客室での火災は5年間で8倍以上に増加 ―ホテル事業者に求められる火災対策とは
- 火災・爆発
2026/10/20
東京消防庁から発表されている令和7年版火災の実態[1]によると、旅館・ホテル・宿泊所における2024年の火災発生件数は、過去10年間で最多となりました。本コラムでは、ホテル事業者の方々に向けて、昨今の火災の傾向と具体的な対策について解説します。
1. なぜ今、ホテルの火災が増えているのか
ホテル火災が増加している要因の一つとして、客室からの出火件数の増加が挙げられます。図1は、2020年から2024年における旅館・ホテル・宿泊所での出火箇所の推移を示したものです。客室からの出火件数は、2024年には69件発生し、2020年の8件と比較して8倍以上にまで増加していることがわかります。では、なぜ客室での火災がこれほど増加しているのでしょうか。

図 1 旅館・ホテル・宿泊所の年別出火箇所件数
(東京消防庁資料[1]を基に弊社作成)
背景の一つとして、宿泊者数の増加が考えられます。国土交通省観光庁の宿泊旅行統計調査[2] によると、2020年から2025年の間に延べ宿泊者数はおよそ2倍に増加しています。それに伴って客室の利用者も増加することから、客室での出火件数が増加していると考えられます。

図 2 延べ宿泊者数の推移
(国土交通省資料[2] を基に弊社作成)
図3は、旅館・ホテル・宿泊所における客室からの出火要因の割合を示した円グラフです。出火要因の第1位は電気機器、第2位は配線器具となっています。このデータや昨今の傾向から、モバイルバッテリーや電気機器の充電・使用中における出火が増加しているおそれがあります。

図 3 客室からの出火要因割合
(東京消防庁資料[1] を基に弊社作成)
2. 実際に起きた火災事例を知る
(ア) 客室でモバイルバッテリー充電中に出火した事例[1]
30階建てホテルにおいて、宿泊客が就寝中にモバイルバッテリーを充電していたところ、朝方に「プスッ」という音とともに、約60cmの高さの炎が確認された事例です。その後、炎は自然に収まり、被害はカーペットのわずかな焼損にとどまりました。モバイルバッテリーが何らかの原因で短絡し、出火したと考えられます。
(イ) 客室の空気清浄機コンセントから出火した事例[1]
ホテルに設置されていた空気清浄機の差し込みプラグにおいて、トラッキング現象が発生し出火した事例もあります。トラッキング現象とは、差し込みプラグやコンセントに蓄積した埃が湿気を帯びることでプラグ刃間に電流が流れ、周囲の樹脂や壁に引火する現象です。埃が溜まりやすい場所では特に注意が必要です。
(ウ) 4名の従業員により65名の利用客を避難誘導した事例[3]
従業員の判断が被害を最小限に抑えた事例を紹介します。地上8階建てホテルの5階客室に設置されたサウナにおいて、ヒーターに接触していたバスタオルから出火しました。当時、ホテル内には65名の利用客が在室していましたが、わずか4名の従業員が連携して初期消火・119番通報・避難誘導を同時並行で実施した結果、消防隊が到着した時点ですでに全利用客の避難を完了させています。
3. ホテル事業者が今すぐできる対策
電気機器に起因する火災を防ぐために、ホテル事業者はどのような対策を講じるべきでしょうか。
(ア) モバイルバッテリー火災への対策
日本ホテル協会HP[4]では、モバイルバッテリー火災対策として、宿泊客への注意喚起文やマグネットシートを作成・紹介しています。モバイルバッテリーは宿泊客の私物であるため、持ち込みを禁止することは現実的ではありません。そのため、使用上の注意を宿泊客に周知・啓発する取り組みが重要です。掲示の内容は、膨張したモバイルバッテリーの使用や不在時の充電を控えるよう記載することが望まれます。
(イ) コンセント周辺の定期的な清掃・点検
コンセント周辺に埃が蓄積すると、トラッキング現象による火災が発生するおそれがあります。日常清掃に加え、定期的にコンセント周辺の点検を実施し、必要に応じて清掃を行うことが求められます。また、使用していないプラグにはプラグカバーを設置することや、トラッキング防止コンセントカバーを利用することも有効な対策です。
(ウ) 緊急時を想定した防災訓練の実施
万が一火災が発生した場合には、宿泊客への避難誘導、初期消火、119番通報など、迅速かつ的確な対応が求められます。抜け漏れのない対応ができるよう、総合防災訓練において緊急時を想定したシナリオを取り入れることが重要です。特に夜間の火災では、暗闇の状態に加えて、煙による視界の悪化が予想されます。防火戸や防火シャッターが閉鎖した状況を想定した避難訓練を行うことが有効です。
4. 火災リスクを特定するために
ホテルや旅館などの事業者が抱えているリスクを特定するためには、日々のリスク管理や定期的な点検・設備の一元管理が重要です。また、外部機関による調査も有効です。
東京海上ディーアール株式会社では、様々な業種の施設に対して火災・自然災害のリスク調査をはじめとした防火防災サービスを提供しています。火災リスクの客観的な評価や、製造工程における火災リスク低減策のご提案、火災に関するセミナーの実施等、幅広くサポートいたします。弊社サービスにご興味をお持ちになった方は、ぜひお気軽にご相談ください。
脚注
| [1] | 東京消防庁「令和7年版 火災の実態(確定版)」https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/elib/kasaijittai/r07_00001.html |
| [2] | 国土交通省観光庁「宿泊旅行統計調査」https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shukuhakutokei.html |
| [3] | 東京消防庁「自衛消防活動の事例」 https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jirei/jirei02.html |
| [4] | 日本ホテル協会「モバイルバッテリー火災を防ぐ」 https://www.j-hotel.or.jp/hotel-review/topics/hr754-11/ |
執筆コンサルタントプロフィール
- 小木 夏海
- 企業財産本部 研究員
