データセンターの火災事故の現状と火災対策

  • 火災・爆発

コラム

2026/8/7

1.データセンターにおける火災事故の現状とその原因

弊社が収集した2008年から2026年7月までのデータセンターの火災事例のうち、重大火災の原因を分析したところ、火災の原因として最も多いのがバッテリー系統からの発火で全体の44%を占めています。次いで、電気設備・配線関係が28%、サーバー・空調機器が19%と続きます(表1参照)。
バッテリー系統からの火災が突出して多い背景には、近年のリチウムイオンバッテリーの急速な普及があります。2021年、フランスではUPSとバッテリーをつなぐ回路異常でデータセンターが全焼。2025年、韓国では、設計寿命を超えたリチウムイオンバッテリーの交換作業中に火花が飛び、8年分(858TB)の政府データが消失しました。そして2026年にはインドでバッテリー火災が発生し、20年超のデータが消失したと報告されています(表2参照)。日本においても、少なからず火災が発生しており、それらはいずれもバッテリー系統や電気設備から発生しています(表3参照)。

表1 データセンターにおける火災事故の原因とその割合

出典:執筆者作成(一部外部資料を参照)

表2 リチウムイオンバッテリーが原因で発生した重大火災事例

出典:(事例1)フランスのクラウド「OVHcloud」でデータセンター火災、数百万サイトに影響か | 日経クロステック 
   (事例2)韓国、データセンター火災で政府資料8年分消失 「デジタル政府」に傷 | 日本経済新聞
   (事例3)インドのデータセンター火災、20年超の蓄積データが消失も | ロイター
        Two firefighters injured in blaze at five-storey office building in GK-1 | India News

表3 日本におけるデータセンターの火災事例

出典:(事例4)「西新宿データセンター」における電源障害に関する中間報告 | さくらインターネット
   (事例5)弊社データセンタービル電源故障による弊社サービスの利用不可に関するお詫びについて|NTTビズリンク
   (事例6)日本IBMのデータセンター障害、通常電源切り替えまで丸5|日経クロステック

2.データセンターにおける火災リスクの特徴

火災の早期発見が困難
一般のオフィスビルと比べて、データセンターの火災は発見が遅れやすい構造的な特徴があります。 サーバーラックやUPSキャビネットなどの主要機器が過密に配置され、かつ、想定される火災は電気火災が主となることから、火災の兆候が外部から判断しにくい面があります。さらに温度上昇や機器の性能低下も、外観からの判断が困難です。
また、データセンターの床下空間と天井裏には、大量のケーブルが走っています。これらは可燃物であり、かつ日常的な目視確認が困難な場所です。床下での出火は、煙が床パネルの隙間から漏れるまで発見されないことがあります。

延焼拡大のリスク
サーバーが発する大量の熱を除去するため、24時間365日にわたって強力な空調設備が稼働しています。この気流が、火災初期に発生するわずかな煙や熱を希釈・拡散させてしまいます。通常の煙感知器では感知が遅延する可能性があり、超高感度煙検知システムが推奨される理由はここにあります。

3.ハード対策の重要性(データセンターに関する防火基準)

日本に進出する外資系・グローバル企業が、データセンターに適用する防火基準は、日本の基準より厳しい場合が多いです。米国のNFPA(米国防火協会)が策定するNFPA75やNFPA76はデータセンター・通信施設向けの防火に特化した規格であり、防火区画の耐火時間、UPS室の独立区画化など、日本の文化や法律に合わせて規定されたJDCC(日本データセンター協会)ガイドラインが推奨にとどめている項目を必須として要求しています(表4参照)。
米国基準では特に物理的な区画化による封じ込めが重視されており、火災が発生しても他のエリアへの波及を防ぎ、サービスを継続させる思想が設計の根幹にあります。一方、日本では超高感度煙検知とガス系消火設備による早期発見・早期消火を重視し、IT機器への二次被害を回避する設計が業界の標準として広く普及しています。
その結果、日本国内であっても外資系・グローバル企業が使用するデータセンターはハード面では世界基準の防火設備を備えていることが多くあります。

表4 日米の防火基準の違いの例

出典:NFPA 75 Standard Development | NFPA
   NFPA 76 Standard Development | NFPA
   TIA's ANSI/TIA-942 Standard | TIA Online
   データセンター ファシリティ スタンダード Ver3.0(2024年6月発行) | 日本データセンター協会

※現在データセンターの実態に合わせた法令見直しの議論が進んでいます。
消火設備については、消防法により500㎡以上の通信機器室にはガス系消火設備の設置が義務付けられていますが、機器の安全を保護しながらスプリンクラーでも法令要件を満たすことができるよう協議が行われています。
また、リチウムイオンバッテリーについては、2024年7月の消防危第200号通知により筐体単位での危険物量の判断が可能となりましたが、冷却用開口部が必要な次世代AIサーバーへの対応など、さらなる議論が続いています。
(参考文献)
データセンターにおける蓄電池設備及び消火設備の消防法令上の取扱いについて | 総務省 消防庁
データセンターにおけるリチウムイオン蓄電池設備に係る消防法令上の取扱いについて | 総務省 消防庁

4.ソフト対策の重要性 ――データセンター火災の予防保全――

一方で、その設備を日々動かし、異常を発見するのは、決められた手順に沿って行動する作業員です。
世界基準のデータセンターであっても日常の管理・運用が伴わなければ、その性能は発揮されません。
弊社では、リスクサーベイを通して日常の保全管理のレベルアップをお手伝いしております。
その中で、特にお勧めしている日常管理について、いくつか紹介します。

バッテリー系統・電気系統
リチウムイオンバッテリーなどを扱う部屋については、チェックシートを用いたパトロールをお勧めします。特に、電気系統の異常や電解液漏洩のサインとして、焦げたにおいや酸っぱいにおいがないかをチェック項目に入れることは重要です。また、バッテリー周囲に白い粉末状の析出物があれば電解液が漏れている可能性があります。このような異常を確認した際は即座に対応をとる必要があります。
なお、リチウムイオンバッテリーが熱暴走に至る前の数分間に発生する電解液の蒸気の感知は、リチウムイオンバッテリー電解液蒸気検知システム(オフガス検知器)として製品化されています。このシステムの常時監視によりバッテリーの監視冗長性を持たせる対策が有効です。
(参考文献)
Lithium-Ion Battery Off-Gas Detection: Business Safety Guide | FM
リチウムイオン電池電解液蒸気検知システム|Honeywell(ハネウェル)

また、電気機器については中長期更新計画を策定することをお勧めしています。
データセンターの主要設備には目安となる更新周期があり(受変電設備25〜30年、UPS15年、空調10〜15年、リチウムイオンバッテリー10年前後)、中長期更新計画でこれを可視化することが重要です。
中長期更新計画がなければ、気づけば設計寿命を超えた設備が基幹インフラを支えているという状況に陥ります(表2・事例2)。

床下
四半期に一度程度のペースで、数か所の床パネルを開けて床下を確認することが重要です。
データセンターの多くは二重床構造で、床下には大量のケーブルが収納されています。増築・改修のたびに不要なケーブルが残置されるケースがあり、可燃物の蓄積につながります。
また、床パネルを開けた際には、同時にほこりの蓄積状態や水漏れの有無などを確認し、火災リスクが低い状態を維持することが大切です。

消防・緊急対応への準備
実際に火災が起きてしまった場合に、被害を最小限にとどめるために必要な対策が公設消防との連携・緊急事態への準備です。データセンターの守衛室や制御室に施設の見取り図・危険物の場所・総量を記したシート・水をかけてはいけない区域を示したマップを準備し、夜間・休日の最小人員でも消防隊を適切に誘導できるようにする必要があります。また、緊急時訓練として消防と連携しながら火災が発生した際の手順を確認することも大切です。

その他、空調・冷却系統のトラブル
空調機直下への電気機器の設置、ドレン配管の詰まり・ドレンパンの汚泥蓄積、冷却水配管継ぎ手部分の水滴痕跡など、微小な漏れが設備故障につながります。
また、液冷式システムを採用している場合は、冷却水配管がサーバーラック内部まで引き込まれるため、微小な漏洩でも電子回路に直接被液するリスクがあり、特に注意が必要です。

5.おわりに
世界基準では、データセンターは火災が起きても問題が大きくならないような設備が求められます。一方で、データセンターのようなインフラ施設が目指すべき姿は、そもそも火災が発生しないような対策が施されている状態だと考えます。
弊社では、こうした管理面の抜け漏れがないかの確認にとどまらず、年間500件を超える調査実績から蓄積した知見をもとに評価基準を構築し、プロのリスクエンジニアが実際の現場を訪問し、現場に潜む火災・自然災害のリスクを定量的に調査する防火防災サービスを提供しています。
また弊社は、東京消防庁の調査研究の受託やNFPA年次カンファレンスへの参加など、官学民・国内外の様々なチャネルを通じて、電気設備・データセンター火災を含む最新の知見の収集・蓄積に継続的に取り組んでいます。
データセンターでの火災対策、防災対策全般について、ぜひ一度お問い合わせください。
(参考文献)
令和7年度 電気設備等における総合的な防火安全対策に関する調査研究結果 | 東京消防庁
National Fire Protection Association® (NFPA®) Conference & Expo | NFPA

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執筆コンサルタントプロフィール

西川 和希
企業財産本部 主任研究員

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