揺れを感じないのに津波が来る──「遠地津波」の特徴と備え

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コラム

2026/6/24

2025年730日にカムチャツカ半島沖、202668日にフィリピン南部ミンダナオ島沖において、大規模な地震が発生しました。いずれも国内で大きな揺れは観測されなかったものの、気象庁により津波警報や津波注意報が発表され、実際に津波が観測されました。本コラムでは、日本国外の遠方で発生した地震によって引き起こされる遠地津波の特徴と、遠地津波が発生する可能性がある場合に、企業の防災責任者・部門が取るべき行動について解説します。

図:津波警報・津波情報発表履歴(2026年6月8日14時3分発表)
(気象庁公表データ[1]より引用)

1.遠地津波とは

遠地津波[2]とは、海外や遠方で発生した巨大地震(遠地地震)によって引き起こされ、震源から遠く離れた地域にまで到達する津波のことを指します。日本国内でも過去に複数の被害事例が確認されており、代表的な例としてチリ地震(1960年)による津波が挙げられます。北海道から沖縄までの太平洋沿岸各地に被害を与え、最大約6mの波高を観測しました。直近の事例としては、カムチャツカ地震(2025年)で沿岸部を中心に津波被害が発生し、ミンダナオ地震(2026年)では一部地域で津波注意報が発表されました。以下に代表的な遠地津波の事例を示します。

表:日本に影響を及ぼした代表的な遠地津波
(各種公表データをもとに弊社にて作成。)
地震(発生年) 震源地 Mw[3] 日本への影響
チリ地震(1960年) チリ・中部バルディビア近海 9.5

三陸海岸沿岸を中心に最大約6mを観測。
津波の第一波到達までに津波警報の発表が間に合わず。日本で死者・行方不明者142名(資料により差異有り)の甚大な被害。

ニューギニア島沖地震(1996年) インドネシア・ニューギニア島北海岸沖 8.2

父島(東京都)で最大約1mを観測。
日本国内で人的な被害はなかったが、漁業被害等の被害が発生。また、大規模な避難・警報対応を実施。

チリ地震(2010年) チリ・中部沿岸 8.8

須崎港(高知県)で最大約1.3mを観測。
日本国内で人的な被害はなかったが、漁業被害や道路浸水の被害が発生。広範囲で津波警報・注意報を発表。

カムチャツカ地震(2025年) ロシア・カムチャツカ半島沖 8.8

久慈港(岩手県)で最大約1.4mを観測。
避難中の事故等による死者1名のほか、重傷1名、軽傷11名の人的被害が発生。炎天下の中、避難が長期化し、健康上の課題が顕在化。

ミンダナオ地震(2026年) フィリピン・南部ミンダナオ島沖 7.8

各観測点で最大約20cm程度を観測。
日本国内での人的被害は無く、一部地域で津波注意報を発表。

なお、気象庁は、国外において①マグニチュード7.0以上の地震が発生した場合や、②都市部等著しい被害が発生する可能性がある地域で規模の大きな地震を観測した場合に、地震の発生時刻・発生場所・規模・津波の影響を地震発生から概ね30分以内に発表しています[4]。国内で大きな揺れを感じない場合であっても、こうした情報を通じて津波の影響を早期に把握することが可能です。次章では、遠地津波特有の3つの特徴と、それぞれの局面で取るべき行動について解説します。

2.遠地津波の3つの特徴と取るべき行動

遠地津波には、国内で発生した地震によって引き起こされる津波とは異なる3つの特徴があります。それぞれの特徴を正しく理解し、企業の防災責任者・部門として従業員に適切な行動を促すことが重要です。

特徴① 揺れを感じない

震源が遠方であるため、国内では大きな揺れが観測されないまま津波が押し寄せる可能性があります。チリ地震(1960年)では、地球の反対側付近に位置する震源で発生した津波が国内にも到達し、揺れをほとんど感じることなく沿岸部に壊滅的な被害をもたらしました。なお、遠地地震が発生した場合、テレビやスマートフォンに津波情報が流れることにより、状況を把握するのが典型的なパターンです。また、迅速に対応するため、防災責任者等においては、自身のスマートフォン等に防災アプリをダウンロードし、必要なアラートが出るように設定しておくことが重要です。

<取るべき行動>

揺れを感じなかったからといって安心せず、津波警報・注意報の発表を確認した場合には速やかに従業員に周知し、行動を促すことが重要です。また、発表される津波警報・注意報の種類によって、求められる対応が異なります。津波注意報から津波警報へ切り替わる場合もあるため、継続的に最新情報を確認することが必要です。

特徴② 津波到達まで時間的猶予がある

国内で発生した地震によって引き起こされる津波とは大きく異なり、地震発生から津波到達までに一定の時間的猶予があります。震源の位置によって異なりますが、遠地地震では津波が日本に到達するまでに数時間を要する場合が多く、遠地津波以外と比較して対応に使うことができる時間が長いのが特徴です。また、チリ地震(2010年)では、地震発生から日本に津波が到達するまで約22時間を要しています。

<取るべき行動>

この時間的猶予を有効に活用することが、安全かつ適切な避難につながります。避難に必要な物資の準備や、従業員・関係者への周知を落ち着いて行うことが可能であり、企業の防災責任者・部門としては状況に応じた避難指示を適切なタイミングで発表することが求められます。ただし、余裕があるからこそ対応が遅れることがないよう、情報を入手した時点で速やかに初動対応を開始することが重要です。なお、カムチャツカ地震(2025年)では、長時間にわたる避難対応と厳しい気象条件(炎天下の状況)が重なり、熱中症被害が発生しました[5]。時間的猶予があるからこそ、避難先の環境や避難者の体調管理にも配慮した対応計画を事前に整備しておくことが重要です。さらに、長期滞在を見据えて、気象条件の影響を受けやすい屋外の避難場所よりも、屋内の避難場所を選定するなどの判断も求められます。また、従業員の自宅が津波浸水域でなければ、帰宅させるケースもあり得ます。

特徴③ 繰り返し長期間にわたり津波が発生する

津波警報・注意報の発表から解除までに長時間を要する場合があります。下表の通り、遠地津波の場合、津波警報・注意報が全て解除されるまで5時間以上かかる可能性も少なくありません。さらに、津波は第一波だけでなく、後続波の方が高くなる場合もあります。そのため、第一波到達後も長時間にわたり警戒が必要となり、避難の長期化が避難者の負担増加につながるという課題があります。

表:津波警報・注意報が発表されてから全てが解除されるまでの時間
(気象庁公表データ[6]をもとに弊社にて作成。)
津波分類 津波発生件数 津波警報・注意報が発表されてから全てが解除されるまでの時間
1時間未満 1時間以上~5時間未満 5時間以上
遠地津波 11件 1件(9.1%) 1件(9.1%) 9件(81.8%)
遠地津波以外 36件 8件(22.2%) 24件(66.7%) 4件(11.1%)

<取るべき行動>

津波警報・注意報が解除されるまでの間は、継続して警戒を怠らないことが求められます。第一波が小さかった場合でも、後続波が大きくなる可能性があることを念頭に置いた対応が必要です。また、避難の長期化を見越した体制づくり、避難場所の確保や交代要員の手配等も、企業として事前に検討しておくべき事項です。また、厳しい気象条件等も勘案し、特徴②で述べたように、どこに避難するかについて冷静な判断が求められます。

表:遠地津波の3つの特徴と取るべき行動(概要)(弊社にて作成。)
遠地津波の特徴 取るべき行動(概要)
① 揺れを感じない
  • 津波警報・注意報を継続的に確認する。
  • 速やかに従業員に方針を周知する。
② 津波到達まで時間的猶予がある
  • 慌てず、適切なタイミングで、適切な避難場所に向かって避難行動を開始する。
③ 繰り返し長期間にわたり津波が発生する
  • 津波警報・注意報解除まで継続して警戒する。
  • 避難の長期化を見越した体制・準備を検討する。
  • 従業員の事業継続や帰宅にあたっては、十分な情報収集をしたうえで判断する。

遠地津波は、特有の備えが必要な点もありますが、企業として取るべき基本姿勢(情報収集・迅速な初動・継続的な警戒)は国内で発生する地震による津波への対応と大きな違いはありません。このような事態が起こり得ることを事前に組織内で共有し、いざという時に迅速かつ適切に行動できるよう、平時から備えをしておくことが重要な対策です。

「揺れを感じない」「津波到達まで時間的猶予がある」「繰り返し長期間にわたり津波が発生する」という3つの特徴を正しく理解したうえで、本コラムで紹介した行動指針を参考にしていただけますと幸いです。

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脚注

[1] 気象庁「津波警報・予報(津波警報・津波情報発表履歴)」(2026年06月08日14時03分発表 津波観測に関する情報6報)https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#contents=tsunami
[2] 気象庁の定義によると、震央が本州・四国・九州・北海道の沿岸から約600km以遠の地震に伴う津波のこと。
[3] モーメントマグニチュード(Mw)は、地震のエネルギー量を表す指標であり、地震の規模を数値で示すための重要な指標。
[4] 気象庁「地震情報について」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jishin/joho/seisinfo.html
[5] 内閣府(防災担当)「カムチャツカ半島東方沖を震源とする地震に伴う津波における避難手段・緊急避難場所の課題と対策の方向性」(2025年10月30日)https://www.bousai.go.jp/jishin/pdf/r7_2shiryo3.pdf
[6] 気象庁「発表した津波警報・注意報の検証」https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/tsunamihyoka/index.html

執筆コンサルタントプロフィール

林 大暉
ビジネスリスク本部 研究員

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