が根強い。そのような商品を金融市場から排除するためには、金融市場関係者・投資家に対し、経済活動のサステナビリティを定義した上で、サステナブルな経済活動を分類して示す必要があり、そのような役割を果たす分類表がタクソノミーである。
(2)タクソノミーの全体像と開発経過
タクソノミーは、将来的には環境的・社会的側面を包含したサステナビリティ全体の分類表として開発される予定だが、近年の異常気象現象の頻発化を受け、とりわけ優先順位が高い「気候変動」に関するタクソノミーの確立に向けた議論が先行して進められている。
開発・法制化の主な動向・予定は表2の通りであり、以下に、タクソノミーの全体像を把握するためのポイントを時系列に沿って概説する。
年月 | 動向・予定 | 本稿における記載 |
2018年1月 | HLEGがタクソノミー策定を含む提言を公表 | 本節① |
2018年3月 | 欧州委員会が、サステナブル・ファイナンスに関するアクションプランを採択 | 表1 |
2018年5月 |
欧州委員会がサステナブル・ファイナンスの規則案を公表 |
本節② |
2018年12月 | 欧州委員会が設置した技術専門家グループが、サステナブルな経済活動の技術的スクリーニング基準の初版を公表 | 本節③ |
2019年6月 | 同技術専門家グループがタクソノミー技術報告書、およびタクソノミーのユーザーガイドを公表 | 本節③ |
2019年12月 | タクソノミーの策定を含むEU規則案の法制化が決定 | |
2020年3月 | 技術専門家グループが気候関連タクソノミーの最終報告書を公表 | 2. |
出典:EU の各種公表資料をもとに弊社作成
①タクソノミー全体のフレームワーク
2018年1月、HLEGはサステナブル・ファイナンスの確立に向けた主要提言を公表し、その中で包括的なタクソノミーのフレームワークを提示した(図1)。横軸に「サステナビリティ目標」、縦軸に「産業」がそれぞれ並んでおり、各目標に関連・貢献しうる産業や関連資産を識別する枠組みとなっている。
横軸のサステナビリティ目標は、最左列の「気候変動の緩和」をはじめ、環境面(生物多様性、水資源管理等)と社会面(食料、社会インフラ、健康、教育等)にわたって幅広く対象としており、気候変動を第一優先に、環境・社会の課題を包含したタクソノミーを策定していくビジョンを示している。
図1 HLEGの主要提言で示されたタクソノミーのフレームワーク
出典:HLEG, Final Report:Financing A Sustainable European Economy, January 2018をもとに弊社作成
②環境面でのサステナブルな経済活動の基準
2018年5月、欧州委員会は「持続可能な投資促進のフレームワーク確立に係る規則案」を公表した。上記①のサステナビリティ目標の左側に位置する、環境面のサステナブルな経済活動をまず明確にすること等を目指し、タクソノミーの確立の基礎となる6つの環境目的を提示した。
その中で、「環境面でサステナブルな経済活動」の基準(次ページ表3)に適合するかは、
● 表3(a):6項目のうち、少なくとも1つに該当すること
● 同(b):(a)を満たしていたとしても、(a)の6項目のいずれにも重大な悪影響を及ぼさないこと
● 同(c):労働・人権の観点で、経済活動が最低限のセーフガード措置(ILO労働基本的原則・権利宣言等の遵守)を講じていること
● 同(d):欧州委員会が別途定める技術的なスクリーニング基準を満たすこと
という4つを全てクリアする必要があることが示された。
経済活動は、(a)~(d)の4項目を全て満たすこと |
(a) 次の6つの環境目的の1つ以上に実質的に貢献する。 (1) 気候変動の緩和 (2) 気候変動への適応 (3) 水資源と海洋資源の持続可能な利用と保全 (4) 廃棄物抑制や再生資源の利用を増やすような循環型経済への移行 (5) 汚染の防止と管理 (6) 生物多様性および健全な生態系の保全および悪化した生態系の回復 |
(b) (a)の6つの環境目的のいずれにも重大な害を及ぼさない。 |
(c) 労働や人権に関する基本的原則・権利の確保など、最低セーフガード措置に準拠する。 |
(d) 欧州委員会が定める技術的なスクリーニング基準を満たす。 |
出典:European Commission, Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on the establishment of a framework to facilitate sustainable investmentをもとに弊社作成
③経済活動の技術的なスクリーニング基準等の開発
表3における、(a)「実質的に貢献」する経済活動とは何か、(b)「重大な害」とは何か、(d)「技術的なスクリーニング基準」とは何かを具体化するべく、欧州委員会が設置した技術専門家グループ(Technical Expert Group:TEG)によって開発が進められた。
TEGは、まず技術的なスクリーニング基準の初版を作成し、2018年12月に公表した。さらに2019年6月、環境目的に貢献する産業別の経済活動の類型や、経済活動の具体的な閾値(しきい値/Threshold、量的な基準)などを定めた「タクソノミー技術報告書」(表4)を公表した。
表4 タクソノミー技術報告書(2019年6月)の構成
出典:TEG, Taxonomy Technical Report, June 2019をもとに弊社作成
技術報告書の最新内容については2.に詳述するため、本節では技術基準策定の経緯のみ説明する。同報告書は、表3(a)の6つの環境目的のうち、「(1)気候変動の緩和」、「(2)気候変動への適応」に関する基準等については詳述されているが、(2)は開発過程の内容であり、(3)~(6)の環境目的は一部のパートでの記載に留まっており、あくまで中間的な報告書の位置付けで公表された。
TEGは、同報告書に関するフィードバックの期間を約3カ月間設け、産業界をはじめ、幅広い利害関係者から意見を求め、基準等の精緻化・発展を進めた後、2019年末までに最終報告書を公表することを予定していた。しかしながら、TEGの想定を超える830件もの組織・個人からのフィードバック[5]が寄せられ、それらの内容の精査のため、最終報告書の公表は2020年3月に延期された。
2. サステナブルな経済活動の基準の詳細
前章にて、タクソノミーの開発経過や全体像を俯瞰したが、本章では、2020年3月に公表されたタクソノミー最終報告書を基に、サステナブルな経済活動の基準等の詳細を紹介する。
最終報告書は、本編と技術附属書に分かれており、技術附属書にはスクリーニング基準の方法論やリスト(前ページ表4のPart BとFに該当)が掲載されている。図2は、最終報告書の本編における、気候変動の緩和のタクソノミーの要約表である。同様の要約表が気候変動への適応についても掲載されている。本表の構成要素を基に、具体的に定められた気候変動の緩和・適応に実質的に貢献する経済活動の内容、技術的なスクリーニング基準等について説明する。なお、本章の本文では、気候変動の緩和を「緩和」、気候変動への適応を「適応」とそれぞれ略記する。
図2 タクソノミーの要約表(一部抜粋)
出典:TEG, Taxonomy Technical Report, March 2020をもとに弊社作成
(1)気候変動の緩和
①産業と経済活動
タクソノミーの産業分類は、欧州標準産業分類(NACEコード)が使用されており、上記図2の左列には、NACEコードに準じて緩和に貢献する8つの産業と70の経済活動が並んでいる(次ページ表5)。これらは、GHG排出量の多寡や他産業の低炭素化への貢献可能性等を基準に選定されている。
産業 | 経済活動(製造業を例として) | |
林業 | 低炭素化技術を活かした製品の製造 | |
農業 | セメントの製造 | |
製造業 | → | アルミニウムの製造 |
電気、ガス、蒸気、空調供給 | 鉄鋼の製造 | |
水、下水、廃棄物、環境修復 | 水素の製造 | |
輸送、物流 | その他の無機基礎化学品の製造 | |
情報通信技術 | その他の有機基礎化学品の製造 | |
建設、不動産 | 肥料、窒素化合物の製造 | |
プラスチック原料の製造 |
出典:TEG, Taxonomy Technical Report, March 2020をもとに弊社作成
② 実質的に貢献する経済活動
緩和に実質的に貢献する経済活動は、表6のように“Own performance”、“Enabling activities”、“Transitional activities”の3つに分類されている。前ページ図2の中列では、各経済活動がこれら3分類の活動のいずれに該当しているかが表で示されており、チェック印が付いている経済活動についてのスクリーニング基準等が技術附属書に規定されている。
経済活動の分類 | 経済活動例 | |
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出典:TEG, Taxonomy Technical Report, March 2020をもとに弊社作成
③DNSH(他の環境目的に重大な害を及ぼさない)評価基準
図2の右列には、緩和以外の5つの環境目的が並んでおり、それぞれに“DNSH”と付記されている。これは、“do no significant harm”の略で、表のチェック印は、経済活動が緩和に実質的に貢献する一方で、関連する他の環境目的に対する重大な害を及ぼすリスクの有無を識別するものである。
気候変動以外の環境目的に対して重大な害を及ぼす概況は次ページ表7のように示されており、これらをベースに、各経済活動のライフサイクル全体を通じて、他の環境目的に対して重大な害を及ぼすリスクがあるものについては、その回避策や閾値が技術附属書に規定されている。
気候変動以外の環境目的 | 重大な害を及ぼす状況 |
3.水資源と海洋資源の持続可能な利用と保全 | 経済活動が地表水・地下水を含む水域、その周辺の生態的潜在性、海水環境に対して有害である場合 |
4.廃棄物抑制や再生資源の利用を増やすような循環型経済への移行 |
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5.汚染の防止と管理 | 経済活動が、活動開始前の状況と比較して、大気、水、土地への汚染物質の排出量の大幅な増加を引き起こす場合 |
6.生物多様性および健全な生態系の保全および悪化した生態系の回復 | 経済活動が生態系やその回復力に対し広範囲に害を及ぼす場合、またはその生息地・生物種の保全状況に害を及ぼす場合 |
出典:TEG, Taxonomy Technical Report, March 2020をもとに弊社作成
④技術的なスクリーニング基準
タクソノミーに選定されている経済活動の技術的なスクリーニング基準の詳細は、技術附属書に規定されている。技術附属書全体は英文で約600ページもの分量があるが、緩和に関する個々の経済活動の基準の大半はそれぞれ数ページでまとめられている。
図3に鉄道貨物輸送の基準を例示する。鉄道貨物輸送は、「実質的に貢献する経済活動」として“Own performance”、“Transitional activities”(表6参照)が該当し、DNSH評価基準として6つの環境目的のうち2、4、5が該当する。
図3 気候変動緩和に関する鉄道貨物輸送の基準
出典:TEG, Taxonomy Report: TECHNICAL ANNEX, March 2020をもとに弊社作成
構成として、まずNACEコードに沿った産業分類が記載されている。
次にスクリーニング基準として、緩和のための原則と経済活動の測定基準・指標・閾値などが記載されている。鉄道貨物輸送の例では、以下のとおりである。
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次にスクリーニング基準の科学的根拠が記載されており、鉄道貨物輸送の場合、上記の閾値に関連して、ディーゼル機関車のCO2直接排出量の実測値や、化石燃料の輸送が不適格とされている理由等が記載されている。
最後に他の環境目的に対するDNSH評価基準が定められている。例えば、鉄道貨物輸送の「5.汚染の防止と管理」のDNSH評価基準として、車両の騒音・振動をEUの鉄道基準に沿って最小限に抑えることが記載されている。
(2)気候変動への適応
適応とは、頻発する風水災などの急性な物理的悪影響に対し、経済活動・コミュニティ・生態系・都市などのシステムが回復力を強化していくこと、および経済活動が慢性の環境変化に対応すること(例えば、橋の設計において海面上昇を考慮すること)を意味する。タクソノミーでは、すべての産業が気候変動に適応しなければならない、という認識の下、産業横断的な指針とスクリーニング基準が定められている。
①実質的に貢献する適応活動
適応に実質的に貢献する経済活動は次ページ表8のように、“Adapted activities”と“Activities enabling adaptation”の2つの活動に分類されている。
緩和では、前節に記載のとおり、各経済活動それぞれについてスクリーニング基準が定められているが、適応では、すべての経済活動が表8の分類に基づく同一のスクリーニング基準を使用する形になっている。
経済活動の分類 | 経済活動例 | |
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ある水道事業者が、自社設備の洪水リスク軽減のため、洪水の早期警戒システムを購入・設置 | |
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ある企業が、洪水の早期警戒システムを開発・提供・設置 |
出典:TEG, Taxonomy Report: TECHNICAL ANNEX, March 2020をもとに弊社作成
②DNSH(他の環境目的に重大な害を及ぼさない)基準
適応の経済活動に関するDNSHは、技術附属書で経済活動ごとに定められているが、6つの環境目的のうち3〜6に関するDNSHは、緩和と同じ内容で定められているものが多い。一方、適応の経済活動が緩和に重大な害を及ぼすか否かについては、表9に例示するリスクアセスメントを踏まえてDNSH評価基準の必要性が検討された上で規定されている。
経済活動の例 | 緩和に対する重大な害の発生の可能性 | DNSH評価基準の必要性 |
太陽光発電による電力供給 | 低い | ライフサイクルのGHG排出量は、TEGが推奨する閾値を大きく下回る可能性が高いため、DNSH評価基準の定義は必要ない。 |
乗用車・商用車の使用 | 高い | 車両の動力源によっては、緩和の目的を著しく害する可能性があり、DNSH評価基準が必要である。 |
出典:TEG, Taxonomy Report: TECHNICAL ANNEX, March 2020をもとに弊社作成
③ 技術的なスクリーニング基準
緩和のスクリーニング基準との比較のため、再び鉄道貨物輸送のスクリーニング基準を例示する(図4)。“産業分類、経済活動”とDNSH評価基準の内容は緩和と同一である。
スクリーニング基準は、“Adapted activities”の基準(次ページ表10)と“Activities enabling adaption”(次ページ表11)の基準を参照するように記されており、これら基準がすべての経済活動で使用される。
図4 気候変動適応に関する 鉄道貨物輸送の基準(一部抜粋)
出典:TEG, Taxonomy Report: TECHNICAL ANNEX, March 2020 をもとに弊社作成
基準 | 説明 |
A1:重大な物理的リスクの軽減 | 経済活動は、当該活動に関するあらゆる重大な物理的リスクを可能な範囲かつ最大限の努力をもって軽減しなければならない。 |
A1.1 | 経済活動は、リスクアセスメントを通じて特定されたあらゆる重大な物理的リスクについて、可能な範囲かつ最大限の努力をもって軽減することを目的とした物理的・非物理的な対策を統合する。 |
A1.2 | A1.1のリスクアセスメントは次の特徴を持つ。 - 現在の気象の変化と不確実性を伴う将来の気候変動の両方を考慮に入れる。 - 気候に関する利用可能なデータの分析と、様々な気候変動シナリオを踏まえた予測に基づいている。 - 当該経済活動の期待される存続期間と一致している。 |
A2:システムの適応の支援 | 経済活動とその適応策は、他の自然人、自然および資産の適応に向けた取組みに悪影響を及ぼさない。 |
A2.1 | 経済活動とその適応策は、他の自然人、自然、資産への気候の悪影響のリスクを増大させたり、他の場所での適応を妨げたりしてはいけない。また、適応に向けた手段が“”であるならば、“グリーン”または“自然に支えられた解決策”の実行可能性を考慮すべきである。 |
A2.2 | 経済活動とその適応策は、産業別、地域別、国別の適応に向けた取組みと一致している。 |
A3:適応結果のモニタリング | 物理的リスクの軽減は測定可能である。 |
A3.1 | 適応の結果は、定義された指標に照らしてモニタリング・測定が可能である。リスクは時間経過とともに変化するという認識の下、物理的リスクを最新の評価手法を用いて適時評価すべきである。 |
出典:TEG, Taxonomy Report: TECHNICAL ANNEX, March 2020をもとに弊社作成
基準 | 説明 |
B1:他の経済活 動の適応の支援 |
経済活動は、他の経済活動における重大な物理的リスクを軽減する、および/または、システム全体の適応への障壁に対処する。“Activities enabling adaption”には、以下のような活動が含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。 (a) ある技術・製品・実務・ガバナンスプロセス、または既存の技術・製品・業務(自然インフラに関連するものなど)の革新的な活用を促進する活動 (b) 他の経済活動における適応への情報・金融・技術・(法的)能力面の障壁を取り除く活動 |
B1.1 | 他の経済活動の適応を支援する活動は、その活動分野を超えた物理的リスクの変化への適応を弱めたり、促進したりする。当該活動は、以下を通じて、他の適応をどのように支援するかを証明する必要がある。 - 現在の気象の変化と不確実性を伴う将来の気候変動の双方に起因する物理的リスクの評価 - 物理的リスクに曝されている規模や脆弱性を考慮しつつ、それらのリスク削減に向けた、経済活動の貢献度の有効性評価 |
B1.2 | “Activities enabling adaption”と関連したインフラの場合、当該インフラはスクリーニング基準A1、A2、およびA3 を満たさなければならない。 |
出典:TEG, Taxonomy Report: TECHNICAL ANNEX, March 2020をもとに弊社作成
3. 産業界への影響と企業における対応
前章では、タクソノミーの最終報告書を基に、技術的なスクリーニング基準の内容を概観した。今後、同基準がEU規則に組み込まれて段階的に法制化されていくが、その影響は、タクソノミーに基づく投資の実行を迫られる金融業界に加え、資金調達等の資本リスクやGHG低排出型の技術・製品・サービス開発への投資機会・リスク等の側面から産業界全体に及ぶことが予想される。また、タクソノミーの確立に関して、中国、カナダ、オーストラリア、マレーシア等において法制化の議論が進んでいるほか、ISO策定の動きもあり、先行しているEUの仕組み・技術的なスクリーニング基準等を参考としながら、国際標準化、国単位での法制化の進展が予想される。
本稿では取り上げなかったが、タクソノミーの最終報告書には、金融市場参加者向けに、タクソノミーに基づく情報開示の要求事項が定められている。今後、ユーロ経済圏の投融資先は、タクソノミーの技術的なスクリーニング基準に適合する経済活動の割合が売上ベースで何割を占めるか、といった評価を受けることになるだろう。すなわち、EU資本市場から資金調達する企業は、機関投資家とのESGのコミュニケーションの中にタクソノミーの要素が含まれてくる、ということである。
したがって、グローバル企業を中心に、まず、タクソノミーにおける経済活動の分類やスクリーニング基準の大枠を把握し、自社事業との関連性の有無を確認することを推奨する。関連性がある場合には、経営企画部門、研究開発部門、技術部門、サステナビリティ関連部門等が会して、2050年に気候中立を達成する基準で策定されたタクソノミーの技術的なスクリーニング基準に照らし、自社製品・サービス・活動がどの水準にあるのかを確認することが望まれる。スクリーニング基準には厳しい閾値が並んでいるが、2050年までに気候中立を達成するにはそのような厳しい基準のクリアを目指さなければならないことを理解・認識する一助にもなるだろう。
4. おわりに
本稿では、EUにおけるタクソノミーの法制化、気候関連の技術基準に関する動向とその内容を概観し、産業界における今後の事業活動への影響等について述べた。
EUでの法制化、他国・地域でのタクソノミー法制化に向けた動向、および国際標準化に向けた動向を踏まえると、近い将来、グローバルで、タクソノミーがESGの分野において共通言語化することが予想される。また、気候変動の緩和・適応に関する詳細な基準が公表されたことを受け、気候関連財務情報開示(TCFD)提言に沿った情報開示において、気候変動対応戦略にタクソノミーの要素を含めることの検討も必要となるであろう。
本稿が、貴社における気候変動に関する戦略策定、リスク管理、情報開示等を深化させる一助となれば幸いである。
[2020年3月30日発行]
参考情報
執筆コンサルタント
身崎成紀
製品安全・環境本部 主席研究員
専門分野:ESG 情報開示
脚注
[1] | European Commission, “Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on the establishment of a framework to facilitate sustainable investment”, 24 May 2018 |
[2] | EU Technical Expert Group on Sustainable Finance: “Taxonomy: Final report of the Technical Expert Group on Sustainable Finance,9 March 2020 |
[3] | Greenhouse gas:温室効果ガス |
[4] | “環境負荷が小さい”、“環境に配慮した”、“環境改善効果がある”などの意味合いで使用される。 |
[5] | 日本からは、日本電機工業会(https://jema-net.or.jp/Japanese/info/download/190913.pdf)、全国銀行協会(https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/opinion/opinion310933.pdf)等がフィードバックコメントを提出している。 |