防災の日に見直したい実践的な訓練のポイント
- 火災・爆発
2026/8/4
1.はじめに
毎年9月1日は「防災の日」、8月30日から9月5日までは防災週間です。防災の日は関東大震災や伊勢湾台風等をきっかけとして閣議により定められたもので1)、この期間に防災訓練の実施を計画されている企業も多くあります。
消防法では、消防計画に基づいて年1回以上(特定防火対象物は年2回以上)の消防訓練の実施が義務付けられており2)、多くの施設で定期的に訓練が行われています。しかし、毎年同じ内容をこなすだけになってはいないでしょうか。
本コラムでは、消防計画に基づく定期訓練を土台としつつ、シナリオや訓練形態の工夫等、訓練の実効性を高めるためのポイントをご紹介します。
2.想定シナリオの変更
(1) 夜間・休日の火災
多くの訓練は日中の勤務時間帯に実施されますが、実際の火災は時間帯を選びません。休日は在館者や対応要員が少なく、夜間はさらに視界も悪いため、適切な初動対応が困難になります。夜間・休日を想定した訓練を実施することで、人員や照明が限られた状況での避難誘導の難しさや、対応マニュアルの不備等、日中の訓練では気づけなかった新たなリスクが明らかになることがあります。
(2) 出火場所・災害事象の変更
火災の発生場所によって、安全に避難できる経路は大きく変わります。厨房・電気室・倉庫・サーバー室といった出火リスクの高い場所に加え、油漏洩・危険物漏洩等も含めて出火源を毎年変えることで、マンネリ化防止とともにより実践的な対応力を養うことができます。また、過去に発生した同種の事故事例をシナリオの素材として活用することも効果的です。
3.訓練形態の工夫
(1) 部署・勤務帯単位での訓練
内閣府による事業継続ガイドラインでは、感染症まん延時等十分な要員が参集できないケースも含め、様々な訓練形態を組み合わせることが推奨されています3)。一方で、大規模な総合訓練だけで、すべての想定や設備操作を確認することは困難です。部署やフロア、勤務帯等の単位で小規模な訓練を実施することで、実施のハードルを下げながら従業員一人ひとりの対応力を高めることができます。
(2) ブラインド訓練
消防庁は超大規模・大規模防火対象物に対して、複合災害や同時多発事象等を題材としたシナリオ非提示型図上訓練を推奨しています4)。大規模施設向けの内容ではありますが、一般の事業所においても、事前に参加者へシナリオを通知せずに実施することで、実際の緊急事態に近い状況を模擬し、訓練の実効性を高めることができます。
なお、参加者への事前通知を完全になくすと、外部への誤通報等を招くおそれがあります。少なくとも訓練の実施日時は事前に周知したうえで実施しましょう。
(3) 抜き打ちの問いかけ活動
特別な設備や長時間の準備を必要としない取組として、声かけ活動も有効です。上長が従業員に抜き打ちで「この場所で火災が発生した場合、最初に何をしますか」等の問いかけを行うことで、対応手順の浸透度を日常的に確認し、強化することができます。ただし、従業員を試すこと自体が目的にならないよう、回答後に正しい手順とその理由を共有し、教育の機会として活用することが重要です。
4.訓練で確認すべき重要事項
(1) 防火扉・防火シャッター閉鎖時の避難経路
防火シャッター等には、建築基準法上、避難の妨げにならないよう手動で開閉できる機構やくぐり戸・非常扉等の閉じ込め防止措置が設けられています5)が、こうした措置の存在はあまり認知されていないのが現状です。火災発生時に「閉じ込められた」と錯覚することを防ぐために、訓練の中で実際に閉鎖状態を再現し、通過方法を体験しておくことをお勧めします。なお、防火シャッター等を実際に作動させる場合は、設備管理者や防火管理者、必要に応じて保守業者・所轄消防機関と協議し、作動後の復旧及び正常状態の確認や自動火災報知設備等との連動への影響について確認するようにしましょう。また、設備を実際に作動させることが難しい場合は、図面、写真、現地表示等を用いた確認から始める方法も有効です。
(2) 通報手順
公設消防にどれだけ早く通報できるかは、火災による損害を低減するうえで最も重要な要素の一つです。緊急連絡網が機能するかを確認するとともに、通報時に必要な情報を過不足なく伝達できるよう、通報内容を事前に整理し、訓練で実際に活用することをお勧めします。
(3) 電気・ガス等の供給停止手順
火災発生時に電気やガス等の原動力が遮断されていない場合、漏電による感電や、ガス漏れによる爆発・延焼等、被害が拡大するおそれがあります。緊急時に速やかかつ確実に遮断操作を行えるよう、緊急停止の対象や判断基準、手順等を事前に整理し、訓練の中で確認しましょう。
(4) 消火設備の起動手順
屋内消火栓は、設備の種類によって必要な操作人数や手順が異なります。また、放水時には水圧による転倒、ホースの振れ、周辺設備の水損等にも注意が必要ですので、訓練として体験しておくことをお勧めします。ただし、実放水訓練を行う場合は、施設管理者および所轄消防機関、必要に応じて設備業者と事前に協議し、安全な場所、使用設備、排水方法、監視者等を決めたうえで実施する必要があります。地域によっては消防機関に相談することで、放水訓練の立ち合い・指導や水消火器の貸し出し等の協力を得られる例もありますので、実施を検討される場合はお勧めします。
5.訓練後の振り返りと改善
訓練の実施により、事前の計画では気づかなかった課題が浮かび上がることがあります。避難経路の不明確さや役割分担の曖昧さ等、課題が見つかった際には訓練後に速やかに関係者間で共有し、避難計画や手順書に反映させることが重要です。訓練は実施することがゴールではなく、PDCAサイクルを通じて防災体制の継続的な改善を行うことが肝要です。
6.むすび
「防災の日」と防災週間は、日頃の訓練や備えを改めて見直すよい機会です。
まずは、現在の訓練について、「毎年同じ想定になっていないか」「夜間・休日にも対応できるか」「設備を安全に操作できるか」「前回の課題が改善されているか」を確認してみてはいかがでしょうか。
東京海上ディーアール株式会社では、様々な業種の施設に対して火災・自然災害のリスク調査をはじめとした防火防災サービスを提供しています。火災リスクの客観的な評価や、製造工程における火災リスク低減策のご提案、火災に関するセミナーの実施等、幅広くサポートいたします。弊社サービスにご興味をお持ちになった方は、ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
1) 東京消防庁「防災週間」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/bou_topic/bousai_week.html
2) e-GOV法令検索「消防法施行規則 第三条」
https://laws.e-gov.go.jp/law/336M50000008006
3) 内閣府「事業継続ガイドライン」令和5年3月
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/pdf/guideline202303.pdf
4) 総務省消防庁「自衛消防組織の本部隊を対象としたシナリオ非提示型図上訓練の実施要領のリーフレット」
https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/post-4.html
5) e-GOV法令検索「建築基準法施行令 第百十二条第19項ハ」
https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
執筆コンサルタントプロフィール
- 中須 秀鳳
- 企業財産本部 研究員
