「確率論的液状化リスク評価手法」に関する防災科学技術研究所との共同研究の成果について
- アナリティクス・リスク分析
2026/6/19
1.概要
迫りつつある巨大地震、気候変動により激甚化する風水害等、近年巨大災害リスク(Catastrophe Risk)がますます高まるなか、保険会社をはじめ様々な企業では合理的かつ客観的な指標に基づく意思決定が求められています。この課題に応えるべく、当社は巨大災害リスクを定量的に計測・評価することのできるCATモデル(Catastrophe Model)を独自に開発してきました。2022年から2023年に掛けては防災科学技術研究所と「沈下量評価に基づく確率論的液状化リスク評価手法の構築」に関する共同研究を行いました。これは、地震時に発生する液状化現象がもたらす建物被害を広域に予測するための評価手法の開発を目指したもので、日本全国を対象とした確率論的な液状化リスクの評価モデルを構築しました。この研究は、最新の地震科学と統計的手法を組み合わせることで、より実態に即した液状化リスク評価を可能にするものです。本コラムで、その成果の一部を投稿した論文(参考文献1)を、より分かりやすく解説します。
2.液状化リスク評価手法の概要
なぜ液状化の沈下量に注目したのか?
2011年の東日本大震災では、東北から関東にかけての広範囲で液状化現象が発生し、多くの建物や社会インフラに甚大な被害をもたらしました。この経験から、地震による液状化被害の予測精度を高めることが喫緊の課題となっています。
既往研究(参考文献2)では液状化の「発生確率」や「面積率」に主な焦点が当てられていましたが、実際の構造物被害を正確に予測するためには「どれだけ地盤が沈下するか」という定量的な指標が不可欠です。液状化による沈下量は建物の傾斜や構造的損傷に直接関わるため、経済的損失を評価する上で極めて重要な要素となります。私たちはこの点に着目し、沈下量を基にした新たな液状化リスク評価手法の開発に取り組みました。

図1 30年超過確率6%の液状化沈下量分布1
研究の特徴と革新性
この研究では、以下のような特徴と革新性があります:
• 近年日本で発生した液状化地点から収集したボーリングデータを分析し、地震動強度や微地形区分等の地理情報から液状化による沈下量を予測するモデルを開発しました
• 日本全国250mメッシュ毎の液状化ハザードを確率論的に評価することで、任意の地点での液状化リスクを定量化しました
• 特定の地震シナリオに対する決定論的評価と、任意の発生確率(例:30年超過確率6%)に対する確率論的評価の両方が可能な柔軟なフレームワークを実現しました
3.液状化リスク評価手法の適用例
実際の適用例:大阪市の液状化リスク評価
研究の実用性を示すため、大阪市の全建物(約62万棟)を対象とした液状化リスク評価を実施しました。この評価では、国土交通省のPLATEAUプロジェクト(参考文献3)が提供する3D建物データを活用し、建物の構造種別、階数、建築年代等の情報を考慮しています。評価の結果、30年超過確率6%(再現期間約500年)の地震に対して、特に埋立地等の液状化リスクの高いエリアでは、建物の再調達価額に対して1%を超える損失率となることが明らかになりました。

図2 大阪市全域を対象とした建物の液状化リスク評価結果1
左:30年超過確率6%の損失率、右:同損失額
(損失率 = 損失額 / 再調達価額)
今後の展望と実務への応用
この研究で開発した手法により、日本全国の広域での液状化リスク評価を沈下量に基づいて行うことが可能となりました。本手法を活用し、事業会社を対象としたERM(Enterprise Risk Management)、保険・共済・キャプティブ等を対象とした地震リスク評価に資するCATモデルへの液状化リスク評価の適用を進めています。
4.終わりに
ここまで述べたように、現在の我が国の地震リスク評価においては、液状化リスクを考慮した評価が必要です。また、実際に地震リスクを計測するには、このようなCATモデルに関する知見・ケイパビリティがあるCATモデラー・アナリストの起用が望まれます。東京海上ディーアールは地震学、建築学、気象学、風工学等の最新の知見に基づくCATモデルを独自に開発しています。お気軽にご相談ください。
参考文献
1. Ryu Miyamoto, Takayuki Hayashi, Natsuki Kishida, Tatsuhiko Iwanami, Shigeki Senna, Haruka Sato and Hiroaki Matsukawa: Probabilistic liquefaction risk assessment using the ground settlement for the Japan-wide area, the International Conference on Earthquake Geotechnical Engineering(8ICEGE), 2024
2. 先名重樹・小澤京子・杉本純也, 近年の地震における液状化地点情報に基づく液状化危険率推定式の提案, 日本地震工学会論文集, 第21巻, 第2号, 2021.
3. 国土交通省:Project PLATEAU https://www.mlit.go.jp/plateau/
執筆コンサルタントプロフィール
- 宮本 龍
- 企業財産本部 主席研究員
